第34話 福峰の街へ
客桟に着いて早々に探路は牀に寝かされた。
だが、今回の症状はなかなか良くならなかった。
ただでさえにも『普通ではない頭痛』に対し、冽花たちができることといえば、賤竜の按摩ぐらいのものであった。薬が効かず、気には気で対抗する他ないのだから。
「お前、後ろから見てたよな? どんな時機で探路がこうなったか分かるか?」
『先の蟲人が出現して以降である。頭をかかえ、呻吟を漏らしだし……抱水の――』
その一言を賤竜が口にした瞬間、傍らの探路の呻きが高くなった。賤竜は口をつぐむ。
『かの水蛇の出現以降だ』
端的に告げると、彼はまた淡々と探路に按摩をほどこす作業に戻った。
先の蟲人と抱水。この二つの要素が呼び水となり、探路は倒れたことになる。
冽花は顎を撫でさすり、唇を曲げた。
――抱水。抱水って……ここの風水僵尸のことだよな? 水を使うのが得意で、お偉いさんを手伝える凄い僵尸だっていう。で、あの蟲人……。
――探路って、この街の人間だったんじゃないか?
口には出せないので、そう脳内で結論づけた。そして、探路の記憶には、抱水とあの蟲人が、深い関わりを持つ可能性がある。
しばらくすると、ようやく探路の容体は落ち着いた。といっても、気絶するよう眠りについたと言った方が正しい。痛苦に耐えかね、気力を使い果たしたのである。
冽花は顎に手を添えたまま固まっていたが、その手をおろした。賤竜を見やる。
「賤竜、街に出るぞ。……妹妹、探路を見ててもらえる?」
『……いいけど。どうするの? 冽花』
呼び声に応じて二つ返事で応じる賤竜と、冽花の体から現れ、探路の牀横に添う妹妹。二つの視線に頷きかえし、冽花は口をひらいた。
「飯を調達しがてらに情報収集と……あと、薬問屋を探してみようと思う。どの道、『水蛇』関連には手ぇつけなきゃいけなかったし――」
下手に固有名詞を告げると、また頭痛を引き起こす可能性がある。念のため、ちらりと探路を見下ろす。大きな反応はない。一つ息をこぼすと、冽花は言葉を続ける。
「それに、やっぱりこの街は大きいから。ここなら探路に効く薬も見つかるかもしれない」
『そっか。分かったわ。気をつけて行ってきてね』
再び妹妹へと頷くと、賤竜を促し、冽花はその場を後にしていく。
向かうは大都市・福峰の雑踏である。客桟の者に一応の道を聞いてから、賑わいのなかへと繰りだしていくのであった。




