婚約破棄
異国の味噌汁というスープを作って、ジェフに提供してみた。すると彼は味噌汁の入った器を床に叩きつけて叫んだ。
「なんだこのドブ水は! こんなマズイものを飲ませて! 婚約破棄だ、フェリシア!」
「え……そんな!」
「ちゃんと味見したのか!? マズイにも程があるぞ!」
もちろん、味見なんてしていない。
料理に自信があったし、聞いた通りのレシピでがんばったから。
だから……うぅ。
「ジェフ、わたしの腕が足りないばかりに」
「もう遅い。屋敷から出行ってくれ!!」
「考え直してください……」
「無理だ。君は女神のような気品があるが、それだけだ。料理の腕前は下の下。これなら、豚のエサでも食っていた方がマシだ!」
ひどい、ひどすぎる……!
そこまで言う必要はないでしょう。
あまりの事態に、わたしは涙がボロボロ溢れでた。
悔しくて屋敷を飛び出した。
◆
頭が真っ白になりながら、アテもなく外を彷徨う。
林の中でうずくまり、わたしは更に涙した。
ジェフってば、酷いわ……。
彼の為を思って味噌汁を作ってみたのに。
婚約破棄までして……。
そこまですることないのに。
「もし、そこのお嬢さん」
「……ぐすっ」
「お嬢さん、よかったらこのハンカチを」
「ありがとう……。って、あなたは?」
「私はマッドというものです」
気づけば目の前には若い男性がいた。
紳士のような身なりで、顔立ちも整っていた。なんかカッコイイ人だなって感じた。
「マッドさん、ハンカチをありがとう。お優しいのですね」
「その涙、訳ありのようですね」
わたしは、さっき味噌汁が原因で屋敷を追い出されたことをマッドに話した。すると彼は納得して同情してくれた。優しい人なんだ。
「ジェフってば酷いでしょう……」
「そうですね。……なら、貴女に料理スキルを与えましょう」
「料理スキル?」
「はい。この力を得れば、貴女はどんな料理も得意になり、美味しいものを提供できるようになるんです」
そんな魔法みたいなスキルが貰えるの?
信じがたいけど、今は藁にも縋る思いだった。
「魔法使いさんなのですか?」
「そうかもしれませんし、そうとも言えないかもしれません。信じる者は救われる。それだけですよ」
にっこりと笑うマッド。
……爽やかで魅力的な人。
そうね、この人になら騙されてもいいかなって思った。
「お願いします」
「……では、目を閉じて。両手を借ります」
すると、両手に温かいものを感じた。
陽射しのようにポカポカしてる。
「わぁ、なんか凄いですね」
「これでもうフェリシアさんは、様々な料理を作れますよ」
「本当ですか!」
「ええ、さっそく試してみてください。これできっとジェフという方とも仲良くなれるでしょう」
「ありがとうございます。まずは家で試してみます」
「そうするといいでしょう。では、私はこれにて」
静かに去っていくマッド。
不思議な人だった。
なんであれ、わたしは料理が上手になったらしい。