第二章
『エミリー、君だけが味方だ』
「え?」
『君だけが味方……』
「私だけが……あなたの味方?」
『そう、ボク達は二人で一人』
「どういう意味?」
『それは君が転生する前の話さ』
「転生……それって!」
そこで目が覚めた。
エミリーは夢に魘され、汗だくになっていた。
ミスターXだった。
彼は動き、会話していた。
そして自分に味方だと告げていた。
転生する前から決められた事だと。
ただの噂話の対象だったミスターXが、リアルに感じられた。自分の身近にミスターXがずっと存在していたかのような錯覚に、エミリーは陥っていた。
「会いに行こう」
そう呟き、シフトを確認した。
今日は遅番。
出勤前にミスターXを見に行く事が出来るシフトだった。
エミリーは身支度を早々に整えると、ミスターXの飾られている巨大なショーウィンドウまで向かった。
火星での移動はスケートの様な靴で、滑るように移動する。
ショーウィンドウまですぐ辿り着くと、ミスターXを見つめた。
と、その瞬間、ドーンという巨大な爆発音に巻き込まれた。
「きゃっ」
『緊急事態、緊急事態、エリアフォースで爆発近隣の住民、生存者はただちに安全圏まで移動してください』
「そんな!ミスターXが……」
「エミリー!」
「先輩!」
「迎えに行ったら出ていったって言うから昨日の話……気になって!ってそれどころじゃないわ、私達も避難しなきゃ死んでしまう!」
「先輩、ミスターXが」
「そんなの放っておきなさい!大丈夫、コールドスリープされているんだから酸素が無くても生きられるわ」
冷静になろうと思えば思うほど、エミリーの脳内はミスターXの事で一杯になった。
『君だけが僕の味方……』
「え……」
「エミリー!しっかりしなさい!」
パァンと頬を叩かれ、一瞬冷静になるエミリー。
先輩が必死に自分を助けようとしている事がエミリーにも伝わった。
「逃げます!サードエリアまで逃げましょう!」
「えぇ、それが良いわ!」
エミリーは後ろ髪引かれる思いでその場を去った。
後日、エミリーや先輩達メンテナンス社の社員は緊急招集された。
破損したフォースエリアの修復に向かう為だった。
犯人は未だ特定されていない。
「エミリー・タイピーさんですか?」
「は……え?」
見た瞬間心臓が止まるような思いに駆られたエミリー。
そう、目の前に現れたのはコールドスリープされているはずのミスターXだったのだ。
「み……ミスター!」
「しっ……静かに」
警備員の恰好をしたミスターXが居た。
事故が起こったフォースエリアは出入り禁止になっており、本当にミスターXが動いているのかどうかは判断が付きかねた。
「どうして……」
「君に会う為に来たんだ」
「私?なんで!」
「落ち着いて。エミリー。君に会う為に事故を起こしたんだ」
「そんな……もし死傷者がでていたらどうするつもりだったの?!」
「君に会えるならそんな事微塵も気にしない」
「そんな身勝手な!」
「エミリー!」
後ろから声をかけられた。
先輩だ。
「せ、せんぱい……」
「どうしたの顔真っ青よ?」
「あの……」
背中に、冷たい物体を感じた。
銃だ。
ミスターXからの無言の重圧だった。
「な、何でもないです!仕事ですか?」
「勿論よ、フォースエリア、本気で修復しないと……」
「は、はい!すぐ行きます」
「終業後フォースエリア入口南側」
「っ!!」
耳打ちをされた時の無機質な声が、エミリーの心にずしっと重みを感じさせた。




