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後悔の手紙  作者: 白百合三咲
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芳子の過去

「君は僕とどこか似てるかもな。」

「芳子様にそう思って頂けるなんて光栄です。」 

今度は芳子が女学校時代の話をする。 






 芳子は中国人でありながら、日本人の養女になり、日本で教育を受けていた。養父の住む松本から近くの女学校に通っていた。

 周りは袴で登校する中、芳子は白ブラウスに黒のスラックスで馬に股がり登校していた。

「川島さん、どうしていつもそんな格好で来るの?女学生は袴をはくものよ。」

級友の1人が芳子に尋ねたことがあった。 

「この方が馬に股がりやすいでしょ。それに袴じゃなきゃいけないなんて誰が決めたのよ?」

「ずっと気になっていたけどどうして馬で登校なさってるの?」

別の級友を尋ねる。

「そうしたいからよ。別にいいでしょ。貴女達には迷惑はかけてないんだから。」

 自由奔放で自分のやりたいようにやる。そんな芳子の存在は教室では浮いていた。級友達は次第に芳子を遠巻きにするようになった。芳子が自由気ままなのは級友の前だけではなかった。

 日本史の授業の最中のことだった。先生は日清戦争について話していた。突然芳子は立ち上がり、帰り支度を始める。荷物をまとめて帰ろうとすると

「川島さん、どこへ行くのですか?」

「帰ります。私の国を侵略された話を聞くのは不愉快です。」

芳子は先生が止めるのも聞かず教室を出ていく。












「僕は許せなかった。目の前で中国を馬鹿にされてる気がしたんだ。」

「お気持ち、分かります。」

舞は答える。

 その後も芳子は学校へは通っていたが誰とも接することはなかった。実の父亡くなり学校を中退するまで。

「お寂しくはなかったですか?」

「寂しかったよ。僕の拠り所は愛馬しかいなかった。千鶴ちゃんと出会うまでは。」

千鶴ちゃんとは先日講演会で一緒にいた少女であろう。

「愛馬というのは女学校時代に登校していた馬ですか?」

「そうだよ。僕はジャンヌ・ダルクに憧れていて毎晩伝記を読み漁った。白馬に股がる彼女の絵は美しいものだったんだよ。」

ジャンヌ・ダルクはかつて薔薇戦争時にフランスを救った英雄(ひろいん)だ。軍を指揮し国を勝利に導いた彼女といずれ中国を動かす自分を重ね合わせていたんだろう。

「芳子様、ジャンヌ・ダルクは神の声を聞き、フランスを勝利に導いたと言われております。どうか芳子様にも神のご加護がありますようお祈りします。」

舞は祭壇の前に膝まづき十字を切る。

芳子も舞を見ながら真似をする。その時

「舞ちゃん、まだいたのか?」 

神父様が信者と共に出てくる。告解は終わったのだ。 

「神父様、僕がお願いしたんです。」

芳子が話す。

「告解をお願いしたが時間外だったのでこの可愛い修道女さんに代わりに話を聞いてもらったのです。」

「そうだったのですか。ありがとう舞ちゃん。」







 帰りは芳子が馬車で家まで送ってくれた。

「芳子様、今日はありがとうございました。」

家路に着き馬車を降りる際舞がお礼を言う。

「こちらこそありがとう。舞ちゃんに話を聞いてもらえて良かったよ。僕と似たような境遇の君で。」

「芳子様は私以上のお強い方です。ご自分の意志をしっかりお持ちで。宜しければ公演会うちの教会でやりませんか?神父様に相談してみます。」

「ありがとう。舞ちゃん」

芳子は舞の手を握り抱き締める。

芳子様は女学校時代にジャンヌ・ダルクに憧れていて馬で登校してたのも、男装もジャンヌの影響だと言われています。勿論諸説ありですが。

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