意地でも生きてやる
豊水と幸水。梨の品種です
何度も目の前で見せつけられた。
「ああ、そこにいたんだ……」
片割れを失って、もう失いたくないと周りの人々に固執していた少女はその固執していた相手によって地獄に叩き落とされて殺される。
そんな死の直前になって、ずっと幽霊の状態になっていた片割れに気付いて必死に手を伸ばす。
――そして、片割れが死んだのを目の当たりにしたら赤ん坊に戻される。赤ん坊に戻されて、私は生まれてすぐに死んでしまう。
冗談じゃない。
何で毎回毎回毎回……片割れが殺されるのを見ていることしか出来ないのか。片割れを助けるために手を伸ばしてもすり抜けるし、何度叫んでも声は届かない。
それなのに片割れは死ぬ直前になって、
「ずっと、会いたかったんだ……」
とこちらに嬉しそうに微笑んで気付くのだ。
そんな様を見るだけ。見ていることしかできない。
(神様……なんでこんなことをするんですか)
そっと片割れから視線を外して、空を見ると空には四角い大きな空間が広がっていて、じっとこちらを覗き込んでくる存在が確かに感じ取れた。
――ざまぁWWWWWW
――悪役令嬢退場WWWW
そんな声なき声が聞こえて、神なんていないんだと悟った。…………悟らされた。
(悪魔に魂を売ってもいい。片割れを今度こそ助けだして見せる……)
赤ん坊に戻される慣れたくない感覚に襲われながらそんな決心を抱いた。
………………抱いたのでそもそもの原因を排除しようと思って、最初にしたのは胎児の状態で、
――妊娠しているからお腹が大きいのは当然でしょ!! ダイエットなんて馬鹿なことをやめてよっ!! ママっ!!
と、母親含む、屋敷に住む人全員に思念を飛ばしてみた。
何度も何度も繰り返して気付いた。私の死因は栄養不足。
双子を妊娠しているのにどこぞの奥さまに、
『あらっ、妊娠しているって聞いてましたけど、その割には……もしかして……』
という言葉を匂わされて、食事制限をしたのだ。母は。それにすんなり了承している周りも周りだ。だから、まずそれに対して苦情を訴えてみた。
その後、屋敷中が騒ぎになったようだけど、胎児だから分かんな~い。取り合えず、無事に栄養が足りている母親のおなかの中で片割れと共にすくすくと育ってきたのだった。
「ホースイ。コースイ」
「「はあい♪」」
金色の髪に時折混じる黒髪。可憐な双子としてすくすく育った私――コースイと片割れのホースイ。ちなみにホースイの方が一応妹だ。
国によって双子の扱いは異なるとの家庭教師の先生が教えてくれた話で、双子が生まれるとお腹から出てきた順番で上の子、下の子と決める国もあれば、私たちの国のようにお腹の中で上になっている子が上の子。下にいる子が下の子という文化もあるそうだ。
「じゃあ、わたくしの方が姉の国もあるんですね」
「私が妹な国もあるんだね」
信じられないと呟くと。
「双子というのはどこの国でも凄いことみたいでね。ある地域では互いに運命を奪い合うと言われているところもあれば、逆に相手の足りないところを補い合うとか。……男女の双子は前世は結ばれなかった恋人とか。ね」
「男女の双子は前世で恋人……」
不思議な感じだ。前世というのはあるか分からないけど、繰り返しの人生を転生と言えばそうかもしれない。
「君たちは互いに助け合うために双子として産まれた……そう考えるとロマンチックだよね」
さまざまな話を教えてくれる先生の話はどれも楽しくて面白くて……そう言えば、繰り返しの中でみんながホースイを悪くいう中で先生だけは味方だった。
ホースイが婚約者の浮気で苦しんでいる時に、何度も相談にのってくれて……家を乗っ取ったあの弟が家庭教師とホースイが恋愛関係だと嘘を父に伝えて首になる前まで――。
……あの冤罪の中には家庭教師との恋愛関係も含まれていた。
「先生……あの……相談したいことが……」
だからこそ、先生は味方になってくれると思ったのだ。
「実は、ホースイかコースイに王族に嫁いでもらいたいけど……」
王族に嫁ぐという言葉に私は怒りが湧き出てきそうになるのを抑えていく。
「魔力の強い女性を王族に迎えたいと……二人とも魔力が強いだろうと……」
何度も何度も迎えたホースイの破滅の一つに、王族との婚約の決まったのがあった。そして、婚約者がいるにもかかわらず他の女性に手を出して、それを注意したことで冤罪で処刑された。
「…………」
家庭教師に貴族のありようを、王族の重大さを学んだ。
王族に嫁ぐのなら嫉妬は耐えないといけないのだと。
だけど――。
「お父さま。私、公務をたくさん行って、それの合間に王子を生むようにプレッシャーを与えられ続けて、子供が生めなかった場合は側室も許容しないといけない王族に嫁ぐなんて私もホースイもさせたくありません」
何度も繰り返していたのでホースイが王子と婚約してきたのを見てきた。王子は婚約者がいるのに別の女性に夢中でその女性ばかり構っていた。
そこで側室として迎えるつもりで許容していればホースイも暴走しなかったのだろうと悪かった点は分かっているが、そもそも婚約者がいるのに他の女性にのめり込んでいるのはどういうことだろう。筋を通すべきとだと思えたのだ。
「魔力の強い子供は生まれにくい。ましてや王族は魔力の強いものを代々嫁がせてきて結果子どもができにくい。それなのに子供が出来ないと妻をせめて、側室を得る考えには辟易しているのです」
「…………」
「そういう立場だと理解もしていますけど……、お父さま達のように愛し愛されるような関係を築きたいのです」
王族に嫁ぐのはと渋ると、ホースイも、
「そうね……公務で疲れて大変な状態なのに世継ぎを作りなさいと強要される環境ではわたくしも気が休まらないでしょう。かといって、他の女性は……」
「ああ。――そうだな。別に王族に嫁ぐのは強制ではないからな」
父があっさり言葉を翻したのは王族からの申し出だが、断ることが出来る内容だったからだろう。
なので、婚約の話は無しになった。
まあ、でも、浮気をしないで愛を育むような関係になれるのなら反対はしないが、取り合えず、あの王子はそんな関係にならないと、もし近付いても排除をしていくつもりだ。
邪魔になった婚約者を処刑する男なんてホースイの婚約者に相応しくない。
そんな感じで王族の婚姻の話は無しになったが、我が家の婿問題が出てくる。
「一族で優秀な子供が居てな……その子を婿にしようと……」
なるほど。繰り返しの時間ではホースイが王族に嫁ぐからと養子に迎えた子供が次は婿になって接近して来るとは。
だけど、断る口実はしっかりある。
「お父さま……その方は確か、お母さまが妊娠中に妊娠を疑って、ただの肥満だと匂わせてダイエットしないといけないと追い詰めた方では」
私が死ぬ原因。胎児の栄養不足の原因は養子に来るその子供の母親が原因だったのだ。その事実を知らないでやすやすと養子に迎えたらまさか乗っ取られるなんて思っていなかったでしょう。
「そう言えば……そうだったな……」
「親の罪は子供に関係ないと言われるかもしれませんが、確かにそんな方の子息を婿にするのは……」
ホースイも困ったように微笑んでお断りをする。
繰り返しの時には母がそんなことを言われていたのを父は知らなかったが、今回は私の胎児の時の思念飛ばしが原因で知っている。なので、すぐに私たちの話を聞き入れて了承してくれる。
これであの乗っ取り弟がこの屋敷に来ることはない。それに安堵して、繰り返しの時間では体験できなかった。
それもこれも……。
「無事、保留に出来てよかったですね」
家庭教師との勉強の合間の休憩時間。
「先生のおかげです」
お茶菓子を堪能しながら私とホースイが頭を下げる。
ホースイもなんとなく繰り返しの間に起こった辛かった感情を覚えていたのか。婚約者の話も分家の養子……婿のことを感覚的に拒んでいたのだが、断る口実が浮かばなかったのだ。
私の方もホースイを幸せにしたいけど、その手段が浮かばなかったので、繰り返しの時に何度もホースイの無実を知っていたからこそ助けようとしてくれた先生を見ていた。だからこそ、先生を信じて相談しようと思ったのだ。
「いや、まだ保留の段階だから安心はできないだろう。コースイ嬢の言っていた事態が動くのは学園に入る時だろうし……。その前に繰り返しの時に危害を加えなかった相手と婚約するというのは手かもしれないね」
それだけでも展開は変わるだろうし。
「婚約……」
ぽつりと呟いたホースイの顔がみるみる赤くなる。
声を出さないで呟いた名前はあの乗っ取り弟と違う分家の次男の名前。本好きで気が合うと以前聞いたことあったが、まさかその名前が出るとは思わなかった。
普段なら、それに突っ込みを入れるのだが、私もそんな余裕はない。
「危害を加えなかった相手……」
それなら目の前にいる先生だ。
先生……アプリコット先生に言われてふと気づいた。
信頼できる危害を与えない存在。
相談していいと思えたと言うことはそれだけで【特別】と言うことだろう。
その事実に気付くと今まで必死にホースイを幸せにする。生き延びてやるとそれだけを思って生きてきたのだ。
そんなことを考える余裕はなかった。
(でも、それ以外を考えていいのなら……)
先生に想いを伝えれるといい。その為には、
「学園で起きる破滅を防がないと――」
決意を新たに誓ったのだった。
まさか、その破滅に導く元凶の少女も繰り返しの知識を持っていたのか双子であったことを認められず自滅するなんて予想しなかったが……。
幽体の間はゲーム画面を見ている存在にも気づいていました。
無事肉体を得てから白い画面は見えなくなっていましたが。




