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39:魔法の格

ごめんなさい、なぜか今年更新してたつもりになってた

 数多の混沌と魔を統べる王が存在していた神代より生きる魔女レティシア。

 彼女の機嫌をとり、気に入られればその権能が許す限りにおいて、どんな願いも叶えてくれるという。


 地位、名誉、財宝、希有なる魔法の伝授や死の寸前にあっての延命など、おおよそ凡人が思い描く望みのままに彼女はいとも簡単に実現してくれる。

 

 ただし差し出す“対価”に応じての実現であり彼女の機嫌を損ねれば叶う事はない。

  

「座れ、そして己が望みと差し出せる見合った対価を述べみよ」

 

 低く這うような、それでいて反抗を許さぬ威厳ある声。

 円卓の上座に座しては黄衣を頭から被り、手先、足先まで隠し隠者然として容貌すらうかがい知れないモノ、魔導師レティシア。

 子供の如き矮躯で観察するようにコーデリアを見つめているのを感じる。

 

 そして、コーデリアは

 

「人には見せられぬほどの醜い顔か?」


 明確な悪意を込めた笑みと言葉をぶつけた。

 安い挑発である。

 そして、他者に対し遠慮がなく、不遜で試す行い。

 

 この挑発に対して怒るか?

 黙考、沈黙するか?

 誤魔化すか?

 

 お前はどういう者なのだ。

 人は唐突な悪意や圧を受けた時にその地金が見えてくる。

 

 私の前で曝け出してみろ。

 

 

 

 が、緊張が高まる場に響く不似合いな獣声。

 

 ギョオオオオオオオオオオオ

 

 それは常ならぬ“叫び”。

 威嚇でも自身を誇示する吠え声でもない。

 

 友よ、古き盟友よ、この叫びが聞こえるか。

 

 この声が届いているか。

 

 矮小で、ちっぽけな存在に成り下がった赤き竜が古き友に助けを乞う呼び声。

 かつての力を失い、もはや記憶も曖昧としてなお赤竜ジルクレストの奥底にこびりついて離れない親友の名。

 

 

 これは運命である。

 

 

 非力で小さく、ささやかな記憶しか持たない己がそうあるかのように、導かれるままに盟友と再び出逢う。

 これぞ竜の天運。

 竜は強靱で美しく、この世で最も尊い存在である。

 

 神に愛されている。

 

 故に運命は竜に味方する。

 単純明快なこの世の真理である。

 

「あぁ、おいたわしや……」


 猫の化生たるメイド、バティストが哀しげな声でつぶやいた。


 その声音にコーデリアは違和感を覚える。

 ほんの……ごく些細であるが親近感のようなものが猫から感じ取った。


 ヤトを? いや、同種の魔物を知っている?

 

 

「なるほど」



 低く、そして、レティシアはおごそかに



 ――1ページを追加する



 と、詠唱した。

 効果は劇的。

 

 ヤトが瞬時に躍り出た卓の上、アデライトとコーデリアの眼前から消え失せ、加えてメイドも消えている。

 

「瞬間移動だ」


 アデライトがコーデリアに囁く。

 

「従者バティストに触れようとして触れられなかったように、お前の愛玩動物は妖怪レティシアがどこかに移動させた。――いや、侮辱の代償に盗られた言うべきか? こうなると戻ってこんぞ」


 呆れるような物言いのアデライト、その言葉にはたしかな経験則による諦観がただよっている。

 

「よくわかっているなアディ。では、そなたから望みを言うがよ――」

 

 コーデリアは机をレティシアに向かうよう瞬時に蹴り上げる。


 人の所有物を盗るなぞ、名分は得たようなもの。

 ならば喧嘩のはじまりには不足なし。

 

 ――1頁を追加する

 

 詠唱。


 「??」


 喧嘩を売った、次の瞬間には蹴り上げた机は何事も無かったかのように元に戻り、コーデリアは地べた、仰向けに寝かされていた。


 違う。


 頬を走る痛みに自分は頬をはられた後に地面へ転がされている事を知る。

 だがいつ?

 頬を殴られ、転がされる過程、覚えが全くない。

 

「……手をな、こう、移動させただけじゃ、ヒヒヒ」


 当然のように抱く幼子の疑問を瞬時にレティシアが答える。

 散々に聞かれ、答え慣れているのだろう。

 

 だが違う。

 

 殴る手を、瞬間移動した、などではない。

 こいつはペテンを仕掛けている。

 もっともらしい嘘で煙に巻こうとしている。

 

 魔導師の中には自身が行使する魔法そのものに呪いをかけ、魔法効果を著しく高める者がいる。

 開示行為、ばらしとも呼ばれる儀式技術。

 たとえば自身の得意な魔法や効果を明確に敵に宣言するなどが有名どころだが、それを逆手にとり相手に、まったくデタラメを吹き込むような者もいる。

 コーデリアが今まで接した者のなかにもそういう詐欺師は多数いた、戦術としてはこちらの方が真っ当であろう。

 炎の使い手だと思わせておいて、風や空気の操作に長けた者とでは同じような効果と演出をしていてもその弱点、打倒する攻略はどうしても違ってくるものだ。

 

 

 身体のごく一部だけ瞬間的に移動させている、それは嘘であるという根拠はコーデリアの勘でしかないが。


 嘘の気配がレティシアの言葉から強く感じられたのだ。

 

 コーデリアは湧き上がる怒りとともにすぐさまに立ち、レティシアに向かうべく駆けだそうと

 

 

 ――1頁を追加する

 

 

 子供の浅知恵、徒労だと言わんばかりに今度は鼻血を出して地に口づけさせられている。

 

「無駄だ」


 レティシアの言葉には、ごく当たり前の事実を述べたという、冷たい無感情さだけが乗っていた。

 

 

 これは一筋縄では勝てない、一般人が使うような魔法の域ではない。

 魔法の“格”そのものが違う。

 

 コーデリアはその苦い事実を飲み下す。

 

「男とは弱く、哀しいものよなぁ……余も子供の顔なぞ殴りたくはないぞ、せっかくの美しい顔が台無しじゃ」


 じろりと粘つくような視線。

 

「ほんに……幼子にして、ため息が漏れ出る美貌じゃな」


 そして強者ゆえの特有の傲慢さが鼻につく。

 おそらくレティシア相手では父の魔眼、魔法を壊す技でも無理だ。

 


 魔法には格や位階と表現される区分けが存在する。

 その難度や希少性、実効果の高さから計られるそれらは

 

 王級、公爵級、侯爵級、伯爵級、子爵級、女爵級などと貴族階級になぞらえて等級分けがされる。

 

 魔法の格が違う、だから勝てない。

 これは魔法戦においてよく言われ、そして実にありがちな話だ。

 

 そこで言えばコーデリアの父、コウ・ラグナの“目”は反則的な格、限られたる高貴なる王級である。

 『男』の乏しい魔力量で運用されていながら一軍の魔法すら相手どり壊してのけるは不条理の極みとさえいえる。

 

 ただしコーデリアの同調にしろ、コウ王子の魔眼にしろ、相手の魔法に干渉する絶対条件として一つの弱みがある。

 

 “後出し”で魔法を壊す、という点である。

 相手の魔法を認識し壊す。

 すなわち夜襲や暗殺など知覚外の攻撃、事の起こりすらわからない魔法を使われた場合においては無力に等しい。

 

 とはいえ、これはあまりに酷な話である。

 対面、警戒してなお魔法の起こりを悟らせず相手を打ちのめす魔法など達人を超えて、無敵の領域である。

 

 なんらかの対策を講じなければ、その正体を暴かなければ、理を知らなければ“嵐”と化したところで結果は見えすいていよう。



 ならば

 

「対価を払う、この不可解な魔法の詳細を教えろ」

 

 地面を舐めさせられ、流れる鼻血を拭いもせぬまま立ち、ふてぶてしくコーデリアは言い放つ。

 

「ほぉお、対価を払ってでもこれの真髄を知り得たいか?」

 

 レティシアは呟き、しばし黙考する。

 

「……よき」


 アデライトは目を剥いた、かつてその秘奥をレティシアに問うた事が自身にもあったからだ。

 自分相手には一顧だにせず一笑に付された過去を思い出す。

 妖怪女は目の前の、この状況を面白がっている。

 強者故の傲慢、長い生を生きる化生がふいに見せた気まぐれ。

 

 いや、違うな。


 自分とコーデリアとの違い、それは――。

 


「『男』が『女』に対価を払う、その意味がわからぬか? ヒヒヒ」



 この干物の悪癖。


 レティシアは男癖が悪い。

 黄色の外套に阻まれて余人に容貌は見えないが、その醜い容貌をことさら醜悪に歪め笑んでいる事だろう。

 目の前にいる『男』はまだ子供、とはいえ人外じみて美しい。


 むしろ幼いから良い、圧倒的な力と立場をもってして弄ぶには格好の獲物だろう。

 

「……」


 コーデリアは図らずも同道したアデライトを思わず見る。

 が、女王は孫と視線すら合わせる事なく、何も語ろうとしない。


「もしかして、知ってはいけない事か?」


 国興しの開祖、今も存命する伝説的な魔道師がこのような俗物だと知られるのは王家の恥部である。


 コーデリアは『女』の如く、乱雑に手の甲で鼻血を拭き、用意された卓の椅子につく。

 

 アデライトは思わず天を仰いだ。

 ひどく頭が痛い。


 なぜ自分がこのような不条理な目にあわなくてはいけないのだ。



「では悩み多き女王よ、そなたの望みを言うのじゃ。対価によっては叶えなくもないぞ? 余の暇つぶしにな、ヒヒヒ」



 嗤う妖怪の声がひどく煩わしい。

はよ続き書いて更新しろやこのカス作者!いつまでも完結しねぇぞ。と思った人はいいねも評価も感想もいらないので、ぼっち・ざ・ろっく!のアニメを見て二期希望です☆とかSNSとかでさりげなく呟いて、んでもってCDも買え(ダイマ)


皆様、よいお年を

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― 新着の感想 ―
[一言] いいねも評価もしておきました。 ぼっち・ざ・ろっく!のアニメを見ないし、 二期希望なんてしないし、 SNSとかでさりげなく「勧められたけど見る気力もないし、一期すら鑑賞する気もしないから二期…
[一言] 年1投稿とかうろジョジョじゃないですかぁーーー!
[良い点] 毎回面白い [気になる点] 毎回遅め [一言] はよ。 学生時代から応援してます。
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