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守骸伝 〜転生猫娘、陰竜僵尸と出逢う〜  作者: 犬丸工事
第三章「小さな町の大きな秘密」
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第9話 陽零の街の朝

 寝起きを簡単に整えて部屋から出ると、開口一番、賤竜に『その身の子細な情報提供を求む』と訊ねられた。

 何を言っているのか分からなかったが、顔を出した妹妹(メイメイ)がばつが悪そうにしつつ自身の目を指さしてくるので、すぐ合点が入った。


「ああ……平気。妹妹の夢を見ただけさ。いつもこうなるんだ」


 未だ次々とあふれて止まない涙を袖で拭うと『腫れる』と言われる。そんなことを言われても、しばしは止まらないのである。


 そのことを伝えると、少し黙した後に『食事と飲料物、加えて桶一杯の水と手拭いを、提供してもらってくる。部屋で待て』と言い置いて、背を向けられた。


 ぽかんとする冽花であったが、その気遣いは素直に有難いので、待つことにした。――居場所を変えても、淡々と奉仕し続ける賤竜である。


 二人は先の山小屋を出て、最寄りの街、陽零(ようれい)客桟(やど)へと移っていた。


 部屋に戻ると、窓から外を眺める。

 冽花らの部屋は二階であるため、少し顔を上げると、町の情景をおおよそ垣間見ることができる。


 小さくも活気にあふれた町であった。

 冽花らが潜伏していた山の裾野に位置しており、山より流れる川を水源にし、渡し船や辻馬車などの交易が細々とおこなわれている。


 見ていると、通りには小さい露店を開く人。それを品定めする人。渡し船や馬車への荷物を運んでいる人と。行き交う人々は千差万別であり面白い。


 ぼうっと滲む視界を瞬きで壊しながら眺めていると、ふと聞こえてきた歌声があった。


 見れば、客桟の外で何人かの子どもが戯れている。

 冽花も知っている童謡を歌い、地面に石で絵を描いていた。


 上から見るとよく分かる。龍の絵だ。

 長い体で渦を作り、とぐろを巻く中心に一枚の葉を巻き込んでいる。


 冽花は自然と子どもらの声に重ねるよう、口ずさんでいた。


『蓮の葉いだいた大龍(だいりゅう)さま

 きらきらおめめで みているよ

 大事な大事な葉っぱのうえに 一十百千万 いっぱい!

 きらきら輝く 子どもたち』


 それはこの龍盤で信じられている神話をもとにした歌であった。


 この地は、驚くほど大きな龍のとぐろの中に存るのだという神話だ。


 龍が抱えこんでいる、これまた大きな蓮の葉っぱに水滴が一つ。その水滴に浮かぶのが、冽花たちの住む陸地であるのだという。


 龍は輝く瞳で自分の抱く葉を見下ろしている。その瞳こそが太陽であり太陰(つき)である。

 大切に抱えてみそなわしておいでになるのだと。

 生けるものらを見守っているのだと、そう伝えられている。


 さすがにそれを信じるほど子どもではなかったものの、冽花は何とはなしに瞳を空へと浮かせた。今日も太陽は輝いており、良い天気である。


 そろそろ涙も止まりそうだ。

 ちょうど階下から上がってくるらしい足音に気付き、振り返って出迎えにいった。

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