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波の花の如く  作者: 月河庵出
第3章 地侍 茫洋編
33/37

第33話 城攻め

誤字指摘ありがとうございます。非常に助かっています。


明日、日曜日の投稿はお休み致します。





 俺達は戦場近くで飯を食べている。恩賞は全ての戦が終わってからという事らしい。

 いつもは、我先に飯を食べる連中だがどいつもこいつも食欲が無いようだ。


 それはそうだ。昼間の戦によって多くの血や体の一部がゴロゴロしていて、明日は死体の処理だ。という事は死体はそのまま。時より風が生臭い臭いと供にやって来る。


 離れていると言え、臭うものは臭う。


 さてと、これからが本番だ。俺と彦左衛門殿と竹次郎で小荷駄の所へ歩いて行く。竹次郎は初陣で勝ち戦だったから目出度い。本人は青い顔で米の一粒も食せずにいる。



「警護に問題はないか?」



「特に問題はありません」



「そうか。先ずはそこの若侍。名は何と申す?」



「ふんっ。無駄だ。早く殺せ!」



「そうか。では、あの世に送ろう」



「待て!いや、お待ちくだされ!!・・・名を申し上げるのでお持ち下さい」



「爺!敵に捕縛されて生き残っては父上の名を汚す事になるぞ!!構わん切れ!!!」



「こいつは話にならんな。爺さん、こいつとお前の名を聞こうか?俺はな、別にお前達を討ち取ろうとは思わん。寧ろ、協力してくれたら見逃しても構わんと思っている」



「嘘を吐くな!我らから情報を聞き出し、その後殺すのであろう!!」



「ふん。血の気が多い。流石は原氏(はらうじ)の血筋よ」



「名を名乗るのは構いませんが、先にそちらが名乗るのが礼儀だと思いますぞ」



「これは失礼。俺は小山田竹太郎だ」



「・・・小山田氏(おやまだうじ)(かたる)るのもいい加減にしろ!お前の様な下郎が小山田氏を騙るなど笑止!!」



「若!これ以上は例え若と言えど許しませんぞ!!」



「・・・」



「小山田氏を騙るか。良く言う。お前達の主家だって、本家筋の千葉はお前らの原氏に滅ぼされて今ある千葉氏は庶流も庶流よ。その後、殺し殺されお前ら原氏だって分家の一つだ。この戦国で生き残った奴だけ氏素性(うじすじょう)を主張出来る。それに、俺は先代の三河守様に名乗る事を許されている。これがどういう事かお前には分かるだろう?」



 三河守様は朝廷から正式に認められ、天皇から賜った官位だ。朝廷の官位を持つ者に名を名乗る事を認められたという事は朝廷から認められたも同じ。それを権威至上主義の人間が否定出来る訳が無い。

 但し、初代様の時は朝廷に認められた官位だと思うけど、今の信清様の代は不明だ。下級武士である俺が主君の官位が正式な物かどうかは分からないからな。


 血筋が途絶えない限り代々続くはずだ。



「・・・三河守様に・・・」



「某は佐々木内蔵助(くらのすけ)と申す。こちらに居られる方は原式部少輔(しきぶしょうすけ)様(原胤清(はらたねきよ))だ」



 悪いけど。聞いた事が無い。俺はザックリとした歴史の流れを三郎さんの野望ゲームで掴み、ネットで文献を見てそこの土地や勢力にのめり込むタイプだが、細かい名前まで覚えていない。



「なるほどな。それでは父上がさぞ心配なされているだろうなあ。俺は原氏には何の恨みも無い。ただ、我が主の三河守様を通じて御所様の命に従っているだけだ。その命には無益な殺生を禁じていた事も含まれている」



「だったら、今直ぐ!」



「まあ、慌てないで欲しい。俺達、真里谷(まりやつ)軍は明日、亥鼻(いのはな)城へ向けて出発、その後付け城などを落としつつ、亥鼻城を落とすのが使命だ。そこで、聞きたい事が二つある」



「・・・」



「一つ。亥鼻城の銭蔵の位置を教えろ。二つ。城には必ず抜け道がある。それを教えろ。以上だ」



「ふざけるな!誰がお前の様な奴に教える!!それでは単なる賊ではないか!!!」



「五月蠅いな。おい、誰かそいつの指を刎ねて二度と刀を持てないようにしろ!」



「ははっ!」



「お待ちくだされ!後生でございます。某の指なら幾らでも刎ねて良い。でも、若だけはお許しを。この通りでござる」



「式部よ!お前の一言で家臣がどうなるか見るが良い。全てはお前が悪いのだぞ!!」



 俺は刀を抜き、内蔵助の首を刎ねる様に刀を振り上げた。



「待て!・・・待って下さい。爺は何も悪くない。俺が全て悪い。この通りだ」



「・・・式部。二度は無いぞ!さて、内蔵助答えよ!!誰か内蔵助の縄を解き、筆と紙を渡せ」



「・・・是非も無し・・・」



 内蔵助爺さんは城の概要図と抜け道と銭蔵の位置を紙に示してくれた。やった。小弓城の情報は無駄になったが、亥鼻城にある銭が入る可能性が高くなった。抜け道に関しては三河守様に注進して何かの交換条件に使おう。



「誰か。二人の縄を解き、刀を渡せ。後、馬はどうだ?」



「2頭ほど傷が浅く手に入りました」



「それでは1頭、式部殿に渡せ!」



「ははっ!」



 ほらね。俺は嘘を吐かない。それに、いずれあの御所は戦に負けて原氏がこの辺を取り返す事になるのだから、原氏から恨みを買う事は止めておいた方が利口だ。



「おい。本当に我らを見逃してくれるのか?」



「そうだ、俺は約束は必ず守る。嘘は付かない。戦では別だがな。縁があったらまた会おう。今度は味方として会う事を望む」



「・・・変わった御仁よ。敵の首を取って手柄だろうに・・・それをな。まあ、良い。それでは御免!爺、参るぞ!!」



 暗闇に紛れる様に相乗りで去っていった。あいつの諱まで知らないが、生き残る事が出来れば、あいつの子孫が武田太郎(信玄)の家臣になるんだろうか。人の運命など分からぬものだな。


 




****************************************






 次の日は死体の片付けだ。今回は家臣にやらせて俺は陣と言うか物置場で控えている。死体は敵味方関係なく、いつも通り裸にされて身に付けている者すべて回収され掘られた穴に転がされている。 剥ぎ取りを監視するお目付けがいて、勝手に使える武具を持ち去られないように監視している。


 とは言え、家臣をただで使われて黙っている奴はいない。だから、折れた刀など壊れた武具を少しづつ回収してもお目こぼしがある。

 現在、俺の周りには壊れた武具がどんどん置かれていく。


 昨日の野戦でも結構、武具を剥ぎ取ったから、今日の壊れた武具と合わせると結構な量になった。


 勝ち戦の噂を聞きつけ、商人どもが近くまで来ているはずだ。十兵衛も直せそうな武具を買い集めていると言っていたから来ているはずなんだが、何処にいるか?



「これは竹太郎様、ご無事で。見た所、ご活躍されたようですな」



「・・・なんだ。十兵衛か。お前を探していたんだ。しかし、どうしてここが分かった?」



「えっ!?いやいや、旗竿(はたざお)に家紋が大きく棚引いているは、遠くからも良く見えますよ。それに、今回、竹太郎様が家臣の背に付ける旗竿と幟旗(のぼりばた)の注文を他の武家の方から沢山頂きました。これも竹太郎様のお陰です」



「俺の真似をするのかよ。俺が目立たなくなるだろう。くそ、苦労したのに・・・」



「まあまあ。それで御用と言うのは?」



「ああ、そうだ。ここにある武具を上川耳村まで人を集めて運んでもらいたいんだ」



「なるほど。構いませんよ。その人足代も付けておきましょう。これだけの武具があれば銭の心配はありませんな」



「まあな。実は俺達は小弓城ではなく、亥鼻城を攻める事になったんだ」



「えっ!?・・・それはまた・・・残念ですな」



「なるようになるさ。それじゃあ、十兵衛頼んだぞ」



「埋葬が終わった頃、人足を連れて参ります。それでは、他にも商いがあるんで失礼します」



 良く見ると、商人に混ざって(むしろ)を抱えた女連れの奴らもいる。


 人間の欲なんて、いつの時代も変わらない。






****************************************






 死体を土に埋めて多少は良くなったが、色々な死体を見たのか家臣どもの食が進んでないようだ。

 この程度でへこたれていたら生きて行けないぞ。


 翌朝、亥鼻城に進軍しつつ、近くの付け城や砦を落としていった。思ったより何処の城も余り兵が入っていなかった。原が野戦で負けたのを知っているのだろう。

 御所様の命であると言えば、無血開城する所が多かった。


 付け城や砦に100人程度、籠城しても真里谷軍は700人いるのであっという間だ。百姓は直ぐに抵抗しなくなる。

 鎧を着ている奴を狙い、仕留めれば終わり。この繰り返しだった。



「竹太郎様。亥鼻城が見えて参りましたな」



「あれが亥鼻城か?」



 木で出来た柵に何重にも覆われ、土塊(つちくれ)の堀があり丘の上にポツンとドロドロの城?があった。俺の知っている城とは全然違う。遠くに見えた小弓城は何と無く城だったが、これは砦ではないか?


 火矢で燃えないように泥を壁や屋根にかけたりするから、ドロドロなのか?

  


「平城とは言え、あの陣容ですと落とすのは骨が折れましょう。小弓城よりここの攻めを先に全軍で臨むべきでしたな」



「今更だな。御所様がお決めになり庁南次郎様が賛成してこうなった。俺達は勝てる戦には従うだけだ」



「これは面白い事を。それでは負ける戦の時は・・・聞くまでもありませんな。フフフフフッ」



「そうよ。フフフフフッ」






 亥鼻城近くの開けた場所に布陣した。家臣どもは休憩中。俺達は軍議に呼び出された。



「三河守様。全員、揃いました」



「よし!明日から亥鼻城の城攻めに入る。噂には聞いていたが、平城(ひらじろ)の割には曲輪(くるわ)が何重にも(めぐ)らされていて堀もある。柵などにはドロを塗り付けていて火矢の効果も余り期待出来ない。このまま、正面から城攻めをすれば被害が大きくなるだろう。そこで、何か策が有る者が入ればこの場で遠慮なく申し出て貰いたい」



「・・・」



「何かないか?」



「・・・あの宜しいでしょうか?」



「竹太郎か?・・・奇妙な面よのう」



「あっ!?これは失礼致しました・・・と。そんな事より策と言いますか、実は亥鼻城へ秘密裏に出入りできる通路があります」



 顔の防護用に面を付けているのだが、鬼を意識したとかで結構怖い。取るのを忘れていた。これで分かるのは典膳くらいだな。 



「はあ?!・・・これ!竹太郎。ふざけた事を殿の前で言うではないわ!!」



「爺・・・聞こうではないか。竹太郎、説明してくれ」



 そこで、この前手に入れた地図を複製したものを三河守様を含めた重臣達に見せた。この複製には銭蔵の位置は書かれていない。



「ふむ。これが本当なら・・・かなり被害が減らせる。しかし、これが真実だとする証拠は何処にもない。う――――ん」



「竹太郎。お前、これを何処から手に入れた。答えよ!」



「これは、敵方のある重臣より仕入れた地図にございます」



「お前の様な身分の低い者に敵とは言え、重臣が大事な味方の情報を教える訳がない。正直に申せば、この場はお前の首一つで許そう」



 爺。俺の首って、俺が死ぬ事が前提じゃないか。相変わらずだな。



「そうですか。折角の手柄を上げる機会なんですが、嫌なら良いです。俺の隊がここから侵入し、門を開けましょう」



「竹太郎の隊で・・・ふむ。まあ・・・」



「お待ちくだされ!某は小山田殿とは縁が有る者。小山田隊だけでは少々兵が少ないと考えます。我が伊藤隊も同行をお許し願います」



 はあ?!典膳。お前、何勝手に話に入って来るんだよ。しかも、縁者って?知己(ちき)になってまだ日が浅いよな。



「そうだな。竹太郎の所は小荷駄を除くと20人足らずだから、伊藤の所の50人が加われば罠でもどうにかなるだろう。よし!その策でいこう。他に策が無ければ、明日、小山田隊と伊藤隊で秘密裏に城内に入り城門を開ける。敵が騒々しくなったら、総攻撃だ。良いな!!」



「「「「御意」」」」






****************************************






「全く、どういうつもりだ?」



「どういうつもりと聞かれてもな。俺とお前の仲だろう?同じ部屋で一緒に寝た仲じゃないか」



「お前、止めろよ!そういう言い方。家臣にでも聞かれてみろ。帰ってから嫁に怒られるだろうが」



「冗談だよ。そんなに怒るなって。それより、儲け話があるんだろう?」



「・・・全く、お前と言う奴は図々しいな」



「それが俺の取柄じゃねえか。早く、白状しろよ」



 俺は、諦め先程の話と地図をこいつに見せた。



「こいつは、凄いな。俺も三河守様に恩賞を考えておこう。でもよう。俺にまだ隠してるよな?」



 うっ!?こいつ無駄に鋭い。流石は戦国を生きる伊藤家だ。いっその事、ここで事故という事で殺そうか?いやいや、こいつはまだ、利用価値がある。君津辺りを抑えているのは使える。



「おいおい。典膳よ。お前にだけ利益があって、俺には無いよな。付き合いと言うのはお互い様が合って初めて成り立つんだぜ」



「ああ、その事か。大丈夫だ。俺に任せておけよ。決してお前に損はさせない。これだけは言える」



「分かった。お前を信用しよう」



 典膳に抜け道の詳細と門を開ける段取り、自軍の突撃が始まったら敵に押されるように銭蔵へ向かう事。銭蔵に着いたら、もし俺達以外がいたら、皆殺しにする事を話し合った。



「銭蔵の銭は2割程度残す。それと、鎧の間に布切れを挟んでおけ。鎧から出る音は意外と響くからな」



「銭を持ち出すのは良いが、箱のままでは見つかってしまうぞ」



「ふっ。俺達が背をっているのは背嚢(はいのう)と言う。この下に米を引いておき、銭をある程度入れたら上から米を入れる。米で銭の音はしないし、まさか銭が背嚢に入っている何て誰も気が付かないさ」



「・・・貸してくれ・・・」



「はあ!?」



「背嚢を貸してくれよ!頼む、この通りだ」



 こいつは、どう言う頭の構造をしているんだろう?こいつも武士だろう??普通なら、ここまでしないよな。

 俺は仕方が無いから、小荷駄達の背嚢を幾つか貸してやった。それと、近くに竹林が合ったので、矢を避ける為の盾作りを関次郎に言いつけて作らせた。

 作っている途中から典膳が来て、関次郎から色々聞いて百姓どもに盾を作らせていた。


 俺もかなりのお人好しだ。銭を分けて、この度の武勲にも参加させてやるんだから。


 典膳が何をくれるのか、今から楽しみだ。今回、奴が得る物に匹敵する物だろうから、さぞかし凄かろう。


 


 翌日と言うかまだ、真っ黒で朝日も出ない内に木に覆われた獣道を俺達は進んでいる。

 近くまで来ると、遠くに人の出入りする所が見える。

 更に近づくと姿がハッキリして来た。



「あいつらの後ろに続く者はいないか?」



「いません」



「よし!あいつらの後に続いて城に忍び込むぞ」



 米の搬入に続いて歩いて行き、様子を伺っていると門を閉じようと、敵兵が歩いて来た。

 家臣が素早く物影から出て、敵兵の喉を一突き。倒れた所を止めを刺していた。

 他にも門番がいたが、家臣が矢を射かけて槍で突き殺していた。


 人間、突然、矢が刺さると驚いて叫べない。驚き体が金縛り状態の中、行動するのは余程の訓練が必要だ。 


 俺達は二手に分かれた。

 俺達小山田隊は目標の正門の近くの建物の陰に隠れた。伊藤隊は50人もいるので隠し通路で待機だ。門は閉めたが鍵を掛けていないので騒ぎに乗じて突入してくる予定だ。


 結局、俺の隊が一番危険だ。


 時間が経つのが遅い。同じ姿勢だと足が痺れて来る。かと言って体を十分に動かし準備運動も出来ない。


 明るくなって来た。口上は聞こえないが、鏑矢(かぶらや)が戦の合図だからそれをイライラしながら待つ。イライラは俺だけではないらしい。敵兵も同じなのか、あちらこちらから真里谷軍に対する罵声が聞こえて来る。


 しかし、敵兵の視線は皆、正面の真里谷軍に釘付けだ。



 鏑矢がひゅるひゅるひゅると上がった。その瞬間、敵兵がより前方に意識を集中している様だ。



「よし。出来るだけ壁伝いに歩き、気付かれるまで、決して走るな。敵に見つかったら、門の錠を外す者、盾でその者を守る者、建物の陰から敵を射る者、打合せ通りだ。行け!」



 小山田隊が配置に付き、門にゆっくり近づいて行くと、横から伊藤隊が現れた。



「敵だ!敵が城内・・・」



 敵兵に矢が当たり、城壁から落ちて来た。それでも、注意を引くのが十分だった。敵兵が伊藤隊に矢を浴びせ掛ける。

 昨日、作った盾が役に立ったようで今の所、数人の怪我人で済んでいた。


 俺達小山田隊は門を開けるのに成功した。城の曲輪の方にも敵兵が配置されているので外からも時々矢が飛んで来る。

 門を使用不能にしないと再び閉じられるので、門を開けたまま油を掛けて火を付けた。


 門の外側に泥を塗りつけていたが、内側には泥が無かった為か、火が点いた。城壁も木材なのか火が少しづつ移って行く。


 幾ら泥を塗った所で今は、冬、乾燥してるんだ。


 俺達は敵の矢を防ぎながら伊藤隊と合流した。そう、銭蔵の方を背にして。



「竹太郎!旨く行ったな。これは大手柄だぞ!!」



「ああ、まあな・・・」



「全く、お前はハッキリしてやがる。後は、銭蔵にどの程度、あるかだろう?心配するなって。この調子だと、小弓城の銭蔵は少ないと見た。落ちる城にわざわざ、銭を置いとく馬鹿はいないからな。ここは、期待出来るんじゃないか。兵量も運び入れていたし落ちるにしても、数日は持つと踏んでいたとしたら・・・」



「声が大きいぞ。戦に紛れて銭を盗んだと分かれば首が飛ぶ。頼むから静かにしてくれ」



「へへへへっ。悪い悪い。余り、上手く言ったんで少し興奮していた」



 俺達がこの場所を維持している内に味方の声が段々と大きくなって来た。遠くから門が開いている進め~との声も聞こえる。敵方の百姓共も落ち着かない様子で、俺達への槍での攻撃が御座なりになって来ている。

 殺し合いなんだが、戦闘が地味だな。お互いに槍で突き合うだけ。それでも、小山田隊の槍は普通のより長いんだ。伊藤軍の百姓に怪我人が多く出る中、当家はかなり少ない。

 その為の長い槍と、胴丸、鎧下だからな。



「おい、お前の所の槍な。俺達より長いよな・・・なるほど。長ければ有利だな。でも、その分重くなる・・・流石、わが友だ」



 おいおい、いつから俺はお前の友になったんだ?それにしても俺目掛けて矢がバンバン飛んで来る。兜にカンカン矢が当たる。

 確かに俺の身長は185cm程度ある。身長の所為で皆より30cm以上飛び出ているから狙いやすいのか?




 暫くすると、味方が雪崩れ込んで来た。俺達の方を見ている。良く見ると、酒井六郎じゃないか。



「ここは俺達が抑えている。一番槍を頼む!」



「おう!任せよ!!進め~~~~!!!」



 フフフッ、邪魔な奴らが居なくなった。よし!いい頃間だ。このまま押される振りして引け!!もう少しで銭蔵だ。良し此処で良いだろう。



「おい、お前ら!後ろを見よ!!我が軍が迫っておるぞ!!!ここから逃げたい者は逃げるが良い。せめてもの慈悲だ」



 百姓どもどころか足軽も一緒に逃げていく。さてと、銭蔵へって。はあ!?典膳、お前、銭蔵に一番槍って何だよ。

 よく鍵開けられたな。鍵の構造は簡単で内部の傘を閉じれば解除出来るけど。



「竹太郎!銭が見当たらない」



「しょうがないな。そんな見える所に置いてある訳無いだろう?・・・入口から5歩、そこから右へ向き8歩。そこの床板を外すと・・・おっ!やった」



「凄いな!銭がたんまりと壺に入っている。よし!」



「おい!典膳。百姓をここへ入れるな!!分かってるよな?」



「ああ、大丈夫だ。こいつら全部、俺の身内だ」



 典膳、本当に身内か?俺にはそうは見えないが、問題が起こったら伊藤家で始末しろよ。 


 良く見ると大きな壺の横に箱がある。箱を開けると、なんと金が入っていた。しかも砂金ではなく小さい粒だ。その他の箱には銀が入っているものもあった。

 金と銀はそれほど多くは無かったので俺が全て頂いた。

 大きな壺の銭を背嚢にドンドン入れていく、全部の背嚢がパンパンになったが、銭はまだ半分程度あった。

 くそっ!背嚢の予備を持って来るんだった。


 典膳は策に乗っかっただけだから、儲けが多いかと思ったが伊藤隊が良いタイミングで現れたお陰で小山田隊は少数怪我しただけで済んだ。

 伊藤隊は盾を使っていたと言え、10人近く死者を出していた。怪我人を入れると半数が何らかの怪我をしていた。


 俺達が銭蔵を元通りにして、城内をうろついていると原何某打ち取ったり!との声と共にエイエイオウ!が響いて来たので戦も終わりらしい。


 予定より、早く戦が終わったので城内の後片付け、つまり、死体の処理が始まる。少し休み、飯を食べてからの片付けだ。

 小荷駄達と合流し、用意されていた飯を食べた。この後の事を考えると憂鬱だが、銭の事を考えるとつい顔がにやけてしまう。


 初めての城攻めだったが、野戦と違い、あちらこちらに死体が転がっていて見つけるのが大変だった。


 小山田隊と伊藤隊は余り戦わなかったので元気がまだあったが、他は疲労困憊の様だ。何でも、三河守様が今日は城で過ごすとの事で大急ぎで片付けが行われている。


 今回は大活躍だった。武具は大漁に手に入るし、十兵衛に銭を支払っても楽に城を建てる銭が入った。

 恩賞は期待出来ないが、有意義な戦だった。






  


 

  

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] まあ帰るまでが略奪だから。どうなるかなあ。 それとも二三年一気に進んで嫡男誕生くらいから次章パターン?更新に期待
[良い点] 狡いけど、下っぱってやはり狡いくらいがちょうど良い [一言] 良いですよね!狡い主人公と悪友(?)
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