カシウス
「コン。ボク、コンラードのこと、おにいさんがいたら、こんな感じじゃないかって想った」
コンは眠そうな表情でユーリを見下ろす。
狭いベッドに、男女が寝そべっているわけだが、ユーリは小柄だったためコンは、さほど窮屈な思いをしないですんだ。
「お兄さんね、婚約って騒いでいたくせにか・・・・・・いや、今気づいたことなんだけど、お前ひょっとして、フレイのこと好きなんじゃねえの?」
ユーリは急に尋ねられ、びくりと肩を震わせた。
「ユングヴィのことは、・・・・・・嫌いじゃなかったけど、いまのあいつは、いやだ」
「だろうけどさ・・・・・・。もしあいつを元に戻せたら、うれしいかい?」
ユーリはうなずいた。
「結婚したいほど?」
「・・・・・・うれしいと想う」
「そっか」
コンは腕で枕を作り、寝そべってしまう。
「でもコンが望むなら、ボクはコンのお嫁さんに、なってもいいから」
「ばーか」
背中を向けたままで、コンラードはユーリを叱った。
「結婚はそんな、軽いもんじゃない。ましてやお前は、王家の最後の血筋だろ。無茶苦茶な結論だけは、出すなよ・・・・・・」
「どういう意味?」
コンの言うことがわからないほどに、ユーリはまだ幼かったのだ。
だからコンがかわりに教えてやる。
「つまり、お前が一番好きな相手とじゃなければ、結婚をする意味がないってことだ」
ユーリは唇をかみ締めた。
そして、答えを出す。
「ボクは・・・・・・コンも、ユングヴィのことも、同じくらい好きだ・・・・・・。どっちかなんて本当は、決められない」
「それは、お前がまだ子供だからだよ。誰かのつれあいになるのは、まだ早いってことだ」
「ボクはもう子供じゃない・・・・・・大人だよ! ユングヴィも同じことを言ったんだ。でもボクはすでに、結婚くらいできる歳・・・・・・」
コンはユーリの言葉をさえぎってこう言う。
「結婚はできても、ほかにすることがあるだろう、ってことだよ。子供を生んで育てる、それから、だんなにメシを食わせたり。俺が思うに、ユーリにはまだ早いって。ふつうに恋人でいてもらったら、・・・・・・ユングヴィに」
ユーリは枕をコンの顔面に投げつけ、部屋を飛び出す。
「コンラードのばか! だいっきらいだ!」
コンはふてくされて、強引に瞼を閉じる。
「何で怒ったりするんだ。俺はあえて、よかろうという方を選ばせたかっただけなのに」
疲れがどっとたまったのか、ややもすると、コンはすっかり深い眠りについた。
「ないと困るものなら」
コンラードが手にした謎の青い石は、この世のものではなく、この老人が妖精たちを脅して作らせた特別のものだった。
「カシウス、と名づけてもよいが」
老人は唇の端を持ち上げる。
カシウス、メシアを殺した神殺しの兵士。
カシウスはロンギヌスという槍を用いて、救世主キリストのわき腹を突き刺した。
そんな名前をつけるとは、この老人、趣味が悪いと見た。
「ユングヴィ、ねぇ。かっこつけた名前に改名しおって、フレイのヤツ」
たくらんだ表情で北の窓からユングヴィのいる王国を眺め、独り言をつぶやく。
「ワシはあいつの魂を欲するがゆえに、あのツボを・・・・・・。クックック、たいそう楽しみだワイ」
ツボの秘密とは、いったい・・・・・・。
じじい・・・・・・今回は味方じゃないのかなぁ。