第36話 セメント工房と人
『小説家になろう』では、投稿するのが精一杯でそれ以外の機能に関して、どうして良いのか?良く分からずご迷惑をお掛けしているかも知れません。
感想に関しては、返信出来る機能がある事が分かりましたが、レビューを頂いても返信する機能が無い様なので、ここで謝意を申し上げます。ありがとうございました。レビューを2件も頂き、モチベーションが上がります。
広間に鍛冶組と木工組を集めた。いつの間にか鍛冶組は5人、木工組が6人になっていた。佐吉も関次郎も今回の戦に参加し、顔が引き締まったようだ。
やはり、間近で人が死んだり、自ら人を殺したりすると、人間変わるんだな。それが本人に取って良いか悪いかは別だ。
こんな事も乗り切れないようでは、この恐ろしい時代では生きて行く事は出来ない。
精神がやられて使えなくなったなら、誰からも見捨てられて死ぬだけ。今世に生きている者なら常識だ。原因が何であれ動けなくなったら死ぬ。
ここには福祉も何もない。自分の面倒は自分で見る。それが出来なければ死ぬか、殺される。ただそれだけだ。
「関次郎、佐吉。実際に戦場を見て、大いに参考になっただろう。武器や防具がどの様に使われ、欠点があれば兵を殺してしまう。今回の戦に参加して感じた事を申して見よ」
「「・・・」」
「どうした?お前らの身近で死んでいく者。物も言わぬ骸を近くで見て、自分の作った武器で敵を殺して来たのだろう??何かあるだろうよ」
「・・・恐れながら・・・戦があのような地獄とは思いませんでした。思い出すと今でも飯が喉を取りません」
「であるか。佐吉はどうだ?」
「恐ろしい・・・自分で作ったものが人を殺すのが恐ろしい・・・」
「ほう?それでは敵の代りに佐吉、お前が死ぬか?」
「それは・・・死にたくはない・・・」
「ふっ。佐吉は弱いな。弱い奴は死ぬ。お前は腑抜けだ。お前は生まれた時から弱い者を殺し、それを食べて生きて来た。それを今更、何をほざいている?」
「生まれた時から殺して生きて来たとは?・・・その様な事はありません。他者を殺し生きてきたなど有り得ません」
「嘘をつけ。お前が食べている鶏や干物だって、元は生きていたんだ。もっと言うなら米や野菜だってそうだ。あれらだって元は生きていたんだ。自分より弱い者を殺して食べて生きている。それが人間だ。俺は元は百姓だからな。不作で食べ物が無ければ年寄りを山に捨てたり、生まれても五体満足でなければ赤ん坊でも山に捨てられたりする。そうして、弱い者を殺して生きているのが人間だ。人間とはそういう生き物だ」
「・・・俺の父ちゃんも目が見えなくなって、仕事がなくなって、食べ物を食べなくなった・・・そして、死んだ・・・俺はたまたま運が良かった。竹太郎様、いや左兵衛尉様のお陰で今も生きて行ける」
「・・・俺の父ちゃんは病気で・・・親戚の誰も俺を引き取ろうとはしなかった。・・・左兵衛尉様のお陰でこうして生きて飯が食える・・・」
「佐吉、関次郎よ!だったら、自分が死なないように強い武器や鎧を作るが良い。俺はお前達に生き方を既に教えている。今更、泣き言を言う様な奴なら俺が叩き切ってくれるわ!!」
二人とも青い顔をしてブルブル震えている。少し、薬が効き過ぎたか?まあ、精神に障害が出て使い物にならないようにコントロールしないと駄目だ。今はこれで良い。
何でも、考え過ぎは駄目だ。悩みとは考えても解決はしない。行動して初めて解決する。こいつらには良い方向を示唆すれば良い
関次郎と佐吉には、取り敢えず修理が利く武具の選定と修理。それと、セメント工房に関して説明し、合同で取り組む事を命じるか。
悩む暇が無い位、忙しくすればその内に悩みが昇華され自分の糧になればそれで良い。
これから何千何万と人を殺していくのだから、こんな小さな人数で悩まれると困る。
俺もいい加減に自分が恐ろしい。俺も槍で敵を突き刺したのだから、その内の何人かは死んでいるだろう。
精神的なショックなんて感じる暇もない。敵を傷つけて殺して、戦が終われば敵や味方の死体を埋める。
村にいると色々な事で人が簡単に死ぬ。小さい頃から人の死に慣れてしまった。それ程、死がいつも間近にある。
今思うと前世の様に死を感じずに生きれる人生は、それだけで幸せだった。
用意してあった紙と筆を取り、簡単な図を描いて先ずは新しい井戸掘り方法を説明する。
「井戸については、新しい掘り方を試して見るつもりだ。矢倉を・・・巻取はここで・・・よし!簡単な図面が出来た。後は・・・管の先端構造か・・・これで良いだろう。この辺は余り深く掘らなくても水が出るが、この方法だとかなり深くまで掘れる」
「矢倉を組み。鉄の管を紐で括り付けこの車で紐を巻き上げ、放すと鉄の管が土を掘ると・・・鉄の管の先には水抜きの穴がある弁を付けて土が管を通って排出される・・・弁は上端にも付ければ先端の弁にかかる圧が分されます・・・車は人が載り転がすと紐を巻くか・・・なるほど。もし、これで井戸が掘れれば井戸掘りで人が埋もれて死ぬ事も無くなります」
「佐吉、俺ではそんな長い管を鉄で作るのは無理だ」
「・・・先端を鉄で作り、節を抜いた竹で繋げば良いのではないか?」
「・・・なるほど。となると、意外と簡単に作れるかもしれねえな。人の乗る車は水車の大きいので良いのか」
「左兵衛尉様。この井戸掘りの方法は何というのですか?」
「・・・名前か?・・・」
名前って?それは当然、上総掘りだよ。俺が考えたんじゃないし、前世では日本人がアフリカに行って上総掘りで井戸を掘っていたしな。
「左兵衛尉様。恐れながらここ上総の地で初めての試み。上手くいった暁には上総掘りと言うのは如何でしょう?」
良かった。上総掘りで。小山田掘りとか竹太郎掘りじゃあ締まらない。
「上総掘りであるか。関次郎、それで良い。井戸が出来ればこの井戸から鞴を使って汲み上げ・・・鞴はこの前、関次郎が作った水車と風車を使った鞴で良いだろう・・・こんなものか?」
「これは・・・水を汲み上げる鞴と言うのは?」
「ああ、それは鍛冶で使った水車を使った鞴だ。風を送る為の鞴だが、この様な構造で風の代わりに井戸から水を汲み上げる事が出来るのですか?」
「水車を使って風車を回すと、風が起きるだろう。その風の流れを使って井戸水を汲み上げるんだ。風車の回転を変える事によって汲み上げる力が変わるから汲み上げる水の量も調整出来る様にする」
「・・・そんな事が・・・関次郎さんが既に小型の物を完成させているとしたら・・・出来るのか」
「この大きい丸く平たい物は何で出来ているのですか?」
「あっ!?そうだ。この工房で作るものを説明していなかったな。この工房で作るのは羅馬と言う遠い異国で考えられたセメントなるものを作る為だ。このセメントは新たに作る城の土台や壁などの非常に硬い石の様なものを好きな大きさで作れるようになる」
「その様な物がこの世にあるのですか?・・・神の御業の様だ」
「そんなに珍しい事では無いぞ。俺は昔、死んだ村の婆が持っていた書物で見た事がある。羅馬と言う国では当たり前の事だろうよ」
「・・・我らはまだまだ、未熟です。今回の事など知らない事が多過ぎる・・・」
「ふっ。昔、偉い人が書いた本に知らない事を知っている事は、それ自体が知恵らしい。お前達はそれに気が付いた。これからもドンドン新しき事を見て考え、知らない事を知れば良い」
「「御意」」
「それで話の続きだが、その円形の物は、先ほどのセメントと言う物を使って普請する燃える気を取り出す貯水槽だ。今回は大きな樽をつなぎ代わりとする。燃える気が出た汲み上がった水からヨウ素を以前の様に取り出す。残りは1反程度の広さで田んぼより深く掘り石を敷き詰めて、そこに流し地面に吸収させる。決して川に流さないように。それとヨウ素は少しで良い。米粉の原料の米が余りないからな」
俺は更に、取り出した天然ガスを使った炉の部分を図に書いて説明した。
「この大きな樽を熱する部分は、今使っている鉄を溶かす為の火口と同じ構造・・・という事は、この樽で鉄を溶かす事も出来るのか・・・」
「関次郎、その通りだが今は話を先に進める。よいか?地面が層になっていて、色が白く時々貝などがあるような岩を石灰岩と言う。この石灰岩を砕いて、この炉に入れて鉄が溶ける程の火で焼くのだ。十分、火を通した物を取り出し更に細かく砂の様にしたものがセメントだ。セメントは水に触れると使えなくなるから気を付けろ」
「左兵衛尉様。このセメントはどの様に使うのですか?」
「このセメントに同じ位の量の砂とセメントの半分の量の小石を混ぜる。これに水を加えて乾燥させたものを羅馬ではコンクリートと呼ぶ。このコンクリートは石の様に堅い。先程の水を加えたセメントは望む形の型に流し込み、完成させれば望んだ形の石の出来上がりだ」
「なるほど・・・これは凄い。所で先程、鉄を溶かす程の火という事ですが、やはり、この壺を用いて鉄を溶かす事が出来るのですか?」
「そうだ。将来この炉を改造して鉄鉱石から鉄を精製する事が出来る。この炉を高炉と言う。この高炉で得た鉄の表面に浮くクズを取り除き、別の炉で空気を多量に送り込むと刃金になる。この空気を送り込む炉を転炉と言う。これらの事はいずれ普請するが今はセメント工房だ。良いな」
「分かりました。しかし、良いですか?・・・鉄が溶けるほど火を通すとなると、この壺は鉄では作れませぬ・・・一体、どうやって・・・」
「壺と言うか炉の構造だな・・・外側は鉄で補強してだな・・・この様に石を長方形に加工して重ねて炉の内側に貼り付ける。この石をどういう風に貼り付けるとか、細かい所は考えてくれ。例えば、石と石に凹凸を作り組み合わせるとか、それとこの様に物と物の間を開けると熱を伝えずらいから内側の石と外側の補強する鉄の間に隙間を作るとかな」
「この内側に使う石は何処から持って来るのですか?」
「その石は金谷の鋸山より切り出して貰う」
「貰う?・・・」
「そうだ。伊藤典膳なる者が俺の同盟者で貸しがある。石を切り出し、ここまで運んで貰おうと考えている」
「なるほど」
「人が不足しているなら、今回、来た連中から使えそうな奴を使え。それと、今後も流民等が増える予定だ。お前達で使えそうな職人がいたら、年寄りでも構わん。ドンドン手下にしろ。但し、どんなに優秀な職人が来ようと、お前らの下だ。これだけは間違えるなよ」
「「御意」」
「まだだ。お前達に作って貰えたい物が有る・・・筆と紙を・・・車輪は・・・軸は・・・これで分かるか?」
じゃーん、リヤカーだ。
「これは・・・」
「これはな。明国では戦車と呼ばれている」
「戦車?」
「戦で使う武器だが、少し改造すれば荷車になる」
「荷車ですか?・・・四角い箱に車輪を両側に付ける・・・なるほど。しかしこれだと、ある程度平の場所でないと車輪が嵌ってしまいます・・・あっ!だから、道を整備するのですね。大きなものなら馬に曳かせ、小さなものであれば人が曳いても良いんだな」
「これなら一人でも沢山の荷を運べます。この車輪の軸受部分ですが軸と当たる部分に凹みがありますが・・・」
「ああ、それはな。油を浸み込ませた麻縄を巻き付けて置くのだ。車輪の横に穴が開いてるだろう。そこから一日に一回程度油を差せば、車輪の転がりの滑りが良くなる」
「軸受けと軸だけを鉄で作れば良いのか。他は木で良いのなら構造も簡単で直ぐにでも沢山作る事が出来る」
「大丈夫な様だな。先程の荷車が今後、道作りや色々な所で活躍するだろう。後はこれだ」
二人共、え~~~まだあるのか、見たいな顔つきだな。まだまだ。
「これは・・・家ですか?」
「いや、天幕だ。これから、軍を動かすときや道の普請を行う時に簡単に組み立てて寝る場所だ」
テントだよテント。
「こちらは明国の寝台ですね。なるほど。こちらの天幕と組み立て式寝台を使えば、戦や普請で寒空や雨の中で寝る事も無い。しかもこの寝台を使えば用意する事や撤収が簡単です。これは良い」
「天幕には蝋を塗るのが良いのだろうが、蝋は高いから松脂を塗り、その上から布を重ねて縫えばよい。こちらも至急頼んだぞ。では、下がるが良い」
「「御意」」
疲れる。説明するのに和製英語を使えない。問われて面倒になると、誤魔化すのもなあ。紙と筆が合って良かった。やっぱり、文字に書いたり図示する事で理解が大きく進む。
蛙を使った膠からの墨作り、竹を腐らせて繊維を取り出した竹紙作り、こうして見ると無駄では無かった。
家臣らに字や計算を教えたのも大いに役に立っている。俺の言う事に対して理解が早い。
今後も俺の家臣になりたいと集まって来るガキ共に教育していくか。
「誰か玄蕃を呼べ!」
玄蕃が来るまでに典膳宛に文を書くか。金谷の鋸山から1尺四方の石を切り出して俺の所へ持って来て欲しい。費用に関しては後程、改めて話し合いたいと、こんなもので良いか。
「伊藤玄蕃、参りました」
「玄蕃か。お前の兄上である典膳に文を書いた。済まないが、誰でも良い。この文を典膳へ届けてくれないか?」
「御意。必ず、お届けしましょう」
ついでに自分の文も出すのだろう。余り、間者の様な真似はしてくれるよな。
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年が明け、俺は20歳、竹次郎が13歳、竹三郎が11歳、吉三が14歳になった。今年は吉三を元服させるつもりだ。昨年の戦では小荷駄として目立たなかったが良く働いていた。
名字と諱は俺が考えてやろう。
鶯の声が聞こえる頃、少し暖かくなって来た。まだまだ寒い日もあるが村はあちらこちらでトンカントンカンと賑やかだ。あれから、俺の村では塩と米の価格は俺が決める事で統一した。利用出来るのは俺の領民だけだ。
商人が俺の領地で米や塩を買う場合は、小山田家と直接相場での取引とした。
その際、枡の大きさも統一して枡の底には俺の家紋を焼き入れして、それを使う。枡は一年毎に検査して数字の一から四まで側面に焼き入れをする事にした。
つまり、破損が無い限り5年間は使える。
指定した枡以外を使い売買した者は斬首だ。
税として納入する米は玄米だが、これも以前は俵に適当に入れていたが、枡を使い1俵を入れる。
塩と米は村長から買えるように、村長には米と塩を貯蓄する為の蔵の建設と、米と塩の貯蓄を命じた。
3年間、税が免除されるのだから各村で貯めておいて貰うのだ。不正されないように、これも定期的に調べる。
新しい所帯用長屋や独身長屋などが建って行く中、十兵衛が見知らぬ家族を連れて現れた。
「十兵衛、どうした?」
「はっ!今回、こちらにお連れしたのは、稲毛様と申します。左兵衛尉様の家臣に成りたいとの事でお連れした次第です」
こいつまだ若い。俺より年下だろう。小さい子供に赤ん坊を抱いた嫁の4人家族か。
「家臣に?・・・まあ、話は聞こう。俺は小山田左兵衛尉と申す。その方達は、何者か??」
「稲毛小次郎道義と申します。此度の戦にて負け領地を失いました。小山田様は遠くは我が稲毛とは同じ脈流にて小山田様を頼って参りました。私を家臣にして頂きたい。お願い申し上げまする」
「稲毛と申すか・・・我が小山田氏と始祖を同じとなれば他人とは思えん。しかしな、稲毛氏は千葉氏の家臣であったのだろう?今回の戦に負けたとしても全ての領地を失った訳ではあるまい?」
「それが・・・某は稲毛の中では末弟で今回の戦で色々ありまして・・・」
「・・・兄弟で争いになり土地を奪われ追い出されたという所か?」
「・・・はい」
「ふーむ。小次郎よ、お前、何が出来る?」
「馬の世話が出来ます!馬番をやらされていましたから・・・」
馬番か。確かに必要だが・・・こいつの兄弟がまだ、千葉の家臣でいるんだろう。将来、戦になって裏切らずに兄弟を殺す事になっても殺せるのか?
「なるほどな。小次郎は今後、戦になりお前の兄弟が敵の場合、殺して首を刎ねることが出来るか?」
「・・・やります。いや!是非にお願い致します」
「であるか。今の言葉、忘れるでないぞ・・・それでは出来上がった所帯用の長屋に住むが良い。誰か、竹次郎を呼んで参れ」
暫くすると、廊下をバタバタと歩く音がして、竹次郎が現れた。日に焼けて体にも肉がついて逞しくなった。
こいつもそろそろ結婚するのか?
「兄上。竹次郎、参りました」
「竹次郎、こいつは今度俺の家臣になった稲毛小次郎だ。今後は馬の面倒を見て貰う。所帯用長屋に入れて、米と塩と銭を渡してやれ。良いな。それと暫く分からぬ事もあるだろう。面倒見てやってくれ」
「御意」
「小次郎、励めよ」
「御意」
「竹次郎、案内が終わったら話がある。後でな」
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「竹次郎、参りました」
「下川耳村と落合村の農業改革はどうだ?」
「下川耳村は百姓共も協力的で一回目の田植えまでには工事が終わると思います」
「何と、三カ月程度でか・・・無理はしてないだろうな?」
「何処の村でも兄上の名声が鳴り響いています。次の落合村も今年の刈り入れが終わり次第、掛かりますので今年中には全て終わる見込みです」
人の噂とは、怖いものだ。それに権威というものがここまで役に立つとは思わなかった。
「であるか。下がるがよい」
「・・・」
「どうした?」
「それが・・・実は流民が増えて、その中で椎茸小屋を覗こうとするものがいて、困っています」
「それは不味いな・・・誰か吉三を呼べ!」
「吉三に警護をやらせる。竹次郎、吉三と打合せしてくれ」
ドタドタと足音がしたと思ったら、吉三が現れた。どいつも、こいつも足音が五月蠅い。何か、態と足音を響かせて、今から襖開けて大丈夫?そんな感じか??
「吉三、参りました」
「吉三。お前の元服を赦す。今日から氏を森、諱は昌時を名乗るが良い。森吉三昌時だ」
「有難き幸せ。この森吉三昌時、御恩は一生忘れませぬ」
「吉三、そこでだ。お前が信用出来るものを数人選び、この村で秘匿するべき秘密、例えば椎茸小屋などの警護や不審者を検めよ。吉三が奉行だ。竹次郎も頼んだぞ」
さてと、この調子じゃあ。珠ちゃんと息抜きも出来ない。あれ?十兵衛まだいたのか?
「十兵衛、どうした?」
「あれから、思ったより流民が多く流れて来たので、如何したものかと・・・」
そうなんだよ。玄蕃が連れて来た後は大変だった。ぎゅうぎゅうに長屋に押し込んだら、家臣共は不満ばかり言うし、長屋が少しずつ建って混雑が収まって来たら流民が流れて来て今や、俺の郷の人口は倍以上になった。
未だに今日みたいに人が流れて来る。長屋を建てても追いつかない状態だ。
今は、彦左衛門殿が流民担当で素行の悪い者や病気の者の入村を断っている。新たな普請は玄蕃が担当で、驚いた事に非常に上手くいっている。
玄蕃は意外と能力があるかも知れない。
「俺が自分で言いだした事だからな。短期では大変でも将来を考えるとこれで良い。これでやっと考えている事が実現出来そうだ」
「そうですか。安心しました。他の領地では、何処の村も米不足で食い扶持を減らす為に大変みたいです。なんとも、厳しい世の中です。以前から、左兵衛尉様の治める村が5公5民というのが広まっていましたから、この結果なんでしょうな」
「なるほど。税が安いから米の備蓄があるだろう、か。確かに米の備蓄はある。今は下川耳村の農業改革を行っている。次は落合村だ。今後は米の採れる量が増えていくだろう。そうすれば俺の領地で飢えて死ぬと言った事は無くなるはずだ」
「そうですな。それと、領内の米と塩の値段を左兵衛尉様自らお決めになる事も大きいですな。我ら商人の出る幕もありません。今後、米や塩の儲けは無くなりますが、その分、百姓にも銭が廻りましょう。その様になれば、我ら商人の儲けは多くなります。人間、欲深いですから」
「確かにな。これから街道を整備していく中で村の百姓も雇うし、俺が決めた値段で塩や米を売買すれば百姓にも銭が入る。米が沢山採れればそれだけ、米を売り銭を持つ百姓も増えるだろうからな」
「そうだ、言い忘れていました。今、小田喜城で左兵衛尉様が評判になっています」
「そうか?そんな話聞いた事が無いな」
「そうですか?庁南次郎様の四十九日が終わったという事で、宿老の酒井様が左兵衛尉様に無礼を働いた米屋の門屋さん一家と小物の首が刎ねられ小田喜城の城門前に晒されているんです。小者は独り者だったので本人だけ、門屋さんは本人だけでなく3族と使用人全員の首が刎ねられ、息子さんは嫁と子供を残して・・・労しいですわ」
えっ!?そんな事、俺は頼んでいない。酒井の爺やり過ぎだ。生き残った嫁と子供に俺が恨まれるじゃないか。
小田喜城は以前から今の三河守様を軽んじる傾向が合った。それは武士だけでなく、城下に住む民にも大なり小なりあった。
俺が米を騙された事もそうだ。堂々と違法な枡で米を計り銭を騙し取ろうとした。
枡などの計量に関しては領主の取り決める事であって、民が勝手に出来るものではない。それを堂々と行い、訴え出ようとすると賄賂を使った小者に握り潰させていた。
酒井の爺は、俺の名を使い領内の引き締めを図ったのだろう。
「・・・それは惨いな。俺の評判が悪くなっただろうな?」
「いや、それが門屋さんは小田喜城下でやり過ぎました。米の量を誤魔化された人も一人や二人ではありません。皆、当然の事と受け止めていて、中には他の商人にも同じ様な者がいると言い出して、城下は騒がしいですわ。そういう意味では、左兵衛尉様は清廉潔白を好み悪を赦さない人柄であり、三河守様からの信任が厚いお武家様という評判になっています」
良かった。これで、俺の評判も上がる。官位も自称だが名乗る事を三河守様から許された。
小さいが俺の権威も少しずつ上がっている。これで城持ちになれば立派な国人だ。




