第25話 秋晴れ
一部、簡単に手直しをさせて頂きました。
上杉氏は、藤原氏を祖にしているというご指摘があり、源氏ではありません。文章の中では伝承通り、弥次郎の父上に直接手を下したものは源氏を名乗る武士であるとの記述はそのままとさせて頂きます。
源氏の上杉は、源氏に従う上杉氏などのニアンスに変更させて頂きます。
ご指摘ありがとうございました。
誰か玄関から出て来たな。女子のようだ。
「弥次郎。その方達はどうしたのですか?」
「ああ、姉ちゃん・・・ごほん・・・姉上。こちらは以前、文を頂いた、小山田殿です」
分かったぞ。弥次郎よ。お前、姉ちゃんの前では猫被っているな。言葉遣いが全然、違う。
「ああ、文の・・・大きい方ですね。あっ?!これはご無礼を。今直ぐに足洗いをお持ちしますので」
家の玄関が低くて、首を曲げないと入れなかった。俺と彦左衛門殿が三和土に上がり、他は外で待機だ。俺の家は俺に合わせていたので天井も高かったが、この家は天井が低く間口は必ず首を曲げないと入れなく、部屋も頭が天井に着くかも知れない。弥次郎は150cm程度。姉上と呼ばれていた女子が165cmくらいあった。この時代からすると巨人だ。俺も巨人だけど。
弥次郎の姉ちゃんが俺の足を丁寧に洗ってくれる。綺麗な人だな。化粧など一切していないが、返ってそれが良い。俺がじーと見ていると、視線に気が付いたのか俺をチラリと見て頬が赤くなった。弥次郎がそんな奴の足など他の者にやらせろ、とか騒ぎだして姉ちゃんに怒られていた。
弥次郎よ。お前、本当に口が悪いな。
弥次郎は三浦氏の遺児らしい。幼さが残っていて姉ちゃんが唯一の家族で面倒を見て貰っていたんだろう。
足も綺麗に洗って貰い、座敷に案内された。板の間が一段高くなっている所があり、弥次郎の奴は当たり前の様に座った。その横には家の彦左衛門殿と余り年が変わらないような50歳位の爺さんが座っている。前世では50歳などまだまだ爺さんなどと呼ばれる歳では無いが、この時代は栄養事情が悪く寿命も短い所為か髪なども真っ白だ。
「爺。こちらが小山田竹太郎殿だ」
「・・・小山田殿?!ほう?小山田氏と言えば小山田荘の小山田殿でございますか??某は弥次郎様の宿老を賜っている正木権左と申します」
「であるか。某は小山田竹太郎である。後ろに控えているのは、浅利彦左衛門だ。宜しく頼む」
「文を拝見致したが、誼を通じたいとは、目的は何でしょう?」
挨拶もそこそこいきなり本題に突入だよ。難しい話をしても弥次郎の奴、分からないし飽きるだろうからな。
「ああ、その前に拙者から宜しいですかな?権左殿こちらの書状を見て頂けるか??」
「・・・ふむ。・・・これは・・・なぜ勝浦に来たのか分かり申した。つまり、真里谷様の指示で勝浦を渡せという事ですか」
「何!勝浦を寄越せと申すのか!!その様な事、応じる訳なかろうが!!!」
「これは弥次郎様。落ち着いて頂きたい弥次郎様、勘違いして貰っては困りますな。ここに居られる竹太郎様の文にある通り、弥次郎様と誼を通じたいと」
「お前は俺を馬鹿にしているのか!あの様な書状を見せられて誼を通じたいもなかろう!!」
「弥次郎!いや・・・弥次郎様。落ち着いて下され。それに彦左衛門殿に対してお前とは、礼を逸していますぞ!!代わりに謝罪致しまする。若はまだ未熟者故、申し訳ない」
「いやいや、こちらも少し不用意だった。この事は水に流そう」
「しかしだな!・・・」
「まだ、お分かりにならないか?小山田様が率いて来た8人の武具をご覧になりましたか??あれ程の武具を持つ武将を引き連れているという事は、その下に足軽や農民を集めて戦に成れば、我らは勝てませぬ。しかも、旗印は小山田様の旗印のみ、これが真里谷様の兵が加われば一溜りもありませんぞ!」
「くそっ!・・・。分かった。すまぬ、彦左衛門殿に礼を逸した事、この通りだ」
「お互いに、こうして顔を合わせて話をして、今あるようなしこりを無くしたい。正直に話すと、このまま放置すればいずれ真里谷様は勝浦を攻めて、城を建てるだろう。でも、そうすると俺の利益は無い。俺には海が必要なんだ。でも、海を渡る船を作る技術や船を操る技術は無い。そこでだ。正木と小山田はお互いに協力し合って出来る事があると思うんだ」
「それは具体的にどういう事でございますか?」
「それはな。正木は魚や塩がある。小山田は米や木材がある。お互いに交換するだけでも大きな利益が得られる。つまり、お互いの弱い所を補うんだ。それだけではないぞ。まだまだ、銭儲けの種が俺にはある。どうだ、弥次郎よ。俺と組まんか?」
「組む?ふん。俺を騙すつもりだな。そうは(分かり申した。少し、時間を下され)・・・」
しかし、弥次郎は何でこんなに喧嘩腰なんだ。権左殿がいなければ纏まるものも纏まらない。全く、困った奴だ。
今日は、この屋敷に泊めてくれるらしい。家臣どもは2軒の空き家に泊まる事になった。
案内された部屋で彦左衛門殿と今後について話している内に暗くなって来た。姉ちゃんが部屋にやって来て、俺達の為に細やかだが宴を開いてくれるらしい。
その時に名前を聞いたら、恥ずかしそうに珠子と名乗った。
珠ちゃんに連れられ部屋へ通されるとむさ苦しい奴らが十人くらいいる。
上座に弥次郎の奴が座って親父どもに囲まれている。お前、むさ苦しくないか?何だよ。女っ気が無い宴会とは、衆道の集まりじゃあないだろうな。衆道会にようこそ、とか言われても困る。
この白く濁っているのは酒だろうな。
「よし!揃ったな。今日は遠路遥々、小田喜城より参った小山田竹太郎殿だ。我らと誼を通じたいらしい・・・。竹太郎殿、大したもてなしは出来ないが楽しんでくれ。皆もな」
「「「「おう!」」」」
小田喜城からか。つまり、皆にあいつは真里谷の家臣だ。気を付けろよ、と言う所か。別にいいけど。この濁ったのがこの時代の酒か?この世に生まれて初めて飲む酒だが。前世ほど洗練されていないだろうから。余り飲む気はしない。でも飲まないと失礼に当たるのだろう。飲むか。
うっ?!米のとぎ汁に薄いアルコールを混ぜた様な味だ。周りを見ると、皆、旨そうに飲んでいる。酒は貴重品だからな。弥次郎の奴も無理をしたのだろう。
杯を飲み干すと、誰かが酒を注いでくれようとする。と言うか良い匂いがしたので、右を向くとどうぞと、珠ちゃんが酒をなみなみと注いでくれる。
上手い!先程とは全然違う。珠ちゃんが注いでくれる酒は旨い。
視線を感じてその方を向くと、鬼のような顔で弥次郎が俺を睨んでいた。俺がよう、と手を挙げると横をプイッと向く。なるほど。俺に姉ちゃんを取られると思っているんだな。
ぷっくくく、弥次郎、可愛い奴だ。
酒が進み。宴が盛り上がって来ると、弥次郎の奴が何か思い付いたように俺を見た。
「そう言えば、竹太郎殿は舞が得意とか。ここで自慢の舞を披露して頂けないか?お願いする」
弥次郎!この野郎。舞など出来る訳ないだろう。皆の前で俺に恥をかかせるつもりだな。特に姉ちゃんの前で、ほら、あいつカッコ悪いだろう的な事が目的か。お前、性格悪いな。
「弥次郎!竹太郎様はお客様ですよ。もてなす側がお客様に対して舞を求めるなど礼を逸していますよ」
不味い。シーンとして全員で何故か俺を見ている。お前、この状況をどうにかしろと視線で言われても困る。でも、このままでは気まずい。とても誼を通じる雰囲気ではない。
織田三郎さんの歴史ゲームは良くやったよな。その時、敦盛を調べて、動画で繰り返し見て歌詞も所々覚えている。でもなあ。三郎さんの敦盛は能ではないんだ。幸若舞の敦盛なんだ。動画は地味だった。ゲームの三郎さんの様に扇子なんか持たない。扇子は能の影響なのかな。
宴会で酒も入っているから、誤魔化せるだろう。それに、ここにいる奴らはどんな舞かも知らないだろうから、どうにかなるか。
「珠子殿。まあまあ、この小山田竹太郎。小山田を伊達に名乗っているものではありません。祖を正せば平安の頃から脈々と続く家。舞の一つでも出来ぬとは田舎者との誹りを受けましょう。それでは、敦盛の一節を舞いましょう」
おおっ!膳が片づけられて皆、座敷の端により中央にぽっかり空間が出来た。うっ?!凄い注目されている。やばい、緊張して来た。
ええい!ままよ!!
「さて、舞うのは敦盛だ。時に平家滅亡近く僅か16歳の平家の若い武士が源氏に討たれてしまう。しかしながら、この源氏。戦にて同じ年の息子を亡くしていた。息子と同じ年の人間を手に掛けなければならない。その心内を舞おう」
「思へばこの世は常の住み家にあらず
草葉に置く白露、水に宿る月よりなほあやし
金谷に花を詠じ、榮花は先立つて無常の風に誘はるる
南楼の月を弄ぶ輩も 月に先立つて有為の雲にかくれり
人間五十年、化天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり
一度生を享け、滅せぬもののあるべきか
これを菩提の種と思ひ定めざらんは、口惜しかりき次第ぞ」
「「「「・・・」」」」
シーンとした中、シクシクと鳴く声が隣から聞こえて来る。見ると、珠ちゃんが泣いていた。周りを見ると、弥次郎以外は涙を堪えている。弥次郎だけポカーンだな。権左なんか、ウオーとか言って泣いている。
不味い。折角の宴会が湿ってしまった。これはこれで不味いぞ。
「ゴホン。我も平氏。ここに居る者全員、平氏だ。元々関東は平氏の物だった。平家が源氏に敗れてから源氏は幕府と言うものを作り、この日の本の国々を支配する為に守護を任命した。だが、守護の多くは源氏である。平氏は源氏に良いように利用され最後は殺される。このままでは、この日の本は源氏のみの天下になるぞ。違うか?」
「確かにそうだ!」
「源氏の奴らめ!」
「奴らの好き勝手にはさせないぞ!」
「ふん!嘘ばかり吐くな!!三浦は同じ平氏である伊勢に・・・伊勢に」
「ほう?弥次郎殿は知らぬようだな。そなたの一族を滅ぼしたのは源氏ぞ。源氏の武士が直接手を下した。それとな、三浦家の主君の上杉は三浦が攻められても援軍すら送らない。見殺しだ。その上、伊勢新九郎殿の相模国支配を認めている。これがどういう事か分かるか?相模国を実質支配していた三浦家は上杉から見れば目の上のたん瘤だった。だから、伊勢新九郎殿を利用して族滅させた。源氏に従う上杉の事情はどうあれ、源氏は平氏を利用し、都合悪くなれば殺す」
「嘘だ!源氏が父上を殺したなど、信じぬぞ!!一族を殺したのは伊勢新九郎だ!!!」
「・・・若。それは違いますぞ。竹太郎様の言う通り、若の父上を亡き者にしたのは源氏を名乗る武士でござる。若を三浦から連れ出すときに某以外にも見ております」
「嘘だ!俺は信じぬぞ!!爺、父上を亡き者にしたのは伊勢であろう?・・・何故?嘘を吐く??・・・伊勢だ・・・伊勢」
「若!いいや弥次郎様!!爺が今まで嘘を申した事がありましたか?・・・情けなや・・・これでは亡くなられた陸奥守様に申し訳が立たぬ。今直ぐ、この腹を掻っ捌いて陸奥守様の元へ参ります。御免!!!」
うわー、爺が死ぬとか言い出して、皆で止めるとかもう宴会どころではない。
「爺!・・・俺はどうかしていた。どうか・・・死なないで・・・俺を独りにするな・・・」
弥次郎は泣き出すし、どうするんだ、これ?彦左衛門殿がこちらを見ている。えっ?!俺がどうにか纏めるのかよ。
「皆の者!落ち着かれよ。三浦は源氏に従う上杉に利用され、戦の先方として使われていた。上杉より相模守護代にされ、その代わりに上杉の戦いに巻き込まれ一族の者が死んでいった。いつかは使い潰される運命だったんだ。大方、弥次郎殿の御父上を亡き者にしたのは、上杉の家臣かも知れぬな。違うか?権左殿」
「それは・・・でも、幕府には逆らえん。幕府より守護を得た上杉を主君として仰ぎ生きていくしか道は無かった。それが使い潰されると分かっていても生き残る為には栓無き事」
「この関東を見ると、公方を称する源氏もいる。上杉の様に源氏の権威を傘に守護職に就くもいる。それらは身内同士でいざこざを起こし周りを巻き込み戦を始める。この関東がいつまで経っても争いが無くならない理由だ。弥次郎殿は新九郎殿を良く思ってないようだが、新九郎殿の事を考えた事があるか?単なる成り上がりだと考えているなら間違いだぞ」
「俺は・・・伊勢は仇だ・・・そう思っていた・・・」
「恨むのは仕方が無い。でも恨みで目が曇っていては本当の事は分からん。新九郎殿が短期間で伊豆国、相模国を制したのはよく考えると妙であろう?伊豆国には足利を名乗るものがいて、相模国は上杉が守護として幕府より任ぜられた国だ。どう考えても新九郎殿は幕府の意向で動いているとしか思えない。そうでなくては、今川から兵を借りたり地侍や国人が協力するはずがない」
「そんな・・・そうなのか・・・」
「まあ、信じなくとも良いよ。これは俺の考え方だからな。ある権威に勝つにはより大きな権威。これしかないと思う。弥次郎殿。これからの世は荒れる。つまらない事に拘り、源氏に騙され利用されない事だ。俺はな、弥次郎殿とも誼を通じたいが、新九郎殿とも誼を通じたい。そこでだ。弥次郎殿、珠子殿を嫁に貰いたい」
「うん、うん・・・?!はあ―――――!お前殺すぞ!!駄目に決まってんだろう!!!姉ちゃんも嫌だろう?こんな奴??」
「(ポッ)」
「え―――――姉ちゃん・・・」
「えっ!鬼姫を」
「物好きじゃあ」
「まあ、同じ鬼同士・・・」
何だよ、鬼姫って。珠ちゃんは凄い美人だぞ。背はもう少しあった方が良いが、この時代だ。仕方が無い。
「これは目出度い。この権左、姫を嫁に出す姿を見られるとは長生きはするものじゃ。良し、日取りを決めて進めましょう」
弥次郎は石になった。この後、目出度い目出度いと凄い盛り上がりの中、一時はどうなるかと思われた宴会は終わった。
嫁取りの細かい日程は、彦左衛門殿と権左殿で決めるらしい。弥次郎の元気が無いからこれからは俺を兄上と呼べと言ったら、ふざけるな!俺は認めていないからなと元気を取り戻していた。
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次の日、家臣どもに俺の嫁が決まった事が伝わると、目出度いとか騒ぎになった。今日は、勝浦に俺の城を建てる場所を弥次郎達と決めようと思い、もう一泊する事になった。
「弥次郎。俺は勝浦に俺の城を建てるつもりだ。それと共に城下町も普請する」
「はあ?城ならもうあるだろう??」
「あれは砦だ。戦には良いが、これからの城としては話にならない。例えば、木材で出来た小さな砦と石で出来た大きな城があった場合、お前ならどちらを攻める?」
「そんな事、決まってるだろう。小さい砦だ」
「何故だ?」
「それは小さな砦の方が攻めやすい。こんな事誰でもわかる事だろう?何が言いたいんだ??」
「要は大きな立派な城を作る事により、つまらない小さな戦が避けられるという事だ。更に商人から見た場合、城の持ち主はそれだけの財力を持っている人間であり、銭儲けが出来ると考える」
「ふん!商人がどうした。あんな奴ら戦にはなんの役にも立たないぞ」
「弥次郎よ。お前が食べる米や着物、武具。これは銭で買うだろう。もし、商人がいなければ兵糧もろくに買えず、兵が飢えるぞ。武具が無ければ負けてしまう。銭が無ければ船も作れん」
「船が作れない?!それは困る。銭が必要か。確かにそうだな」
「その銭を沢山持っているのが商人だ。だから、商人に税を掛けて銭を取れば良い。城下町を作り、そこに商人を集めて税を掛け銭を集めるのだ」
「なるほどな。俺達は漁をしたり、この辺を通る船から銭を集めているぞ」
「そうだろうな。だがな、税が高過ぎると商人が寄り付かなかったり、この港を避けるようになる。だから、商人の話をよく聞き、商人が儲けられる程度に取る銭を決めねばならんぞ」
「・・・うーん。難しいな。竹太郎殿(兄上だ!)・・・兄上は商人のようだな。今までそんな事を考えた事も無かった。昔からの流れで取る銭を決めていたからな。銭を取り過ぎると、ここに立ち寄らない。取る銭を少なくすると銭が足らなくなる。難しいな・・・」
「そうだ。難しい。だから、商人や色々な人間から話を聞かねばならない。多くの人から話を聞けば、自分の考えが間違っているか正しいか分かる」
「・・・多くの話を聞くか。確かにそうだ。・・・俺も皆から話を聞き、間違いに気が付いた。ところで、城と言っても多くの木と銭が必要になるし、勝浦の何処に建てるんだ?」
「この辺は、海の近くは平地だが、平地に至るまでが坂と言うか傾いていて大きな平地がないんだよな。かと言って海と余り離れていては、城下町が賑わない。しかし、寺とか邪魔だな。潰す訳にもいかないし、しょうがない。彦左衛門殿、筆と墨があるか?」
俺は俺の記憶にある勝浦の一部の地図を描いた。
「うん。こんなもので良いだろう」
「なあ、なあ?これって地図か??この丸は何だ???」
「これは弥次郎の砦だ」
「嘘吐け!俺の城はこんなに小さくないぞ!!」
「・・・これは?!これが勝浦ですか・・・うーん、海から見た所と比較すると確かに」
「爺、俺の城はこんなに小さいのか?」
「弥次郎様。弥次郎様も海から見た勝浦と比べれば、分かるはずです。この地図が間違っているとは言えませぬ。しかし、何故?こんな正確な地図が・・・」
「俺は、土地を遠くから見ると大体の地形が分かるのだ。まあ、そんな事よりだな。城の場所だ。弥次郎の砦が攻められた時に合力しなければならないから、余り離れず、かつ、街道に近い方が良い。この辺だな」
「ここは、小さいながらも山があるから城を建てるのは大変だぞ」
俺が示したのは、前世で勝浦市役所があった場所だ。今は小山で大きな木は余りない状態だ。木を切ったら植林しろ弥次郎。
確かに重機が無いから人力なんだよな。この辺も接収して人を集めないと駄目だ。城が建つまで、平地に俺の家やら家臣の長屋をばらしてこちらで立て直さないとならないな。
折角、建てたばかりなのに、もう引っ越しか。
何れにしろ。八郎五郎様に一度、報告してどうなるかだな。勝浦召し上げだ、なんて最悪だぞ。考えても仕方が無い。
さてと、吉と出るか凶と出るか。
「弥次郎よ。まだ先の話だ。今回の事を八郎五郎様に知らせねばならぬ。その上でどうするか?という話になる。その時は改めて話そう。この辺の土地の接収や年貢など色々決めねばならない。今度来た時は、弥次郎に米が沢山採れる方法を教えてやる」
「米が沢山採れる方法?それが本当なら兄上、頼むぞ!」
ここを拠点として開発して領地を広げてやる。家には娘がいない。将来、弥次郎の嫁に身内から嫁がせたい。元次叔父さんの家から養女を貰う。そうして、珠ちゃんに武家の女子としての教育をして貰えば良いだろう。
さてと、上川耳村へ帰るか。




