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――と、いうのはわたしが今朝感じたことで、実際の、物理的な話をすれば、今わたしは扉の締まる音も鍵のかかる音も、気のせいじゃなく本当に耳にしていた。
そこは体育館の二階にあるトイレの個室だった。
別にいろいろともよおしたからそんなところにいるわけじゃない。
たとえそうだったとしても何もわざわざそんな正門からも教室からも遠い場所まで行く必要はなく、それならなぜそんなところにいるのかといわれれば、つれてこられたからと答えるより他に言葉がない。
誰あろう、立風さんその人に。
「ごめん、疑ってるわけじゃないの」
少しだけ緊張した様子で、立風さんはそういった。
昨夜はあまりの嬉しさによく眠れなかった。早く下着をつけて登校したくて、日直でも、帰宅部だから部活の朝連があるわけでもないのに、わたしはいつもより一時間も早く家を出てしまった。途中、朝連に向かう友達とばったり逢って一緒に学校まで行くと、正門に立風さんがいた。聞けばわたしを待っていたらしい。落ち着かなくて早く来ちゃった、とそうもいっていた。その言葉を聞いて、立風さんもわたしと同じ気持ちなんだと気づいて嬉しくなった。友達と別れた後は、一緒に教室へと向かった。その途中、話頭に上がったのは、もちろん制服の下に着ているもののことだった。




