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「なんで?」
「いや、なんていうか」
そこでいったん言葉を切った後、短く切った髪をつまみながら、さっちゃんはこう続けた。
「猫被ってるみたいな、そんな感じのところが。かわいいし、いい人そうに見えるけど、まあいい人なんだろうけどさ、なんか裏がありそうっていうか」
「人のことを悪くいうのはよくないと思うよ。そりゃあ、さっちゃんはちゆちゃんよりかわいくないかもしれないけどさ」
「さり気にひどいこというじゃん、のりすけのクセに」
おまえだってかわいかねーよ、とデコピンされる。
「まあ、でも嫌われてるからって、悪くいうのはたしかによくないよな、うん」
友達に暴力を振るうのもよくないと思うけど。いや、それはともかく。
「嫌われてるって、さっちゃんが?」
「直接いわれたわけじゃないけど、たぶんね。いつだったかに、あれも月曜日だったっけ、あたしが朝連行く時に逢ったじゃん?」
「ああ、うん。逢ったね、そういえば」
わたしはそれが、あの新しい世界へ足を踏み入れた日のことだとすぐに気づいた。




