いやな感じ
「おお、なんだか物々しいねえ。こっちは俺一人しか戦えないのに」
ユングヴィの奇襲だった。
騎士どもを引き連れ、何事かを古ノルドとかいう言語でわめき散らし、アイスツルフの城を囲んでしまった。
「コンラード、でてこい! 私と勝負してユーリア姫にふさわしいのは、どちらか決めようじゃないか!」
「望むところといいたいが、今はダメだ。一日か二日待ってくれ。こっちも頭数そろえなくちゃ」
ユングヴィは嘲笑した笑いをコンラードへと向け、
「よかろう。貴様など、大勢束になってかかってこようが、ひねりつぶすのはカンタン! 首でも洗って待っておくのだな」
「・・・・・・性格、ワル・・・・・・」
とつぶやいたのは、意外にもユーリであった。
「昔のフレイは、あんなじゃなかったのに」
コンラードはさすがに、ユーリを慰めることにした。
「俺が何とかしてやるよ、たぶん、誰かにのろわれているんだろう。呪った相手を見つけて、とっちめることができれば楽勝さ」
「うん・・・・・・」
みすぼらしい老人が、どこから現れたのか、いつからそこにいたのかわからないが、にたにたと含み笑いを浮かべて立っていた。
「なんか用事か、じじい」
コンがユーリを部屋に戻すと乱暴に尋ねた。
「ひっひっひ、お前さん、呪いがどうとか言っておったな。魔法には明るいのか」
「いいや。そんな気がしたってだけだ。用はそれだけか、なら帰ってくれ。俺は忙しいんだよ」
「なんだそうか。・・・・・・用事とは傭兵集めのことかいな」
コンはよくわかったと目を丸くして驚いた。
「そりゃまあな。わしが一声かければ、人はたやすく集まるぞ」
「ほんとか」
「嘘はつかぬ。そのかわり・・・・・・」
老人は手で杯を作って、あおるまねをした。
「酒か、わかったわかった。うまいの、ご馳走してやるよ」
ガウディと目配せしてコンは言う。
ガウディは、やれやれと肩をすくめて酒を注文しに戻った。
「その前に、兵隊を用意してくれよ、日没までに」
「アホ抜かせ。もうすでに太陽は没しておるわ。一瞬で呼んで見せてもいいが」
「なぬ、一瞬って、まじか!? ぶっちゃけ、ありえない!」
老人は口笛を吹き、熊の皮をかぶった大勢の戦士たちを召喚した。
「な! なんだこいつら!」
あまりの物々しさ、興奮し暴れまわる戦士どもに、コンは腰を抜かした。
「お前、ベルセルクを知らんのか」
「ベルセルク・・・・・?」
「さよう、神の召使、神の戦士だよ。どうだね、ぶっちゃけ、ありえただろう」
「う、うんうんうん」
「さて、約束のコイツをいただくとするか」
老人は杯できゅーっとやる真似をし、城の中に入り、コンを待っていたユーリを瞼を細め、見つめていた。
「あなたがユーリアさまで」
「そうだよ」
「なるほど。お美しい」
それだけの会話だったが、ユーリはいやなものを感じた。
「ねえコン、あのおじいさん、ボクいやだ」
強がるユーリが珍しく、コンに助けを求める。
「どうしたんだ」
「あのおじいさん、変な気配・・・・・・」
コンから離れたくない、ユーリはコンに、一緒に寝てほしいとせがむ。
「俺、お前にいたずらするぞ!?」
と、からかい半分でコンが言っても、ユーリはかまわないと答えた。
「何でもいいから、お願い。一緒にいてよ、ボク・・・・・・いやな感じがまとわりついて、離れようとしないんだ、こわいんだよ」
「いやな感じ・・・・・・ねえ・・・・・・」
コンは仕方なさそうにユーリと一緒に眠る約束をし、テーブルについた。
もちろんコンの隣で。
「それで爺さん。あのベルセルクって連中、だいじょうぶなんだろうなぁ。俺の命令を聞いてくれるのか」
「こいつで操れ」
老人は青い石をコンに投げてよこした。
「神の力が封じられた魔法の石。とっておけ」
ユーリはその石を捨てるように耳打ちで言うが、コンはポケットに石をねじ込んだ。
「ないと困るものなら・・・・・・」
ユーリはそれ以上、何も言わなかったが、青ざめたまま老人と目を合わせぬようにしていた。
ユーリがいやがる理由・・・・・・。
オーディンはそんなにいやな雰囲気なんかな・・。
不気味とはよく聞くけど!?