表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/7

味噌汁を世に広める決意

 この日を境に、わたしは味噌汁の更なる研究を進めた。


 ボルテックス帝国は広大で、人口も世界一。

 平民や貴族、あらゆる人種が住んでいる。


 帝国の民たちに味噌汁の素晴らしさを広めたい。


 その一心でわたしは、全財産を叩いて、ついにお店を出すことに決めた。



「……フェリシア、あれから一週間が経過して間もない。なのに、お店を出すとは……」

「この世に味噌汁を広めるためですから」


「まあいい。お前のやりたいようにやればいい。この私も資金援助をしよう」


「ありがとうございます、お父様!」



 とても嬉しい。今までお父様に認められたことはなかった。けど、最近は優しくてわたしの料理を褒めてくれるし、ついにはお店も許してくれるようになった。


 がんばって良かったと思える。


 でも、まだこれからだ。


 あのジェフをなんとしてでも悔しがらせてやりたい。


 その為にも……。



 ――わたしは、屋敷を出た。



 門の前には馬車が。

 そこにはマッドの姿があった。


 あたたかい風が彼の銀の髪を撫でていた。なんだか幻想的。



「フェリシアさん、お待ちしておりました」

「いつもありがとうございます、マッド。また力を貸してくれるなんて」

「いえいえ、いいのです。私は常に困っている人の味方なのですから」


 それにしても、マッドは不思議な人だ。わたしに料理スキルを与えて、更にいろんなサポートまで。お店の場所だって、マッドが教えてくれた。

 彼がいなければ、わたしは今も前へ進めないままだったかもしれない。


 マッドには感謝しかない。



「では、お店へ」

「分かりました。馬車へお乗りください」



 ちなみにそのお店のある中央区は、魔法禁止エリアが存在してテレポートができない。だから、馬車を使う。

 もしルールを破れば、高い罰金を払わなければならない。


 そういう小さなことも、わたしは勉強して知識を増やした。



 馬車は走り出す。

 帝国の中央区を目指して。



 * * *



 街中は非常に活気がある。

 たくさんの人たち。にぎやかでお祭りみたい。ここでお店を経営できれば、きっと味噌汁も飛ぶように売れるはず。

 みんなに認知されれば、きっとジェフも黙っていられなくなる。


 全てを出し切るつもりで、わたしは頬をピシャリと手で叩いて気合を入れた。



「がんばろう……」



 直後、馬車が止まった。

 ここがお店。


 わ……ここって中央も中央、ド真ん中じゃないの。


 ガヤガヤと多くの人であふれる露店街。

 豪商は大きな建物を構え、たくさんの商品を取り扱っている。……こんな中でわたしは味噌汁を売るの……!?


 なんだか場違い感が凄い。


 けど、やると決めた以上はやり通さなきゃ。



「フェリシアさん、こちらになります」

「すごい。三階建てでしょうか」

「そうです。元々は宮廷錬金術師のお店でした。でも、その方は亡くなったようです。なのでここはボルテックス帝国の管理下に置かれていましたが、現在は侯爵家のものです。問題ありません」


 お父様が多額のお金を支払い、所有権を得たようだった。おかげで、わたしはこんな素敵な場所でお店をオープンできる。なんか夢みたい。



「本当にありがとう、マッド」

「私はキッカケを与えたに過ぎません。全てはフェリシアさんのお力ですよ」


「いいえ、マッドは恩人です。救世主といっても過言ではないでしょう。感謝しかありません。ぜひ、お礼をさせてください」


「その言葉だけで十分です。だから気になさらず」



 丁寧に遠慮するマッド。

 どうしてそんな欲がないのだろう。


 普通、富や名声を欲すると思う。


 侯爵家の力で彼を出世させることも可能だ。でも、マッドはお金だとか、そういうものに興味を示さなかった。


 なんて謙虚で誠実な人。


 ジェフとはまるで違う。


 わたしは、マッドなら……って、胸の高鳴りがっ。息が苦しい……うぅ。でも今はダメ。恋よりもお店の方が優先なのだから。


「……っ」

「どうかされましたか、フェリシアさん?」

「い、いえ! なんでもないのです。その、お店があまりに立派だったもので、胸がいっぱいになってしまったのです。感動しました」


「それは良かったです。ええ、本当に」



 自分のことのように嬉しそうにするマッド。そんな表情(かお)されると……顔が熱く。……ど、どうしてしまったの、わたしっ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ