「スライムメタルさんを使って勇者様のレベルを上げましょう」
「では魔王様、次の作戦はどうしますか?」
王女は俺にそう問いかけた。
仮拠点にしている洞窟内で、俺たちは作戦会議を行っていた。
「そうだな。まずは世界の幼女を集めよう」
「えっと、幼女……ですか?」
「そうだ。なぜなら俺はロリコンだからな。幼女を侍らせてハーレムくらい作ってないと不自然だろう?」
「……ま、魔王様、少し冷静に考えませんか?」
「いやいや俺は冷静だぞ? 幼女の脇の下をペロペロと舐めたいだけの変態でロリコンな魔王だからな」
俺はちょっと不貞腐れたようにそう言い放つ。
「どうしてしまったんですか魔王様! 悩みがあるなら私に相談してください!」
「いやお前のせいだぁーー!! 王女が俺をロリコン設定に仕立て上げたんだろうがぁーー!!」
洞窟内にある石を削って作られたテーブルを、バンバンバンと俺は両手で叩いて抗議する。
「ぜ、前回のこと、まだ気にしてたんですね。でも大丈夫ですよ? 私が勇者様に助け出された時には魔王様をちゃんと擁護しますから。『魔王はとても変態でロリコンだった。しかし惚れた王女にはとても紳士的に振舞っていた』って感じでどうですか?」
「まず変態でロリコンってところを否定しろぉ―!!」
そんなやり取りをしていると、この作戦会議に参加している他の魔族からはドッと笑いが起こった。
「出たよ。魔王様と王女の夫婦漫才!」
「和む~」
いや、別にウケを狙って言った訳じゃないからな? こんなんで和まれても困るんだが……
「さぁ魔王様、おふざけはここまでにしてマジメに話を進めましょう!」
王女がキリっとした表情でそう言った。
いやお前がそれを言うんかーい! 誰のせいでロリコン魔王になったと思ってるんじゃーい!
「やはり勇者様の攻撃力の低さは問題ですよね。なんとかしてあげられないでしょうか?」
「う~ん……勇者のレベルを上げるとか……?」
一人の魔族がそう言った。
しかしそう簡単に上げられたら苦労はない。
「そうだ! 確かこの前、経験値が大量に入る魔物が生まれたはず。それを使えば!!」
また別の魔族の閃きに、一同が顔を見合わせた。
確かにそうだ。そういう勇者に都合のいい魔物が生み出されたのを忘れていた!
魔王デスライク様のレベルは99であった。
そのステータスは無敵とも呼べるほどで、いろんな魔法や能力も持っていた。
その中でも異質なのが、魔物を生み出す能力だった。
魔王デスライク様は、その膨大な魔力を媒体として、魔物を生み出す事ができたのだ。自分の魔力から生物を生み出すという神秘的な力で、この魔王軍をさらに強化していった。
だからこの魔王軍は、俺たち魔族や多種族の他に、魔物と呼ばれる異形な者達もいるのだ。
俺たちが女神に出会う前、デスライク様はいつものように魔物を生み出すために魔力を放出した。そしてその時に生まれたのが、経験値を大量に含む銀色のスライムだった。
そう、いくらデスライク様でも、生み出される者の性質まではコントロールできない。故に、勇者にとって都合の良い魔物が生まれてしまう事もあるのだった。
そしてこの銀色のスライムは、『スライムメタル』と名付けられ、近くの森の放流された。
人間たちの戦いに連れていくわけにはいかなかったし、同じ仲間として経験値を奪う事もできなかったからだ。
「ふむふむ、なるほどなるほど。と、いう事は……」
王女が俺の説明を聞きながら、なにやら頻りに頷いている。
「いいんじゃないでしょうか。そのスライムメタルさんを使って勇者様のレベルを上げましょう。それで魔王様、そのスライムメタルさんを見つけて状況を説明する役目を私にやらせてくれませんか?」
と、王女は自ら名乗りを上げた。
王女がなぜそんな提案をしたのか分からないが、少なくとも俺たちよりも頭がいい。回転も速い。だから特に問題はないだろう。
俺は念のために護衛を付けて、あとは全部王女に任せることにした。
王女はいつものように、ウキウキした様子でスライムメタルを探しに外へ出ていった。
きっといつも城の中で退屈していたんだろう。王女はここに来てから何をするにも楽しそうだった。
体を洗いたいとか、ベッドのような寝台が欲しいという多少の要望はあった。でもそれくらいならば俺たちにも用意はできるし、王女もそれ以上の過度なワガママは言わなかった。
最初は王女と良い関係を築けるか不安だったが、案外楽しいものだと感じ始めていた。
そしてその日のうちに、王女はスライムメタルを見つけて、あとは勇者を待つだけとなった。
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「勇者が攻めてきたぞー!!」
見張りの声が響き渡り、俺たちはすぐに作戦を決行する事となった。
今回の作戦は、勇者にスライムメタルを倒させてレベルをガッツリ上げてもらおうという作戦だ。
そして俺と王女は今、草むらに隠れてコッソリと様子を伺っている。
なぜだかは知らないが、王女の強い要望で、勇者とスライムメタルの戦いは外で行う事にしたのだ。
俺と王女が二人並んで草むらから見守っていると、ついに勇者がスライムメタルと対峙した!
「む!? なんだか珍しい色をしたスライムがいるぞ!」
「に、人間スラー!? 僕がとんでもない量の経験値を持っているから、それを狙っているスラね!」
よしいいぞ! わざとらしい説明口調ではあるが、それを聞いては勇者もレベルを上げるために戦いたくなるだろう。
一応今回も、『ジマクオン』の魔法で戦闘を細かく見ていこう。
「魔王様魔王様、その魔法を私にもかけてください。非常に興味深いです!」
王女はいつものように楽しそうである。
別に断る理由もないので、俺はジマクオンを王女にもかけてやった。
それにしても勇者はもう伝説の鎧を見つけてきたのか。黄金に輝く鎧を身に着けているな。これでちょっとしたことでは死ななくなっただろう。
「ほほう。王女を助けるために戻ってきたが、楽にレベルを上げられるのならそれに越したことはない。我が成長の糧になってもらおうか!」
そう言って勇者は腰の剣を引き抜いた!
【勇者とスライムメタルの戦闘が開始された】
いいぞいいぞ。ここまでは作戦通り。あとはスライムメタルよ、悪いがワザとやられてくれ!
こうして、勇者のレベルを上げるための作戦が開始されたのだった。