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36:二者二様

10倍だぞ!10倍!!(とあるプロレスネタです)

「あれはない、アレは」


 はじめて出会った女に言葉も挨拶もそこそこ、早々にコーデリアは説教された。

 

「女の傷は勲章であろうが男のそれは害しかない、ましてや顔、目を潰して呪い付きとは悪魔的な所業に等しいぞ」

 

 赤毛の女が葉巻の煙をくゆらせてはコーデリアと並び、連れだって大理石で舗装された廊下を歩いている。

 

「……ヴァル・オルトの目を潰したのはわかるが、呪いだと?」


「……もしかして無意識、自覚なしの術者か? ならば害悪極まりなし、ほとほと“あれ”の子というのも納得できる」


 アルファをあれ呼ばわりで慇懃無礼な言葉遣い。

 赤毛が紫煙を吐き出し、立ち上った煙が広がり二人を包みこむ。

 回廊で慌てふためく群衆、兵士らがコーデリアと赤毛の女を避けて通っていく。


 人払い、幻惑の魔法。

 

 その主たる原因、一見して何気ない赤毛が手に持つ葉巻。

 

「幻惑香、これ一つで両の手に掴めるだけの砂金と等価だ」


「なんとまぁ、人の目を避ける為だけに豪気な事……」


 微笑む子供、コーデリアに対して赤毛は仏頂面を深め、さらなる煙を吐く、コーデリアの肩に乗る赤トカゲの魔物は奇妙な音色で時折のんきに鳴いている。

 異質な二人組であった。

 

 薄く化粧を施され、華美にならず、かといって質素と嘲られぬは華の如き容貌ゆえ。

 見る者が見れば一級とわかるめかし込んだ装束の男児と不機嫌さを隠す事なく煙を吐き出す錆び赤毛の女。


 親子や親類だと見る者は目が腐っている。

 いっそ残酷なまでに女と子供の美醜はあまりに隔絶していた。

 女が殊更に醜女というわけでもないという事実が清々しいまでに残酷である。


 アルファの破壊的な力が辺りに漲っては、城内にひしめき多くの人々が逃げ惑う。


「値千金の幻惑香であってもこれほどの効果を発揮するのはこの状況あってこそだがな」


 平時であれば王城内部の奥になぞ幻惑や人払いの魔法・道具を駆使しようとも即座に看破されるものだ。

 突発的な非常時、もはや侵入者になぞ労力を割けないが故の大きな隙ゆえだ。

 

 城内に響く悲鳴や怒号。

 

 呑気に歩んでいける者は馬鹿なのか、肝が太い者なのか。

 

「ただの親子喧嘩だ。いささか派手だがな」


「この惨状を見てそう言える豪気さには驚きを通りこして呆れたものよなぁ」


「……嗤ってる奴に言われたくない」


 ほんの僅かな時間の語らいであるがコーデリアは隣にいる赤毛がすこぶる気に入った。

 話を聞くにアルファの使いで何かにつけて渋りそうなコーデリアを引っ張り出す為の弱み、友人たるヴァルを誘拐した当人であり、大層な暴れっぷりをあの無法の街で行なったといい、母アルファとは古い知己らしい。

 

「私を使いぱしりに……あいつは一度、痛い思いして猛省すべき」

 

 頭痛を耐えるような赤毛の苦り切った言葉と顔には怪物アルファに対して遠慮というものがまるでない。

 女が纏う強者の臭い。

 コーデリアの観察眼をして赤毛女の内在する魔力量は特級に感じられない。

 かといって平凡ではない、しかし非凡というほどではない程度、精々が女として中の上といった具合。

 巧妙に隠匿しているのならばそれも覆るがどうだろうか?

 魔力量はこの世界においてその人物における原始的な力、暴力、その強弱の指針である。

 魔力の多寡とは力の多寡であり、加え汎用性であり、人としての強度だ。

 しかし、こと真剣勝負となれば赤子の力、急所へ針の一刺しにて決着がつく事もある事をコーデリアは熟知している。

 魔力量は強さの指針であるが必ずしも絶対のそれであるとコーデリアは思っていない。

 

 いつも相手の暴力者としての見定め、物差しは前世より蓄積された経験、そこから訴えかけてくる第七感である。(この世界では五感に続く魔力感知を第六感覚と定義する)

 

 コーデリアの品定めでいうところ、この赤毛はとて“良い”部類だ。



「さっさと面倒な使いは済ませて郷里に帰って夫の手料理でも食べたい」


 萎えた。


「私はな……“中古”は別にいいのだが人の物にはあまり食指が動かんのだ、だって可哀相だろ?」


「……何の話をしている?」


「ぬしあれだ、実は夫と不仲とか、別れそうだとかそういう事はないのか?」


「ほんと一体何なんだお前は……」


 はじめて出会う理解不能な生き物に対し赤毛女はそう言うのが精一杯であった。




---




「ふぅ~」


 諸君らは至高の一本を吸った事があるか?

 丹念に育てられ、丁寧に収穫された数多くの葉、呆れるほどの膨大な量から上澄みの如き上質なものを選別し処理、乾燥したそれらを職人が重層的に、緻密に重ね巻く。

 多くの工程、多くの人々、手間暇かけて、作られ、届けられた至高の一本。

 

 葉巻。

 

 それらは嗜好品であると同時にその魅惑の香を知る者にとっては、いつしか人生の必需品となる。

 鼻腔をくすぐり抜ける匂い、口内を満たす仄かな刺激、肺に取り込まれ体を巡る快楽。

 葉巻に限らず香の道は奥深い。

 

 ただ吸うのではなく紫煙は豊かな香の場を形成し人をそこに誘い根付かせる。

 日常にあって非日常を創造する。

 正にこれこそ超常、奇跡、魔法そのものではないかね?

 

「……落ち着く、最高だ」


「呑気に吸ってる場合ですかーーー陛下ーーー!!」


 声量こそ抑え気味なものの、苛立つ気持ちをそのままにアデライト王に重臣たる女、セシリアは進言する。

 


「……」


「お気持ちはわかりますが陛下、逃避もそこまでにしていただければ……」


 王に言葉はなく懐から静かに予備の葉巻を一本、セシリアへと差し出す。

 いくばくかの逡巡を経て無言にて彼女は受け取り、カット、火をつけ、静かに吸いだす。

 

「……いいものですな、南方皇国産。いや…このほのかに甘い香りは西国のーーー」


「よくわかってるな、流石はセシリア」


「いやいやアディこそ」


 思わずセシリアは昔馴染みに語るよう気安く王を呼んでしまう。

 幼いあの頃、二人の間に今のように立場などなく気安く戯れあったものだ。

 だが互いに年をとり、多くのものを経験してしまった。

 今や立場があり衆人の中にあって、望んでもあの日々にもう戻れず、全てが懐かしい。


 しかし、たかが葉っぱ一つであの時に一時であろうが戻れる。


 これこそ魔法であろう。


 気安い友と一緒に吹かす煙のなんとも甘美で、美味い事か。

 

 至高の一本とは葉の質や作りの出来不出来などではなく、親友と共にある事ではなかろうか。

 

 石柱の陰にへばりつくように初老に差し掛かった女二人が座り込んで煙を吹かせる。

 野卑な所作であるが大昔、親に隠れて煙を吹かしていた悪童なあの頃を思い出しては笑みさえこぼれる。

 

 ―――落ち着くなぁ。

 

 二人は我知らず同じ言葉を吐く。

 思わぬ同調に気づいてどちらともなく苦笑し、また口元に葉巻を運ぶ。

 

 

「違ぁう!! 呑気に吸うてる場合かぁーーー」

 

 

 しばらく後、魔法が解け我にかえったセシリアが抗議の声をはり上げるのだった。

 

 

 力の奔流。

 アルファ姫の念動が触手の如く、禍々しく城内に蠢き、害意を抱いた者達を捕らえては戦闘不能にしていく。

 捕縛者の抵抗もむなしく、彼女らの手足は枯れ枝を手折るが如く容易く破壊される。

 魔法とは精神で制御し行使するものだ。

 一部の強者を除いて極度の痛みの中では実に困難になる。

 エルフ種が得意とする魔法行使、無声の無詠唱ではなく、詠唱などの動作行使を実行しようとした者は喉を潰された。

 同族にあってアルファのそれは容赦がない。


「いや、あの馬鹿は命までは奪わないから慈悲深いと自分で思ってるだろうよ」


 アデライトは長く伸びた葉巻の灰を床に落としながら呟く。

 

「なまじ才や魔力があるからだろうな、自分こそが世界の中心だとでも思っておる、馬鹿者が」

 

 

 アルファ姫が王に対して反旗を翻した瞬間、荒ぶるアルファに対しアデライトやセシリアには十分な勝算があり、焦りなどはなかった。

 多大な魔力量を持って生まれた子に対し親が魔法により安全策を講じるのは魔法世界であるこの世では実にありふれたものである。

 アルファがこの世に生まれ落ちた時、その将来的な危険性を危惧し親であるアデライトもまた自身の安全と安寧の為に子に手間と時間をかけ術を施した。

 かの女、アルファの体に刻まれた多くの紋様、その術は呪いの類であり、その発露であった。

 

 体を縛り、行動を阻害し、魔法の行使を妨害し、無力化する。

 

 アルファ・ラグナ・アーゲントは類い希なる怪物であるが、物心つく前より丹念に施された呪いの魔法と刻まれた術式はもはや解呪不能な絶対の鎖として機能する。

 

 ただ一つ誤算があるとするならば、絶対であるはずのその鎖を引きちぎる者、例外が現れた事である。

 

 アルファの反乱に際し場に乱入してきた愚者。

 練達の魔法を容易く、極小の魔力で視ただけで壊す者、魔眼コウ・ラグナ・レンフィル。

 

「考え得る最悪な組み合わせですな」


「あんなのは反則だ」


 アデライト、自身の呪いの行使が壊された瞬間、考えるよりも体が動いた、近くのセシリア共々に抵抗すら考えず即座に逃亡を図ったのがまず功を奏した。

 とはいえ危機はいまだに去ってはいない。

 城内の一画にありったけの隠行術を行使して身を潜めているが、それもいつまで続くものではない。

 

 はっきり言ってあの馬鹿と魔眼がここに辿り着くのはそう遠くないであろう。

 ヘタに動けば即座に感知されてしまう。



「オラァ! どこだ~アデライト!!」



 拡声された馬鹿娘の声が王の耳に届く。

 

「次の時代は私達が作る! 1+1は2じゃない、私達は1+1で200だ。10倍だ、10倍!!」


「……ぶっ殺してぇ」


 頭があまりよろしくない娘に対して切実な、それでいて本気の音色を含んだアデライトの悲痛な囁きにセシリアは思わず天を仰いだ。

 

「こうなったら陛下……反則には反則で、レティシア様においで願いましょう」

 

 セシリアのその提案、手段は悪魔との取引に等しいものだ。

 あの妖怪は対価なしに動かない。

 ましてや足下を見られた今の状態では何を要求されるかわかったものではない。

 

「陛下……」


 セシリアがアデライトの王冠を手に持ち自らの頭に嵌める。

 指を鳴らし、詠唱、セシリアの容貌がアデライトと瓜二つへ、その魔力の色さえ酷似して変容する。

 幼き頃より共に過ごし、その傍らにセシリアがいるのはこういう時のため。

 

「私が囮となって時間を稼ぎます、その間にレティシア様の元へ……」


 もしアルファが今のアデライトのような状況に陥ったとして、友に対しこんな事を許しはしないだろう。

 それは人として正しい。

 一人の女としてなら敬意さえ抱けもする。

 

 だが王ならば

 

「せいぜい足掻き、逃げ、抵抗して時間を稼げ」


 無慈悲な言葉と共に笑んで送り出すのが正答である。

 

 

 

 

 

 ―――かくして約束の地で王と魔神と化生は邂逅する。

ボツ案

セシリア「時間稼ぎとは言ったが倒してしまってもかまわんのだろう?」



気づいたら5月が終わりそうで焦りました……


あとディアナさんが肉欲に支配され自分を慰める話は運営から「えっちなのはダメ」と言われて削除になりました

前から、けんぜんな小説でしたが、今後えっちなのは出来るだけ描写しない方針でやっていきたいと思います

とはいえ作品展開上、そういうのを書くべき場面みたいなのは多少あるので悩ましい所です

いざとなったらそういうのが許される場所に放り込んでおきます


しかし、目の前の機械で裸という検索ワードでいくらでも裸やいけないものが見られる時代に文字だけの媒体でそこまで厳しくなくてもいいんやないの?と思わずはにいられないぜ!

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