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◇09 白虎様に謁見




 天使みたいな姿から、ぴよこは翼が四つになった!

 神様の眷属感が増しちゃったよ……。


 まぁ、これはこれで、シンと会えるように使えそうだからいいっか。


「何度も街と森を行ったり来させちゃったね、ごめんね、レオ」

「全然大丈夫だよ」


 ケロッとしているレオだけれど、結構距離あるよね……。


 三メートルほどの壁を越えて街を無断で出る強硬をしてしまったけれど、街に戻ってみるとすんなりと門番に通してもらえた。まぁ、まだ仮の冒険者カードに首を傾げていたけれど、必要になってまた森に行ったとでも思ってくれたのだろう。よかった。


 冒険者ギルドに向かう途中、人々が右へ行ったり左へ行ったりしていて、忙しないことに気付く。


「獅子を連れた神様の眷属様はいたか!?」

「こっちにはいない!」


 ブフッ!

 レオのジャケットの下で噴いてしまった。私、探されとる。


 カタカタと震えていると片腕で支えてくれているレオが、ポンポンとジャケット越しに撫でてくれた。


 レオのことも覚えられているかもしれないので、レオも足早に冒険者ギルドに逃げ込んだ。

 冒険者ギルドの中は、人でごった返していた。受付カウンターにガヤガヤと詰め寄っている様子。


 そんな対応に追われて忙しそうな中、レオに気付いたギルドマスターはそこから抜け出してきた。


「戻ったか、こっちだ」と、二階の応接室へ案内してくれる。


「さっき、紹介した食堂に、金色の翼を生やした神様の眷属様であろう少女が現れたらしくてな。保護目的で依頼が殺到しているんだ」

「「……」」

「何か見たか?」


 疲れたようにソファーに腰を沈めたギルドマスターが問うけれど、何か見たかと問われても……。渦中の人なんですけれど。


 レオはそっと私をジャケットの下から取り出した。ちょっと羽毛がペシャンコになっているから、レオが撫でて整えてくれる。その間、ギルドマスターは尊敬の眼差しを注いできた。


「白虎様に始まり、神様の眷属様もこの街に現れるなんて! 一体どんな幸運が起きるのでしょうか!?」

「えっと、それはわかりませんが、その白虎様は、実は私の……」


 ……ペット……? ペットって言っていいものか? ゲームの時ならいざ知らず、こうして隣に並ぶことが出来る同じ世界にいるのに、ペットと言っていいものか。今の姿的に、逆だと言った方がしっくりくるよね。


「オレと同じご主人様のペットです」


 レオが助け舟を出してくれた。


 いいんだ、ペット枠で。本人が言うならいいか。シンはまだ言ってないけれど。


「白虎様は、神様の眷属様のペット……!?」


 ギルドマスターは慄いた。


「流石、神様の眷属様です。恐れ入りました」


 頭を深々と下げられるけれど、私はただの飛べない鳥である。ぴよこである。ハードルが高いよ。


 あ、でも、大きなぴよこから、神様の眷属感増した姿に進化したから、示しておこう。


 バサッと四つの翼を広げる。腕を動かすように四つの翼は連動して動く。結構大きくて、ソファーから飛び出そう。


 そんな私を見たギルドマスターはまたもや膝から崩れ落ちて、涙を滂沱させた。


「嗚呼、神トルトアウェス様の眷属様……!」


 感涙で拝まれた……。

 創造神の信仰っぷりがすごい。大丈夫な神様だろうか……心配になってきた。


「それで、保護されているという白虎様とやらに面会したいのです。可能でしょうか?」

「もちろんです! 神様の眷属様を阻むものなど、ありはしません!」


 ぴよこ姿ってとても不便だけれど、この世界だとイージーライフを送れるのでは……?


「今白虎様は神殿にいらっしゃいます」


 神殿か……。最早崇められている感ヒシヒシ伝わってきた。

 貢ぎ物もされているって聞くし、待遇はよさそうだけれど……。


「食堂で、彼は元気がないと噂で聞きました。大丈夫でしょうか?」

「え、ええ……意気消沈している様子だと伺っております」


 意気消沈か……。異世界で独りぼっちはつらいよね。


「大丈夫だよ、ご主人様。ご主人様の顔を見れば、すぐに元気なるよ」


 レオが励ましてくれるけれど、こんなぴよこ姿で元気になってくれるだろうか……。


 神殿の方が神様について聞けるだろうし、先ずはシンのお迎えをしよう。


 そういうことで、私達はギルドマスターの案内を受けて神殿に向かうことになった。その前に、まだ解体作業は済んでいないけれど、冒険者カードの発行は済んでいるからとレオに渡される。


 正式な冒険者カードは、淡い水色で、青い文字で名前とレベルが表記されていた。右上に円形があるかと思えば、そこに血を一滴垂らすように言われて、レオはぷすっと渡された針で親指を差して血を垂らす。魔力がこもった血を登録したそうで、仄かに淡い水色カードは光った。


 これでレオは正真正銘、この世界の冒険者。身分証を手に入れた。


 こんな簡単に異世界で身分証を手に入れられるなんてね。セキュリティ的にどうなんだろうとは思うけれど、私達には好都合なので触れないでおこう。


「どうしたの? レオ」

「んー、なんかもう治っちゃったみたい」


 妙に親指を気にしているレオに気付いて声をかけると「ほら、もう血が出ない」と見せてきた。確かに押し込んでいるのに、血が出てこない。針で刺しただけの傷とはいえ、もう塞がったのだろうか。


「自己治癒能力、かな?」

「さぁ?」


 二人して首を傾げてしまったが、ギルドマスターが行こうと言うので、この話はここで終わらせた。

 かすり傷とも言えない小さな傷だから、即塞がったのは誤差だと思ったからだ。


 それよりも、シンを迎えに行かないと。


 ギルドマスターは、馬車を用意してくれた。至れり尽くせり。


 ジャケットの下に隠されていた私は、馬車内ではレオの膝の上で馬車に揺れた。向いに座る強面ギルドマスターがキラキラ尊敬の眼差しを注いでくる。


「ご主人様みたいに人の言葉を話す神様の眷属様が現れたことはあるんですか?」


 私の背を撫でながら、レオが尋ねた。


 おお、前例があるか聞いておこう! 流石、レオ。出来る子!


「いや。オレは聞いたことがないな。金色の鳥を保護して、神殿や王城で手厚くもてなしたことなら、何度か聞いてきたことがあるが……」


 そうギルドマスターは、自分の顎を擦った。

 ギルドマスターが知る限り、私のような異世界からぴよこ転生した例はいない、と。


「じゃあ、食堂で出たって言う金色の翼の少女については?」

「いやぁ……流石に前代未聞じゃないか? 最早、神様が降臨でもしたのかと耳を疑ったな」


 たらりと汗を垂らす真剣な表情からして、金色の翼を生やした人は今までいなかったのだろう。

 そりゃあ騒ぎにもなるね。他人事じゃないんだけれども。


「なら、動物の耳や尻尾を生やしている人の姿の種族はいる?」

「? 獣人なら、国内に少なくともいるし、冒険者ギルドにもたまに獣人族の冒険者がやってくるさ。それが?」


 おお、レオったら、サラッと獣人族の有無を聞けた! ホント、出来る子!


「ホント? なぁんだ、別に珍しいわけじゃないんだね! はぁー、やっとフード脱げる!」

「!?」


 もう隠れる必要はないと知るや否や、フードを脱いだレオはうーんと背伸びをした。真ん丸いキュートな耳をピクピクさせている。


 そんなレオに驚いて仰け反るのは、ギルドマスター。心なしか、顔色が悪い。


「じゅ、獣人族なのに……魔法レベルが高いのか……!!」

「ん? どういう意味ですか?」

「獣人族は本来、魔法レベルは人族より劣るじゃないか! それなのに、雷魔法でストーンボアを仕留めるとは!」


 驚愕の事実にお口あんぐり開くギルドマスターは、慄いていた。


 この世界の獣人族はそれほど魔法が強くない種族なのね。まぁ、ただでさえ、変身能力を兼ね備えている種族だし、もしかしたら爪や牙で戦う方が性に合ってて、魔法の才能は伸ばさなかった種族なのかも。


 いや、まだこの世界の獣人族の詳細は聞けてないから、決めつけはよくないか。


「ハッ! 話に聞いていた魔法を強くしてくれたという《《大切な人の愛》》とは……!?」


 言ってたね、レオが。


 ハッと息を呑んで恐る恐ると私に目を向けるギルドマスターに、レオは喜んで追い打ちをかけた。


「そ! ご主人様の愛で、オレは強くなったの!」


 語尾にハートマークをつける勢いで答える。またもや、ギルドマスターは滂沱してしまった。


 もうギルドマスターの涙を気にしなくなったレオは、獣人族について聞き出す。獣人族の王国があるらしい。そこの出身がこの王国に来て、冒険者になることはよくあることらしく、レオもそうなのかと尋ねられた。が、そこは正直に違うと答えておくレオ。


 じゃあどこから来たのかって話になるところだったけれど、ちょうどよく馬車は目的地に到着した。


 首が痛くなるほどの長い階段の上に、神殿があったが、それより先に目につくのは像だ。巨鳥の像。


 凛々しい鷲のような顔立ちで、シュッとした首筋と翼が六つ、広げられた像が、神殿の前に鎮座していた。


 きっとこれがトルトアウェス様という名の神様なのだろう。


 ……異世界転生する前のインコみたいな黄色っぽい鳥とは似つかない。やっぱり、アレも眷属とかだったのだろうか。ふむ、とレオのジャケットの下で首を傾げる。


「立派な像ですね」

「そうだろうそうだろう。巨匠が彫った神トルトアウェス様だ」


 ギルドマスターは自分のことのように自慢げに胸を張った。そして不思議そうにこちらを見た。


「どうして眷属様を隠すんだ?」

「「……」」


 癖になったというか。まだ人目に晒していいと思えなかったというか。

 今大々的に捜索されているとなると、まだ隠れてしまいたくもなるだろう。


 まぁ、とりあえずこの“神様の眷属様姿”を利用してシンと会いたいので「ぴよ」とレオに声をかけて出してもらうことにした。


 レオが私の羽毛を整えながら階段を上がっていくと、上には出迎えの神官達が揃っている。私を凝視して固まっていた。やがて、ひれ伏した。嫌な光景である。


「こちらの神様の眷属様は、ご自身のペットであろう白虎様に会いに来られました」


 ゲフン、と咳払いをしてから、ギルドマスターはキリッと真面目に訪問理由を告げた。


「神様の眷属様のペット?」

「白虎様が?」

「いや、確かに“ご主人様が”と仰っていたが……」


 ざわめく神官達だったけれど、代表して白髭を蓄えた最長年らしき神官が前に出て「ご案内いたします」と深々と頭を下げる。


「お願いします」と私が口を開くと、さらにざわめいた。なんか泣いてる。涙ぐんでいるよ。


 ギルドマスターの滂沱は、大袈裟じゃなかったんだなぁ。


「白虎様、今よろしいでしょうか」


 謁見の間という本来は神殿の最高責任者である神殿長と会う場に案内された。


 そこにはいた色とりどりの果物と花に囲まれているのに、気だるげに寝そべっている白銀の虎。


「だから、僕は白虎じゃなくて白銀の虎だって、何度も言っているじゃないですか……」


 どこか不貞腐れた声を、白銀の虎は零した。

 その声は、私の好きな色気が含まれた穏やかな素敵ボイスの声優さんのもの。


 間違いない。艶やかな白銀で青黒い虎模様の毛並みもそうだ。

 獣姿の【シン】だ。





誕生日いいねをありがとうございます(T . T)

2024/08/04

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