「ちなみに寿命は約1000年です」
――ウェルウィッチアという植物を知っているだろうか。
一つの短い茎から生涯2枚だけの葉を伸ばし続ける奇妙な植物だ。
伸ばし続けるというのは文字通りの意味で、葉の基部に分裂組織があり、一生2枚だけの葉が本当に文字通り伸び続けるのである。
このように永続的に成長する葉は、陸上植物全体でも例が少なく、また、葉の基部で成長を続ける植物は他に例がないらしい。
なぜ突然このようなウンチクを講釈することになったかというと、青山さんとの雑談中の出来事である。
「昔、“どうぶつ奇想天外!”っていう番組あったじゃん。あれの撮影中にヒグマに襲われて亡くなった人っていたよね?」
「ああ、星野道夫さんですね、写真家の。たしか1996年頃でしたっけ」
「たしか森の中でヒグマに食い荒らされた状態で見つかったんだよね……」
「……なんで今、そんな話するんですか」
彼女が食器のトレイと箸を置きながら、じとっとした目でこちらを睨みつける。
「あ、ごめん」
なんというか、配慮が足りなかった。
「食欲がなくなりました」
ため息をつく彼女。
「あなたには配慮というものが欠けています」
おっしゃる通りです、マイマスター。
どうやら、呆れているようだ。
あれから青山さんは、なんだかんだ会話をしてくれるようになった。
良い変化なのだと思う。
最近は、中身のない雑談もできるようになっている。
「どうぶつ奇想天外といえば」
と、話も続けてくれる。
ため息をついたり、話しかけるなと言ったりしていた彼女だが、話してみると(話しかけ続けてみると)意外とおしゃべり好きなんだな、と思う。
「奇想天外という植物って知ってますか? 白沢くん」
と――最初のウンチクに戻るわけだ。
ウェルウィッチア、和名が奇想天外。
「種子から発芽した奇想天外が再び種子をつけるまで何年かかるとおもいます?」
「えーと、5年くらい?」
「おしいですね、正解は5倍の約25年です」
ぜんぜんおしくない。
5倍って言っちゃっている時点でなんかもう、全然おしくない。
青山さんは得意そうに右手の人差し指を左右に振りながら、奇想天外の話を続ける。
「ちなみに寿命は約1000年です」
「まじで!?」
「まじです」
得意げににっこり笑う青山さん。
正直、彼女が本当の小学生であったなら「ああ、この子は10年後ものすごく美人になるんだろうなぁ」と言われるくらいの容姿であると、思う。
惜しむらくは、これで“二十歳”だということである。
高校卒業後、一回就職してお金を貯めてから就職した彼女は実は俺より年上だったというそんな小話は後に回そう。
とにもかくにも、そんな女の子がにっこり微笑むわけである。
――かわいい。
そう、かわいいのである。
何度も言うが俺はロリコンではない。
が、その気持ちもわかる気がしてきた。
もうダメかもしれない。
「白沢くんが、食欲がなくなる事を言うので、仕返しにウンチクに付き合ってもらいました」
なんて舌をぺろっとだした時には、こいつ抱きしめてやろうかと思ってしまうくらいにはかわいいと俺は認識してしまっている。
と、こんなこと考えていると「ロリコンかよ」と自分を罵倒したくなる。
青山さんとの会話はおもしろい。
そんな日常が流れていった。