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波の花の如く  作者: 月河庵出
第1章 農民編
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第5話 世の中世知辛い





 村長(むらおさ)の家に行くと、村長は在宅だった。村長に鍵と(にわとり)の話をした。



「重蔵よ。この前、物置小屋を建てるから木を売ってくれと来たが、今度は鍵か・・・。鍵はあることはあるが、壊れてるものしかない。それで良ければ米1俵と交換しても良いぞ。鶏は駄目だな。鶏は手に入りにくいんだ」



 壊れた鍵が1俵とは吹っ掛けやがるな。何処まで儲けるつもりだ。



「鍵を見せて貰ってもいいですか?」



「おい!誰か蔵から壊れた鍵を持って来い!」


 

 暫くすると、使用人が壊れた鍵を持って来た。それを受け取り構造を確認すると、留め金がコの字になっていて、本体に刺さる方の先端部が傘の様になっていて穴に刺し、穴を通り抜けると傘が広がり抜けなくなる、つまり鍵が掛かる。

 開錠する場合は留め金の刺した反対側に穴があり、反対側から円筒状の棒を突っ込めば傘が畳まれ開錠される。肝心の傘のバネの部分が壊れている。これならどうにかなるか。

 これで鍵として通用するのだから、今の世の技術力のレベルが理解出来た気がする。真円に近い精度を持った円柱状の筒を金属で作る事が難易度の高い工作物という事だからな。


 

 鶏は駄目かあ。



「村長。この壊れた鍵が米1俵とは高すぎるよ。見たところ、流れの鍛冶でも修理が出来ないみたいだ。もし、修理できるのなら直っているはずだよね」



「そりゃそうだが、鍵というのは貴重なものでなあ。嫌だったら無理にとは言わねえ」



「父ちゃん、鍵は米1俵で貰おう。村長その代わり壺を2個付けてくれよ」



「壺かあ。小さい奴なら構わないけどいいか?」



「ああ、それで構わない。ところで、村長、鶏は諦めるけどヒヨコを売ってくれよ」



「ヒヨコかあ・・・ヒヨコなら、まあいいかあ。1匹半俵だな」



「なるほど。じゃあ、3俵で12匹でどう?もうすぐ冬だ。ヒヨコなんてすぐ死んじゃうだろう?」



「うむ、じゃあ、3俵で8匹。これが限界じゃあ」



「じゃあ、構わないけどヒヨコは俺に選ばせてくれよ」



「まあ、いいだろう」



 村長が使用人にヒヨコを見せてやれと言ったので、俺と父ちゃんはヒヨコを見に行く事になった。

 いるいる。村長の家は庭に放し飼いだった。鳥小屋もあったが隙間だらけだ。今日は天気が良かったので親鳥の後をついて歩くヒヨコや雑草を(ついば)むヒヨコなど選び放題だ。

 でも、あの村長のところの鳥小屋で親任せでヒヨコを預けているやり方だと、冬に(ほとん)どのヒヨコが凍えて死ぬんだよな。冬程では無いが、夏だって死ぬヒヨコはいるんだ。


 村長にそれを指摘するとヒヨコ8匹で米3俵が手に入るのだったら儲けだと思ったはずだ。

 ここからが勝負だ。


 使用人にヒヨコを入れる籠を借りた。俺が知っているヒヨコの雌雄の判別法はヒヨコのケツを絞りクソを出し、ヒヨコのケツに親指を当てて、なんとなく尖っているものが当たれば雄、当たらなければ雌と言うものだ。

 勿論、そんな事はやったことも無い。でもさあ、これだけ比較対象が有れば違いが多少は分かるんじゃないかと言う考えだ。当たる確率も5割や6割もあれば十分だ。選ぶ姿は家の秘伝という事で、使用人には俺がヒヨコを選ぶ姿を見せなかった。


 雌ぽいのを6匹、雄ぽいのを2匹選んだ。俺の選定によると全体として雄が多かった。ヒヨコも動物だとしたら、先に生まれた奴ほど体が丈夫でデカくなるんじゃなかな。俺が選んだ奴は、体が他より大きく元気で足が大きい奴を選んだ。見た目は同じに見えるが、比較すると多少違うんだよな。


 結局、米4俵で、壊れた鍵と小さな壺2個、ヒヨコを8匹を手に入れた。米4俵と言うと、家2件分の年貢だぞ。村での物資は村長からしか買えないが本当に世知辛い。


 家の米は7俵になった。俺の前世では1俵=60kgで2.5俵=1石で人1人が3食、1年間食べられる米の量だった。

 でも、今の世では1俵30kgだから、俺のいた世に換算すると、3.5俵つまり1.4石だ。どうにか大人1人と子供1人が3食、食べていける米の量なんだ。現在、家は2食だがな。


 しかし、これは二期作が(もたら)した結果だ。いつ、冷害で米が採れなくなるか分からない。

 まだまだ、稗や粟を米に混ぜて食べて、米や、稗、粟を蔵に備蓄していかなければ、家族が飢えてしまう。


 ヒヨコを家に持って行くと早速、木っ端で木箱を作った。木箱に藁クズを入れ木箱の中心には村長から買った壺にお湯を入れて、壺の周りを(わら)で覆い縛って置いた。木箱にヒヨコを入れると藁で覆った壺にくっつく様に集まり寝始めた。

 竹次は、大騒ぎでヒヨコを(いじ)りたがったが、ヒヨコが寝るのを見てそっと指で撫でていた。


 箱には夜、保温する為の蓋を藁で作った。この中にヒヨコを入れて家の暖かい所に箱を置く。


 俺の前世を思い出す。


 お祭りで買って来た。または、学校の校門の所で売っていたカラーヒヨコを育てるには保温するしかない。

 ヒヨコは室温のままでは死んでしまうんだ。俺の経験上、人の体温より少し高い方が調子が良く、元気に育つ。俺の場合は、電気式の湯たんぽを使用したが、友人の中には空き缶に白熱球を仕込み、簡易的な暖房として育てている奴もいた。


 前世の俺の小さい頃は物が無い世だった。ホビー用の用品が溢れている世ではなく、自分達で工夫して試行錯誤して作り上げる。そんな世だった。


 ヒヨコ箱の壺は村長から買った壺だ。小さいと言ったが、家で使う水瓶(みずがめ)と比べてだ。大きさは塩などを入れる壺だ。

 この壺に寝る前、起きた時、昼と沸騰したお湯を入れる。ヒヨコもバカじゃないから壺が熱い時は離れてピィピィ走り回ったり寝たりしているが、壺が冷めて来ると段々と壺にくっ付いて来るんだよな。

 ヒヨコ箱には木で作った餌箱と竹で作った水場がある。餌は茹でた粟や稗、雑草だ。

 太陽が出て暖かい日は1,2時間程度、庭に放して日光浴をさせる。その間、ヒヨコ箱の藁クズ交換などの清掃をした。


 竹次とヒヨコが遊ぶ姿を見てると、自然と涙が頬を伝り、自分で驚いた。

 竹に転生してから7年、毎日がひもじく食べる事が人生だった。これからは、家族にはそんな人生を歩んでほしくないと思った。





****************************************************** 




 父ちゃんの田んぼは母ちゃんと竹次に任せた。竹次の主な仕事は竹三の面倒を見る事だ。俺はすまんが、自分の田んぼの面倒と30坪の田んぼを60坪にしよう。

 ヒヨコは慣れて来ると、少し大きくなり、小さな羽をパタパタさせて、箱から出ようとする。こいつらの本能かあ。

 そして、1か月もすると、もうヒヨコでは無い、姿が大きく変化して鶏と言った方がいいか?飛び跳ねて箱から出るようになった。最初の内は竹次が入れていたが、直ぐに出て来るようになった。外はまだ寒いので土間を竹を編んで囲い、そこにヒヨコ?どもを放して飼う事にした。


 

 年が明けて俺は12歳になった。俺は村一番の体格となった。まだ170cmには届かないと思うが、村では目立つほど背が高い。竹次は5歳、竹三は3歳だ。父ちゃんと母ちゃんの年齢は俺が生まれたのが、父ちゃん15歳、母ちゃん13歳の時だから父ちゃん27歳、母ちゃん25歳だな。


 それと村では医者代わりだった婆が死んだ。歳は分からないが70歳くらいじゃないかな。昨年の夏頃から伏せる事が置くなって、年を越す前に死んでしまった。


 婆の所には弟子が何人かいたから、その中の誰かが跡を継ぐだろう。父ちゃんも母ちゃんも婆の名前は知らなかった。ただ、死んだ時は泣いていたな。


 婆の遺体は林の奥に穴を掘り埋められた。


 村人での死はこんなものさ。婆の事を覚えている人間が死ねば、そんな人間が存在した事すら無かった事になる。



「人間生れて来る時も独り、死ぬ時も独り、そして、朝露の如く消えていく」



 婆、ありがとう。



 村人である程度育った人の平均寿命が40歳~45歳くらいだ。幼児を入れるともっと低くなる。栄養状態も悪くロクな医療が無ければ、こんなものか。





*******************************************






 今年は俺の田んぼを150坪つまり0.5反にするつもりだ。夏の農閑期には父ちゃんにも拡張を手伝ってもらうつもりだ。

 まあ、頑張るさ。この田んぼは将来、竹次の田んぼとするつもりだ。


 ヒヨコは大きくなり雌雄がハッキリして来た。なんと、雄が3匹、雌が5匹だった。やったね!まだまだ寒いが、鳥小屋は粘土で隙間も埋めているから、藁をもう少し増やしてやればもう寒さにやられる事は無い。

 ただ、餌を馬鹿みたいに食べる。これじゃあ、本末転倒だ。稗や野菜を増産をして鶏に食わせ、夏から秋までは虫を捕まえてカルシウムを取らせないと卵を産まなかったり、卵を食べたりするんじゃないかな。

 俺は、鶏小屋の横に2mX3m程度の長方形の穴を掘り粘土と石を貼り付け、藁クズと林の土と腐葉土を入れた。まだ寒いのでミミズがそんなに取れなかったが、取って来たミミズを穴に放した。

 そう、ミミズを養殖するのだ。餌にミミズを混ぜる事により、卵をたくさん産む鶏になってくれ。


 じゃないと、餌だけで大変な事になる。頼むぞ、ミミズ。


 鶏の世話は、竹次の担当だ。困ってたら俺が助けてやるけどな。俺は将来、竹次の田んぼになる俺の田んぼを0.5反にする為、土木作業に精を出していた。


 それとは別に拾って来た木の棒から木刀を作ったが、樫木だったらしく重い木刀が出来てしまった。

 剣道の授業を思い出し、この木刀で、林の木を的として打った。

 日本刀は叩きつけると、曲がってしまう。刃を立ててスライドさせるように的を打てばいいのかあ?


 それとは別に前回と同じところで木の棒を拾い槍とした。槍と言っても木の棒だ。この槍でひたすら木を突く。突くべし!手応えあれば捻るべし!!


 早朝2時間と夕方2時間、暗くなるまで鍛錬だ。自己流だけど。

 

 俺は数年経てば戦場(いくさば)に連れていかれるから人を殺す練習を始めた。村では15歳くらいで成人らしいからさ。俺なんて村で一番背が高くて体格も良いから、必ず、労役と言う徴兵がされるんだろう。(うち)が村で一番子供が少ないのにさあ、不公平だよな。


 林に行くたびに使えそうな木っ端を拾って来た。俺の田んぼに6畳ほどのボロ小屋を建てる予定だ。

 この小屋の中に4畳半の面積を目安に林の土と竈の灰と腐葉土を混ぜたベースを作り、この上に、俺の田んぼで取れる藁束を交互に載せていく、厚さは50cmくらいでいいや。少し高い台を作り、台に上がりこれに小をする。

 時々、竈の灰をパラパラと。竹次にも小を手伝ってもらおう。


 これで硝石を確保するつもりだが、問題は硫黄だ。ここが日本だとしても時代も分からない。日本の何処かも分からない。

 時代によっては硫黄なんて少量を薬に使われた程度だし広く多量に使用されるのは戦国時代に火薬を戦に使用するようになってからだからな。


 死んだ婆の所にでも行って来よう。




 

 

    

 

 


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