西山と東山と奈良。
「ねえ西ちゃん奈良といえば何が思い浮かぶ?」
立夏の暖かい日差しが差すお昼休み。お弁当を食べ終えた西ちゃんに聞いてみる。
「あー地域文化の課題ね、鹿かな。鹿しか思い浮かばない、なんつって」
おどけて答えるから揚げを食べて上機嫌な西ちゃん。他県の人はともかくこんなダジャレは何度も聞いているからもはや何も感じない。暑は夏いなーみたいなもの。
奈良と言えば鹿、もちろん大仏だとか奈良漬けとか他にも色々あるけどいまいち良さが分からないというのが高校生の本音だ。
「やっぱりそうだよね、お寺とか大仏の良さってあんまり分かんないし」
「ひがしさんもそう思うんだ、あれだね鹿おーてぃーぴーってやつだね」
「え、なに、おーてぃーぴーって」
西ちゃんから聞きなれない単語がでた、おーてぃーぴー?多分otpで何かのイニシャルかな。
「よく分かんない。おにいがゲームしてる時にたまに言ってる。たぶん使い方は合ってる」
西ちゃんも知らないみたいで、スマホでOTPで調べてみると「OTP=One Trick Pony」って出てきた。
一つの芸しかできない馬。ちょっと違うかもだけどモノカルチャーとかみたいな感じなのかな。
「One Trick Ponyていう一つの芸しかできない馬の頭文字をとってOTPだってさ、要するに一つの特技得意しかないって意味みたい」
「なるほど、使い方はあってたみたいだね、あいつらおじぎしかできないし」
鹿せんべいを見せるとおじぎするというのは本当だけど、普通に鹿せんべい屋からつまもうとする奴もいる。
「でも、芸ひとつでも生きてけるなら、それはそれですごいかもね」
「おお、東さん。急に深い」
「あと、おじぎってなんかかわいいし」
私がそう言うと西ちゃんはちょっと考えてからおじぎした。
「なんにもあげないよ」
「(∀`*ゞ)テヘッ」
「でもさ、にしちゃんも確かにOTPかもね」
「なんで?」
「から揚げの話しかしないじゃん」
「失礼な! ミートボールの話もするよ!」
「はいはい。じゃあTwo Trick Ponyだね」
「お、なんかかっこよくなった!」
そう言って笑う西ちゃんは、なんだか鹿より元気で、少しだけかわいかった。




