エピローグ
この回でラストです。
後日談なのに長い。
昭和23年4月。
芳子様と別れてから15年が経ちました。私は教会で洗礼を受け修道女になりました。芳子様よりも素晴らしい方は到底現れることなく、私は生涯神に仕える道を選びました。
私ははふと1週間前の新聞に目をやります。
「川島芳子。北京の監獄にて処刑。」
あの後千鶴さんと共に大陸に戻った芳子様は再び軍の上層部と掛け合いました。しかし軍は芳子様の発言を聞き入れることなく、芳子様は再び命を狙われる日々が続いたそうです。
そして終戦後戦犯として北京の自宅で逮捕。
1週間前の3月25日芳子様は帰らぬ人となりました。
芳子様をあの時行かせたのは自分の手紙が原因だ。千鶴さんの言う通り、私は芳子様を危険な目に合わせた上、命まで奪ってしまったのです。 私は毎日祭壇の前で膝ま付き懺悔の祈りを捧げています。
「すみません。」
今日はいつもと違いお昼くらいに訪問者がありました。私は訪問者の方を振り向きました。目の前には自分と同じくらいの年齢の女性がいました。
「久しぶりね。舞ちゃん。」
訪問者は被っていた帽子を取ります。
「千鶴さん?!」
千鶴さんでした。以前と比べて大人びた雰囲気はありましたが、芳子様の隣にいた時の少女の面影はありました。
「舞ちゃん、私今日懺悔に来たの。」
千鶴さんは祭壇のまえで十字を切り胸の前で手を組みます。
「私はかつて愛した夫を見殺しにしました。国全体から石を投げられてるあの人を見てみぬ振りをしました。」
夫というのは芳子様のことでしょう。
「待って下さい。それは私も一緒です。芳子様の逮捕を知りながら私はなにもできませんでした。中国人の日本人に対する怒りは並大抵のものではないでしょう。日本人である私達が芳子様を庇えば芳子様のお立場はより危ないものとなったでしょう。」
「それは違うわ。」
千鶴子さんは軍を追放になった芳子様と共に天津で中華料理店を始めました。しかし経営は立ち行かなくなり2年で閉店。
そんな時芳子様の部下である男が千鶴子に求婚してきた。自暴自棄になっている芳子様を見捨てその部下の男と共に日本に帰って来たのです。
「以前貴女に偉そうなこと言ったことだけど私も貴女と一緒だわ。ごめんなさい。」
千鶴子は頭を下げる。
「顔を上げて下さい。結果はあんなことになってしまいましたが千鶴さんは芳子様をずっと支えていた。だから芳子様が貴女を恨んでるとは思えません。どうか今は芳子様のためにお祈り下さい。」
私は手を握ります。その時
「先生、こんにちは。」
少女が1人やって来ました。私の生徒です。私は子供達に勉強を教えるのはまだ続けていた。
「こんにちは。」
「先生、今日は何勉強しますか?」
「そうね、今日は昨日の中国語の続きをやりましょう。」
少女は教室へと向かっていきました。
「良かったわ。きっとお兄様は天国で安心してることね。」
そう言うと千鶴さんは再び祭壇に向かって祈りを捧げました。
FIN
結構難産でした。
舞が千鶴子さんのこと千鶴さんと呼ぶのは芳子様が千鶴ちゃんと呼ぶのでそこが移ったからです。