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◇02 魔法と飛べない鳥



「と、とにかく! 落ち着こう!」

「オレは落ち着いてるよ、ご主人様」

「もふもふをやめてぇ~」

「ごめんごめん。ご主人様が可愛くて」


 頬擦りをやめてくれたレオ。でも胡坐をかいたレオの膝の上に置かれたまま。

 その状態でレオを頭の上から下まで見てみる。冒険者コスだ。袖はオレンジ色だけれどあとはオフホワイトの襟の立った革ジャケットと、黒いインナーシャツ。ポケットがたくさんある濃い緑色のズボンとゴツい焦げ茶のブーツ。ツンツンしてくる手には、指出し黒のグローブ。


「レオは……ゲームのまんま、異世界に来てしまったのかな?」

「うん、そのまま来たみたい」


 自分の姿を一応確認して見るレオは頷く。


「久しぶりにご主人様がログインする気配がしたから、お出迎えしようと待ってたら、ここにいたんだよね。金色のぴよこのご主人様も一緒」

「ぴよこ……」


 嬉しそうに破顔するレオは、私のこの姿をぴよこと呼ぶことにしたらしい。


 ふと、思い出す。ログインの気配とは、つまりは私が『イケもふゲーム』のダウンロードを始めたからだろう。スマホで表示したまま、黄色っぽい鳥を助けに行った。


「そうだ。私、インコみたいな黄色っぽい鳥をフェンスに引っかかってたから助けたんだ。そしたら、トラックが突っ込んできて……」

「ヒュッ」


 あの黄色っぽい鳥が関係あるのかもしれないと話そうとしたけれど、トラックの話を聞いてレオが息を呑んだ。心配になるほどに真っ青な顔になってしまった。


「ご主人様……死んじゃったの……?」

「ど、どうかな……多分……トラック転生ってやつかな。でも、ほら、この通り生きてるし! ……ぴよこだけど」


 バサバサと翼を上下に動かして見せて、空元気を示す。ぴよこ姿では、生きていると言えるのか、少々疑問。しょぼんと顔を俯かせると、人差し指でレオは頭を撫でてくれた。


「異世界でオレ達が生きてるなら、まっいっか!」


 なんてケロッと明るい笑顔になるレオ。


「“《《オレ達》》”と言えば……他の子もこの異世界にいたりするのかな?」

「あー、どうだろう。少なくとも近くにはいないみたい」


 虎と熊は、近くにはいないそうだ。いないなら、同じ世界にはいない可能性が高いのかしら。


「でも、オレがいるなら、二人もこっちにいる気がする!」

「レオの直感は当たりそうだから、いる気がしてきた……」


 『ホーム』の二人もいる可能性が高くなった。


「じゃあ、この世界の情報収集をしつつも、他の二人も捜すことにしよう! こんな異世界に急に放り込まれて、ご主人様がいないとなると心細いに決まってるしね。捜してやろうよ!」

「!」


 私もレオがいなければ心細かったはずだ。そうだね。見付けてあげなくちゃ。


「うん、そうしよう。この世界を把握して、彼らの捜索をしよう!」

「わかったよ、ご主人様!」


 喜んで頷いてくれるレオに任せっきりになりそうだけれど、目標の設定はこれでオッケーね。


「次は……魔法って使えそう? せめて自己防衛には欲しいかな……」


 何がある異世界かはわからないけれど、身を守るためにあってほしい。


「使えるよ」


 ボッと上げた片手の中に火の玉を灯すレオは、簡単そうに見せた。


「火魔法! よかった! 魔法が使えるんだ。冒険者コスは、火魔法と雷魔法が使えたよね」

「雷魔法もバッチリだよ」


 次は火の玉を消して、バチバチと弾ける電気を灯して見せてくれるレオ。


「それに、水魔法も使えるよ」


 電気を消し去り、水玉をぷくりと生み出すレオに目を真ん丸に見開く。


「ぴよ!? コスチューム関係なしに、覚えている魔法は使えるってこと?」

「そうだね、光魔法と闇魔法はオレ使えないから、それ以外は使えてる」

「わわわっ!」


 今度は風を巻き起こす風魔法を使って、私のぴよこボディを浮かせてきた。翼をぎこちなくばたつかせているけれど、どうにも飛べそうにない。レオが起こしたつむじ風に巻き込まれて、ぐるぐると回ってしまった。


「ご主人様、飛べない?」

「う、うん……飛べないみたい……」


 レオがすぐに両腕に抱えてくれたので、つむじ風から逃れられたけれど、鳥なのに飛べないって……。本当にぴよこかな……。


「練習してみよっか」

「そ、そうだね」

「はい、バタバター」

「んー!!」


 飛べない鳥は、ただのぴよこ!

 レオの提案に乗って、地面に下ろしてもらった私は翼を広げて飛ぶつもりでバタバタさせた。

 ……翼が忙しなく動くだけで、地面から浮き上がる気がしない。


「ご主人様、可愛い」


 へにゃりと口元を緩ませて観賞しているレオの感想を聞いて、力尽きた。ぴよこは力尽きた……。


「私は飛べない鳥……ぴよこだ。レオだけが頼りだよ……」

「オレだけが頼り……!」


 甘美な響きを聞いたみたいに繰り返すレオは、今にも光線を放ちそうなほどに緑の瞳をキラキラに輝かせた。


「今が何時かわからないけれど、今夜安全に過ごせそうな場所の確保をしてほしい。水は……レオの魔法で大丈夫か。あとは食べ物だね」

「狩りだね! わかった! ご主人様は待ってて! オレ、狩りしながら寝床にいいところ探してくる!」


 キリッと眉を下げてやる気に満ちたレオは、私を両手で持ち上げるとキョロキョロと周りを見回す。


「とりあえず、ご主人様はここにいてね。じっとしてて」

「ぴよ!?」


 レオの頭より上に持ち上げられたかと思えば、木の枝に乗せられた。鳥脚でなんとか枝を掴み、そこに留まる。

「よし!」と満足げに頷いたレオは「いってきまぁーす、ご主人様ぁ!」と爽やかに笑って行ってしまった。ライオン尻尾が、犬みたいにブンブンと振り回されていた……。


 ぴ……ぴえええんっ!

 いきなり高いところに置き去りにされた!

 レオ……! レオ! カムバックぅうう!


 レオが戻ってくるまで、心細くてべしょべしょ泣いた。


 寂しいよぉ……シクシク。

 魔法も使えない。逃げるために飛べもしないずんぐりむっくりなぴよこボディ。不自由すぎる状態。


 大人しくレオが戻って来るまで、泣いた。


「え? ご主人様、泣いてるの……?」

「ぴよ……」


 グスングスンと鼻を啜っていれば、レオの声。

 なんか巨大な獣と丸々太った兎を持っているみたいだけれど、それを手放すと木の上の私に手を伸ばしてきた。片腕に乗せて、もう片方の手で背中を撫でてくれる。


「一人は怖いよぉ……レオ」

「ご、ごめんね? よしよし」


 ……もふもふされるって、なんか気持ちいい。眠くなってくるのは、泣いたせいかな。

 泣いた目元も、レオが指で拭ってくれた。


「それでね、ご主人様。収穫! 魔物っぽいのいた。でも食べれるかわからないじゃん? だから、ただの兎っぽいのも仕留めた!」


 褒めて褒めてと言わんばかりに胸を張るレオは、ふんすふんすと鼻息を荒くする。


 地面に置いている巨大な獣と兎を見せてくれたあと、レオの頭の方へと持ち上げられた。なので右の翼を広げて、なでなでしておく。

 それは正解だったようで「えへへ」とレオは緩んだ顔になって喜んだ。


「確かに、魔物って食べれる異世界と食べれない異世界で分かれてたなぁ、ラノベとかだと。『イケもふゲーム』ではドロップアイテムしかもらってないし、食べてないもんね」

「うん、魔物肉は食べてない」


 ゲーム内では、魔物肉は食べていない。じゃあ、おやつしか食べてないのかな……とちょっと疑問に思ったけれど、口にはしなかった。


「まぁ、食べれない場合って、瘴気とか身体に悪い物があるからっていう理由だったしね。……瘴気、ありそう?」

「瘴気って……なんかモヤモヤした黒いやつ? んー、見当たらないけれど」


 二人して同じ方向に首を傾げて、巨大な獣を見下ろす。黒っぽい毛並みだけれど、それはレオが火魔法で丸焼きにしたかららしい。猪に姿は近いけれど、額に角があるし、風をまとって突進したので魔物だと判断したという。


「魔物がいる世界かぁ。何も知らないのに食べるのは危険すぎるね。魔物を食べるのはやめておこう」

「はーい。それでね、ナノカ様。向こうに大きな岩があったから、そこを背にして一夜を過ごそうと思うんだ」

「ありがとう! 今日のところは、そうしよう!」


 魔物の方は、他の獣が寄って来ないようにレオが火葬した。すごい炎だった。


 今夜の食料である兎を持って、私を抱えてもらって、その岩の元へと移動。少し広場になっている岩を背にして、レオは焚火を作ってくれた。何から何までレオ任せで申し訳ない。


 流石獣人といったところか、解体もお手の物。風魔法でザックリ切っては、引きちぎる……つおい。

 そのまま、丸焼きにしてくれた。


「これ多分香草ー」と、近くで摘んで来た薬草をまぶして生臭さを払拭もしてくれる。

「オレ、一応冒険者だからね」とのこと。冒険者知識を持ち合わせているのか。大助かりである。


「はい、ご主人様。あーん」


 ちぎった兎肉を、差し出された。ちまちま、嘴でつつきながら食べていく。


「全部やってもらってごめんね、レオ」

「何言ってるの、ご主人様。オレ、ご主人様のお世話出来て嬉しい」

「あ、ありがとう……!」

「ふふふっ。ご主人様、オレなしじゃあ生きていけないね?」

「…………ぴよ!!」


 恍惚とした笑みを零してはまた私の嘴にお肉を差し出すレオに、またもや悪寒が走った。

 どろりとした感情がこもった緑の瞳が、私に注がれている。


 や、やっぱり……ヤンデレの気が……!


 いや、レオは味方。レオは味方……! レオは味方なの!


 そう言い聞かせて、お肉をゴックンと飲み込んだ。



 迂闊に周囲をうろつかなくてよかった。すぐに日が暮れて夜が来たのである。

 岩を背にして休むことになったのだけれど、レオは両腕で私を抱き締めて離さなかった。

 もう今更なので、抱き締められたまま眠ることにする。


 空が暗くなった瞬間に、眠気がドッと押し寄せてきてしまった。もう疲れたわ。


 たまにもふもふと頭を撫でられたけれど、それに後押しされるように、私はゆっくりと意識を沈めて眠りに落ちた。




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