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合法ロリと欠陥少年  作者: nara
第二章 ハルノマボロシ
7/9

「じゃ、ちょっくら行ってくるよ。明日の朝には帰るから」

「浜城登って、あの連続通り魔の!?」


 ――通称、“春の幻事件”。


 27歳無職、浜城登(はましろのぼる)が主犯となって起こした――この場合現在進行形で“起こしてる”と形容することが正しいが――連続通り魔殺人事件とされている。

 被害者の身体に“(はる)(まぼろし)”と黒の油性マジックで書き込まれていることから各メディアでそう呼称されるようになった。

 “主犯”と呼ばれるように、この通り魔事件は同時刻に人が同時に殺されていることから、当初から単独犯ではないと予想されていたが、事件発生から3ヶ月たった今でも、際立った情報は開示されていない。

 また、この通り魔事件は不可解な点が非常に多く、主犯である浜城青年は未だ捕まっていないという。

 きーちゃんが右手でピースする。


「2週間に一度人を殺すことで有名な、あの浜城だよ。それ以外ないでしょー?」


 馬鹿にされてしまった。


「いやいやいや、それはわかってるけど! なんでそんなこと知ってるのかな、ってさ! 疑問に思ったワケだよ」


 取り繕うわけじゃないけど、そう質問を繋げる。

 本当、取り繕うわけじゃないけど。

 全然取り繕っているわけじゃないけど。


「きーちゃんは情報屋なんですよ」


 と、青山さんはため息をつく。

 一話あたり何回ため息を付けば気が済むんだろう、この人は。


「そうそう。いちおーそれで稼いでますー」


 きーちゃんが営業スマイルした。

 スマイルにも料金が発生するのだとしたら、今頃俺宛の請求書はいくらくらいになっているのだろう。

 現実的な金額であって欲しいものだ。

 そんなことを考えてると、きーちゃんがパーカーの内ポケットから何かを取り出す。


「白くんも、何かあったら連絡ちょーだいね。はい、これ名刺」


 差し出したのは真っ黄色の名刺だった。

 受け取ってまじまじと見つめると、『二代目情報屋 大桐黄一郎』という名前と、その下に名前より小さいフォントで、パソコンのものと思われるメールアドレス&携帯電話の番号が印字されていた。

――意外にも、シンプルな名刺だった。


「……それで?」


 先の情報を促す青山さん。

 そういえば、話の腰を折ってしまったような気がして、申し訳ない気持ちになる。

 俺がそんな気持ちになっていることなど、微塵にも思っていないのか、同じテンションで話を続けるきーちゃん。


「多分今月いっぱいはこの街に滞在してるっぽい。でも、潜伏先まではわかんなかったかなー、ごめんね」


「そう……ありがとう」


「いおりん奴のこと探してたからさ、一応耳に入れておこうかと思ってさ。……引き続き、情報が入ったら伝えに来るよ。迅速・確実・口頭がモットーですから」


 ぴょんと立ち上がるきーちゃん。

 サングラスを外して胸ポケットに仕舞い、両手をパンパンと軽く打ち鳴らす。


「今日はこれでおしまいですー」


 彼女は病室の出口までひょこひょこ歩いていく。

 その姿は生まれたばかりのひよこを連想させた。


「じゃあ、ボクは帰るとするよ。今回の料金はサービスでいいよ、別件だし。あと、もいっこサービス」


 きーちゃん右目をつぶり、口の左端だけをにやっと歪める。

 随分奇妙な表情だ。


「――虹の(たもと)にはお宝が埋まってるらしいよ?」


 そう言って満面の笑みを浮かべて「さよーならー」と、出て行った。






「今日珍しい職業の人に会ったよ」


 その日の夜、リビングでソファーに座り、だらだらとニュースを見ていた兄ちゃんに語りかける。

 兄ちゃんは興味なさげに「へぇ」とだけつぶやいた。


「情報屋だってさ。ほら、名刺もらったんだよね」


 きーちゃんからもらった黄色い名刺を取り出して、兄ちゃんに渡す。

 兄ちゃんはしばらくその名刺を眺めて、眉間にシワを寄せる。

 その表情は一瞬で瓦解し、すぐに、「あやしすぎるだろ」と苦笑した。


「中学生で情報屋って、漫画の世界だけかと思ってたよ」


 俺に名刺を突き返すと、兄ちゃんは急に立ち上った。

 そばにかけてあったコートを着て、玄関に向かって歩き出す。


「急用を思い出したわ。ちょっと出かけてくるよ」


「え、こんな時間に?」


 時計は十一時を少し過ぎたくらいだった。

 いつも仕事から帰ったらだらだらしている兄ちゃんにしては、急用とは珍しい。


「どこ行くんだよ?」


「――彼女のとこ」


「ちょ、いつのまに!?」


「羨ましい?」


「……なんか納得いかないわ、同じ顔なのに」


「僕と敬助じゃ、“中身”が違うんだよ」


 そう言って鼻で笑う兄ちゃん。


「まぁ、名刺の彼女でも口説いてみてごらんよ」


 軽口を叩く。


「じゃ、ちょっくら行ってくるよ。明日の朝には帰るから」


 そう言って。

 そう言って、何でもないふうに兄ちゃんは手を振った。

 それが、俺が見た兄ちゃんの――白沢敬一の――最後の姿だった。


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