謎の古城
コンラード・ホラティウス侯爵は戦艦の提督であった。
ドイツのハプスブルク帝国軍に従属。
イタリアやスペインの艦隊から見れば、多少は力量と技量は劣っていたが、コンラードの実力と人柄がそれをカバーする形で補われていた。
しかしツキのないときもあり、コンは哀れにもスペイン艦隊から攻撃を受け、船は撃沈、コンラードは幸いなことに命拾いして大陸に打ち上げられた。
じりじりと照りつける太陽、うだるような暑さが、衰弱したコンに容赦なく襲い掛かり、コンは日陰を探して歩き出した。
水を欲するコン。うっそうと茂る森を抜けると、あたりが急に薄暗くなる。
そして、先ほどの暑さと対照的に、今度は底冷えのするような冷気。
「どうなってんだ、ここは」
コンは目の前でそびえ立つ古城に目を見張った。
彼の気配を嗅ぎ取ったのか、窓から誰かがのぞいて入り口を開いてくれた。
出迎えたのは中年の召使といった風貌で、
「ようこそ、アイスツルフ城へ」
とコンに告げた。
「アイスツルフ? ああ、古代の王族の城かい。そんなのがまだ残っていたんだ」
「まあまあ、お話はこちらでどうぞ。主人のユーリア様がお待ちです」
「主人?」
強引にコンを引っ張り、中年召使は応接間にコンを案内した。
「ようこそ」
と挨拶をしたのは・・・・・・まだいたいけな少年であった。
「ようこそ。こんな森の奥に人が来るなんて、珍しいね。ボクはユーリ。お父様が死んでしまって、ボクはこのガウディとふたりで暮らしていたんだよ」
「あ、ああ。道に迷ってな・・・・・・」
人が来るのが本当に珍しいようで、ユーリはコンラードの手を硬く握ったまま、離そうとしなかった。
コンは子供に興味がなかったのでユーリを無視し、ガウディに用件を尋ねた。
「俺を招き入れて、いったい何なんだよ。俺は水がもらえたら、それでよかったんだ」
「じつは・・・・・・」
ガウディはユーリを見つめてから、
「このユーリア姫の婚約者になっていただくお方を、ずっと長いこと、捜しておりました。ところがこのような森の奥地。とても人など来ることがないので、あなた様をお見かけしてから、神の思し召しだと」
「ちょっと待て。話が見えねえよ」
ガウディはもうじき食事ができるといって、テーブルの置いてある部屋にコンを通した。
テーブルといっても、白かったのだろうテーブルクロスには汚れがついており、ところどころ埃っぽかった。
掃除が行き届いていないのだろうか、とコンは埃を吸ってくしゃみをしながら考える。
「お食事の用意ができました。どうぞこちらへ」
ガウディに呼ばれ、席につくコン。
ユーリも席に着いた。
「ではお話しましょう。実はこのユーリア様はお父上がなくなってからというもの、借金に困り、ユングリングの王であるユングヴィ・フレイ様から多額の借金を支払ってもらいました。ところがその代償にユーリ様との結婚を持ち出され、途方にくれておったのです」
「男だと想ったら、女の、それもがきかよ・・・・・・」
ナイフを動かしながらコンはぐだぐだ。
「ガキじゃないもん。ユーリは大人だよ」
「はいはい」
コンはユーリを適当にあしらい、ガウディのほうに向き直る。
「それで。あんたは、俺とユーリちゃんとをくっつけたい、そして、ユングヴィってヤツから諦めますと言わせればいい訳ね?」
「そうですね」
「なんだ。カンタンじゃん。その役目、引き受けましょう」
「ですが、そうカンタンでもないのです」
ガウディは眉を八の字に下げた。
「な、なんかあるのか」
「はあ。それが、ユングヴィ様のことで。フレイ様は大変なわがままなのです。ですから、コンラード様の存在を知ったら、きっと対決を強いられましょう。そうなった場合、うちでは武器もありませんし」
コンは豪快に笑いながら答えた。
「がははは。そんなことか。俺はこれでも侯爵で提督だ。なあに、ユングヴィなんぞひとひねりだぜ。まかせな」
元来が荒っぽい性格のコンラード、うれしそうに鼻をこすってうなずいた。
「けど、結婚はねぇ。俺、もっと遊びたいし」
「浮気は赦すよ。それと、ほかにも、好きにしてくれていいから」
ユーリが口を挟んで、コンの手を握り締めた。
「・・・・・・できれば、形だけでなく、本当に結婚してくださると・・・・・・。何しろコンラード様がはじめてのお客でしたから」
「はあ・・・・・・」
コンはユーリの小さな身体を見下ろして、ため息をついた。
何を考えていたかというと・・・・・・。
――胸、ちっちぇ・・・・・・でもこれから、育つかな?
コンラードだけに・・・・・・って、ヴェルディのコンラードはまじめなのに・・・・・・。
ある意味かわいそうだ(汗。