第27話 出た!戦国最強の困った一族
地侍編の前半でした。大変申し訳ありませんが、今回はここまででございます。
年が明けて俺は19歳、竹次郎は12歳、竹三は10歳、吉三は13歳になった。去年は暮近くに八郎五郎様の御父上が逝去されたりと大きな動きが合った。正月は恒例のちゃんこを皆で食べてつつがなく過ごした。
「竹もとうとう(到頭)、今年は嫁を貰うのか。本当に目出度い事だよ。私はね。私が死んだ後、誰が竹の面倒を見るのか心配でどうしようもなかったんだ。これで安心できる・・・」
「さくら。なんも泣く事ないだろうよ。竹は竹なりに考えていたという事だ。心配する事はねえよ」
「でもさあ。聞いた話だと鬼姫とか呼ばれてんだろう?竹は小さい頃から変わっていて、それは理解出来ない事もあるさあ。時々、ぼ~としている所もあるけど、竹は竹なりに頑張っているんだ。だから、不憫でさ」
素面でその評価。俺ってどういう人間だ?酒は高いから買えません。まだ、酒を造る余裕も無いので飲むのは湯冷ましか、蕎麦茶だ。
「心配するなって、珠子殿は背だって高く美人だ。理想の女子なんだ」
父上と母上が顔を合わせて、やはり変わっている。本人が納得しているのだから、これはこれでいいんじゃないのか、という雰囲気でうんうんと納得していた。
家臣どもは全く関係の無い話で盛り上がり、飯をがつがつ食べていた。俺は最近知ったのだが、夜食と称して夕方以降に食堂におにぎりが置かれている。
何人かは実家の弟や妹に持って行くらしい。そう言えば、そろそろ、俺の弟が・・・、俺の妹が・・・とか俺がいると話すんだよな。つまり、雇えという事か。
城が出来れば小者とか小間使いを雇うんだけどさ。年貢も低くなって百姓も少しは楽になったと思うぞ。
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正月なんて言ってられない。俺は大広間に家臣を集めた。家臣どもは新しい畳の上に座っているんだが、良い匂いだとか、足が痛くなくて暖かいとか五月蠅い。
「これ!竹太郎様の御前だ。静かにせんか!!」
「「「「・・・」」」」
「うむ。それでは、昨年暮れの三河守様の葬儀の件など、これからの話をしよう。真里谷は八郎五郎様が跡を継いだ。今後、八郎五郎様が三河守様を名乗る。良いな。問題は、真里谷の中に武田を名乗る方がいて、真里谷は上総国上側真里谷城以下を所領として、武田は上総国下側庁南城以上を所領とする。我々は真里谷八郎五郎様に忠義を尽くすつもりだ」
「どういうことだ?」
「何故、名前を変えるんだ?」
「戦が始まるのか?」
「ここにいるのは殆ど百姓出身だ。だから、武士の習わしなど分からん者が多い。そこで、彦左衛門殿から説明して貰う」
「今回の事は、武士にとっての考え方の違いにある。通常は中央や名高い一族から枝分かれして地方に根付いた場合、その地で何代も重ねると血が薄まる。したがって、普通は名を変える。これは本家への礼儀である。だが、中には本家の権威にすがり、その権威を利用しようとする者もいる。分かり易く言うと、皆、立場が上の偉い人の言う事を聞くだろう。つまり、偉い人の力を利用すると言う事だ」
「なるほど。八郎五郎様は名を捨てて、本家に礼を示した。だが、武田を名乗りその権威を利用する者がいるという事ですか」
「まあ、そう言う事だ。名族に生まれると、中々その名を捨てられないんだろうな。それと、武士の世界は権威が全ての所がある。権威を利用する事は悪い事ではない」
「それなら、本家に対して礼を欠いている事になるではないか?」
「言葉は悪いが、銭で嫁取りを行えばよい。銭を積んで本家から嫁を取れば血が薄まったとは言えないだろう?」
「そう言う事かあ。武士は大変だあ」
そう大変だ。何をしても銭だから。だから、お前らにも沢山、銭を稼いで貰う。
今年初めて、十兵衛がやって来たんだが、女子を連れているな。珍しい。
「竹太郎様、大変でございます!」
「どうした?戦か??」
「戦と言えば戦でしょう。古河公方様の弟君様が還俗しまして、上杉様など名のある方々に御声を掛け、古河公方様に家督争いの為の戦を仕掛けようと各地に下知されています」
「古河公方と言うのは、元は鎌倉公方で関東管領の上杉を暗殺し幕府と敵対し、両上杉対公方の戦に成り、鎌倉に戻れなくなって部下の所領である古河に本拠地を移して公方を名乗っている奴だよな。今は幕府から古河公方として認められているのか。足利の身内同士の争いで多くの人間が死んだ結果が、今か。馬鹿らしい。そして、今度は兄と弟の家督争い。勝手にすれば良い。俺には関係が無い」
「いや。そうはいきません。幕府が公方様をお認めになった後も両上杉様の争いは今でも続いていますし、最近ですと古河公方様親子のお家騒動が有ったらしいです。この様に戦乱が長く続いて、以前の様な力はありませんが、それでも幕府に認められた古河公方様です。声が掛かれば武士の方々は集まり戦うでしょうな」
そうなると、弟さんの味方は、落ちぶれた扇谷上杉家だろう。兄の方は少なくとも親父を追い出す力があるから山内上杉が味方するはずだ。
そうなると、弟さんは何処で反乱を起こすんだろう?相模国の近くは扇谷上杉の領地だが、後北条がいつ進出して来るか分からない。
「つまり、真里谷も巻き込まれると・・・弟の方に付いているのは扇谷上杉家だな。三浦家は扇谷上杉の家臣だったが、扇谷上杉はろくに援軍も出さずに族滅するまで放置した。三浦家が滅ぶと相模国の実質支配が伊勢になった。扇谷上杉はどうしたと思う?愚かにも伊勢の相模国の支配を認めたんだ。そんな愚か者と一緒では、目の前の戦に勝ったとしても先が無い」
「竹太郎様。声が大きいです。こんな事を他の武士の方に聞かれたら首が飛びますよ」
「悪い悪い。でも、大丈夫だろう。真里谷が下総国まで行くまでに千葉や原がいるからな」
「それがですな。今の公方様は実の御父上を戦にて破り公方様になりました。その時に千葉家内でどちらに合力するかで内紛が起こり、以前の様な力はありません。原様も然りです」
どいつもこいつも馬鹿ばかりだ。他人の家の事で争い、死んでいく。何が権威だ、何が名誉だ。そんなもの糞の役にも立たない価値観だ。
「十兵衛!重要な知らせを持って来てくれて礼を言うぞ。また、動きがあれば教えてくれ」
「分かりました。それでは、失礼させて頂きます」
全く迷惑な一族だ。足利は幕府を作ったのは良いが、結局、平家の様に公家の真似事だ。権威と言うものがいつまでも続くと勘違いしている。
権威と武力が一体でなければ、権威なんて意味が無い。
権威を利用して、親子喧嘩や兄弟喧嘩を行う事の愚かさを何故?理解出来ないか不思議でならない。武士は権威を欲しがる。その理由はその武士の利益になるからだ。
下らない喧嘩に巻き込まれて何の利益も無ければ、造反する武士が出て来て当たり前だ。
どんどん権威が失墜していく。下克上の下地が出来ていく。でも、三郎信長さんも足利を利用していたな。そして、殺さなかった。
そうだ、関次郎に用があるんだ。以前、兜の下に取り付ける保護具を工夫させないと。鍛冶小屋に行くか。小川に近付くと、水車みたいのが見えるな。もう稼働しているのか。
「関次郎はいるか?」
「これは竹太郎様。ここにお越しとは何事でしょう?」
「去年、弥次郎の所へ行くのに、急遽作った鎧下を試しただろう?その時の着心地や問題点など聞いたと思うが、気になってな」
「鎧下ですか・・・散々でした。蒸れるとか、首に硬いものが当たり皮がむけたとか、動きにくい等。今は私を含めた3人で鎧下の改良と、鍛冶小屋の改良を行っています」
「であるか。夏場には戦が少ないが全くない訳でもない。鎧下の所為で暑さで兵が倒れる事があれば本末転倒だ。改良を頼むぞ。それとな、今日来たのはこれを見て欲しい」
「これは変わった兜ですね。おっ!?・・・裏側に・・・頭に被っても宜しいでしょうか?」
「構わん。それは俺が以前、作った兜だ」
関次郎が最初に頭に被り、残りの二人も代わり代わるに被って、手で兜を叩いたりしている。
「これは良いです。兜の裏に取り付けた紐が所々固定されて、兜と頭の間に隙間が出来ます。この工夫により兜を叩いても直接、頭に響く事がありません。それと、隙間があるので頭が蒸れるのも防ぐ事が出来るかと。それで、竹太郎様はその髪型をなさっているのですね」
俺がこの髪型をしているのは、好きだからだ。家臣の中には髪を伸ばし始めた者もいる。この髪型の良さを理解出来ない可哀想な奴らだ。
「良く分かったな。関次郎には、この兜を改良してその保護具を兜の裏側に取り付くようにして欲しい。保護具は汚れるので、交換出来る構造で作れ」
「ははっ。ただ・・・もう少し、人が居れば・・・」
「人の件は任せろ。上谷村で近々集める予定である」
更に、この前考えた戦足袋の図面を渡し、励め!と言ったら、呆然としていた。まだまだ、余裕がある。
八郎五郎様も今の家臣を纏め、再編する時間も必要だし俺の所領も安堵して頂いた。それに、これからは金箱の内房での攻防が焦点になり、外房まで構う余裕が無いだろう。俺の知っている歴史だと、里見と手を組んだ弥次郎の息子が小田喜城を手にするんだ。弥次郎は里見の家督争いに巻き込まれて殺される。
弥次郎の子供も哀れだ。幾ら母親が里見の姫でも親父が同じ血族の里見に殺されているのに、里見に従うとはな。世の無常を痛感する。
今世の弥次郎の嫁は俺の身内から出す。弥次郎待っていろ。
屋敷に近付くと何やら賑やかだ。女子衆の笑い声が聞こえて来る。気になる。
「何か騒がしいが、何かあったか?」
「あれ?竹かい。十兵衛が化粧道具を色々持って来てくれてね。試しにね。ほらっ!」
「・・・」
「後は、ほらっ!歯も化粧をしたんだ」
「・・・」
驚き過ぎて、固まった。何かリアクションしなければ。でも、母上や何人かの小間使いの化粧は、時代劇で田舎娘を表すような化粧だ。真っ白な顔に頬が赤く唇が真っ赤。しかも、母上はお歯黒をしていた。
確かに高貴な人間の中には男でもお歯黒をしている奴もいるだろう。
お歯黒は生理的に受け付けない。母上は父上が納得すれば良い。あっ!?珠ちゃんはお歯黒禁止だ。これは早速、お歯黒禁止の文を書かねば。
嫁取りの日に珠ちゃんがお歯黒で現れた日には、俺はどういう顔をしたら良いか分からない。
「竹も母ちゃんが綺麗になって驚いているのかい?」
「ああ、本当に・・・綺麗だよな?その白粉を見せて貰っていいかい??」
「構わないけどどうするだい?」
「まあ、見ててよ」
竈にはまだ、火が残っていた。炭の様になって燃えていた木の上に白い白粉をバラまいた。
「あれ?色が赤くなっていく。どういう事だい、竹??」
「色が赤くなっただろう。この白粉は鉛で出来ているんだ。昔の唐の国では永遠の命を求めて、水銀や鉛を飲んだりした、その結果、逆に命が短くなり病気で皆、死んでしまった。つまり、鉛や水銀は毒なんだ。鉛や毒は直接、飲まなくても化粧の様に肌に塗る事により害になるんだよ。俺が小さい頃、死んだ婆の所で読んだ本にそう書いてあった」
「え!?それは本当かい?竹、それじゃあ、母ちゃんは死ぬのかい??」
「大丈夫だよ。今回使っただけでは問題が無い。繰り返し使わない限り死ぬ事はない」
「竹太郎様!今、仰られた事は本当の事でございますか?」
「本当だ、十兵衛も白粉を火に掛けると色が変わったを見ただろう?鉛が入っているとああなると書物に書いてあった」
「・・・竹太郎様!お許しください!!この十兵衛一生の不覚。申し訳ありません」
「十兵衛。お前を叱るつもりは無い。この世の殆どの者が知らずに使っているだろう。そして、今までの白粉が毒だと広まっても、使う人間はいる。人間などそんなものだ。母上はこれから白粉を使う場合は米を粉にして使って下さい。さすれば問題が無い」
「米粉かい。米粉は以前試したけど、この白粉に比べると、色合いや塗りが違うんだ。・・・でも、毒だと言うのだから怖い。竹、他の化粧道具は大丈夫かい?」
お歯黒だ。お歯黒って実は歯には良いんだよな。広めたくないから、毒だと言うか?うーん。嘘を吐くのは駄目だ。一つの嘘がその人間の信用に関わる事もある。
「他は大丈夫。心配はないよ」
十兵衛が連れて来た女子も慌てて、手ぬぐいで化粧を落としている。化粧をしていた母上も流しで顔を洗うようだ。
どうせこの後、米粉で化粧をし直すんだろうなあ。
しかし、十兵衛の奴、化粧指南役の女子まで連れて来て俺から幾ら絞るつもりだ。俺も、竹次郎が生まれるまで父上と母上の3人だけで心細かった。
その所為か、母上には甘くなってしまう。俺は身内には甘いのかも知れない。この甘さが後に禍を招く事になるのなら、俺も変わらなければならないか。
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俺は上谷村へ家臣を集めに彦左衛門殿と吉三の3人でやって来た。予め村長の初右衛門に連絡してあったので、村へ行くと既に若い連中?と言うか童が広場にウロウロしていた。
俺は確かに家臣を口減らしの中から集めているが、童を集めている訳ではない。初右衛門は気まずそうに俺と目を合わさないようにしている。
「ごほん。初右衛門、これで全部か?」
「男が10人です・・・後は女子が三人ほどですか・・・」
全く、どうするんだよ。育ち盛りばかり集めて、俺が養うこの状況。そうだ、八郎五郎様から所領を安堵されたから小山田郷全体で農業改革がやっと出来る。最終的には残り二つの村からも家臣を集めるから大丈夫か?今度、竹次郎に計算させよう。
女子も最近は裁縫の人手が足りなくて困っていたから丁度良いか。
「分かった。全員、連れて行こう。男は全て俺の家臣とする」
彦左衛門殿と吉三に後は任せて、元次叔父さんの家へ俺一人で向かう。
叔父さんの娘の秋ちゃんを我が家の養女にして、弥次郎に嫁がせるつもりだ。上手くいくとかどうかは分からないが、取り敢えず相談しよう。
俺が叔父さんの家に近づくと、全員、家の前にいた。誰か連絡したのかな?
「これは竹太郎。立派になって、すっかり武士が板に付いて来たな。ささっ、汚いところだが上がってくれ」
三和土から板間に上がると、懐かしい感じがした。俺が育った家も同じ間取りだ。
「元次叔父さん、久しぶりです。先に伝える事があります。俺は今年、嫁を貰う事になりました。勝浦の正木弥次郎という者の姉君です」
「え!?本当かい。これは驚いた。竹は幾つになった?」
「俺は今年で19歳になりました」
「はあ・・・そうか19歳か。今まで大変であったろうな。これで、さくらの奴も肩の荷が下りるか。目出度いことだ」
「それとは別に相談が合って来たんだ。秋ちゃんの事だが、当家へ養女としてくれないか?」
「秋をか?それにしても突然だな。何故だ?」
「俺の嫁取りの話はしただろう」
「ああ、正木から貰うという事だな」
「弥次郎には嫁がいない。そこで、秋ちゃんを当家の養女にして弥次郎に嫁がせようと考えている。嫁ぎ先は武家だが、武家の女子の教育は俺の嫁となる珠子がする予定だ。無理にとは言わぬ。どうだろう?」
「秋は年子だったから今年、9歳になった。後4、5年もすれば嫁に行くだろう。弥次郎という者は歳は幾つだ?」
弥次郎の歳?そう言えば、珠ちゃんの事で頭が一杯であいつの歳を聞いてなかった。そうだ、嫁取りの段取りを進めている彦左衛門殿なら知っているだろう。
急いで、彦左衛門殿の所に行き弥次郎の歳を聞くと、呆れながらも教えてくれた。奴は12歳だった。珠ちゃんとは8歳の歳の差がある。弥次郎にとって珠ちゃんは母親代わりだったかも知れない。
「・・・すみません・・・弥次郎の歳は12歳だ。元気がよく面倒見の良い奴だ」
「12歳か。秋とは丁度良いのかも知れないな。秋はどう思う?」
「・・・母ちゃんの言う事に従う」
「秋も9歳。武士の嫁に秋をと言うのは怖い気がする。でも、吉三から聞いた稲の暮らしぶりを聞くと、このまま百姓を秋にやらせる事が幸せとは思えない。秋さえ良かったら、その弥次郎と言う人の所へ嫁に行きなさい。そして、秋が嫌ならいつでもここへ戻って来て良いからね」
「うん。分かった」
「それでは、俺が嫁を貰い、落ち着いたら秋を養女に貰い受けに来る。多分、今年の秋頃だな」
よし、話はついた。家臣を連れて、上川耳村へ帰るか。村へ帰るとやる事が沢山ある。その分、家臣も増えたが、足利兄弟の戦がいつ始まるとも分からない。
上手くいきそうになると、問題が発生する。八郎五郎様の下知に従い兵を連れて合力しなければならない。そうすると、幾ら銭がかかるか憂鬱になる。
あっ!?珠ちゃんと住む離れを普請しないと。忘れてた。家臣どもの生活は楽そうだが、俺の生活がちっとも楽にならない。
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上川耳村に帰って来て、家臣全員を広間に集めた。俺の右側には父上を筆頭に竹次郎、竹三郎、吉三が並び、左側には彦左衛門殿を筆頭に家人の佐々木源次郎と川田安兵衛が並んだ。目の前の家臣は15人プラス関次郎、佐吉、新たな家臣10人の合計27人がいる。
27人もいると流石に座敷もぎゅうぎゅうだ。
「今日集まって貰ったのは、上谷村から新たな家臣10人を迎える事になった。また、小間使いは3人増えた。家臣は長屋に住んで貰う。但し、今後、残りの村からも家臣を集める。そうすれば、今の様に1人部屋とはいかない。1部屋に2人で寝泊まりして貰う良いな。今までいたものは、新しい者にここでの決まりや暮らしぶりを教えるが良い。良いか?」
「「「「御意」」」」
「今年の初めに既に家臣だった者には、去年から起きた事を話した。新しい家臣は後で、ここにいる彦左衛門殿から説明がある。場所は食堂だ。彦左衛門殿、頼んだぞ」
「御意」
「皆を今回呼んだのは、近々古河公方様とその弟君様が戦をなさるという噂がある。これは信用出来る噂である。さすれば、大きな戦となり真里谷三河守様に合力せねばならないだろう。俺は出来るだけ、お前らが死なぬように鍛えて武具を与えるつもりだ。だが、幾ら鍛えてもお前らがさぼれば俺にはどうしようもない。死にたくなければ心して励め!」
「「「「はっ!」」」」
「それでは、家臣は解散。新しく家臣に成った者は、食堂の場所を古参から聞き、儂が行くまで待っていろ」
家臣がぞろぞろと座敷から出ていく。あっ!足をきちんと洗わない奴がいるな。畳が汚れている。彦左衛門殿も気が付いたようで厳しい顔をしている。
「残って貰ったのは、古河公方の兄弟喧嘩に真里谷も巻き込まれる可能性が大きいという事だ。ただ、弟君が下知を下したばかりで、味方の扇谷上杉の取り纏めが余り捗っていない模様だ。早ければ来年の早春、遅ければ晩秋だ。我々、小山田は三河守様から安房国の里見を牽制するように命じられて、勝浦に城を築く事も許されている。したがって、合力するにしても多くの兵を出す必要が無い。俺の予想では里見も弟君に合力するか少なくとも敵対しないと考えている。此処までは良いか?」
「安房国の安西氏を下した里見とはどういうものでしょうか?」
「俺が聞いたものを纏めると、元は上野国の国人だったのが、戦で敗れ族滅の危機にあり、その傍系が安房国に落ち延びて来たらしい。気を付けなければならぬのが、安西氏を主君としながら力を付けて下克上で安房国を制したことだ」
「つまり、智謀に富み権威を利用するという事ですか?」
「簡単に言うならな。穿った言い方をすれば、勝つためには騙し討ちも当たり前。騙される奴が悪いという事だ。そうで無くては、一族族滅の危機に少ない人数で田舎とは言え安房に落ち延びて安西氏に下克上して安西氏を家臣にするなど無理だ。俺達の真の敵は、里見だ。宜しいか?」
「「「御意」」」
「まだ時間がある。まずはこの上川耳村の全ての田んぼを乾田とする。それが終わり次第、上谷村、下川耳村、落合村の順に開発を進める。父上と竹次郎、頼む。浅利家は従来通り武具の使い方を教え鍛えてくれ。最後になるが竹三郎。お前は今日から浅利竹三郎を名乗るが良い。諱は彦左衛門殿から授けて貰え。また、吉三は竹三郎に付ける。吉三、竹三郎を補佐してくれ、良いな?」
「「ははっ!」」
「彦左衛門殿。至らぬ所も多いが、二人を宜しく頼む」
「この浅利彦左衛門時貞、この御恩は一生忘れませぬ・・・」
彦左衛門殿の諱は、時貞なんだ。諱は聞いていいものかどうか分からないからな。そう言えば俺の諱も彦左衛門殿には教えていない。
今度、彦左衛門殿に諱について聞いてみるか。
それとは別に頭が痛い。今のやれる事をやるしかない。古河公方の番頭さんである扇谷上杉と山内上杉が古河公方の家督争いが起きる度に対立すれば、番頭さん同士で戦い消耗し、戦力がどんどん低下する。番頭さんの力が低下すれば、即ち古河公方の権威も低下する。
地侍や国人は良い迷惑だ。勝敗が決しても新しい領地が増える訳でもない。要は身内の喧嘩だからある程度で手打ちして終わり、領地の奪い合いではない。
したがって、地侍や国人に手に入るものは、紙ぺらの感状か良くて訳の分からない関東だけで通用する?役職だ。つまり、公方様の為に戦ったのだから、武士としては名誉だろう、で終わり。
~守などは中央幕府に任命権があり、それも飽和状態だ。古河公方には幕府の要職の任命権はない。幕府からすれば面倒事ばかり起こす目の上のたん瘤だ。
俺に力があればこいつら全員、滅ぼしてくれるのに。
この悔しさは、内政で晴らそう。力を付けないと飲み込まれてしまうからな。




