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波の花の如く  作者: 月河庵出
第3章 地侍 茫洋編
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第30話 戦と婚姻と





 秋口になり、上谷村から来た家臣も落ち着いて来た。二人ほど帰らせたけど。あれは良い薬になった。家臣もだらだらした所が無くなり、武芸の訓練も更に熱中するようになった。

 一方、村人も田子造の一件で協力的になったが、農業改革が上手くいき米だけでなく野菜の採取量も多くなり、村人にやっと農業改革が有効なものだった事が認められた。


残りの下川耳村や落合村に関しても早急に進める予定だ。


 百姓は閉鎖された村で生きていく為、閉鎖的で保守的だ。でも、阿呆じゃない。自分達にとって利益になるものは積極的に受け入れていく。生きる事に苛烈、それが百姓。


 上谷村の農業改革が終わろうとする頃、小田喜城から六郎殿が再び使者として来た。霜月(しもつき)の初めに小田喜城に集まるようにとの指示だった。

 六郎殿からは、小田喜城で家臣が集まった後、庁南城へ向かうとの事。兵量は1カ月分持参だ。それらを文に認めたものを渡して六郎殿は帰って行った。


 小山田家と浅利家を集め合議を行う。



「とうとう、小田喜城から使者が来ましたな」



「そうだ。今から三河守様からの(ふみ)を回す。ただ、その文には決まり事だけだ。六郎殿から伺った話によれば、古河公方の弟(足利義明)が庁南城に自分の取り巻きを連れて、逃げて来たそうだ。どうも、兄(足利高基)に少し脅され身の危険を感じたらしい。本人は名家である武田家に直接、下知を言い渡す為にわざわざ足を運んだと聞いた」



弟君(おとうとぎみ)の取り巻きとはどんな連中ですか?」



「主に古河(こが)足利家の有力家臣の四男坊や五男坊らしい。兵を持たず、兵糧も持たず、騎馬で現れたとの事だったな」



「よく、千葉や原が黙っていましたね」



「千葉や原も足利と揉めるのは嫌なのだろう。何の得もない」



「そう言っても弟君が武田に現れ、下知するという事は千葉や原と戦をするという事でしょう」



「そこだ、竹次郎。古河の弟が我らと共に千葉や原を攻める。そうしたら、原や千葉はどうすると思う?」



「それは兄の古河公方様に応援の伺いを立てるでしょう」



「ところがそう簡単な話ではない。当然、原や千葉の内部でもどちらに付くか問題になる。例え戦と言えど足利を名乗るものを殺したらどうなる?」



「・・・原や千葉の内部で揉めては、騙し討ちなど心配もあり古河公方様も簡単には援軍を派遣できません。また、兄の命と言え援軍に行く家臣も足利氏を名乗る者を討つとなると後の遺恨になるかと」

 


「つまりだ。今回の戦は原や千葉は古河公方からの援軍も貰えず、多くの城を失い我らの勝ち戦となる」



「それは何よりです!これで士気は上がるでしょう」



「まあ、落ち着け。古河公方の弟がなぜ?直臣を連れて来たと思う?」



「それは兄の古河公方様に脅されたのが原因では・・・」



「そもそも古河公方(こがくぼう)なんてものは存在しない。元は両上杉の力を落とす為に鎌倉公方が上杉当主を誅殺して自分で戦を起こし鎌倉が居辛くなって、自分の荘園である古河に直臣と逃げて来た。その後、その土地周辺の豪族や地侍を権威と戦で時に滅ぼし、時に吸収し勢力を広げ勝手に古河公方を名乗ったのが始まりだ。幕府には古河公方などと言う役職はない。後から幕府に認めさせた。これで分かるだろう?足利氏(あしかがうじ)と言うものがどういう原理で動いているか」



「・・・」



「分からぬか?今回の戦は我らの勝で終わるだろう。原や千葉の城を奪う事になる。でも、その城は誰の物になると思う??・・・簡単だ。足利の物だ。弟が連れて来た者に分け与えて終わりだ」



「それでは戦をする意味がありません。得るものが無い」



「足利氏を名乗る者は、そうは考えぬ。足利は武士の棟梁(とうりょう)である。足利の為に死ぬのは名誉な事であり、当然である。良い所、感状などと言う紙を一枚渡して終わりだ。まして、我らの様な身分の低い地侍には感状すらないだろう」



「酷い話だ」



「竹太郎様、宜しいか?・・・皆者!竹太郎様が仰られた事は真実だ。だが、竹太郎様にもの申しまする!!皆の前では、例え嘘でも古河公方などと呼び捨てにせず、必ず敬称をお使いくだされ。竹太郎様の考えは良い。だが、その事が家臣の態度に現れてしまっては家臣どころか竹太郎様の首も飛びまする。何卒、御考え直しをお願いする」



「・・・すまぬ。そうであった。余りにも理不尽でな。腹が立った。それが態度や言葉遣いに出るようでは領主失格だ。皆の者、許せ。武士の家では権威や血筋が重要視される。武士である俺を考えると権威や血筋では古河公方様に遠く及ばぬ。今日の話は忘れてくれ」



 この後、兵量や武装に関する細かい事を取り決めた。兵量は各人が持ち運べるように以前、作って貰ったデイパックを参考に容量の大きいバックパックを作る事になった。

 家臣への説明は後日、彦左衛門殿から今回引き連れていく家臣などを説明する事になった。今日はこれでお開きだ。座敷には彦左衛門殿だけ残った。



「竹太郎様。先程は失礼を」



「いや、上手く行った。これで俺の考え方やこの戦がどう言うものか皆、理解しただろう?」



「十分だと考えます。少なくとも足利に考え無しに従う馬鹿らしさは理解したかと」



「この前、十兵衛との会話でな。足利の権威と言うものがこんな末端の商人まで浸透しているのかと驚いてな。このままでは、大事な家臣が口先だけの阿呆に従って無駄死にしては困るからな」



「フフフフッ。竹太郎様もお人が悪うございます」



「フフフフフッ。彦左衛門殿ほどではないと思うがな」



 将来、どんな名の知れた貴人の首でも俺が命じれば大根でも切るように首を刎ねる家臣でないと困る。生きていく為には力が必要だ。その障害となるものは例え誰であろうと排除するしかない。


 俺の様な海の者とも山の者とも知れぬ者が、この地獄のような世界で生きていくには権威や血筋を大事にする者つまり、従来の制度の中で既得権益にどっぷりと漬かる奴らをこの世から消すしかない。


 これは俺の家臣であれば全員、この事を肝に銘じなければならない。それには、タイミングが重要だ。阿呆が戦に勝って浮かれている時に後ろからバッサリやっては、俺の一族郎党が危うくなる。

 阿呆の家臣を少しずつ削って力を低下させなければならない。


 その点、後北条は立ち振る舞いが上手い。後北条は両上杉の力を面白く思わない足利に取り入って両上杉を滅ぼすべく動くような振りをして、関東を切り取って行くんだ。

 両上杉は足利と同じ選民思想で既得権益まみれの頼りになる仲間なのに、自分の血筋と権威しか頭にないから、自らの手で首を絞める事になる。


 




***************************************************






 小田喜城に登城する準備を進めていた。佐吉の大工組は弓や盾、面の用意が出来ていた。


 関次郎の方はどうにか鎧下を完成させたようで、見た目が体にぴったりとした白い厚手の麻の学生服の上下だ。首のカラーは竹から鉄板に変更していた。前回、あれほど暑いとか首が擦り切れて痛いなどの苦情があったが、大丈夫なのだろうか?俺の分も有ったので着てみると首回りもきちんとアシストされていて、鎧の弱点である首廻りや脇の下、下腹部、腿の保護もある程度は期待できる構造だ。


 さすが、ライダースーツを参考にしただけある。馬から落ちても脊髄を保護出来る。馬はいないけど。後は実戦で足りない部分を改良していけば良い。



「ところで、関次郎。この絵のような物を作れぬか?」



「これは毬栗(いがぐり)のようなものですね・・・何だろう?」



「分からぬか。これはまきびしという物だ。我が軍の戦足袋(いくさたび)や草履の底に竹が敷かれているが敵には付いていない。また、騎馬の馬は足に藁を付けているだけだ」



「あ?!これは・・・まきびしですか?これを撒けば我らを追って来れません。そういう事ですね」



「近いが少し違う。我らが一当てして逃げだしたら敵はどうすると思う?」



「それは追いかけて来ましょう」



「その時に先ほどのまきびしを撒くと、逃げる者に注意が行って撒かれたまきびしを敵が踏む。敵が混乱したところで逃げるのを止めて槍で敵に向かう。出来れば両脇に弓を忍ばせ、三方から敵を叩くのだ」



「敵が混乱してしまえば、少数で大勢に被害を与える事が・・・なるほど。流石は竹太郎様でございます」



 関次郎は鉄をどこからか出して来て早速、まきびしを数人の家臣と共に作り始めた。


 別に俺が考えた事ではない。今回の戦に出る家臣を集め、図で説明し実際に立ち回りをさせよう。今回は釣れた敵将を殺すのではなく、出来るなら新しい家臣が欲しい。

 

 その程度しかメリットが無い戦だから。


 俺は、彦左衛門殿と相談し、釣り野伏を家臣に練習させた。まきびしの代りに小石を蒔き、まきびしを蒔くタイミングも練習させた。


 俺の家臣は少ない人数だし、槍衾も10人以下で残りの家臣を釣った場所の左右両脇に忍ばせても大した人数じゃない。

 多少でも混乱させて被害を与えれば儲けものだ。本来なら、馬は高級品だから弓で馬上を狙わせるんだが、今回は馬を弓で狙おう。落馬した所を取り押さえ捕虜とする。


 捕虜とした者を俺の家臣にしたいが、公方の弟が『戦の勝ち負けは時の運。また、会おうぞ』と抜かして無罪放免にするのか?いつの戦いかは分からないが、確か原は負け戦の後、甲斐に行き家臣となり、風林火山の武田太郎(信玄)さんの時に活躍する。やっぱり、殺してしまった方が良いのか。

 太郎さん(信玄)の家臣になる本家の小山田は微妙なんだよな。独立色が強くて太郎さんとの関係も良くない。俺なら武田家より後北条の家臣の方が良い。


 本家の小山田家は余りパッとしないが、歴史的に見ると平安時代から続く名家だ。その意識が新興の後北条に(くみ)するに抵抗があるのか。


 




**************************************






 夜長月(よながつき)になり涼しくなって来た。実は明日は珠ちゃんの輿入れである。下川耳村から連絡があり、嫁取りは日が落ちてから行われるらしい?俺はやる事が無くてぷらぷらしているが、皆忙しそうに走り回っている。十兵衛の店の人間だろうか、沢山の品々を屋敷に運び込んでいる。


 俺は出来るだけ質素にしてくれと言ったんだが、これで質素なのか俺には判断がつかなった。



「竹太郎!お前、そこに突っ立っていたら邪魔だよ。暫く、家から出てってくれよ。―――――何だって?酒の置く所が無い??取り敢えず食堂に置いておくれ」



「うん。なんか手伝う事があればと思っていたんだけど、邪魔のようだから外に出てる」



「あっ?!そうそう。彦左衛門殿が明日、各村の村長がお祝いの品を持参して来るので直接、竹太郎が受け取り礼を言う様にってさ。後は案内の者に座敷まで案内させれば良いって」



「分かった」



 全く、邪魔者扱いかよ。各村の村長も呼んだのか。という事は小田喜城からも誰か来るのかな?まあ、いいか。




 神無月(かんなづき)の終わりに小山田家からは俺と竹次郎、浅利家からは彦左衛門殿、佐々木、川田が出陣し、家臣は12人連れて行くことになった。彦左衛門殿から小荷駄が必要だという事で、残りの人員で水が入った樽や兵糧(ひょうりょう)を運ぶ事になった。


 佐吉に急いで背負子(しょいこ)を作らせ、水樽は竹を通し吊るし数人で運ぶ予定だ。薪や鍋など細かいものが結構あった。それと、関次郎に小荷駄達の鎧下を用意させる。小荷駄達には打刀を持たせよう。小荷駄達の鎧はないが、鎧下を着るだけでも随分と違うだろう。


 俺の初陣の時と比較すると、凄く恵まれている。武士としての見栄(みえ)もあるかも知れないな。





 昨日遅くに少し雨が降ったようで中々眠れなかったが、次の日は晴れていよいよ嫁取りだ。俺は朝から気合を入れて増築させた新居を見回っていた。


 部屋に関しては当初の予定より部屋数が増えて8畳の部屋が4部屋、6畳が1部屋だ。8畳の2部屋は、俺と珠ちゃんの部屋、二人の寝屋、家族団らんの部屋だ。6畳は珠ちゃん付きの女中の部屋となる。俺の部屋には机と椅子、書籍棚が置かれていた。俺の部屋はフローリングと言うと聞こえが良いが板張りだ。座ると足が痛くなるので洋式に机と椅子がある。これは、俺達家族の居間もテーブルと椅子がある。

 その所為か、竹次郎も竹三郎も背が高くなって来た。浅利家も最近では俺の真似をしてテーブルと椅子を作らせたと言っていた。正座や胡坐(あぐら)での座る生活は膝などを圧迫して身長に悪影響を与える。

 彦左衛門殿も歳だ。テーブルと椅子の生活の方が膝や腰に負担が少ない。


 珠ちゃんの部屋は俺と同じ8畳だが全面畳で椅子と机、鏡台がある。

 そして、寝屋には既に真新しい布団が敷かれている。ゴクリ。


 8畳の夫婦のプライベート空間は、畳が敷いてあって大きな障子が二重になって付けられている。障子には、竹紙が貼られていて明るい。しかも、二重だから冬も寒くない。


 ここには屋敷のリビングに設置した壁暖房一体型のストーブの小さいのがある。子供が生まれて火傷しないように竹で作った高く頑丈な柵が赤ん坊を通さないように広く置かれていた。夏は柵を取り外せば部屋も広くなるだろう。


 しかし、何か足りない?・・・あっ!トイレが無い。わざわざ、母屋まで行くのは面倒だよな。佐吉に追加で普請させよう。


 特に他には問題が無さそうだから、玄関口で村役達の出迎を行えば良い。


 暇そうにプラプラしていると、ゾロゾロと村役達と村人がお祝いの品なのだろうか、何か荷物を色々と持って来た。

 俺は礼を言い。目録を受け取る。祝いの品は家臣が良く使う食堂に運ばれて行った。目録は竹次郎が受け取り、村役達を宴席に案内していく。

 各村の村役の挨拶が終わり、ほっと一息ついていると、何と!六郎殿が供を二人、荷駄を8人程連れて現れた。


 

「竹太郎殿。この度はおめでとうございます。これで小山田家も益々、繁栄なさる事でしょう。こちらは、三河守様からのお祝いの品でございます。そして、こちらは些少ですが某からの祝いの品です。お納めを」



 彦左衛門殿が案内を六郎殿に出したのかな?くれるものは貰っておくが、六郎殿は(じじい)の紐付きだろう。大方、俺と正木との関係を確かめに来たんだな。


 こんな時も気が抜けんとは、いやはや嫌になる。



 玄関には篝火が焚かれるように用意が出来ている。後は暗くなるまで、俺は待機だ。輿入れって言う事だから珠ちゃんが輿に乗ったまま部屋まで入って来るのかな?

 その辺は適当でいいだろう。



「兄上!行きましょうぞ!!」



「おいおい。行きましょうぞって。竹次郎、お前、顔が真っ赤だぞ」



「顔?顔がどうしたって言うのです??ささっ、皆が待っています。こちらへ」



 お前、大丈夫か?まだ始まってもいないぞ。

 竹次郎について祝いの座敷に行くと、既に宴が始まっているようだ。親父どもが五月蠅い。この時代の結婚式って式が始まる前からこんな調子かよ。


 あっ?!六郎殿ががぶ飲みして供の者に止められている。うっ!目が合っちゃった。



「おっと!主役が登場でござる。こっちに来て一緒に飲むでござる」



 こいつ、酔うと言葉遣いが可笑しい。他の奴らも肴を摘まみながら自由に飲んでいる。この時代の婚姻の儀などの形式など全く知らない。

 見た所、素面なのは俺と彦左衛門殿だけだ。庭を見たら家臣どもにも筵が引かれていて、一人一人膳が置かれている。こいつら、飲んだ事も無い酒をおっかなびっくりチビチビ飲んでいる奴もいる。


 父上や母上など俺の親族は、父上が普段寝起きしている部屋で固まって飲んでるようだ。何か俺が思っている結婚式とは違う。メインは俺を支えてくれる重臣達が主役の様だ。片側の席がガランと空いているから、こちらには弥次郎達が座るのだろう。


 こうして考えると、武士の結婚式とは単なる家同士の結びつきではなく、俺を中心とした家臣団の忠誠の場であると共に俺の力量を計る場でもあるのだろう。


  

「六郎殿。まだ、嫁との三献の儀も済んでいないのです。それを・・・」



「大丈夫でござる。これは酒ではござらん。水・・・清水でござる。ささっ」



 六郎!お前の連れが俺に頭を下げているぞ。お前、飲み過ぎなんだよ。

 ほら、彦左衛門殿が渋い顔して、うんうんと言っているぞ。普通、結婚式って乾杯の後、全員で飲むのだろう?嫁との三献の儀の前に既に飲んでいるってどうなんだ??



「六郎殿から進められたら飲まない訳にはいきませんな。では、一献だけ」



 ふ――――、やっぱり酒じゃないか。今日は、珠ちゃんとの初夜もあるんだから勘弁してくれよ。



「お――――!良い飲みっぷりですな、ささっ、どうぞ」



 こいつ、また注ぎやがる。



「いや某、酔ってしまいました。これ以上は・・・」



「いやはや。私もね。お役じゃなくて、自分の意思で来たかったんです。それを父上が『小山田は随分と銭周りが良い。何かの秘密があるやも知れぬ。お前、探って来い』とか言うんです。冗談じゃない。某は武士ですよ、武士!その様な真似が出来ますかって!!」



 隣のお付きの奴が目が飛び出るように驚いているぞ。彦左衛門殿なんか、うんうんと悪い顔をしている。それに、大声だから宴席が少し静かになった。



「「「・・・」」」



「・・・冗談、冗談!竹太郎殿、某はその様な真似は一切しませんのでご安心を」



 いやいや、酒が入るとべらべらしゃべる奴は一番信用出来ない。六郎はいつか酒が原因で主君から誅殺されるな。無礼講だと言われて、本気で無礼するタイプだから。



 


 暗くなって座敷には竹紙が貼られた雪洞(ぼんぼり)に蝋燭の火が灯された。最近は灯りに油が使われていたが、酔って倒しても火事にならないように今日は高級品の蝋燭(ろうそく)を使っている。


 不思議なもので初めは薄暗く、ちょっと気味悪かったが、慣れて来ると違和感が無くなった。不思議だ。俺の座っている前はガランと広く開けられている。祝いの人間が両側の端に座る感じで何か落ち着かない。


 暫くすると彦左衛門殿が座敷から出て行った。段々とざわざわと騒がしくなって来た。皆、立ち始めたから俺も立って待っていた。座敷の襖が開けられると、輿が数人に掲げられて入って来た。


 えっ!?座敷まで入るの?どんどん進み、俺の前に来ると誰かが口上を述べると、輿が降ろされ簾が上がり、珠ちゃんが真っ白の衣装で現れた。

 珠ちゃんが俺の横に立つと輿が下げられ、代わりに盃や榊が載ったテーブルが出て来た。何処から神主と巫女さんが現れた。神主が口上を述べてパサリ、パサリと払う。それが終わると、巫女さんが盃に酒を注いでくれた。

 ここでやっと、三献の儀だ。盃に口を付ける珠ちゃんを間近で見ると、いつも化粧などしないからその魅力が更に爆発している。

 

 やばい、なんか泣きそう。こんな大勢の前で泣けば俺の小さな権威に傷がつく。だから、我慢だ。


 三献の儀は神主が最後に口上を再び述べて終わりだ。神主や巫女さんが引き上げると、テーブルも片づけられて膳の位置が中央に近い位置に新しいもので並び替えられる。


 俺達の両脇にはそれぞれ彦左衛門殿と権左殿、弥次郎が並び、何故か三人とも泣いている。酒を注がれ泣きながら飲んでいる姿を見ると、弥次郎を除いて如何に俺が苦労を掛けているかしみじみと感じた。


 さあ、祝いの席だと辺りを見合わせると六郎が酔って寝ていた。それでも、珠ちゃんが輿入れしたせいか異常な熱気に包まれ、宴が進んで行く。


 途中、珠ちゃんが座敷から出て行った。トイレタイムだろう。幾ら何でも輿に長時間乗って来るんだから。



「なあ、竹太郎じゃなくて()()!俺はこれからもちょくちょく顔を出すけど、姉ちゃんいや、姉上を泣かせたら連れて帰るからな!!俺は今でも()()と姉上が一緒になる事に反対だ」


 

 おっ!珠ちゃんが帰って来た。途中、俺に絡んでいた弥次郎の頭にゲンコツを喰らわしてから席に座った。 

 

 弥次郎の奴、頭をゴツンとやられ、キョロキョロしていて珠ちゃんと目が合ったら急に大人しくなった。


 弥次郎、世の中な。逆らったら駄目なものがあるんだ。








 


 

 



 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新早い!素晴らしい! マキビシは鉄だと高すぎるので、粘土を焼いた陶器にするといい。土や石と変わらない天然保護色で尖った角あり丸い菱。カービィとかザクの頭みたいなもので充分。らしい。 ど…
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