第35話 村への帰還
村の近くまで来ると、いつも通り帰還を知らせる鐘がカンカン鳴らされていた。村の門近くに珠ちゃんの姿が見える。
馬上からだと遠くまで良く見える。そう、俺は今、馬に乗っていた。
彦左衛門殿の鬼畜な訓練により俺の尻は鋼鉄と化した。と言う事は無く、馬の上下に合わせて乗る事を覚えてから尻へのダメージが減り、どうにか馬に乗れるようになった。
それでも鞍が木材で出来ている所為か尻が痛い。やはり、皮で出来ている洋鞍の方がダメージが少ないのか?尻が鞍にぶつかる衝撃より、摩擦の方がダメージが大きいような気がする。
馬と鞍の間や鞍と尻の間にスライム的な吸収材を入れればかなり違うと思うが、現状、化学合成も出来ない。
鐙の足を載せる所を舌と言うらしいが、足がデカいので舌先から踵が飛び出ている。俺専用の鐙を関次郎に作らせるか。
手綱は彦左衛門殿がしっかり握ってくれている。まだ、一人では馬に乗る事は無理だ。俺が馬に乗るとポニーに乗っているような感じだが、乗る時には馬はやはり大きいと感じてしまう。
まだまだ、馬が怖い。
「竹太郎様~」
「竹~」
「無事の様だな」
「兄貴!」
竹三郎、兄貴じゃなく兄上だ!しかし、珠ちゃんの顔を見るとにやけてしまう。彦左衛門殿がちらりと、こちらを見てゴホンと咳ばらいをする。
そうだ。ここでにやけては駄目だ。まだ、家臣共の論功行賞を行っていない。
ああ、珠ちゃんが泣いている。くそっ!思いっ切り抱きしめてやりたい。でも、大勢が見ている前では・・・武士と言うのは肩がこる。
鎧を着たままだから、村の広場で恩賞を与える事にした。
「皆、揃ったな。今回の戦、天晴だったぞ!皆の働きより三河守様からお褒めの言葉を頂いた。ご苦労!!それでは論功行賞を行う。先ずは今回、槍働きした者に対して、一人500文を渡し、名字を名乗る事を許可する。名字が思い付かない者は彦左衛門殿と相談するが良い。浅利家は銭5貫文を与えるものとする。小荷駄達はそれぞれ銭150文を与える。以上だ!」
「「「ははっ!」」」
お前ら、持った事も無い銭を持ったのは良いが無駄遣いするなよ。お前らに渡した銭は俺が苦労して手に入れたものだからな。
「これは、左兵衛尉様。ご帰還おめでとうございます」
「流石は十兵衛。銭の集まる所に必ず現れる。そして、早耳だな。家臣共に与えた銭も十兵衛に回収されそうだ」
「これはご冗談を・・・」
「十兵衛殿。銭はこちらに用意してあります。どうぞ確認を・・・」
「これは竹次郎様。ありがとうございます。誰か銭を数えてくれ」
露店を開いていた若い者が数人こちらに来て銭を数え始めた。銭勘定はどんなに親しくても行う。これが商人だ。
暫くすると、銭が数え終わったらしい。
「銭に鐚銭は無く、少し多いようですな」
「それは取っといてくれ。今回はかなり助かったからな。それはそうと十兵衛に聞きたい事があってな。驢馬と言う動物を見た事があるか?」
「驢馬ですか?・・・驢馬・・・うーん」
「まあ、見た目は馬を小さくして、耳が兎の様に少し長いんだ」
「大きさは仔馬程度ですか?・・・見た事が無いですね」
「そうか。多分、明国では売られていると思う。馬よりかなり安いはずなんだ」
「明国ですか?馬より安い・・・なるほど・・・それをどうお使いなさるのですか?」
「驢馬はな。馬より小さいが力が強い。その上長生きで餌もその辺の雑草で良いのだ。だから、沢山増やして農耕で使いたい」
「馬より小さくて長生き。その上、力が強く餌は雑草で良い。それはかなり都合の良い生き物ですな。驢馬ですか、ここ坂東では馬が沢山育てられています。ひょっとしたら、その驢馬とやらもいるかも知れませぬな。探して見ます」
「それと、申し訳ないが今回、馬を手に入れてな。馬の世話が出来る家臣も探している。誰か心当たりが有れば紹介を頼む」
「馬飼いですか?これは中々難しいと思いますが、丁度、今回の戦でその様な人材も浪人になっている事もあると思います。見つかり次第、声を掛けて見ます」
「頼む」
さてと、俺も家に帰るか。いかんな。どうも顔がにやけてしまう。家の前には珠ちゃんが待っていた。
「勝ち戦、おめでとうございます!流石は左兵衛尉様です。珠子は菩薩様に毎日お祈りしていました」
「お、おう。であるか。家に菩薩なんかあったかな?」
「父上が以前、手慰みで菩薩様を彫っていまして、それを頂きました」
「父上が・・・そう言えば昔から暇が有れば色々な木彫りを彫っていたな。そうか父上が・・・」
「どうしたのです?泣いているのですか??」
「・・・泣いている?俺が?馬鹿な事・・・これは?!俺は泣いているのか??」
俺は嬉しかった。多くの人間に心配され、帰っていた事を喜ばれ、帰る所がある事が。
「勝って帰って来たのです。良くやりました」
珠ちゃんが鎧姿の俺に抱き着いて来る。兜の上から頭を撫ぜてくれる。
嫁に慰められるとは情けない。
「・・・これ!皆が見ている。止め!!・・・それにこれは汗だ。鎧下を着て鎧を着ているんだ。仕方なかろう?」
「はいはい。師走の寒い中、馬に乗って来たにも拘らず、汗をかいたんですね」
「おおっ!俺はな。暑がりなんだ。知らなかったのか?戦姿を解いて風呂にでも入るぞ。風呂は沸いているんだろう??」
「ええ、沸いております。(一緒に入りますか?)」
「えっ!?・・・ごほん!分かった」
こうして、家に帰り、風呂でゆっくりと、ゆっくりとした後、自分の部屋で寛いでいると、広間で宴会の用意が出来たとの事だ。
広間に行くと戦勝祝いを行うとの事だが、酒とか肴とかズラリと豪華に膳が並んでいる。集まったのは小山田家と浅利家と家臣共だ。
俺の結婚式並みの贅沢だ。座敷の隅の方に十兵衛もいる。これは、また銭が出て行く。
戦とは、戦う前も戦い後も銭が掛かる。ただ消費するだけで碌なもんじゃない。
俺がブルーになっていると隣に珠ちゃんが来て、酒や肴は十兵衛が半分出してくれたらしい。今回、かなり儲けたのでそれの御礼らしい。
少しは助かった。後で、十兵衛には礼を言わないと駄目だな。
酒をゆっくりと飲む。皆の楽しい姿。今が永遠と続かない事は分かっているが、少しでも長く続いて欲しいと思う。
人間の50年は、仏の一日か。
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宴会が終わり、次の日に十兵衛を交え小山田家と浅利家を集めて、俺が作成した勝浦城の縄張りを基に普請に対する銭勘定を行った。
父上と母上は隠居したので出席はしない。こういう煩わしいのは、考えると寿命が短くなるからな。俺はそれで良いと思った。
「3年間、税を免除されたと言え、中々厳しい物がありますな」
「十兵衛。それは銭や材料でなく人の話か?」
「そうなんです。失礼ですが、左兵衛尉様の村は全部で4つありますが、1つの村の住人が150人程。4つ合わせても600人程度しかおりません。城の普請に全員駆り出す事は出来ませんので、村人を動員しても精々、農閑期で200人程度でしょう。大工衆や石積みが出来る井戸掘り職人も不足していますが、こちらは銭次第でどうにかなると思います」
「人か。弥次郎の奴に相談するにしても、良い所100人程度だな。これだけはどうしようもないな。農閑期なら良いが、農繁期ともなればそれこそ、日雇いの者だけで普請しなければならず、とてもでは無いが1年程度で完成する物ではない。困ったな」
「今回の戦により多少なりとも流民がいると思います。余り質は良くないと思いますが、声を掛けましょうか?」
「流民か・・・ほとんどの百姓は領主が変わろうが関係が無いが、職人や商人の中には戦で焼け出された者や田畑が焼かれた百姓の中には土地を離れる者もいるか?でもなあ。こんな田舎に来るかな??」
「それは分かりませんが、逆に田舎となれば安全だと考える人間もいるように思います。流民に声を掛ける事が決して無駄とは思いません」
「分かった。では、十兵衛。流民に声を掛けてくれ。商人や職人には勝浦に町を作り商売をさせると、農民共には新しい村を作り田畑を与えるとな。銭に関しては竹次郎と相談して上手くな。所で、竹次郎よ。頂いた銭は幾らあった?」
「頂いた?(盗んだ、だよな)・・・銭の端数までは確認していませんが、1人大体5貫文を背負って来ました。兄上を含む重臣方と兵糧などを担いでいる物を除くと28人ですから、銭は全部で140貫文になります。浅利家に5貫文、家臣に13貫文、十兵衛殿に10貫文を支払いましたから、残りは112貫文かと。後は金と銀ですが、銭に換算すると幾らになるか分かりません」
「・・・(苦労した甲斐が合った)という事は典膳は50貫文以上、持って行ったのか。しかし、俺達だけでは死人が出ていたかも知れぬ。それを思うと仕方なしか・・・そうだ。米の備蓄が結構あったな。彦左衛門殿、蔵にはどの程度の備蓄がある?」
「そうですな。今回、戦で使った分を引いて、全部売る訳にはいきませんが20俵程度は売っても問題がありません」
「俺の蔵にある米も10俵位だったら問題が無い。合わせて30俵か。1俵100銭文だったら3貫文にしかならんな」
「来年の夏頃には2倍から3倍にはなっているはずです。上手く行けば9貫文程度には・・・」
「そうだな。戦で百姓から米を集めて消費した挙句、落城時に燃えたり褒美で渡したりすれば当然、米不足になる・・・改めて考えると3年間の税の免除ってかなり助かるな」
「仰せの通りでございます」
3年間の税の免除などは適当にあの場での思い付きで特に考え抜いたものではなかったが、結果的には大助かりだ。
酒井の爺が真っ赤な顔をしていたのも今だから良く分かる。
その後、小田喜城から勝浦までの街道を俺が作った地図を基に話しあったり、勝浦城下の街並みや鴨川までの街道をどうするかを決めていた。
「勝浦から鴨川には直ぐに大軍は送れませんな。このおせんころがしは難所で少人数でしか通れぬ所。まして海でも荒れた日には通行が出来ませぬ。海が荒れれば船を使う事も能わず、鴨川に里見が攻めてきた場合に合力出来ませぬ」
「・・・であるか。それならば、この街道の途中からここまで隧道を通せばよい」
「隧道ですか・・・ふむ・・・これは簡単には行きませぬぞ。掘るのも大変でございますが、上総や安房では地盤が緩い所もあり、折角掘っても崩れる心配があります」
「俺は昔、もう亡くなったが村の婆に色々教わってな。今回の勝浦城の壁や基礎、隧道の補強に考えている物が有る」
「そんな物が有れば城作りや隧道に大いに役に立ちますが・・・そんな物があるのでしょうか?」
千葉県はタービダイト(混濁流から堆積した堆積物)の宝庫だ。地震や各種プレートの働きで深海で眠っていた堆積物が地上に剥き出しになっている所があっちらこちらにある。
当然、化石を多く含むタービダイトもあり小多喜城周辺や養老川流域にも多くある。
これから城を普請する勝浦の近くだと鵜原辺りも合ったはずだ。ただ、前世より500年前だから現世の地層とは多少異なるかも知れない。それでも、無駄ではないはずだ。
俺はタービダイトを探し、その中でも化石を多く含む石灰層を採掘し、天然ガスを使い石灰岩を加熱する事によりセメントの材料にする事を考えた。
その為には周囲の採掘場から石灰岩を上川耳村まで運ばなければならない。その為に街道の整備は必要だ。セメントを精製してしまえば、現地でコンクリートブロックを生産して城の基礎及び壁や隧道の補強に使える。
勝浦までの道中で白っぽい地層や化石の地層が所々見られたが、そう言う所からも採掘出来るだろう。石灰岩以外の石は街道に敷いて転圧し、コンクリートの道路を作成するか。
コンクリートをただ単に流し込むと地盤が緩い所では割れてしまう。取り敢えず、コンクリートで出来た長方形のブロックを作り引き詰めるか。
ローマに続く道はレンガを長方形に焼き、敷き詰めていた。俺はコンクリートで作る。
コンクリートの扱いに慣れれば、城の普請や隧道建設に大いに役立つだろう。
関次郎の試験的な天然ガス利用から今回手に入れた銅や鉄から、少し大掛かりなセメント工房を作らないとな。
銭も厳しいが人員も厳しい。関次郎は使える刀や鎧などの武具の再生をやりながらセメント工房も立ち上げなければならない。当然、佐吉の木工組も関わる事が多い。
次から次へと問題が山済みで、それを解決して指示することが俺に出来るのだろうか?不安が一杯だった。
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俺はストレスを発散する為、部屋で珠ちゃんとじゃれ合っていた。
「左兵衛尉様。伊藤玄蕃と申す者がお目通りを願っています・・・ただ・・・」
「・・・(珠ちゃん、止めて)・・・ごほん。伊藤玄蕃?聞いた事も無いな。それに、ただとは何だ?」
「それが、大勢の者を連れて参っています」
「大勢の者?十兵衛に頼んでいた流民か??それにしては随分と早い・・・まあ、良い。その玄蕃とやらを広間へ」
憩いの時を邪魔された俺は不機嫌面のまま広間へ現れた。
「その方が伊藤玄蕃か?俺に何用だ??」
「これは左兵衛尉様、直々にありがとうございます。これは兄上から預かって来た文でございます」
「うむ。文をこれに・・・」
誰だよ?・・・典膳からじゃねえか!何々、俺の末の弟の士官先がねえからそちらで雇ってくれ。ついでにお前の所は人不足だろう。玄蕃と一緒に百人程連れて行くように言ったから、そちらで使ってくれ・・・。
俺の顔が自然と赤くなる。顔が暑い。落ち着け、俺。こんな事は良くある事だ。大した・・・いや!?大した事あるじゃねえか!典膳の野郎!!恩を仇で返しやがった。
「・・・なるほどな。兄上からお前を士官させろと書いてあるな。それと、お前が連れて来た百人程の者を使うように書かれている。お前の名は何と申す?」
「はっ!伊藤玄蕃友康でございます」
「そうか。俺の名は小山田左兵衛尉だ。左兵衛尉と呼ぶが良い」
「左兵衛尉様ですね。この玄蕃。左兵衛尉様の家臣に成れて執着至極でございます」
はあ?今までの会話の何処にお前を家臣にするという言葉があった??お前、ある意味、典膳そっくりだな。
まあ、そう言っても追い返す訳にもいかない。これは典膳の奴に大きな貸しだな。
「であるか。玄蕃よ。お前が連れて来た者達の所まで案内するが良い」
屋敷を出ると、いるいる。これはデジャブ何だろうな。
「玄蕃。随分と若い・・・と言うより童ではないか?」
「御冗談を・・・全員、10歳にはなっておりまする」
あれ?俺が可笑しいのか??今世では40歳が寿命だとすると。10歳で人生の1/4を過ぎてる。前世では80歳が寿命だとすると、1/4だと20歳に当たるのか。
そう考えると、前世20歳=今世10歳は可笑しくない?
玄蕃の言う事は何も可笑しい事は無い?なるほどな。割合だと男子が7割、女子が3割だ。それでも女子が多い。流石に戦には女子は行かないが、今世では女子も男子並みに結構働く。女だから力仕事は出来ないとか無い。
そうしないと食べて行けないからだ。
「・・・そうか・・・でも困ったな。寝る所や飯の支度があるからな・・・」
「寝る所は、屋根があればなんとかなりますし、飯の用意でしたら今回連れて来た3割は女子ですので心配はないかと思います」
いやいや、飯の煮炊きじゃない。米をどうしようかと考えているんだ。いきなり、百人食い扶持が増えるんだからな。
あっ!売る米が減ってしまう。
確かに人手は欲しかった。でも、これは典膳の奴からしたら都合の良い口減らしだろう。米の値段も上がっているし、戦で米を消費して米の備蓄も減っているから丁度いいとか言っているのか。
あいつは商人より酷い。気を付けないと生き馬の目を抜かれる。
この後、浅利家と小山田家で集まって、浅利家でも女子を含めて20人程度引き取って貰い。残りの連中は男は家臣の長屋に押し込み、女子は母屋に寝泊まりする事で決まった。
こいつらを遊ばして置く余裕はない。早速、街道整備を進めるか。細かい所も含めて誰に責任者をやらせようか。
そうだ。伊藤玄蕃を責任者にして街道整備を進めさせ、使えなかったら典膳の所へ戻せばよい。よし!決まりだ。
その後、広間に全員を集めて玄蕃の紹介と、小田喜城から勝浦までの街道整備を玄蕃に奉行を命じて進める事にした。
「今回の小田喜城から勝浦までの街道の整備は、当家に取っての大事な事業だ。失敗は許されぬ。この街道整備の奉行は伊藤玄蕃。お前に命じる。良いな!」
「ははっ!有難き幸せ!!この玄蕃。命に代えても必ず成し遂げて見せましょう」
玄蕃も典膳に似ていて調子が良いんだよな。大丈夫か?こいつ。
「お待ちくだされ!玄蕃殿はまだ、海の物とも山の物とも判断がつきませぬ。玄蕃殿には申し訳ないが、もう少し人となりを見てから判断すべきかと・・・」
「大丈夫だろう。玄蕃が先程、命に代えましてもと言ったぞ。それは、失敗したら切腹するという事だ。そうだな、玄蕃?」
「えっ!?・・・はぁ・・・」
「玄蕃よ。良く聞こえないが?」
「そっ、その通りでございます。上手くいかなかった暁にはこの玄蕃、見事切腹して果てましょうぞ」
「まあ、本人もそう言っている。武士に二言は無いと言うではないか。彦左衛門殿は申し訳ないが玄蕃を助けてやってくれ。頼んだぞ」
「「ははっ!」」
「それでは、他になければ解散だが・・・」
「お待ちくだされ!」
「彦左衛門か、どうした?」
「・・・それが家臣の事でご相談が・・・」
「彦左衛門殿にしては、はっきりしないとは珍しいな。何事か?」
「今回、戦に行った家臣で12人程、所帯を持ちたいとの話があります」
「はあ?!・・・あいつらまだ15,6歳だろう?それで所帯か・・・(負けた。俺は負けたんだ・・・)」
「どうしました?15,6歳で所帯を持つ事は特に珍しい事ではありませぬ。それで、住む家が問題でして・・・」
「分かった。彦左衛門殿には何か考えがあるのか?」
「家臣どもの長屋の近くはまだまだ、空地がございます。そこに所帯用の長屋を作ろうかと考えています。ただ・・・」
「場所は良い。材料もある。足りぬのは銭か?」
「御意」
材木は上谷村から持って来てと、銭は早速、長屋に使う。
「彦左衛門殿。申し訳ないが今回の普請は彦左衛門殿に任せる。暫く、玄蕃が暇だろうから玄蕃を使ってくれ。大工衆を直ぐに手配しなければならないな。銭は竹次郎に相談して用立てて貰えば良い」
「玄蕃殿ですか?そうですな。丁度良い。分かりました」
どうやら、俺のがま口には穴が開いているらしい。




