第37話 雑多な事
誤字脱字のご指摘ありがとうございます。また、感想やレビューも色々頂き、勉強になります。
今回で、この地侍 茫洋編は終わりとなります。不定期となりますが、また、投稿します。それでは。
水も温くなり1回目の田植えの為に田んぼを起こし始めたりと、毎日が忙しく過ぎていく。嫁取りを行った家臣達の祝いは食堂で家臣12人+嫁全員、一度に行った。それと伴に所帯を持った家臣達には米は支給で毎月僅かながら銭を渡す事にした。
所帯を持った家臣は、各家庭で自炊する様だ。独身の家臣は相変わらず、食堂にて飯を食べている。独身の連中に愛妻ご飯は無い。
所帯用長屋の間取りは当初、8畳一間だったが、6畳が二間に8畳が一間の2LDKにした。これに庭が付く。独身長屋が6畳一間1DKに庭付きだったから、所帯用長屋がかなり大きくなってしまった。
場所もかなり取り、将来、移設出来るのか心配だったが、大工衆の話では問題なく移設出来るという事だった。
玄蕃から流民で百姓を希望する夫婦者は4つの村へ5家族大体30人ずつ移住させたが、独身者の人数が多く、長屋が足りないとの苦情が出ていた。
独身長屋を10部屋1棟に改造させると共に、入口に下駄箱を用意してフローリングとして両脇に2段ベッドを1床ずつの計2床、机と椅子をそれぞれ2個配置した。
机と椅子に関しては以前、大工衆に作らせたから問題が無かったが、2段ベッドなる物は図示して説明して作らせた。大工衆にこれは何と言うものだと聞かれたが、明国の寝床を改造したものでベッドと呼べと誤魔化した。ベッドには藁を敷き、その上に麻の敷布を敷いた。
勿論、手摺、カーテン付きだ。カーテンは蚊帳代わりにもなる。
この独身寮を10棟建てれば400人は収容出来る。
現状、独身者は6畳1部屋に2段ベッド2台で4人暮らしだ。この辺も少しずつ1人1部屋としたい。
独身寮が少し密なので、病人用に療養所も建てる事にした。療養所には普通のベッドを6床として、村の医療を請け負っている紅葉さんの所から人を派遣して貰った。
医療に興味がある家臣がいれば、この辺も充実したい。
その内、腑分けでもして人体の構造を本にしたり、麻酔作りや外科的な術法も纏めたい。
家臣と一緒に訓練していると、典膳からの先触れがあった。
近くの小川で泥と汗を流し、身支度を整え広間に行く。
「左兵衛尉、久しぶりだな。忙しくてな。来るのが遅れた。しかし、話には聞いていたが凄い屋敷だな。ここに敷いているのは畳だろう?」
「ほう?随分と耳が早いな。こちらに間者でもいるのかな。間者を探し出して殺すか」
「まあ、待て。玄蕃にしても珍しくて、文に認めただけだ。他人の家に土足で入るような真似はせぬ。そこは俺を信じてくれ」
「・・・まあ、良いだろう。親しき中にも礼儀ありと言うからな。お互い、他家に知られたくない事の一つや二つはある。それで手ぶらで来たわけでもあるまい?」
「いや~~、俺にも色々事情があるとは言え、お前には迷惑を掛けた。この通りだ。詫びと言う事でもないが以前、お前に頼まれていた鋸山からの石を持って来た」
「おお本当か。これで色々進めることが出来る」
「ただなあ・・・鋸山には修験者がいてな・・・石も只ではないのだ・・・」
典膳が困った様子を見せるが、要は金を出せという事だろう。今まで典膳のやった事を考えると・・・自領の米不足から食い扶持減らしの為に10歳以下の童を俺の領へ追い出し、弟の仕官先が無いと言い間者として送りつけて来た。
俺の領地は慢性的な人不足だから結果的には助かってるが、典膳の良いようになっている。
痛し痒しだ。
典膳の事だから修験者の中に親戚でもいるんじゃないか。その伝手で安く石を手に入れてたりして・・・有り得るな。
「鋸山の修験者?・・・ああ、聞いた所によると典膳の親戚がいて石がただ同然で手に入ると聞いたぞ」
「!?・・・ゴホン、ゴホン」
「どうした?」
「いや、何でもない。良く知っているな?そうなんだよ。石は安く手に入れたが、ここまで運ぶのが大変でな・・・」
おや?典膳の奴、石の方は諦めてここまで運ぶ人足代で交渉しようと言うのか。
「確かに金谷からここまで運ぶのは大変だ。それで幾ら欲しいのだ?」
「(ニヤ)そうだな。5貫文欲しいが、俺とお前の仲だ3貫文で良い」
「運んで来た石を見てから決めるか」
その後、典膳に案内されて外に出ると、一辺30㎝程度に削られた石が置かれていた。百姓を使って、1人1個持って来たのか30人で30個あった。
同じ大きさの物を2000個で3貫文で契約したが、典膳はハトが豆鉄砲を喰らった顔をしていた。傑作だった。50人で40回運べば2000個だ。大したことないだろう。
俺の気持ちが少しは晴れた。
典膳は元を取る様に飲み食いして、二日ほど泊り帰って行った。俺も折を見て君津に行くか。
今日は竹次郎を広間に呼んでいた。
「竹次郎。お前、また背が伸びたか?体も随分と逞しくなったな」
「これも兄上のお陰でございます」
「であるか。まあ、良い。今日、竹次郎を呼んだのはそろそろ家臣団の編成を少しずつ行う為だ」
「家臣団の編成ですか?」
「そうだ。俺の家臣の強みは何だ?」
「幼い頃から体を鍛えそれと伴に勉学を行う事と、刀や槍と言った武器の訓練と立派な鎧が与えられるという事で強兵と言えるでしょう」
「まあ、そうだな。つまり、俺の兵には農民はいない。体を鍛え、武器の訓練を常に行い、いつでも戦える常備兵だ。他の領主は百姓主体だから春や秋の農繁期には他を攻める事が出来ない」
「・・・常備兵・・・確かにその通りです」
「では、我が軍の欠点は何だ?」
「・・・欠点ですか・・・兵の数が少ないという事と、兵を育てるのに時間と銭が掛かると言うことでしょうか?」
「そうだ。そこで、今回、嫁取りを行った家臣には名字を名乗る事を許した。あの家臣達を今後、足軽と呼ぶ。足軽の中で下の者を統率出来そうな者を選び足軽頭とする。その足軽頭に独身者を含んだ家臣に足軽としての教育をさせて自分の配下とさせる。その為に今使っている文字や計算の教本を沢山作り、足軽頭に必要分を配れ」
「なるほど。今まで行って来た教育を足軽頭にやらせるんですね。今後、家臣が増えれば手が回りませんから、それは良い事です。しかしながら、今回、足軽になった者で足軽頭に向かない者はどうすれば良いのでしょうか?」
「そのまま足軽として使え。竹次郎よ、人間には向き不向きがある。兵を統率出来無い者に兵を任せる訳にはいかないからな。そして、足軽頭の下の足軽は30人程度とする。足軽頭の中から優秀な者を足軽大将として配下に足軽頭5人を任せる。良いな?」
「・・・足軽大将は5人の足軽頭を指揮して、足軽頭は30人の足軽を指揮するのか・・・全員で150人、声が通るのもその程度か・・・御意」
「将来的には、足軽の中で弓隊や槍隊に分けて運営したい。それと騎馬だ。馬に乗れる者を養成し、先程の足軽大将と同様に騎馬、騎馬頭、騎馬大将という組を作りたい。今の我らでは無理だがな。安全な馬上から弓を放ったり、退却時に馬を使うのではなく、もっと積極的に馬を使いたい。沢山の馬で騎馬組を作り、突撃したり弓を射かけたりして相手を崩す。沢山の騎馬で突撃すればさぞや恐怖であろうよ」
「御意」
よし!後は将来的な組織図を紙に書いておくか。これで、竹次郎も少しは楽になるだろう。
「兄上。軍の件は分かりましたが、我が小山田家の組織は如何いたしましょうか?」
「家の組織?」
「例えば薪奉行とか米奉行とか銭勘定方など色々な仕事があります」
そうか、今までは金額も小さく人数も少なかったから竹次郎に丸投げして来たから良かったが、村が4つで人口も増えて大変だったな。
軍の事ばかりで忘れていたよ。
「ああ、我が家も大きくなり、今後さらに大きくなる。この際、各奉行職を決めて進めるか。組織図は俺が用意しておくが、何分、使える人間も少ない。竹次郎には悪いが、後任が決まるまで今後も兼任して貰うと思う。すまんが、宜しく頼む」
「それでは組織図が出来次第、私から適任者を推薦いたしましょう」
「頼む」
組織図が出来次第って、これから描くんだ。俺はドンドン忙しくなるばかりだ。この状態は可笑しい。丸っと丸投げして、殿様、バンザーイじゃないのか?組織図は鎌倉幕府風??・・・これって経営だから前世における会社風で良いだろう。総務とか経理とかでその中に何々係だよな。今世風に言うと奉行となるか。
竹次郎が帰り、組織図を考え書いていると、弥次郎が来たらしい。弥次郎の奴、前触れも無しに来て、里見となんかあったか?
「兄上!来たぜ。久しぶりだな」
「お久しぶりでございます、左兵衛尉様」
「うむ。弥次郎、権左どうした?前触れも無しに突然現れて、里見と何かあったか?」
「里見?あいつか、あいつとは相変わらずだな。盛んに味方につけと五月蠅い。まあ、曖昧な返事をするだけだ。何でも、真里谷と婚姻関係になるから、真里谷を頼りにしても誰も助けに来ないぞとか抜かしおったから、小山田とは親戚関係だから戦になれば小山田も合力すると言ってやったぜ」
「なるほどな。里見はそう来たか・・・よく考えている。抜け目がない。所で、前触れも無しで今日は何しに来たんだ?」
「そうだ。以前、儲かる話をしていただろう?銭が必要なんだ。儲かる話を教えてくれ」
「ああ、そうだったな。でも、何で銭が急に必要になったんだ?」
「・・・」
「何だ、だんまりか?」
「・・・弥次郎様、私から説明致しましょう。実は里見の指示で東郷の奴らが嫌がらせをする様になりまして、船や家臣に被害が出ましてな・・・」
「相分かった。当家も色々と物入りではあるが、銭を融通しよう」
「良いのか兄上!すまん!!」
「気にするな。元はと言えば俺が原因だ。それに今回の事は将来の戦での口上に使えるからな。今日は泊っていけ。明日、竹次郎に銭を用意させるから持って帰れば良い」
「左兵衛尉様、助かりました」
「・・・兄上。儲かる話は?」
「うん?!儲け話か。そうだな・・・弥次郎の所では干物を作っているだろう。それと似ているが塩漬けの後、煮て天日干しするんだ。鮑と平貝、海鼠、鱶の背びれ、腹びれ、尾びれを干物にするんだ。煮たり、天日で干すのは腐らない様にする為だ。天日で乾く前に腐るのであれば、火で焙り乾かすとか工夫しろ。弥次郎の領地には干物に詳しい者がいるだろうから、相談して進めれば良い。壺などに入れて黴ない様に3年、5年熟成させる。これらの物は海を渡った明国では、金と同じ重さで取引されるらしい」
「はあ?!あんなものが?鱶なんか時々網にかかる外道も良い所だ。鱶のひれかよ・・・明の奴らには変わった金持ちがいるんだな。しかし、金と同じ重さか・・・フフフフッ・・・金」
「それとな、鱶の身はすり身にして塩を足し蒸かしたり、煮たり、焼いたりすると、美味しく食べられる。余り、日持ちはしないが、名物料理になるぞ」
「そうなのか?鱶の身なんか臭いから、いつも捨てていたぞ。兄上!もっと早く教えてくれよ。・・・金を・・・金を捨てていたのかよ・・・」
「まあ、そんなに落ち込むな。弥次郎がこれから始めれば良いだろう。お前以外、知る者がいなければ他から安く買い、どんどん儲ければ良い。但し、鱶以外の貝類や海鼠は大きさが小さい物は駄目だ。木枠を作り、木枠以上の大きさの物だけを捕り、小さい物を逃がさないと、その内獲れなくなる。小さい物を干物にしても安く叩かれるだけだ。ここは厳しくしないと駄目だぞ」
「小さいのは金にならないのか・・・分かった」
「姉上が奥にいる。会って来るがいい」
「そうだな。兄上、色々ありがとう。流石は俺が見込んだ兄貴・・・いや兄上だ。爺、姉上の所に行くぞ!それでは御免!!」
「弥次郎様、お待ちくだされ!はあ~~~全く。左兵衛尉様それでは失礼致します」
今日は簡単な宴会をして、弥次郎達の泊る場所は新しく普請した所帯用長屋だ。帰りに鱶のひれの部位や蒲鉾、竹輪、半片、さつま揚げの簡単な作り方を書いて渡すか。
しかし、半片は鱶のすり身に山芋を混ぜて茹でた物で半平と言う人が考案した料理だっけ?後は弥次郎の所の料理人が工夫すれば良い。
蒲鉾も含めて、冷凍技術や添加剤が無いから余り日持ちしないが、料理法は秘匿させよう。
大体、鱶の身は足が速いんだよ。直ぐに腐敗する。
竹次郎を呼んで明日、権左殿から必要な銭の額を聞き、銀で支払うように命じた。銀であればそんなに嵩張らないから供を数人付ければ間違いが無いだろう。
さてと、珠ちゃんの所へ行くか。今日の宴会の準備や弥次郎の泊る所を決めて用意をして貰わないとな。うん!?俺の家族のプライベートルームが騒々しい。
「珠ちゃ・・・ごほん。弥次郎、どうした?具合でも悪いのか??」
こいつ、珠ちゃんに膝枕して貰っている。珠ちゃんに膝枕して貰うのは俺だけだ!こいつに蹴りを入れてやろうか。
「これ!弥次郎。甘えるのもいい加減になさい。私はもうあなたの姉上ではありません」
「だって・・・姉上がいなくて寂しいんだ。話し相手もいなくてさ・・・」
「沢、秋を呼んで来なさい」
「承知致しました。秋を呼んで参ります」
秋ちゃんもここに来て1年近くなるか?今は10歳だから、前世なら小学5年生だ。俺の小学校の頃は5,6年生だと女子の方が背が高かったりしていたな。
「珠子様。秋が参りました」
おお、下らない事を考えていたら秋ちゃんが現れた。ここに来たのが9歳の時でたった1年程度でこんなに変わるものなのか?
男子三日会わざれば・・・とか言うけど、この年齢の女子の方が成長と言う意味では変化が大きい。綺麗な小袖をすらりと着ていて、初めて会った頃の百姓の娘とは思えない。
「・・・」
弥次郎を見ると、ポカーンと口を開けている。
「フフフフッ。弥次郎、ぼーとしてだらしが無いですよ。秋殿にご挨拶しなさい」
「・・・はっ!?・・・ごほん。俺が正木弥次郎だ。その・・・なんだ・・・宜しくな」
「弥次郎様ですね。秋と申します。宜しくお願い致します」
「何です?その挨拶は!もっとしっかりなさい。情けない。秋、弥次郎と一緒に村の中を散歩しては?」
「はい・・・弥次郎様」
「あっああ・・・そうか散歩か・・・姉上、行って参ります」
だらしないな。弥次郎、今直ぐに鏡で顔を見た方が良い。にやけていて見ている方が気持ち悪い。
珠ちゃんの膝枕は俺の物だ・・・落ち着く、ここが良いんだ。
「全く、弥次郎の奴、にやけやがって恥ずかしくないのか?鏡を見ろって言うんだよ」
「竹ちゃん。はい、鏡」
うわ~俺、思いっきりにやけている。
「ごほん。左兵衛尉様、弥次郎様が心配ですので、私も村を見て参ります・・・」
権左の奴、まだいやがったのか?凄く気まずい。珠ちゃんの横で人形の様な表情の沢子の刺すような視線が痛い。
ここは、今日の簡単な宴の段取りで誤魔化すしかないよな?
翌日、何事もなく銀を抱えて弥次郎は帰って行った。秋殿を宜しく頼むとか、赤い顔をして照れ臭そうに言っていた。
弥次郎には、沢山の乾貝などを仕込んで貰いたい。明国まで行かなくても堺に行ければ、そこそこの商売になるし、蝦夷との海路が出来れば大きく儲けることが出来る。
茨城や日立辺りの石炭も眠っているだろうし、釜石辺りでは銅や鉄の鉱石が採れる。わざわざ俺達が掘る必要なんか無い。その土地の領主と誼を通じて掘らせた物を買い取れば良い。
石炭の利用や製鉄技術の未熟な今世では、それらを独占しても大した財産にならない。俺が買い取ると言えば喜んで売るだろう。
堺に行くにも大型の和船が必要だし、将来的にガレオン船以上を造船するにも沢山の銭が必要だ。
この時代の武士は銭が無ければある所から取れば良いという阿呆が多い。道という道には各領主が関を建てて関銭を徴収し、攻められた場合を考えてわざと悪路にしている。海には正木のような連中が関銭を徴収するが海を使った貿易が確実で時間的にも一番早い。
連中は海賊だ。だが、その海賊に関銭を払えば、襲って来ないのだから台風のような自然災害以外は恐れるものが無い。
安全が銭で買えるなんて安い物だ。
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弥次郎が帰って数日が経った。
「誰か!彦左衛門殿と玄蕃、関次郎、佐吉を呼べ!!」
暫くすると、どかどかと急ぎ足が聞こえて来た。
「彦左衛門、参りました」
「左兵衛尉様。お呼びでしょうか?」
「関次郎、参りました」
「佐吉、参りました」
「彦左衛門殿は新しい入村者の方は落ち着いて来たか?」
「大分、落ち着いて来て最近は普請の方の面倒を見ています」
「そうか。それでは玄蕃よ。お前は道奉行として、道の普請を始めて貰う。まだ、セメントが出来ていないが何処に道を通すかを決めろ。道幅は馬が並んで4頭通れる広さだ。また、道は出来るだけ直線に作る事。問題は橋だな。将来的には鉄とセメントを使って大きな橋を架けるが、今は木材で普請するしかない。筆と紙を・・・こういう具合に・・・三角を組み合わせて・・・よし完成だ」
「橋の上に三角を組み合わせた物。手摺にしては大きい・・・」
これはな。トラス構造と言うんだ。かなり、強度の高い橋を作る事が出来る。アメリカの片田舎に行くと木造のトラス橋が前世では見られた。
「橋の両側を構成する三角の部分が、この橋を成り立たせている。まずは、実際架ける橋の長さを縮小した小さな物を模型と言う。この模型を作り、どの程度の重さまで耐えられるか試し、満足がいく物が出来次第、実際の大きさの橋を架ければよい」
「模型?・・・なるほど。実際の大きさの寸法を小さくした材料で同じ形の橋を作り、そこに重さを加えて壊れなければ実際に橋を架けても問題が無い。これは良い方法です」
「但し、橋には余裕を持たせたい。実際にかかる2倍の重さまで耐える様にしたい。良いな」
「模型は分かりましたが、実際はどの様に川に橋を架けるのですか?」
「そうだな。例えば、川に吊り橋を3つほど等間隔で吊る。真ん中を資材用橋として両側を職人用橋とする。吊り橋の上で木を組み合わせて繋ぎ組み立てて行けばよい。一度、完成された橋を分解して現地で組み立てれば資材用吊り橋にあまり負荷を掛けないで短時間で組み立てる事が出来る。他に良い方法があれば構わん、任せる」
「橋に関しては、関次郎殿と佐吉殿にお任せいたします。それでは某は早速、勝浦までの道順を決める事とします」
玄蕃は、さっさと座敷を出て行った。
「左兵衛尉様。セメント工房の場所なのですが、長屋が建ちセメント工房の場所がありません」
「場所か・・・確か川を挟んで向かい側にもあまり木の生えない荒地があったな。丁度良い。まずは、先ほどの橋を架けて見よ。一度掛ければ、色々考える所もあるだろう。橋が架かれば典膳が持って来た石を使い、セメント工房を至急建てるのだ」
「「御意」」
関次郎と佐吉も急いで座敷を出た。
「彦左衛門殿、玄蕃はどうだ?」
「そうですな。少し、調子の良い所はありますが頭はかなり良いですな。まだ若く、何事にも自分から覚えようとする姿勢があって、1教えると10覚えるの諺があるように将来が楽しみな家臣と言えましょう。ただ、実家との関係が不安です。今は君津伊藤家とは昵懇の仲ではありますが、この乱世では将来は分からないですから・・・」
「・・・世知辛いな。家臣が増えるのは良い。だが、将来の事まで考えて家臣としなければならないとは・・・。しかし、その様な事を考えていては誰も家臣には出来ない・・・」
「御意」
兄弟や親子で敵味方に分かれて戦う。そう言えば、どちらが負け滅ばされても家が残るから袂を分けたと聞いた事がある。実際は、そんな恰好良い物じゃない。
憎み合い殺し合う。結果的に生き残ったに過ぎない。
戦で勝てば問題なし、負ければ当然の様に離反する奴が出て来る。その時に離反する奴を俺は殺せるのだろうか。殺さなければ敵に回る。戦前は味方、戦後は敵。
俺は戦で負ける事が出来ないが、戦でそんな都合よく勝ち続けた武士などいない。
考えると恐ろしい。
その後、竹次郎を呼び、椎茸小屋や各工房を川を挟んだ反対側の空き地に移設する事にした。新しい空き地は周りを塀で囲み、吉三に警護するよう命じた。
これからは里見の間者が増えるだろう。警護の人員は増やさねばならないな。
1回目の田植えを行う頃、流民も殆ど無くなったが俺の領地は、人口が2倍になっていた。と言っても元々村が4つで600人程度の村が1200人になっただけだ。だが、人間生きていくには衣食住が必要だ。各村の村長に頼んで空き家がある所には、百姓を希望する夫婦者を押し込んだ。
それでもかなりの人間が余り、独身用長屋を追加で建てて、住まわせている。当然、食堂をもう一つ建てたりと、食料の負担も凄い事になっている。
これから道を整備したり、城を建てたり出来るのだろうか?エジプト最大のピラミッドであるギザのピラミッドを完成させるには、人員約3500人で最短で23年間掛かるらしい。
俺のやろうとしている事業はそこまででは無いが、税を免除された3年程度で完成させるのは正直厳しい。
城などは少しずつ拡張して行けば良い。まずは街道と家臣の住む所だ。町も小さい内に縄張りしておきたい。
碁盤の目の様に町作りを進めて火事に強い配置としたい。
大勢の流民を見て来た。初めの頃は短期間で人が増えたので多少の混乱はあったが、人数の割合から言うと百姓が多く助かった。百姓は小さな村というコミュニティの中で生きていく為、基本的に粗食で従順な人々だ。
百姓の童は、非常に優秀だ。文字や算術の覚えも早いし、訓練や命令に従い疑う事を知らない。
きちんとした食事を与えて清潔にして鍛えれば、皆、驚くほど身長が伸びて強兵になる。
時々、10歳程度の子供を教育するのは良いが、体を鍛えて人殺しを教えるのはどうかと思う。これが前世だったら俺は犯罪者か。いや、既に何人か殺しているのだから殺人犯だ。
神や仏に縋りたくなる気持ちも良く分かる。
今世では、時として神や仏は敵となる事がある。世が乱れ、神や仏を私欲の為に利用する坊主たちがいるからだ。
欲に塗れた人間に騙され多くの人間が死んでいく。
こうなると、何が善で何が悪か分からない。はっきり言えるのは、最後に生き残った者が善なのだろう。
鱶に関して、物語の中で『足が速い』との記述がありましたが、実際は次の通りとのご指摘がありました。
『サメやエイは、アンモニアを人の様に体外に排出せず、肝臓にて尿素に変換し、この尿素を利用して海水との浸透圧の調整を図っている』との事です。
したがって、鱶が死んだ場合、サメ体内の尿素がアンモニアに再び変換される事もあり、アンモニア臭がする。
ゆえに、サメの鮮度が悪くなるのではない、となります。
さらに、体内のアンモニア成分により酸化が遅れる為、日持ちが良いらしいです。
サメからアンモニア臭がしますが、実は日持ちが良く日本の内陸部でも食されていたんです。
日本には、色々な食文化があり興味深いですね。




