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広まる味噌汁の魅力

 お店の中へ入ると、そこは落ち着きのある木造の空間があった。

 カフェみたいな雰囲気。

 なんて素敵なのだろう。


 ここをお店にするのがもったいないくらい。

 けど、これからわたしのお店になるんだ。


「マッド、こんなに広いとは思いませんでした!」

「一等地ですからね、通常のカフェの三倍はあるでしょうか」


 ここなら集客力も見込める。

 きっと成功する。


 そう信じて、わたしは必要な調理器具や家具をの搬入を始めることにした。


「さっそくお店らしくしていきましょうか。看板も変えないと」

「もちろんです、フェリシアさん。私も手伝いますので」

「ありがとう」



 今日から忙しくなる。

 出来る限りのことをして、できれば二週間後……早ければ一週間後にはオープンしたい。


 あれから多くの人の力を借り、わたしはようやくお店を整えることができた。


 お父様やマッドだけではない。

 お金で雇った業者のおかげでスムーズに事が運んだ。



 おかげで一週間という短期間でお店が完成した。



「ついにここまで来ましたね、フェリシアさん」

「もうお味噌汁も準備できました。あとはオープンするだけです。マッド、あなたには特に助けられました。成功したら、話したいことがあるのです」


「……分かりました。成功を祈りましょう」


「はいっ」



 早朝にしてお店の前には、多くのお客様が並んでいた。

 すでに噂を聞きつけた民たちが駆けつけてくれていたんだ。なんて嬉しい光景。


 歓喜していると、十人、二十人、三十人と確実にお客様が増えていく。



「フェリシアさん、お味噌汁は予定通り、一杯50ベルでいいのですね」

「はい。まずは味を知ってもらうことが大切なのです。お味噌汁が美味しいことを」


「了解です。では、さっそくお店を開店させますね」

「お願いします」


 今日は珍しくスーツを着込むマッドがお店の扉を開けた。

 ぞろぞろと入ってるお客様。



「いらっしゃいませ。お味噌汁は一杯50ベルになります」



「おぉ、なんと安い!」「侯爵令嬢のフェリシア様が経営しているんだって!?」「凄いよなぁ、こんな良い場所にお店を構えるなんて」「フェリシア様は御立派になられた」「あのジェフとひと悶着あったと聞いたが、変わられたのだな」「しかし、この謎のスープが50ベル……?」「果たして美味いのだろうか」「なんか独特な色をしているな」「異国のスープだってさ!」



 さっそく、わたしは味噌汁を販売していく。

 喫茶店のようにその場で味わってもらう。


 すると……直ぐに反応が返ってきた。



「うま!!」「なんだこりゃあ! こんなスープは始めてだ!」「優しい味だねぇ、心が清らかになる」「なんだか懐かしい味がするような」「素晴らしい、これは素晴らしいぞ!」「味噌汁ってこんな美味いんだなぁ!」「こんなスープが存在したとは!!」「フェリシア様すげぇ」



 様々な絶賛の反応があって、わたしは嬉しかった。

 良かったぁ……!


 みんな喜んでくれている。



「良かったですね、フェリシアさん」

「ええ、マッド。このまま在庫切れまでがんばりましょう」


「その勢いです」



 その後、わたしは味噌汁を格安で売り続けた。その効果が出始め、街中に味噌汁の噂が広まって、更に味噌汁を求めてやってくるお客様が増えた。


 列はどんどん伸びて、もうどこまで続いているのか分からない程になった。


 いったい、何百人いるの……!?



 そして気づけば夕方を迎えていた。



 もう、お味噌汁の在庫が無くなっちゃう……! ついに売り切れが見えてきた。こんな売れるだなんて想定外すぎた。



 それから間もなくして、ジェフが姿を現した。



「フェ、フェリシア……!」

「ジェフ、これが民意なのです。お味噌汁は美味しいんですよ」


「……そ、その、なんだ……。い、一杯だけ売ってくれないか……」


「お断りします……! あなたに売るお味噌汁はありません!!」


「ぐ、ぐぬぅ……!」


「だって、ドブ水のように不味いのでしょう? あなたはそう言っていたではありませんか!」



 直後、周囲が騒然となった。



「おいおい、フェリシア様の味噌汁がマズい!?」「ふざけるな!!」「あの男、フェリシア様の有難味が分からんのか!!」「最低な男だ!」「貴族の男の舌には合わんのだろう!!」「次に悪口を言ったらボコボコにしてやろうぜ!!」「そうだそうだ!!」



「ひぃっ!!」



「ジェフ、わたしがあげられるのは……ただひとつ」

「……!?」



「さようなら、という言葉だけ」



「そ、そんな! フェリシア! 俺を捨てるのか!!」

「捨てたのはあなたですよ、ジェフ。こんなに美味しいお味噌汁が飲めないだなんて、可哀想に」


「く、く、くそおおおおおおおおおお…………!!!!」



 悔しがるジェフは、頭を一心不乱に掻き乱していた。



「お帰りください、ジェフ。わたしはもうマッドとお店を経営していくと決めたんです」

「マ、マッド? ――って、そ、その方は……もしや!」



 青ざめるジェフ。

 どうやら、マッドのことを知っているようだった。

 うそ……わたしでも知らないことをジェフは知っているの?



「……」

「マッド様……第三皇子のマッド・クリストフォロス様ですよね!?」



 え……ええっ!?

 マッドが……第三皇子……?

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