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24:老人と暗器

 「残念ながら今回も縁がなかったというわけで…」

 「……完全に手の内、予算が読まれておるな」

 「ですね! はははははは」

 「ははは、こやつめ」


 くそったれ


 竜を斬れる剣を求めてはそれなりの時は過ぎている。

 貴族街にある火竜の爪が掲げられた店からは何度か連絡をもらい、幾つもの刀剣、それら名品の出来を見せてもらう事も多い。

 豪壮たる刃の質実剛健な両刃剣、鋭き片刃細剣、刺突剣。

 熟達した鍛冶職人の作品もあれば若い職人の意欲的な品もあった。

 様々な素材、合金、複合材、加工、鍛造や装飾、工夫が施された数々の品は眺め、手に取れるだけで楽しいものであり主の良い見立てが光る。

 が、それを自分で使うとなるとどうにも、ましてや竜を斬るなどと馬鹿げた役目を負うとなると“これは”というものは滅多にあるものではない。

 単純にコアの感覚的な問題でもある、わがままに過ぎないのだと自身思うのだが。

 そんな事を繰り返していると

 

 では、競売などは?


 という提案を店の主からもちかけられた。

 聞けばその筋の業者、古物商などが出品し競る特殊な集まりがあるという。

 美術品としても耐えうる宝剣、英傑らが使用したという古剣、曰く付きの物まで様々。

 一般の者が出入りする事は出来ないがそこはそれ、抜け道というものはある。

 好事家は金を掴ませ、集まりに出られる者を代理人を立てては競る。

 暇と金を余りあるほどに持つ好事家に落とされた品々は表に出ることなく愛でられ秘蔵され一般に出回る事はない。

 金があり本当に良い物を欲しているなら試さない手はない。

 幸いそれなりにコアは金を持っている。

 その場で現物を見て競る事は出来ないのが残念ではあるが店の主人の見立てを信じ、予算、希望する物などを指定、出品目録などを眺めながら事の経緯を待つこと幾度。

 

 結論から言えば全てが徒労に終わった。

 その趣味に全身全霊をかけ、海千山千の者達相手に素人が勝てるわけない。

 道楽、文字通りの金に糸目をつけない暇をもてあました金持ち、貴族というものが如何に厄介な相手かという事を痛感するだけだった。


 金はある。


 金はあるが……たとえば短剣一本に駿馬が数頭買えるような額を出そうとは思わない、出せない。


 というのがコアの本心。

 そして向こうは出そう!と思い実行するような酔狂な輩ばかり、これでは勝負にならない。

 覚悟の差。とも言えるし、愛でる為の嗜好品を購入しようとする者と実用の為の消耗品を得ようとする者の差ともいえる。

 正気で酔狂に真っ向から勝てる訳がない。

 理由をあげればきりもないが、オルト内で企てている発明品の開発、研究、事業の展開、人材の確保になるだけ金銭を割きたいなどという考えもある。

 切羽詰まっていない、時間的な余裕もまだあればそう急ぐことでもないという考えもよぎる。

 つまらない理由をあげれば個人的なコアの所有物で高価な物、剣呑な物を持つことを許さない者が身近にいてうるさい。

 服飾に関しては金をかけた物をポンと与えてくれるがそれ以外の物に関してはヴァルは狭量であったりする。

 

 曰く、子供の内から贅沢になれすぎてはうんたらかんたら


 保護者気取りである。

 婆さんがいなくなって街と森の二重生活をしている内、オルト邸には寝泊まりするコアの私室まで備えられる程になっている。


 まぁ、奴のベッドを占領するわ、秘蔵の酒を飲むわ、思いつく限りの悪童の限りをつくしていれば隔離部屋を用意されてもおかしくもない。


 世話になっているのは確かだ。

 家賃もなく部屋は提供され、黙ってても飯だって出てくる、服に関しては過剰なまでに与えられるくらいで、婆さんの目から隠し保管していた衣装を含め、それら全てをしまい込むのに衣装部屋まで私室の隣にある。

 なにか用向きや不足があればヴァルに言うまでもなく執事かメイドに言えば事足りる。

 至れり尽くせり。


 しかし、コアとしても自身の手腕で稼いだ金であるもので何に使おうが文句のある筋合いではないだろう、むしろ組を富ませているくらいだと声を出す。


 喧々囂々のやりとりの後。

 周囲の目から空気が重く、歪んでいるのかと感じる程の殺意の応酬を経て拳骨が飛び交う戦場になる事も度々で周りの者には迷惑を超えて恐怖でしかなかった。


 開戦、冷戦を経ての対話、交渉、再戦などを終え、双方疲弊の果てでの末。

 


 ――我が家ではお小遣い制の導入を行ないます。



 冗談のような閣議決定が為された。

 おいおいヴァーちゃん、そりゃないぜ、なんの冗談だHAHAHAHA

 と、言えども時既に遅く。

 何より、もう何もかもが面倒だったのも事実。

 周囲の嘆願もあって、これ以上争うのが憚られるのも本当。


 コア口座の金、資産は事業などの必要経費などで使う分には問題ない。

 お小遣いは(なんと)ヴァルの自腹から出る。

 お手伝いをすれば臨時的に額が増える事もある。

 などなど悪夢のような事が決定していった。

 一般的な子供に与えられる駄賃にしては破格の値を月々に貰えるが、所詮は子供の範疇である。

 口座の金を紙面上だけにある工房か団体を通して資金洗浄の手も考えつくがこういう事は最終手段だろう。


 コアが身に帯びる剣は必要経費として認められるか否か?


 昨今、これはどうにも微妙な線だ。

 知り合い、時間がたつにつれヴァルはコアがもっと『男らしく』と思ってる節がある。

 立場的なものもあるが自分がそう出来ない事の代償行為を補填されてる気もする。

 ただ単純にコアに刃物を持たせるのに本能的な恐怖を持っているのかもしれない。

 ●●●●に刃物はコアとて逆の立場なら避けたい所だろう。

 あるいは可愛くない、もったいないと感じているのかもしれない。

 それを言えばアル姉もそうで、コアが木剣を下げている事を良く思っていない節がある。

 まだまだ子供という事で大目に見てくれている、許されているというのだろう。

 若気の至りとかなんとか。

 あと十年もすれば木剣を振っているだけで口やかましく言われそうだ。

 窮屈である。

 『男』である事がこんなに狭苦しく感じた事は初めてだ。

 『男女平等』『男女同権』だと声高に言う者の気持ちが今なら心底わかる。

 

 どうすべきか。

 シェスリーとの懸念があって武器を探しているが殺すだけなら神剣をぶっ放せば事足りるだろう。

 が、それはやりたくない。

 竜殺しの大剣、峰打ちの線で……シェスリーなら死ぬ事はないんじゃないのか、それにしても大剣を操るには外法は必須。

 やはりシェスリーとの“喧嘩”は外法を極める線を避けては通れないのかもしれない。

 となると……。


 「――次の出品はどうされます?」

 思考の海に埋没していた。

 気落ちしていたとでも思ったのだろうか店主がコアの瞳を覗き込む。

 「ん、いやそれはもう良い。ただ一つ頼みたい物が出来た……」

 「ほほぉ」

 秘密めいた雰囲気に主は身を乗り出す。

 儲け話、うまい話だとでも思ったのかもしれない。

 「なければ作って欲しいのだが、材は軽いミスリルがいいかの? で、それを買った事は伏せていて欲しい」

 

 シェスリーとの喧嘩うんぬんは抜きにしてもそろそろちゃんとした得物は欲しい。

 ミーアやミーナなどの弟子とのやりとりは木の棒でも不足はないが、いざという時、非常時には心許ない。

 外法の類は秘めておきたい、相手の魔法命令に介入できるという事すら隠しておきたい。


 謎、知られない事こそこの世で最も強い。

 その思想はコアの学んだ流派にも通じる基本的な考え。


 「――特別な“日傘”を何本か仕立ててもらいたい」



 要するにヴァルやアルに武器の類だとばれなければいいのだ。

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