舞の手紙
「川島芳子 銃撃。救急搬送される。」
今日の夕刊の一面を飾ったニュースであった。
千鶴子と外食に出かけてた先の飲食店で突然窓が銃弾によって破られ芳子に命中したと書かれている。
「芳子様を撃ったのはやはり彼女をよく思っていない日本人の仕業なのでしょうか?」
「分からない。だけどこのお店ビルの3階に入っている。奥内にいる彼女を正確に狙えるなんてよほど銃を使い慣れてる人だろうね。」
銃を使い慣れてる人。その言葉に舞は嫌な予感がした。
仕事が終わると事件があった料理店へと向かう。お店は休んでいたがオーナーはいたため、芳子の搬送先の病院を聞くことができた。芳子の友人と言うとオーナーも快く話してくれた。
翌日舞は仕事が休みだったので病院までお見舞いへと向かった。花束を持って。病室は看護婦から聞いた。
ドアをノックするが返事がない。
「芳子様」
名前を呼んでみるが同じだ。
「入りますよ。」
病室は個室で木造の洋室だった。芳子は目を閉じてベッドの上に横たわっている。点滴を射たれながら。
(芳子様は重症なのか?もしかしたらもう)
舞の中にそんな不安が過る。
「眠ってるだけよ。意識は安定してるわ。」
部屋にやって来たのは以前講演会の会場の楽屋口で芳子の隣にいた少女だった。
(この方が芳子様の話していた千鶴ちゃんね。)
楽屋口で見かけた時と同じ淡い水色に白い花が舞散る着物を着ている。
「良かったです。」
舞は少女の言葉を聞いて安心する。
「あの千鶴さんですよね?このお花芳子様に。」
舞は千鶴子に持って来た花束を渡す。しかし
「結構です。お帰り下さい。」
千鶴子は花束を投げつける。
「誰のせいでお兄様はこんなことになったと思ってるんですか?」
千鶴子はベッドの脇の引き出し中から一通の手紙を取り出す。
「芳子様の真っ直ぐなお気持ち伝わりました。どうかその信念を貫いて下さい。」
千鶴子は手紙を読み上げる。その手紙は舞が芳子に講演会を行った会場の裏口で渡した物だった。
「貴女がお兄様にこんな手紙書くからいけないのよ!!」
「私は芳子様の活動の励みにでもなればと思って書いただけです。芳子様だって分かっているはずです。」
「簡単に言わないで!!」
千鶴子に詰め寄られる舞。
芳子は舞が裏口から会いに来た日、千鶴子は自分の講演会しようと言ったことが間違えだったんじゃないかと思い始めた。そう言おうとした矢先、芳子は舞からの手紙でもう少し続けてみようと言い出したのだ。
「そのせいでお兄様は日本軍から命を狙われたのよ!!」
日本軍?!やっぱり。舞の予感は的中した。
「お兄様の中国人を庇う言動は大陸でも危険視されていた。自宅に爆薬が投げ込まれることだってあったわ。」
千鶴子は着物の袖をめくる。
「千鶴さん、その傷?!」
千鶴子の腕には火傷の後があった。
「お兄様を庇った時にできたの。私達はずっと大陸で死と隣り合わせで生きてきた。」
日本軍のみならず芳子が手を差し伸べた中国人ですらも芳子を裏切り者扱い。千鶴子だけが唯一の味方だった。それだけではない。同性であることゆえの周りからの視線。芳子は千鶴子を周囲に自分の妻だと何の躊躇いもなく話していた。千鶴子は嬉しかったが、中には気味悪がった顔をする者もいた。
「これで分かったでしょ。お兄様と生きてくにはこれら全てを背負って行かなければいけない。貴女にその覚悟はあるの?分かったら出てって。もう二度とお兄様には近づかないで。」
千鶴子が舞を病室から出そうとした時だ。千鶴子は着物の袖を引っ張られる。
千鶴子さんは実在の方ですが、表舞台に立っていたわけではないのでキャラ設定作品事に変えるのが楽しいです。
実際も芳子様の秘書をしていました。