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守骸伝 〜転生猫娘、陰竜僵尸と出逢う〜  作者: 犬丸工事
第三章「小さな町の大きな秘密」
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第10話 これが風水僵尸だ、と骸は告げる

 食事をした後、冽花たちは町へと繰りだしていた。


 旅の準備をするためである。


 大きな目標として『賤竜を龍脈に還す』ことが挙げられるものの、そのために『二つの小目標』が存在した。

 小目標の一つは『賤竜と対であり妹妹の哥哥(あにさま)でもある、貴竜に会う』こと。


 そして、もう一つがこれだ。


「一番近くでアンタの仲間がいるって言われてるのは、福峰だ」


『福峰』


「うん。水の都と言われてる場所でね、近くに大きい湖があって、その水を町中に水路で引いてるんだよ。そこの僵尸は抱水(バオシュ)ってやつだ」


『抱水か、なるほどな』


 こういうことであった。


 賤竜には貴竜以外にも、合わせて八体の仲間が存在する。

 これは賤竜の側から告げてきたことであった。

 今の同胞らの近況が知りたいという。


 冽花も――というよりか玉環が、もともとすべての風水僵尸の龍脈への帰還を旨としていた。そのため、彼らの現状を知れるという意味でも、渡りに船であった。


「どういうヤツなんだ? 抱水ってのはさ」


 それは興味本位の質問だった。


 冽花が見ている夢はいつも玉環の視点のため、基本的に玉環が経験した場面の、ほんの一部しか見ることができない。

 それでも、幾人かは風水僵尸たちらしい者らを見かけている。そんな具合であった。


 該当しうる者たちを思い浮かべながら賤竜を見ると、彼は首を巡らせた。


 差している日傘をちょいと後ろに傾けるなり、ほどなく瞳で告げる。

 水夫らに指示を出している上役を示し、滔々(とうとう)と応じたのであった。


『抱水は文官ないし役人気質の風水僵尸だ。事務処理能力に優れ、かつ、様々な分野への知識の造詣が深い。内政の補助をさせるのに適した性質を持っている』


「む。むつかしいこと言うなあ。つまり、えっと……頭がいい切れ者で? ああいう……なんていうか、管理する仕事が向いてるってこと?」


『是。教え覚えさせれば、業務面での他との連携・行動も、自律して行えるほどの能力の高さを持っている。さらに忠誠心に厚く、与えた仕事は必ず果たす。故に、奴をそうして運用している契約者は何人もいた』


「へぇ。つまり、お偉いさんを手伝える凄い僵尸ってことなんだね」


『是』


 ざっくりとした理解となる冽花であったが、賤竜は頷き返した。


『また、奴の力は水に起因している。故に福峰での運用は理に適っていると言える』


「水に? ああ……そっか。力を活かしやすいってことだもんな」


『是。契約者への利を最大限に生みだしうる環境だと判ずる』


「……契約者への、利?」


『是』


 おもわず反芻した冽花にたいし、変わらずに賤竜は頷いてきた。

 そうあるべきが当然と言わんばかりに、二の句を続けたのであった。


『此らは風水僵尸であるが故。契約者の利潤、ひいては、その利益還元による万民の継続した利潤獲得を本旨としている』


「…………へえ」


 冽花は声を数段階低くせざるを得なかった。


 大変に、胸糞の悪い言葉を聞いたためであった。


 つまりはこういうことであろう。


 風水僵尸(ふうすいきょうし)――僵尸。それは骸から化した妖しである。

 そして、お馴染み玉環は、いつも夢でこう言っている。

 

 “『私』の忠実なる(しもべ)にして、無くてはならない力であり、道具だ”と。


 ――つまり? 死んでも、他の奴らのシアワセのために使われてるってこと?


 冽花の唇は自然とねじ曲がった。


 玉環の認識に、思うところがなくはないものの。

 なぜ彼女が、あれだけ彼らを還したがっていたのか。

 『正しく死なせてやろうとしていた』のか。その一端に触れた気がした。


 賤竜には理解しがたかったのだろう、冽花の表情が。首を傾げてきた。


『冽花。表情の意図を聞いても?』


「……ダメだ。今はダメ」


 冽花は首を振った。ここで彼に噛みついても詮なきことであるのは明白だ。

 が、それはそれとして(はらわた)が煮えていた。ちょっとやそっとでは収まりがつかなかった。


 賤竜は瞬いたが。


『そうか』


 強いて追及することはなく頷いた。


 そのため、冽花は一人、ぐつぐつと煮えたぎる胸の内を抱えるまま、黙して歩くことになった。賤竜はその後に続いた。


 何か心境を変えるきっかけが必要であった。


 だが、その要因は思わぬところで現れた。

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