舞の過去
「じゃあ今度は舞ちゃんの話聞かせてもらおか。」
そう言われたが舞は何を話すか思い付かない。
「何でもいいよ。舞ちゃんの話したいこと。」
自分の話したいこと。
「でしたら、私の女学生時代の話をします。」
「君の?一体どんな子だったんだい?」
「芳子様のことは女学校の頃に少女雑誌で見かけておりました。」
「それで実際の僕を目の前にした感想は?」
「雑誌で拝見した芳子様は手の届かない存在と思ってました。だけど実際に芳子様を目にした時恐れながらどこか私と似てるような気がします。」
舞は都内の女学校に通っていた。制服は丸襟の白ブラウスに腰にベルトが入った紺のジャンパースカート。胸には同じく紺のリボン。カーディガンは指定された物ではなく皆私服を着ていた。
ある日中学校で英語と世界史を教えており父が外国人の女性教師から舞にとカーディガンを譲ってくれた。ピンク色で花のボタンがついているカーディガンで舞は一目見て気に入った。
舞はカーディガンを羽織って学校に行った。級友達にも見せたくて。しかし
「霧風さん、何ですか?制服の上に着ているのは?」
教室での朝礼の時に担任に指摘され
る。
「カーディガンです。」
「そんなもの見れば分かります。なぜそのような色の物を着てくるのですか?」
「父の努めている女性の外国人教師から頂いたのです。可愛いから皆に見せようと思って着てきました。」
思ったことを素直に答える舞。しかし級友達は呆れていた。
「朝霧さん、周りをよく見なさい。」
級友達はカーディガンや上着は皆黒や白、灰と質素なものだ。
「貴女のような華美な物は学校には相応しくありません。規則で禁止されています。明日からは違う色でくるように。」
優秀な生徒ならならはいと返事するのが常であろう。しかし舞は違った。
「嫌です!!なぜそのような規則があるのでしょうか?だってカーディガンの色と学校生活とどう関係のあるか分かりません。納得のできる説明をお願いします。」
しかし教師からは説明など必要ないおなごは従順にしていればいいと。
「だから私学1人で署名運動を校内でしてやりましたの。毎日ピンクの着物を着て。いえ、洋装の私服でもやったことがあるわ。だって可笑しいでしょ。周りはそうだからとか言われても何とも思いませんわ。私は自分のしたいようにしてるだけだもの。」
「なかなか大胆な行動に出るな。君は。」
芳子は笑い出す。
「あら、大胆でなければ誰にも注目されませんよ。かつて女優の田中絹代さんだって主役を得るために撮影所の目の前の橋を渡らず川を渡って通っていたんですよ。そこを監督の目に止まり、監督は次回作の主演を彼女に決めたんですよ。人と同じことをしても何も変わりませんよ。」
「人の同じことか。それで署名運動はどうなったんだ?」
舞の表情が暗くなる。
署名運動は失敗に終わった。誰も署名してくれる者はおらず署名簿は先生に見つかり没収。
それから舞は学校は行かなくなった。舞は反抗のつもりだが学校では舞は居場所がなくなって居ずらくなったという噂が流れた。
「だけど私は後悔してません。だって自分が正しいと思ったことをしただけですもの。」
「舞ちゃんにそんな過去があったのか。確かに君は僕とどこか似てるかもしれないな。」
次回芳子様の過去に触れて見ようと思います。