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後悔の手紙  作者: 白百合三咲
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芳子の罪

 舞は九段下にある坂を登った教会で働かせてもらっていた。 

舞は成績は優秀だったが女学校時代同じ級の子達と馴染めずにいた。家がクリスチャンで日曜の礼拝に行っていた。教会の神父様は舞の良き相談相手であった。

 卒業後は教会の別室で子供達に勉強を教えたり、礼拝のお手伝い等をしている。午前中はお祈りに来る人達の対応をし、午後は子供達にや読み書きや英語を教えている。ここに来る子供達は家が貧しくて学校に行けない子や身寄りのいない孤児院の子供達が来ている。

 今日は夕方神父様の告解があり、街の人々は長座の列を作り待っていた。

1人が終わるとまた1人告解室に入っていく。1時間くらい経った頃最後の1人の番がやってくる教会の時計を見ると5時を指していた。今日の告解はこれで終わりだ。最後の1人と告解室に入ると同時に教会の扉が開く。

「舞ちゃん。」

舞は訪問者の顔を見て硬直する。

「芳子様?!」

やって来たのは芳子であった。講演会のときと軍服とは違いスーツ姿だ。

「芳子様どうしてここを?」

「僕は今九段下に部屋を借りてるんだ。近くだから寄ってみたんだ。今日告解の日だろう。クリスチャンでなくても大丈夫か?」

「はい、勿論です。どなたでも歓迎しております。」

舞が働いている教会はカトリックの教会だが信者以外も訪れる。プロテスタントの信者もいれば仏教徒、神徒、無宗教の者もやって来る

 芳子は舞に顔を近づける。

「あの??」

頬を赤く染める舞。

「洋装の君も可愛いね。」

白の丸襟に黒いワンピース。仕事中の舞の装いだ。

「あの、本日は告解は終了致しましたの。明日改めてて来て下さい。」

「じゃあ君に聞いてもらおうか。僕の罪を。」

芳子は長椅子に腰掛ける。

「おいで。僕の隣に。」

舞が隣に座ると芳子は語る。

「僕の罪、そうだな。それは僕の本当の父、そして清朝の一族を裏切ってしまったことかな。」

 芳子の実の父は中国大陸を300年以上に渡って納めた清王朝最後の王であった。芳子が産まれた時にはすでに王朝は滅んでいた。6才の時に日本人の養女になったが17の時に実の父が病死、母である王妃も後を追うように亡くなった。

「父は死に際に遺書を遺していた。清王朝に再び栄華を取り戻せと。それで僕は長い髪を切り落とし、男として活きると新聞社に決意文を叩き出した。全ては王朝復活のために。」

「お父様の意志を継ぐことは素晴らしいことです。そのどこが罪なのでしょうか?」

「そうだな。だけど僕は日本軍の横暴を止められなかった。」

 日本軍の横暴は芳子の目に余るものであった。日本人に虐げられ各地で暴動を起こす中国人達。日本軍に撃たれ命を落とす者もいた。

「僕は軍の上層部に直談判した。だけど誰も僕の話を聞いてくれなかった。僕が父と約束した王朝の約束は果たせなかったってわけだ。それが僕の罪。」

「待って下さい!!」

舞は立ち上がる。   

「芳子様は悪くないです。それは芳子の罪ではなく日本軍の罪です。」

「舞ちゃん。」

芳子は舞を自分の膝の上に乗せる。

「ありがとう。でも僕は平気だよ。舞ちゃんが僕の気持ち分かってくれたから。じゃあ今度は舞ちゃんの話聞かせて。」

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