第15話 名乗りを上げよ
誤字のご指摘ありがとうございました。一章はこれで終了です。二章は色々なギミックを用意させて頂いています。
これで一旦、筆を置かさせて頂きます。ありがとうございました。
朝、寒くて目が覚めた。他の連中も起き出してきた。あれ?俺が鍋を貸した奴が起きてこない。凍死したんだろうかと思い、鍋を取るとグッスリ寝ていた。こいつ、緊張感というものが無いのか。暫くするともぞもぞとし始めたので、俺の村では凍死した奴はいないようだった。
だが、どうやら他の村の連中はそうは行かなかったようだ。同じ村の連中が穴を掘って死んだ者を埋めていた。
飯は雑穀の硬いまま。近くで人が凍死している。これで士気が上がるなど考えられない。このまま戦うんだよな。
日が昇るのとほぼ同時に敵の先陣が現れた。どうも直ぐに戦うようだ。陣形を整え始めた。多分、ここからそんなに遠くない所で野営していたのだろう。声を上げて歩く姿に歩き疲れた様子は見えなかった。
整列した敵の本隊の位置は俺達の位置から見るとほぼ側面だ。幕が見えるから本陣は少し後方に位置している。上手く行けば敵の意表を突く事が出来るだろう。
「おいおい、彦三郎。敵、多くねえか?俺達の5倍はいるよな??」
「そうだな。もう少し多くて1500人程度はいるんじゃないか」
「はあ?俺達200人しかいねえぞ。城には沢山いるんだろうな」
「いや、今回は敵の進軍が早くて多分500人程度しか詰めてないらしい。昨日、足軽頭の鈴木様が仰っていたのを聞いた」
聞いたんじゃなくて、盗み聞きしたが正しいんだろう。兵数で完全に負けている。1500人相手に士気が下がった200人で側面を突いても擦り潰されるだけだぞ。これは一当てして逃げるか。庁南城が一日でも保ってくれれば村に帰れる確率が上がるだろう。
村に帰れば、新しい領主の元、いつもの生活が戻ってくるはずだ。
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おっ!流石に名乗りは無いが、敵の鏑矢が音を立てて飛んでいく。どうやら開戦のようである。ここから見ると明らかに守備側の人数が少ない。先陣でいきなり1/3の500人程度が突っ込む。敵の先頭に矢がパラパラ放たれるが、殆ど勢いが止まらない。先陣に続き敵の弓隊が曲輪に向けて矢を放ち始めた。
やばいよ。弓の数が違う。明らかに火力の違いが出ている。
更に庁南城からの弓矢が少ないと見た敵は、全軍で押し出して来た。城の兵数を少ないと見た敵が一気に片を付ける気だ。非常に拙い。敵の勢いを見て曲輪から逃げ出そうとする百姓も現れた。
彦三郎が足軽頭の鈴木さんを見ているが、ただ見ているだけで突撃の合図も無い。そのままジッとしてて貰いたい。戦が終われば百姓は一時足止めされるかも知れないが、暫くすれば解放される。
と言ってもこのままここにいる訳にも行かないだろうから、いずれにしろ突撃だよな。あっ!火縄に火が付いてない。後ろの方でこそっと小さな穴を掘り藁屑を入れてカチカチと。
「あ!竹、何やってんだ!!」
「(しー、お前、声がでかい。直ぐ消すから静かにしろ)」
あっ、拙い。大声出すから鈴木さんがこっちに来る。急いで穴に土を掛けて火を消して、上から小便を掛けて誤魔化そう。
「うん?!どうした?・・・あっ!お前、こんな所で小便するんじゃない。離れた所でやれ。全く、だから百姓は困るのだ。田んぼと戦場の区別も出来やしない」
いやいや、これは誤魔化すための行動だから。幾ら百姓でも田んぼと戦場の区別くらいつきますよ。
その時、俺達から見て右側から突撃した敵の側面を突く様に味方が現れた。人数は俺達の倍はいるようだ。勢いよく突進していく。
敵は少しづつ崩れ出した。
「よし!八郎五郎様からの合図じゃあ、突撃!」
鈴木様が先頭を走っていき、その後を彦三郎が付いて行く、俺達は更に金魚の糞の様に付いて行く。あれ?鈴木さん戦場はあちらですよ。そっちには敵の本陣しかない。本陣の前には槍を持った兵と弓を構えた兵もいる。その後ろには馬が乗った人達がこちらを睨んでいて、突撃すれば大勢が確実に死ぬ。
八郎五郎さん、まさか俺達を捨て石にして敵の大将首を狙っているのか?
俺は盾を構えて走っていたが、矢が時々カンカン当たっている。どうも、俺の背が大きく目立つのと、黒い手製の鎧が余計敵の好奇心を煽るらしい。
敵陣に20mくらいに近づいた時、突然、彦三郎が糸の切れた操り人形の様に俯せにパタリと倒れた。どうしたのか心配で彦三郎を起こすと、首を矢が貫通していて倒れた影響か矢が途中で折れていた。
どうしたものか鈴木さんを探したが姿が見えない。多分、殺られたんだ。彦三郎の班の連中は蹲ったり、泣いたり、呆然としたり様々だったが、このままでは全員死んでしまう。
「お前ら!死にたくなければ俺の言う事を聞け!!いいか、4人ずつ分かれて俺の班は俺が先頭で盾を持ち、矢を出来るだけ防ぐ。他の連中は俺の陰から敵を槍で突け。おい、お前、その竹槍を捨てて彦三郎の槍を手に取れ、お前は刀を腰から下げろ」
飯時に鍋を持っている奴がいたから、もう一つの班の盾役とした。戦い方は俺達と同じだ。馬に乗った武士が弓で狙っているのに盾もなく突撃ってどうなの。突撃側の人数が多ければ全員矢が刺さる前に矢が尽きると思うけど、盾にされる百姓は堪らない。こちらの被害が大きいと見て、徒の連中が槍を手に突撃して来た。
拙い。敵の弓で士気が下がり、混乱気味の所を突かれたら瓦解する。
「おい!そこの鍋。こっちに来い!!皆、俺達の後ろに並んで俺達の隙間から槍を突き出せ!!!」
槍衾は無理だけど、俺達は弱い。弱いからバラバラになったら殺られる。突進して来た奴もたった8本の並んだ槍だとは言え、串刺しになる訳にも行かずに立ち止まる。そこを皆で突く。突いて突いて突きまくる。
敵はドンドン怪我をして後ろに逃げていく。逃げる奴は放置だ。逃げる奴を見た奴は怖くなって逃げる。恐怖心というものは感染るものだ。そう病原菌のように。
与四郎の班を探すと、徒の武士が襲い掛かっていた。
「与四郎が危ない!あの武将を打ち取るぞ!!」
「はあ?竹よう。あんな立派な鎧を着た武士は無理だ」
全く、与四郎が殺られたら次は俺達の番だろうが。与四郎に集中している今こそチャンスだ。俺は槍を近くにいた奴に預けるとクロスボウを手にした。
「馬鹿野郎!与四郎が殺られたら次は俺達だぞ!!殺される前に殺すんだよ、お前らついて来い!!!」
反応は様々だった。多くは俺の後ろをついて来た。俺の槍を渡した奴も渋々だったな。走って俺の確実に狙える射程5mに武士を捉えた。背は俺より小さいが、近づくとなんか圧を感じる。
「足軽風情がどうした?ああっん!今すぐ楽にしてやる!!」
「おい!そこの腰抜け武士!!お前だよ、お前!!!」
与四郎を狙う槍がピタッと止まり、鬼の形相でこちらに目を向けた。その目を見た瞬間、背中を冷たい汗が流れる。蛇に睨まれた蛙だ。人殺しを何とも思わない奴だ。体が自然にブルブル震える。
「小僧!百姓の分際で死にたいらしいな。死ね!!・・・うっ?!」・・・ドサッ
俺は練習通り機械的に奴の顔を目掛けて、クロスボウの引き金を引いた。ボルトは奴の左目を捉え、深々と刺さり、奴の命を刈り取った。その瞬間、戦場の音が聞こえない。静かだ。
「竹!やったな。大手柄だぞ、竹!!」
俺は立ったまま気絶していたのか?覚醒したら、与四郎が大声を上げて俺を呼ぶので現実に戻された。
「どうした?ボッとして。さあ、名乗りを挙げろ!」
「ああ・・・そうだな・・・。そうだった!俺はやったのだな!!上川耳村の竹、敵の武将を打ち取ったりぃー!!!」
「「「「おおう!」」」」
与四郎の班に気が付くと、与四郎を入れて4人しかいない。他は死んだのか聞くと、怪我をしたので寺の近くの雑木林に隠れているとの事だった。
俺達もそうだが、相手が百姓だと足や腕を狙って槍で刺す。向こうの百姓も大体、同じだ。手や脚ならば怪我をしても死ぬ事は無いし、堂々と戦場から離脱できる。でも事故は起きる。狙う訳では無いが、急所に槍が刺さる事もある。
怪我をして戦場から離脱する百姓を追いかけて殺すアホは、余程の殺人狂だ。
何故か先ほどの武士を打ち取ると、周りの敵が逃げ始めた。それを足軽頭みたいのが引き留めるが、百姓の足は止まらない。前線も勢いを失って総崩れだしな。これは勝ち戦かな。
「鬼だ!鬼が現れた!!左衛門佐様が打ち取られたぞ!!!」
失礼な奴だ。鬼じゃねえ。この俺の手製の鎧のカッコよさが分からないとはしょうがない奴らだ。
あれ?!なんか騎馬が一頭こっちに走って来るんだよな。時速30km/hくらいだろう。重い鎧を着た武士を乗せて足元だって、芝やダートじゃない。小石だってゴロゴロして、大勢の人間が歩いた轍だってある。むしろ、時速30km/hは優秀か。
はあ?お前らなに驚いているの??ああ・・・そうか、俺の前世の様に時速30km/h程度で走る車やバイクを見た事が無いものな。百姓からしたら馬に人が乗り、時速30km/hで走ってくるのは恐怖なんだな。
スペイン人に滅ぼされたインカ人じゃないんだからさ。馬に乗った人で驚いてんじゃない。
「下郎があ!叔父上の仇!この原治部少丞がその首、打ち取ろうぞ!!」
おっ!こっちに向かって頭に血が上った奴が向かって来る。俺は火縄銃に火薬一体型の弾丸を込めて火口と火皿に火薬を用意した。
これは最早、正面から近づいて来る恰好の的だ。目測5mでドンだ。
「10m、9m、8m、7m、6m・・・今だ!ドーン!!」
銃声が響き渡ると馬が驚き跳ねた。音が驚くほど戦場に響き渡り、敵味方関係なくこちらを見ている。中には鬼が雷を使ったとか喚いて逃げていく奴もいる。
うん、かなり目立っている。
「ヒヒ――ンッ!」
「おうっ?!」
おっ!馬から落ちた。よし!貰った!!うわっ?!
危ない。俺が槍持ちから槍を受け取り、止めを刺そうとすると、馬で突っ込んで来る鎧武者がいた。敵かと思って良く見りゃあ、八郎五郎さんだ。
「邪魔だ!雑兵がどけ!!どりゃあ!!!」
槍で首を一突きだ。即死だな。
「若殿、御見事!(ザシュッ)原の首でございます。これを」
「この真里谷八郎五郎が原治部少丞を打ち取ったり~~!」
この事が決定的になったらしい。本陣にいた連中も我先に逃げていく。八郎五郎さんが雑兵は捨て置け、武将の首のみ上げよと叫んでいる。
八郎五郎さん達が馬で近づいて来る。
「その方。名は何という?」
「上川耳村の竹、と申します」
「その方は妖術を使うのか?」
「違います。先の音は火薬を使った武器にて発したものでございます」
「・・・なるほど。その方が生きていれば後ほど会うといたそう。爺!こやつを後ほどな」
そのまま行っちまった。と言うか武将を見つけては槍でザクだ。やはり、武士を目の前にすると恐ろしいな。さっきも八郎五郎さんが原さんを刺して、爺?が首を刀でザシュッと切り落としていたものな。
生首コロンだ。血がビュー―だよ。鶏の比じゃない。だけど八郎五郎さん、美味しいところを譲ったんだから、その分恩賞を頼みますよ。
敵が退いて行き、死体や武器がゴロゴロしているから、元気な奴らでまだ使える槍や刀、鎧を集めて装備した。初めから着ていたと言えば、それで終わりだろう。俺達の責任者の鈴木さんは死んだようだし、俺達の事を細かく覚えている奴なんていない。死んだ彦三郎の所に行って、髪を切って紙に包み、鎧と一緒に図多袋に入れた。後は少量の金属類を集めて村に持って帰れば終わりだ。
俺は寺の雑木林まで行き、怪我をしている連中の手当てをした。傷に馬糞を塗ろうとする馬鹿もいたから止めさせた。綺麗な水で傷を洗い、出血には乾燥したヨモギを振り掛け、綺麗な布で硬めに縛った。傷には乾燥したドクダミを布で縛って終わりだ。
「流石、竹だ。お婆の弟子だもんな」
「でもなあ。死んだ者はどうしようもない」
「そうだな。しかし、困ったぞ」
「どうした?与四郎??」
「そうか、竹は知らなかったか。実は村長の次男は3年前の戦で死んでな。後継ぎの長男も去年病気でコロッとな。だから、村長は今回の戦には彦三郎の出征に反対していたんだ。でもなあ。彦三郎が村の人間が戦に行くのに村長の息子が行かなきゃあ、特別扱いしていると村人から非難されるのは良くないって聞かなかったんだ」
なるほど。そう考えると息子3人とも失った村長も哀れだな。村長は村を管理する側だった。俺は管理される側で立場が違うから村長に対して不満もあったが、村長には村長なりの苦労があるんだな。
彦三郎も悪い奴でもなかったし、どちらかと言えば良い奴だった。
「おい、竹。そろそろ行くぜ」
「なんだ与四郎、村に帰るのか?」
「違うよ。死体の片付けだ」
死体の片付け?気持ち悪いな。俺は臨床医じゃなかったから、殆ど手術の経験がない。検体の解剖と確か虫垂炎の手術程度じゃなかったかな。まだ寒いから良いけど、夏場なら死臭で地獄だろうな。
改めて見た戦場は血溜まりがあったり、手足の一部が転がっていたりと吐き気を催す地獄絵図だった。死体を集めてって、まだ生きている奴が多い気がするんだけど気の所為じゃない。
皆で戦場の奥の方に穴を掘るんだが、そこは先だって戦があった時に埋めているので、こっちだと指定された。と言う事はあっちこっち死体だらけということだ。何と無く異臭がする。
掘った穴には、死体になったばかりの奴も一緒に埋めた。まだ生きている奴もいたが、医療技術が遅れているこの時代では、腹を刺されればいずれ腐ってきて、苦しい思いをした挙句に死ぬだけだ。だから俯せにして首を一突きして楽にしてやっていた。
確かに衣類は貴重だが、死体の衣服まで剥ぎ取るのだから驚きだ。中古の着物とはこういう所から出てくるものだったんだ。俺が着ている着物もきっとそうだよな。
百姓はボロを着ているだけだから、剥ぎ取ろうにも殆どない。彦三郎も裸で穴に落として埋めた。そう、武士以外は敵味方関係なく穴に入れられて土に還っていく。
死体処理が終わると、庁南城の城内の広場に集められ、薪と米を与えられた。来た時よりは量が多かったが、これって敵が残していった兵糧だ。俺達の村は彦三郎が死んだだけで、後は怪我人だけで済んだ。銭も何も無い。百姓には食料の支給だけ。まさに家畜扱いだ。
彦三郎が死んで陰鬱な空気の俺達だったが、碌な朝飯も食べていなかった事もあり、飯が出来ると旨い旨いと言いながら食い、少しは元気が出てきた。皆、彦三郎の事など忘れたように、これで村に帰れるとあちらこちらで語り出した。
次の日に朝飯が終わり、ブラブラしていると鎧を着た武士が現れた。
「ここに上川耳村の竹という者はおるか?殿がお呼びだ。無礼の無い様にな」
無礼が無い様に、の部分をいやに強調してくる。無礼があったら殺すでしょうから。武器は全て取り上げられた。無礼が無い様にだよ、多分。
ドンドン城の中に入って行くと、むさ苦しい武士が沢山集まっていた。座敷に入りきれず、俺の前にも庭で座り込む武士がいた。
「今回は危なかった」
「ああ、もう少し久留里からの応援が遅れていたら大変な事になっていたな」
「確かに原の奴らの動きが早くて、木更津からの応援も間に合わなかった」
えっ?!今、久留里とか言っていたよな。久留里って。そして木更津。久留里ってドラマに使われる事もある久留里線のある千葉だろう。この時代というか、昔はよく地名に当て字とか使ったりする。庁南城って長南だろう。そうすると、俺の村の近くの城も大多喜城だろう。
確か、本多忠勝の居城となった10万石の城だ。
千葉は戦国初期は千葉氏、戦国中期からは里見氏で決まりだろう。
真里谷氏って斜陽一族だよな。あう、どうしよう。
「論功行賞は以上だ!解散!!」
あれ?武士たちがぞろぞろ引き上げていく。庭にポツンと俺だけだ。
「その方。竹と言ったか?近う寄れ」
ははーと言いながら近くまで行くと、更に寄れと言われた。直接顔を見るのは無礼で憚れるので下を向いたままだから、どの程度の距離か分かりにくい。
「面を上げよ。その方に聞きたい事が有る」
「はい。何でしょうか?」
「ここにおる八郎五郎から聞いた話だと、その方、戦に火薬を使用した武器を使用した事、間違いは無いか?」
「はい。間違いございません」
「火薬を使った兵器など、元寇以来聞いた事も無い。しかして、それはどの様なものであるか?」
俺は三河守様に火薬を使った銃、つまり火縄銃の構造を簡単に説明した。また、その利点と欠点に関してもだ。実際に竹で製作した火縄銃も見せた。
「・・・なるほど。うむ。八郎五郎は如何ほどに思う。思う所を申せ」
「父上。これは恐ろしき武器でございます。私は原治部少丞がこの武器で撃たれたのを近くで目撃致しました。念のため槍で一突きしましたが、治部少丞は既に身罷っていました」
「何と!この竹から放たれた弾で息絶えたと申すか?こんな子供の玩具如きものでか・・・お前が見ておらねば信じられぬ所だ」
「父上、恐ろしいのはそこです。こんなもので何の修行していない百姓が鎧武者を殺せるのです」
「そうか、ならばこやつの首を刎ねるか?そうすれば安心できるというものだ」
えっ!ここで首を刎ねられるの?クソ―、敦盛でも最後に踊るか。仏の世は人間の世と比較して非常に長く、仏の1日が人間の50年に当たる。人間の人生なんて仏の1日にしかならないのか。ああ、人間とは儚いものだ。というのが筋だったか。
考えろ!良い答えじゃないと死ぬ。武田の家臣軍団の中でいるはずだ。騙っても問題の無い奴というか、ばれない奴。村長の話で武士と騙っても全くの嘘では無い。
「父上!お待ち下さい。この者は利用価値がございます。某に任せては頂けないでしょうか?」
「お前にか。だが、こやつの持つ知識は危険ぞ。こやつと一緒に闇夜に葬るが吉と思うが。竹と言ったか、お前は何か言う事があるか?」
「ははっ!三河守様に申し上げたき儀がございます。私の高祖父ですが、武田始祖様に従い上総に下向したのですが、ある戦にて負傷し落ちて、今の村を築き上げました。村長名は浅利、私の高祖父は小山田と申します」
「この!言うに事欠いて、始祖様を貶め小山田を名乗るか!!小僧、今すぐそこに直れ、刀の錆にしてくれるわ!!!」
マジだ。刀を抜いてる。殺される。死ぬのは嫌だ。俺、頑張るんだ!
「ははー。高祖父は始祖様に従い下向しました。始祖様の血筋の方に切られるとは、これ程の誉れはないでしょう。残念なのはどうせ死ぬのなら武名を立て戦場で死にたかった」
俺は諦めたように首を差し出した。
「まてっ!爺!!早まるな。私は昨日、上川耳村に関して調べた。竹の話が真かどうか別として、確かに上川耳村は浅利ともう一人の武士によって開拓されている。そして、もう一人の子孫が竹の一族だ。始祖様に従い小山田荘から傍流が下向しても何も可笑しな事は無い。それと、始祖様に従い、始祖様の為に戦い、傷つき落ち延びて村を起こした者を切ってしまえば、忠臣殺しとして人心が離れよう」
「若!でもこやつの言う事が真実とは限りません。騙されてはなりません」
「なるほどなあ。竹とやら、どうもその方は知恵者のようだの?田舎から出た事も無いただの百姓が、小山田氏の事を知っている訳など無いからな。それに火薬と銃というもの。それらの知識は何処から得たものか?面白いな。竹の件は八郎五郎に任せよう。それと、小山田を名乗る事を許す。今日からお前は、小山田竹太郎昌長を名乗るが良い。後は八郎五郎、任せたぞ」
そう言うと、三河守様は去っていった。それを聞いて、爺は何も言わなくなった。
「良かったな。竹太郎。三河守様から名前を授かるなど、名誉な事だぞ!喜べ!!」
「はっ、今日ただ今より小山田竹太郎昌長と名乗らせて頂きます。有難き幸せ!」
こうして、俺はやっと百姓から地侍になった。その後、八郎五郎様にもっと役に立つために上川耳村と親戚がいる上谷村の所有と、浅利家の後継ぎがいない事で竹三を養子にする事、更に南を切り取り次第で、その後の所有は八郎五郎様が決める事で許可を得て、それを書面で頂いた。
これで生き残るチャンスが出てきた。百姓で盾になって殺されるより百倍はましだ。




