第13話 竹、徴兵される
誤字のご指摘助かります。ありがとうございます。
節分ですね。福が多い節になりますように。
月が替わり越後屋がやって来て、村の鐘が鳴らされた。
午後から父ちゃんと一緒に村長の所へ向かうと、対応に使用人が出て来た。
「村長と約束?ここで待つように」
暫くすると、ドンドンと足音が聞こえて来て、村長が現れた。
「おう、重蔵と竹か。隣の土地の件だったな。先月の村役会でな、重蔵の所の土地にしても良い事になった。ただな・・・」
「村長、銭か?」
「そうだ。空き家で土地も10年近く使っていないとは言え、村の財産だからな。銭5貫文なら使っても良いという事になった。どうする?」
はあ?空き地の家族が死んでいないとして、年間2俵の年貢だから10年で20俵だから、銭にして2貫文だよな。プラス3貫文って、おいおい、複利で利率が7%以上かよ。全く、いい商売しているな。
「使っても良いと言うのは、家の土地になるという事で間違いが無いのか?」
「ああ、そうだ」
「村長よ、この前の確認だが、家は村の外れにあり、元々荒地を開拓したのが家の先祖で、それ以来村と反対側の荒地は家が開墾するには自由に使っていい事になっていたよな」
「そうだ。この村が始まった時からの決め事だ。それがどうした?」
「いや、村長。家の竹が字を読めるのを知っているよな。その竹がな。今、村長が言った事と今回の土地の件に関して証文として残したいと言い出したんじゃ。どうかの、村長」
「ああ、そんな事か構わんよ。それより隣の土地の件はどうする?」
「じゃあ、銭で5貫文払えばよいよな?」
「構わん。して、証文はどうする?」
「竹、証文を出して村長に見て貰え」
その後、村長は証文を見て問題が無いという事で証文に名書きした。名は、浅利 義明だった。村長は普段、村役が彦左衛門と呼んでいたので、字は彦左衛門で、諱が義明だった。
この証文は俺が竹紙に書いた文書で家の一族が生きている限り土地の保有を村で認めるというものだ。
10年近く放置していた荒れた田んぼとボロ家が5貫文って米50俵だ。年貢にしたら25年分だ。
普通の暮らしをしている百姓には無理だ。
越後屋に会うと、秋には井草が揃うらしく畳職人に来て貰う段取りになった。また、味噌蔵や長屋を建てたいので、請負料と木材がどの程度必要か相談するため次回にでも親方に来て貰う事にした。
「そう言えば、竹さん。そろそろ大きな戦が始まりそうですよ。早ければ、少し暖かくなってから田植えの前でしょう。夏は甲冑は暑いし、死体は腐りやすいので戦はしないとして、遅ければ秋以降でしょうね」
はあ、確かに冷房器具も無いし、水分補給用ドリンクもないけどさあ。いいのかよ、そんな理由で戦をいつやるかを決めて。
「なるほど。流石、越後屋だ。報せが早いな。それでは次に来た時に刀と槍を頼む」
「刀は打刀で良いとして、槍は竹さんは上背がありますから、長めの槍を用意します。金額は・・・そうですなあ、10貫文ですな」
やはり武器は高い。武器もピンキリで刀と槍で10貫文というのは、足軽装備としては普通らしい。あとこれに腹巻などの防具が加わると安くとも20貫文くらいになるらしい。
戦に銭が掛かる訳だ。
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試作3号を更に製造して射撃音や反動に慣れた。これは偶然だったが、銃の重心を確認したらほぼ引き金の部分であった。
戦国時代の火縄銃は銃の前方部に重心がある。したがって、弾を撃つと銃身に大きな反動が生まれる。この反動で銃身がぶれないように銃を維持しないと弾が目標に当たらない。これを銃の癖と言ってしまえばそれまでだが、扱いにくいのは間違いない。
引き金近くの中央部に銃身があるバランスの取れた銃器の方が発射時の反動を制御しやすい。
完成した火縄銃に照準器を付けて調整した。一度、どうしても有効射程を確認したくて山の奥に入り、木に的を貼って10m、15mの距離で弾道試験を行った。
10mで狙った部分から2cm、15mだと5cm程度外れた。これでこの竹製の火縄銃は実用距離が10m程度である事が分かった。銃身が50cm程度だから十分な性能だ。
山から帰ってくると、今日は天気がいいのに遠くから雷の音が聞こえた、竹兄ちゃん大丈夫だったか?と竹次に聞かれた。適当に誤魔化したが、やっぱり誰が何処で見ているか分からない。崖下の穴以外での試射は止めた。
実際は銃を手で持って更に的が動く訳だから有効射程は2~3m程度かな?騎馬武者の槍は比較的短いが、馬で走ってくる武者に2~3mの射程からの発射は、上手くいって同士討ちだ。それで俺が死んじゃあ意味無いな。せめて5mくらいから確実に命中させたいが、練習するほど硝石も無いし場所も無い。
銃身を鉄で作りたいが、製鉄した鉄は貴重で加工も難しい。火縄銃だって初期は青銅製じゃなかったか?黒色火薬で銃の出力を上げる為に銃身の強度が必要になり、刀で利用していた鉄の鍛造に行き着いたんだろう。
褐色火薬なら銃身を青銅製の鋳物で量産できるんじゃないかな。青銅は鉄より融点が低いからね。でもなあ、鉄は製鉄するのが大変だけど、絶対量では多くて明国からも安く手に入れることが出来る。密輸貿易だが。
明国に限らず鉄などは兵器に利用されるから禁輸品である事が多いんだ。
明治時代になるまでは粘土で固めて砂鉄に木炭を加え、空気を多量に送り込み燃焼させて酸化還元を行い、鋼鉄や銑鉄を取り出すたたら製鉄が主だ。製鉄が終わると粘土を壊して鉄を取り出すようでは、生産量が知れている。燃料が有れば高温溶解炉でガンガン銑鉄を作り、反射炉で鋼鉄をドンドン製造するんだがなあ。
俺の知っている火縄銃の銃身の作り方は、細長い円柱の鉄棒に鍛造の鉄板を巻きつけて銃身とするものだ。前世の様に確かな精度の円柱をNCマシンで誤差無く中心を削るようなものではない。
人の感覚は人が思うより精度が確からしいが、鉄棒に鉄板を巻き付けるやり方で銃身を製作するのだから人間というのは凄い。
円柱に鍛造した鉄板を巻き付けて銃身とするのは良いが、合わせ面は海苔巻きのように重なっているのかな?
鉄道の線路はレールとレールの接続部にわざとギャップを設けている。これは真夏に熱によりレールが膨張した場合にレール同士がぶつかり合い、レールが歪むのを防止している。銃身の熱膨張が大きくないから問題にならないのか。実験すれば分かるだろうな。
だが、いずれにしても今は後回しだ。自分がこの時代で生き残り、力を持った時に初めて出来る事だ。
あっと、思い出した。竹で盾を作るんだった。弓矢でやられたら意味無いよ。
崖下の穴で試し撃ちしている内に硝石が無くなったので、この前買った家の中から土を採って来て硝石を手に入れた。そろそろ、今年の秋には田んぼの傍の小屋で硝化作用がかなり進み、かなりの量の硝石が採れるはずだ。
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硝石から火薬を量産していると越後屋が来た。越後屋から打刀と槍を手に入れた。打刀を前世の時代劇の様に左に差し、反っている方を下に差したら、越後屋に逆さだと言われた。
「えっ?!これでいいんじゃないの?」
「それは太刀の持ち方ですよ。それで途中まで抜くと分かります」
どれどれ、鯉口を切って刀を抜くと・・・?あれ??鞘に刃が当たってしまう。
「なるほど。刃が鞘に当たり傷がついてしまうな。反った方を上に向けると・・・おっ!普通に抜ける。しかも仕舞う時も鞘に刃の無い方を当ててスライドさせれば鞘を傷つけない」
「はあ?すらいどとは意味が分かりませんが、さっき竹さんがおやりになったのは、太刀の場合です。基本的に太刀は鯉口を切った後、刀身が長いので鞘を左手に柄を右手に掴んで、体の前の方で左右に開く様に抜くんです。そうすると、刃の無い方が鞘に当たってすんなり抜けるでしょう。今は徒の戦が多いですから、太刀より短い打刀で直ぐに抜けるように作られているんです」
うわ!ついスライドって言っちゃった。あれほど気を付けてたのに。越後屋も気にしていないし、まあいいか。
それにしても刀ひとつ使うのも練習が必要だ。下手すると自分自身を切ってしまう。また、つまらぬものを切ってしまったって、シャレにならん。
その点、槍は良いよな。突く叩く捻るの3つ程度だものなあ。武器と防具はまあまあの出来だ。そうだ、母ちゃんに背嚢というか、デイパックを縫って作って貰おう。これで自分で出来る事は全てやったな。
来るなら来い!
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なんて調子に乗って父ちゃんを始め竹次達と苗を育てていたら、戦が始まるので村長の家の前の広場に次の朝、集合という事になった。
本当に田植え前に戦を始めやがった。俺は蔵に用意していた武具を装着し、俺の勇姿を家族に見せるようと蔵へ急いだ。装着終了。うん、完全に悪の帝国だ。真っ黒だし。
家の近くまで来ると父ちゃんの怒鳴る声が聞こえて来た。
「竹三!お前、もう一遍言ってみろ!!」
「・・・」
「お前ら、浮かれやがって!戦に行くって事は死ぬかもしれないという事だぞ!!誰のお陰で腹一杯飯が食べられる?竹次、答えろ!!!」
「・・・竹兄ちゃんのお陰・・・」
「そうだ。俺達家族は竹のお陰で腹一杯飯を食える。立派な家にも住める。それを羨ましい?俺も戦いてえ??そんなに死にてえなら父ちゃんが殺してやる!どこの家も長男が戦に行く事はねえんだ!!本当なら竹次か竹三が戦に行かなきゃなんねえ。それをお前らがまだ小さいからって、あいつは、あいつは・・・」
「ごめんなさい・・・」
「父ちゃん、ごめん」
はっ?!長男は戦に行かなくていいの?えっ?!聞いてないよ。みんなで抱き合って感動的な場面だけどさあ。俺が小さい頃、父ちゃんが戦に行っていたからさ。てっきり大人になれば誰でも戦に行くと思うじゃん。
うーん。村長の奴。俺が転生してきた時は丁度、俺は原因不明の熱で生死を彷徨っていて、父ちゃんも戦に駆り出されていたもんな。父ちゃんと俺が死ねば、家の土地は全て村長のものじゃねえか。
考えすぎだろうか。
繰り返すけど感動的なシーンだし、なんか出づらいんですけど。しょうがない。お披露目は明日にしよう。とりあえず蔵に戻って鎧を脱ごう。
次の朝、武具に身を包んだ俺の颯爽とした姿を家族に見せたんだけど、竹三なんか怖がって近付かない。しょうがないから面を取ったら、あっ、竹兄ちゃんだ、とか言ってた。どんな反応だよ。
母ちゃんが俺の体を手で触れて、竹が・・・、竹が・・・とか言って泣くんだ。
どうやら母ちゃんの中では俺の死ぬ事が決まっているらしい。でも最後に、危なくなったら逃げるんだよ、と送り出してくれた。父ちゃんからは、頑張って帰って来い、だった。
母ちゃんの所為で竹次達は泣いていたな。
母ちゃんが縫ってくれたデイパックには、小さな鍋と1週間分の米と直ぐに食べられる握り飯、漬物、塩と干物が数枚と怪我をした時の為の綺麗な布数枚、銭100文が入っている。乾燥させたドクダミとヨモギも竹紙に包み入れた。
忘れていけないのが乾燥した藁と火打石だ。火が無いと飯も炊けないし暖も取れない。
腰には弾丸が入っている母ちゃん手製の巾着と水筒代わりの大きめの竹筒と火薬を入れた小さな竹筒をぶら下げている。デイパックと巾着の表面には松脂を塗り乾燥させて防水仕様とした。
背中に盾を固定し、デイパックの左右にはそれぞれ火縄銃1丁とクロスボウ1丁がぶら下がっている。ボルトは刀をぶら下げる腰の帯に3本差してある。
これは結構重いな。今回、実戦で出た問題点は改良だ。
俺は湿っぽいのは苦手なんだ。だから、家族全員に軽く手を振り、行って来ると返事して、村長の家を目指し歩き始めた。
村長の家の前に行くと、おおっ!なんか武将みたいな人と足軽みたいな人がいる。なんだろう。全員こっちを見ている。中には鬼だとか言って槍を向ける奴もいる。
しょうがないから面を取ると、なんだ竹かよ、とか言いやがった。全くふざけた奴らだ。
村長が苦虫を潰した顔をしてこちらを見ていたが、皆の方を向き能書きを垂れ始めた。
「皆、良く集まってくれた。今回、畏れ多くも我らが主、真里谷三河守様より戦のお達しが伝えられた。必ず勝って敵を蹴散らしてやろうぞ!えいえい(おう!)えいえい(おう!)。今回は儂の家からは彦三郎が出る。村役からは与四郎だ。頼んだぞ、彦三郎!!」
「大役、畏まりました!!必ずや勝って帰って来ます!!」
えいえい、おうじゃないよ、全く。集まったんじゃなくて、強制的に徴兵されたんだよ。それに彦三郎、それは前世ではフラグと呼ぶんだよ。
真里谷って誰だ?知らない。三河守と言っていたな。でもなあ、武士は自称で三河守とか名乗り、実際の治めている場所が自称とは関係ない事が多い。後で彦三郎から他の情報も聞き出すか。
しかし、各家から18人の百姓が集められたが、彦三郎を除いて、どいつもこいつも俺より年下じゃねえか。しかも、三男、四男ってのもいる。俺の隣の奴なんてボロい着物つまり普段着に竹槍だぜ。腰に竹の水筒を下げているが、食料らしきものが見当たらない。
他の奴らも遠からずだな。8人ずつ分かれて武者姿の彦三郎と足軽姿の与四郎の後をついて行く。
徒で何処に行くのやら。俺は久しぶりの村の外だ。と言っても道は歩きにくく、風景は何の変わりも無い。
確か、越後屋の話だと半日も歩くと街があるとか言っていたよな。越後屋の店がある街は更にその街から一日の所だと言っていた。
「なあ、彦三郎。俺らは何処に向かってんだ?」
「何処にって領主様の所じゃねえか」
「悪い悪い、そういう意味じゃねえ。街の名前か城の名前が分かれば教えて貰いたいんだ」
「なんだ。城の名前か、小田喜城だ」
小田城じゃなくて小田喜城?知らねえ。戦国時代は色々な砦や城を築いたり、壊したりだからな。真里谷が領主で小田喜城が本城の大名かあ。真里谷ってキリシタン大名か。そうすると、九州だよな。
途中、近くの村を通ると俺達と同じような農民が歩いていて、結構な行列が出来た。
村じゃあ、裸足が多く足の裏も鍛えられていた。今日は草鞋まで履いているが、道の小石が足に当たって痛かった。それが段々と道が開けて来て、足の痛みが減って来た。
あれは、城か?遠くに建物が見えて来たんだ。
貴人の名前以外は創作となっています。また、話の展開から史実と異なる部分があります。この物語は、フィクションでございます。




