36
「その時さ、立風さん正門でのりすけのこと待ってたっぽいじゃん? いや、どんな約束してるとかは別に訊かないけどさ、でもその時の立風さん、めっちゃあたしのこと睨んできてさ」
「ちゆちゃんが? さっちゃんを?」
「そう。でもその時はあたしの勘違いかなって思ったんだけど、それからなんか逢うたびに睨まれてるような気がするんだよね」
「気のせいだよ。それか、さっちゃんがちゆちゃんに何か悪いことしたんじゃないの?」
「はぁ? するわけないじゃん。ってか、ちゆちゃんって、それ立風さんのこと? 何、のりすけはそんな仲なの?」
「そんな仲って、普通だと思うけど」
ちゆちゃんのことを、智遊って呼び捨てにしている娘だっていっぱいいるし。ちゆちゃんって呼ぶのはわたしだけだけど。
「まあ、でもほどほどにしておきなよ。友達に立風さんと同じ中学の娘がいるんだけどさ、その娘の話だと――」
と、そこでさっちゃんは急に調子を替えて、
「あたしちょっとトイレ行ってくるわ。しばらく戻ってこないかもしれないから、先生に訊かれたら適当にいっておいて」
と早口にそういい残して、さっさと廊下のほうへ消えてしまった。堂々とサボるなんてさっちゃんのほうこそ変わったじゃん、と思いつつ出て行った廊下のほうを眺めていたら、のりちゃんと声をかけられた。




