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◇01 私と『イケもふゲーム』と異世界

2024/08/02

今年の誕生日記念作品です。


もふもふ逆ハーレム異世界転生ライフです。





「……寂しいな」


 ぽつぽつとスカイブルーの折り畳み傘にぶつかる雨音を聞きながら、不意に襲い掛かった気 持ちを吐露する。


 急に、恋しくなってしまった。


 イケメンな獣人と触れ合えるゲームの存在を 思い出して、愛でていたキャラクター達に会いたくなったのだ。


 実家には犬と猫の両方を飼っていて、もふもふには困っていなくて、とてももふもふ好きな私には楽園だった。泣く泣く自立のために一人暮らしを始めるとほぼ同時にリリースされたアプリゲーム『イケもふゲーム』は、愛犬と愛猫に会えない寂しさを埋めてくれたゲームである。社会人一年目の私の励みにもなった。


 イケメンであり、もふもふでもある。画面を撫でるだけだけれど、癒しだった。

 なんと獣耳のイケメンは、もふもふし続けると、獣人化して、最後には獣化するのである。獣化まで愛して、もふもふしたものだ。イケもふは、正義。


 あんな思い出、こんな思い出を思い返したら、余計恋しくなってしょうがなかったので、久しぶりにログインしようとアプリを開いた。


 でも、仕事に慣れてきて色々忙しさが増して、社畜生活まっしぐらになって疎遠となってしまってだいぶ経っていたから、アップデートをしないといけないと表示される。自宅に着く頃にはダウンロードも終わるだろうと思い、とりあえずダウンロードボタンをタップした。


 確か、久しぶりのログインだと『お出迎え担当』のキャラの長い間出掛けていたご主人様向けのお出迎えボイスが聞けるんだっけ。まだ聞いていなかったから、楽しみだ。


 『お出迎え担当』のキャラは一人のみ設定。私のお気に入りは、獅子の獣人である陽気なムードメーカーのキャラ。


 もふもふが出来る『ホーム』には、残り二人のキャラを設置出来る。最後にホームに設定していたキャラは確か……白銀の虎の獣人と、純黒の熊の獣人か。どんなもふもふも好きだけれど、顔と性格と声優さんが決めてになったキャラ達。


 コスチュームはなんだったかな……。ガチャるために、たくさん課金したなぁ。もちろん、無理のない程度に、だけれど。通常がイケメンだから、色んな衣装のガチャがあって課金した。


 コスチューム別に、使える魔法があって、それで魔物とバトルもしたっけ。魔物とバトルすることで、ドロップする素材で『ホーム』の家具を作ったり、上質なブラシを作ったり、またはおやつを拾っては与えて好感度を上げたり。そういう要素もあるゲームだった。久しぶりすぎて、懐かしい気持ちでいっぱいだ。


 『日常ストーリー』を読み返そうかな。そのキャラの性格に合わせたプチエピソードが読めたり、他のキャラとの絡みが読めたりもした。


 あ。思い出した。獅子の獣人【レオ】は、冒険者コスチュームだったはずだ。一番似合っていてかっこいいと思って、そのコスで『お出迎え担当』を設定したんだった。


 白銀の虎の獣人は、穏やかに微笑むスチルが優雅で素敵だったから、神官コス。

 純黒の熊の獣人は、ダークに決まった真っ黒な背広コス。

 双方、ハロウィンイベントのコスチュームだったはず。早く見たいなぁ。ダウンロードはまだ半分を過ぎたところだった。


 ゲームプレイヤー名はなんだったかな……。基本的に、ご主人様呼びだけれど、たまにテキストで呼ばれることもある。んー……よく使うハンドルネームの【ナノカ】だったかな。


 ガシャンガシャン。


 雨音とは違う音が耳に入ってきたから、顔を上げてキョロキョロと音の出所を探す。

 すると、反対側の道の端のフェンスに穴が空いていて、そこにインコのような黄色っぽい鳥が翼を動かして、ガシャンガシャンとフェンスを揺らしていた。

 あらあら。インコにしては大きいような気がする。どちらにせよ、どこからか脱走してしまって引っかかってしまったのかもしれない。可哀想に。どんなもふもふも可愛い私にとっては、一大事。


 ちゃんと右左を確認して、横断した私はすぐに鳥に近付いた。驚いて暴れないようにゆっくりと動いて、引っかかったフェンスを退かしてやる。


 すると、騒音が轟いた。

 振り返ると、トラックのヘッドライトで目が眩んだ。どうしてか、道の隅にいる私の方へと真っ直ぐに突っ込んでくるトラックが見えたと思えば、真っ暗闇に意識が飛んで行ってしまった。







 ツンツン。ぷすり。

 ツンツン。ぷすり。


 なんか、つつかれている気がする。なんで“ぷすり”って音がするのやら。目を開くと。


「ご主人様、起きた?」


 なんだか懐かしい声。


 ……ん? 私の好きな声優さんの声では……?


 踏み固められた地面が何故かとてつもなく近くにあることが気になるけれど、声の主の方が気になるので顔を上げた。


 目の前には、丸っこいオレンジ色の獅子耳をつけたオレンジ髪の美青年が覗き込んでいる。


 というか『イケもふゲーム』の獅子の獣人の【レオ】じゃないか。温かみのあるオレンジ色の髪だけれど、瞳は深みのある緑色で丸アーモンド形。優し気に細めて笑いかけてくるのは、画面越しによく見た陽気な彼の顔。木漏れ日のような美形。

 目をパチクリさせてしまった。


「落ち着いてね。ご主人様、なんでか、金色の鳥になっちゃったよ?」

「…………ぴよ!?」


 思わず、奇声が嘴から飛び出てしまう。手を見ようとすれば、金色の艶のある翼が動く。


「あはは、“ぴよ”って、ご主人様。確かにひよこにも似ているよね。でも、ひよこよりは大きいかな。オレの両手に収まるくらいの大きさだからね」


 そう言って【レオ】は下から手を差し込むと、私を持ち上げた。手乗りである。鏡がないからわからないけれど、彼曰くひよこに似ている金色の鳥になってしまっている。


「な、なんで~!?」

「ご主人様がふわふわのもふもふだぁ~」


 ぷすり、ぷすり。

 私の羽毛の中に人差し指を突っ込んでくる音だったのか……!

 わなわなと震えつつも、へらりと笑ってつついてくる【レオ】を見上げる。


「……【レオ】なの?」

「そうだよ、ご主人様。ナノカご主人様のレオだよ」


 にぱっと笑って見せるレオ。

 イケメンの人懐っこい笑顔。きめ細かな肌は肌トラブルと無縁そうな色白。美形にもほどがありすぎる造形のいい顔。

 そんなレオを見上げて、ポッカーンとしてしまう。


「ここはどこ……というか、どうして私だってわかったの?」

「ここは異世界じゃない? ご主人様がわかったのはぁ……勘!!」


 もっと見上げると首が疲れるけれど、どうやら森の中にいるみたいだ。さっきまで雨で夜だったはずなのに、明るい青空が見える。


 異世界とキッパリ言われて、ギョッとしてしてしまうけれど、鳥の姿なのにご主人様呼びをしてくるレオの返答に驚いて嘴をあんぐり開いてしまう。


 直感というか本能というか、それらに従順な【レオ】というキャラクターらしい。少年漫画の主人公のような光属性に、目がチカチカしてしまいそうだ。


 そして、うるっともきてしまいそうだった。だって、こんな姿になっているのに、私だと見抜いてくれるなんて。嬉しい。


 異世界に来てしまったという心細さはあるけれど、少なくとも孤独ではないのだ。レオという心強い味方がいる。陽気なムードメーカーだし、戦闘キャラとしてもバッチリ育成しているし、きっと何があっても大丈夫。本当に心強い!


「異世界に来ちゃったみたいだね。よくわかんないけど、画面越しじゃない、同じ世界にご主人様と一緒にいられるなんて嬉しいなぁ~」


 むぎゅっと、優しく両腕に抱き締められた。それって、ゲームプレイ時の記憶が彼にはあるってことよね?


「ふふっ、オレ達ずっと心配してたし、帰ってくるの、待ってたんだよ」


 ……ん? な、なんだろう……。悪寒が、ぞわり。


「最後にログインしたご主人様、メンタルがボロボロで泣いてたもん……。でも、ふふふっ、これからはずっと一緒だね?」


 鳥だけに鳥肌が立った。羽毛は膨れた気がする。


 陽気なムードメーカーで光属性のキャラのはずが、緑の瞳はほの暗く見えた。愛おしそうに細めて私を見つめてくる瞳は、どろりとした感情を秘めている。


 カタカタ震えてしまいそうだけれど、レオは心強い味方、レオは心強い味方、と自分に暗示をかけておく。


 だってこんなひよこボディーになってしまった私の頼りは、彼しかいないのだ!


 彼の言う、“最後にログインした”は心当たりがある。忙しさで息が詰まっていて、色々いっぱいいっぱいで、『イケもふゲーム』のアプリを開いて、『ホーム』のレオ達をもふもふ愛でた。愚痴を零して、涙もボロボロ落としたのである。

 メンタルが限界だと思った私はそのあと、実家の愛犬と愛猫にももふもふセラピーをさせてもらって、持ち直して仕事に打ち込んだ。

 そうか……それでゲームと疎遠になっていたのか……。


 それが“最後”だったせいか、レオは激重感情を抱いているヤンデレ気味に……!


 いや、大丈夫! 大丈夫だよ! レオは基本陽気な光属性だから!!


「ご主人様、だぁい好きぃ」

「わわわっ」


 ヤンデレ気味の獅子の獣人レオに頬擦りされて、私はもふもふをされる側になってしまった。


 これからどうなるの……? 私!



 


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