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ギギイーラ 四八七年 銀月 三十の日。
何も問題は起こらず卒業式典。
リフィ殿下はご機嫌斜め……いや、かなり不機嫌。
卒業生代表とかの挨拶を頼まれたらしい。
不良でも今日が終わるまでまだ王族だ。挨拶は避けられなかったらしい。
殿下の普段の素行の悪さと不機嫌さで、人は寄り付かない。
学生生活本来の目的、社交が死んでる。勉学なんておまけだし。
教師なんて権力、金持ちが抱え込んでる。だから、学園の勉強(笑い)だし。
間抜けの炙り出しだよ学生生活は。
学園生活の先輩後輩で関わることのない、もっと上の世代の人は新人だと直接の上司には滅多にならんし。
どうせ新人教育はちょっと上の先輩が担当するんだ。
そこまで人間関係変わんないのだよ。
というわけで殿下には話しかけるなよ、皆。
「……おい、おい」
変なことを考えていて、気がつくのが遅れた。
「で、殿下お呼びでしょうか?」
「あれはなんだ?」
殿下が示した方を見る。
第一王子殿下の婚約者が一人で居る。
第一王子は一つ歳上なので、本来は参加出来ないが、王族で婚約者が卒業という事で、呼ばれているらしい。
王族二人も挨拶しなくてもいいだろうと、リフィ殿下がごねていたので、第一王子が来ているはずだが。
そこで思い出す。俺達普通に学園生活を楽しんでいた生徒には、当たり前のことを。
「あー、リフィ殿下はご存知ありませんでしたか?その、第一王子殿下は、あまり彼女と上手くいって……」
「クロー」
あ、まずい。マズい。なんか失敗した。
「何時から?」
「えーっと一年の冬には。彼女が一人で居ることが多かったような」
「誰からも報告されていないな。どいつも、こいつも、状況がわかっていないのか?いや……それより……」
いやー殿下がちゃんと社交に取り組んで……なんて口が裂けても言えるわけがなく。
「おい、お前、彼女に声をかけて、適当に会話を繋いで見張れ。時期を見計らって、柘榴石の間に彼女を連行しろ」
はい?
そういうと、リフィ殿下は広間から出ていった。
ちょっと、ちょっと。
殿下、もう、ちょっと、説明を……なんて呼び止めれるわけもなく。
ええい、殿下に殺されるよりマシだ。人をかき分け彼女に近づく。
「アロー侯爵令嬢、どうも」
彼女の方が実家の爵位は上だが、まだ学生だ。許されるだろう。
というか声かけろ、とかいう無茶振りを遂行するのに、そんな些細なこと気にしてる場合ではないのだ。
「貴方はたしか」
「クロー・エッズです。突然お声をお掛けして申し訳ありません。ご無礼を……」
そう言いながら頭を下げる。
アロー侯爵令嬢が見事な礼で返す。
え、頭下げた程度の礼しかしなかった俺、馬鹿にされてる?
「構いません、私達今はまだ学生ですし。今までお話する機会に恵まれなかったので、最後にお話していただけると嬉しいわ」
と気丈に挨拶をするアロー侯爵令嬢。この子も呑気だなぁ。
そんな事を考えつつ任務達成へ向けて前進した事に対し、よし!
と拳を天に掲げたくなる衝動を抑え、話を続ける。
「はは、そう言っていただけると助かります。私は卒業後は平民なので、これを逃せばアロー侯爵令嬢とお話する機会など、訪れなさそうですし」
ははは、三男では、自分で功績を挙げるか、親が偉大な功績でもなければ、爵位を継げませんからね。
と笑いながら様子を伺う。
かかってこいや!足止め出来るし問題ない!
「そう、ですわね……でも私も……」
まっずぅい。思ってたのと違う。
話が続きそうにない。
失敗した。
「アロー侯爵令嬢」
声を潜めて語りかける。
「実は極秘任務を遂行出来ねば、大変な事になるのです。ご協力お願いできないでしょうか?」
素直に全部出して、無理やり連れて行くしかない。
「極秘任務……ですか?」
アロー侯爵令嬢も声を潜めてくれた。
「時期が来たらとある場所へお連れしろ。と言われましたので、不信感があるでしょうが、大人しく、大人しく。付いていていただければ」
誘拐犯みたいなこと言ってどうすんだよ。
いや、本当、殿下、説明、頼む。
アロー侯爵令嬢の方を伺うと、騒がしくなる。
壇上に第一王子と噂の恋人の男爵令嬢が居た。
第一王子はああいう子が好みかぁ。
うわー。やってんな。
……あれ?例の俺の女じゃなかったっけ?
なんで第一王子の噂の恋人なの。
「諸君、卒業おめでとう!」
よく通る声で演説を始める第一王子殿下。
その背後に、我らが第二王子が赤葡萄酒を持って、近づいている。
全く気がついていない。
後ろに腹違いの弟様が物凄い形相で居ますよー居ますよー
周囲を見ると皆、顔色が悪い。多分俺も悪い。
「諸君らに……」
そう言った瞬間赤葡萄酒を、第一王子の頭にぶち撒ける、リフィ殿下。
やった!やりやがった!
「な、なな」
「失礼兄上、緊張で手が滑りました。お許しを。おい、兄上のお召し物を」
どうぞこちらへ。と屈強な近衛兵に連行される、第一王子と恋人。
お召し物を……の案内が物騒過ぎる。
リフィ殿下と目が合う。
さっさと行け。と殺されそうな眼光で射抜かれた俺は、慌ててアロー侯爵令嬢の方へ合図する。
「このような日に騒ぎを起こして申し訳ない、みな、卒業おめでとう。私もだが」
リフィ殿下が卒業生の代表として、にこやかに挨拶を始めた。緊張とは?
こっわ!こっわ!殺気を抑えて!
いつも無表情の殿下の笑顔に全員、ドン引きしてるんだけど。
殿下の挨拶に注目が集まっている隙に、彼女を連れて、俺は柘榴石の間へと移動する。
ちなみに柘榴石の間は、お洒落な名前がついているが、ただの応接室だ。
広場から出ると少年が俺達の行く手を阻む。
「こっちだクロー」
少年、リオは殿下の側近の一人。平民らしい。
実家が平民で王族のリフィ様に仕えている。つまり凄く優秀。
俺はどうせ平凡ですよ。
リオは一つ下なので、今日は来ていないと思っていたのだが。
「柘榴石の間だろう?場所はわかるって」
頷くリオ。
どうやら殿下が気を回して寄越してくれたらしい。
「殿下は?」
「卒業生代表のご挨拶をされている。それで冷え切った場の空気を、更にひや……温めている」
温まればいいな。
「……地獄だぁ……えー……クロー……俺、殿下と合流する必要があるんだけど」
「じゃあ俺とかわ……」
「大差ねーよ」
ですよねーですよねー
どうせ柘榴石の間でみーんな合流するんでしょ。
「柘榴石の間に向かうのですか」
「そ、皆集めてるから思うところしかないと思うけど、殿下が行くまで大人しくしててね?」
そんな感じで、しっしっと俺達を追い払うリオ。
皆ってどこまでの人を呼んでいるんだ……
アロー侯爵令嬢の方を見ると参りましょうと言われ、頷く。




