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「魔王は私をお嫁さんにしたいのです」

『獲物を捕らえました。この装置は、あと五分で爆発します』


 そんな音声が流れて、周りに警報アラームが鳴り響く。

 やっべー。この展開は想像もしていなかったわ。どうすんだコレ……


「王女!? 今助けるぞ! 伏せているんだ!」


 勇者が鉄格子に向かって剣を向けた。

 よしいいぞ! 王女には勇者のサーガを世界に広めてもらう約束をしているから死んでもらっては困るのだ。

 幸いな事に、その装置は普通に壊せば爆発は止まる。確かその構造は、装置の中に膨大な魔力を注ぎ込んでいて、その魔力を圧縮する事により熱が生まれる。そうして圧縮し続けると、行き場を失った魔力が熱と共に弾けて大爆発を起こすという装置だったはずだ。

 つまり、壊して内蔵されている魔力を外に逃がしてしまえば爆発は止まるのだ。


「てやぁー!!」


 勇者が剣を振るう。しかし全てが鉄で出来ている装置は剣を弾いていた。


『爆発まで、あと三分です』


 そろそろ時間がない。だがダメだな。勇者の攻撃力が低すぎて装置には傷もつかない。

 こんな時、俺はどうしたらいい? 逃げるべきなのか? それとも助けるべきなのか?

 助けるとしたら、どちらを助ける? 勇者か? 王女か?

 まったく……魔族は考えるのが苦手だというのに、どうしてこう難しい局面ばかり来てしまうのだろうか。俺はどう動くのが正解なのだ?


『爆発まで、あと一分です』


 無情にもカウントダウンは進んでいく。そんな中で、俺はここ最近の事が頭をよぎっていた。

 俺たち魔王軍に王女が加わり、みんなで挨拶を交わした事。

 作戦会議でみんなの意見をまとめた事。

 勇者が来るまでの間、暇つぶしにみんなでトランプで遊んだ事……

 そう、俺は人間が嫌いだ。だから魔王軍として王国軍と戦おうとしていた。

 けれど、だからと言って王女の事が嫌いだったか? いいや、短い時間だったが、確かに王女は俺たちの事をちゃんと考えてくれた仲間だった!

 一緒にいて楽しかったし、魔王軍の空気が和らいだ。

 だったら今この状況で、どう動くのかなんて分かり切っている事じゃないか!

 魔族は……俺は……仲間を見捨てたりしない!!


「どけ勇者! 俺がやる!!」


 俺は体内から魔力を放出させて、王女を捕える檻に突撃した。

 俺の咄嗟の行動に勇者も驚いたのか、後ずさりをして折から離れる。

 そのまま俺は自分の魔力を全身にまとい、右腕を振り上げた!

 俺のレベルは80だ。そのステータスで肉体は強固なものとなっており、そこに魔力を絡ませる事でさらに研ぎ澄ませる事ができる!

 そう。俺には剣も鎧も必要ない。この魔力をまとった肉体こそが最強の防具であり、全てを切り裂く武器になるのだ!


 ――斬っ!!


 一振りで王女を捕えている鉄格子を切り刻む。そして王女を抱きかかえると、一気に跳んで装置から距離をあけた。

 するとすぐに装置は爆発を起こし、火花を散らした。

 別に洞窟を吹き飛ばすような爆発ではない。あくまでも装置が壊れた事による小規模な爆発だ。その証拠に、装置に注ぎ込んだ膨大な魔力は空気中に逃げて光の粒子となっていた。

 それはまるで幻想的な光景だ。この洞窟の中で、虹色に輝く雪が大量に降り注いでいるかのような、そんな普通じゃ見られないような幻想的な空間となっていた。


「あ、あの……魔王様」


 そんな光景を見上げていた時、俺のふところから声がした。


「その……そろそろ離していただかないと……」


 気が付くと、俺は王女を強く抱きしめていた。

 装置を壊した時に抱きかかえたまま、王女の肩に手を回して、自分の体に強く押し付けている。そしてそんな王女は、頬を赤く染めて俺をうるんだ瞳で見上げていた。


「おっとすまない」


 そう言って、俺は王女から手を離す。


「い、いえ……大丈夫です……」


「怪我はないな?」


「あ、はい。ありがとう……ございます……」


 俺の目を見ようとしない王女は、耳まで真っ赤にして俯いていた。

 ふむ。王女には少し刺激が強かったのかもしれない。

 そんな時だった。


「おい魔王。これは一体どういう事だ!」


 勇者は神妙な面持ちでこちらをジッと見ていた。


「なぜお前が王女を助ける!? よくよく考えてみれば、お前はなんのために王女をさらったんだ!?」


 う~む。やっぱりそこが気になるよなぁ。ついにこのアホな勇者もそんな疑問を抱くようになってしまったか。しかしそこは全く思いつかないんだよなぁ。


「ふっ、そんな事を貴様に話してどうなる? 素直に話すとでも思ったのか?」


「なんだと!? 答えろ魔王よ。王女をどうするつもりだ!!」


 とりあえず『アハハ、秘密だよ☆』って事で誤魔化しておくことにする。理由はあとでじっくりと考えよう。

 しかしそんな俺をよそに、ここで王女が声を張り上げた。


「勇者様、ここは一旦お逃げください! 今のあなたでは魔王に勝つことはできません。まずはここから西にある遺跡を目指し、そこに眠るという伝説の鎧を手に入れるのです。そうすれば魔王の攻撃から身を護る事ができるようになるはずです!」


 と、そんな情報を伝えている。

 これは俺たちが話し合って決めた事ではない。王女がこの場で、自分の判断でそう動いているのだ。つまり今回の作戦は失敗したから、とりあえず今日はお開きにしようという事なのだろう。

 それにしても王女は演技がうまい。完璧なお助けキャラを演じているな。


「伝説の鎧だと!? しかし王女を目の前にしてそれはできない! 俺が今ここで逃げたら、キミが魔王になにをされるか分からないじゃないか!」


「いいえ勇者様。魔王は私に酷い事は出来ません。なぜなら魔王が私をさらった理由というのが、私に惚れてしまっているからなのです!」


 ……え?


「な、なにぃぃぃぃぃ!?」


 えええええええええぇぇ!? ちょっと待てぇ~!! 何を勝手な事を……。


「魔王は私をお嫁さんにしたいのです。だから私に酷い事は出来ないんです」


 いや待てよ、案外いい理由かもしれない。魔王は王女を我が物とするためにさらっていく。だから勇者は王女を救い出すために乗り込んで、魔王を討伐して王女と共に国へ戻る。うむ、いい感じのサーガではないか。

 ……ただ、問題があるとすれば……


「という事は魔王、お前……ロリコンだったのか!!」


 うわーー! やっぱりそう思われるよなーー!

 どう見たって俺と王女じゃ大人と子供だもんなーー!


「違うぅー!! これは誤解だー!!」


「なにぃ!? 何が違うと言うんだ!?」


 ぐぬぬぅ~……否定したいけど否定できない! この理由以外に俺が王女をさらう言い訳が思いつかない~!

 けどなんとかロリコン疑惑だけは消しておきたい!


「聞いてくれ勇者よ。確かに俺はそういう理由で王女をさらった。しかし今の王女を好きになった訳では決してない! 将来性。そう、これから数年後の未来を見据えて選んだのだ。きっと大人になった王女は安定した魅力を持つだろうと思ってだな……」


「魔王! 将来性だの安定するだの、これは就職活動ではないんだぞ!」


 うるせーよ! ヘッポコすぎてツッコミどころ満載のお前にツッコまれたくないわ!


「よ、よく考えて見ろ勇者よ。今の王女に惚れる要素なんてあると思うか? 胸は小さいし色気もない。誰がこんなチンチクリンを好きになるというのだ?」


 そう言った瞬間、隣の王女がムッとした表情に変わった気がした。


「え~、でも魔王は私を必死に口説いていたじゃありませんか。『君のその幼児体型はとても魅力的だ。ちょっと脇の下をペロペロ舐めてもいいかい?』と言ってきたではありませんか」


「魔王貴様ーー!! ロリコンな上に変態じゃないか! 恥を知れぇー!!」


 オオオオォォン! こいつ俺が否定できない事を察して言いたい放題いってきやがるぅ!

 これでも一応『魔王』なのにぃ。恐れられる存在なのにぃ~……


「という訳ですから、私は大丈夫です。勇者様は一刻も早く伝説の鎧を回収してください!」


「くっ……わかった。王女よ、すぐに戻るから待っていてくれ。おい魔王よ! 王女に手を出したらこの俺が許さないからな! 首を洗って待っていろよぉ~!!」


 そう言い残して勇者は走り去っていく。

 後に残された俺は、なんかもう決して拭いきれないような喪失感に見舞われていた。

 きっと勇者の口から人間全体に広がっていくはずだ。今の魔王はロリコンで変態だと。


「ふ~。これで少しは時間が稼げますね。早く次の作戦を考えましょう。……それはそうと魔王様、先ほどは助けてくれてありがとうございます。その、私を抱きかかえてくれた魔王様はすごくカッコよくて、今でも胸がドキドキしています。ってキャー私ってばなに言ってんだろ♪」


 隣で王女が何かを喚いているが、今の俺によく聞こえない。

 なんだか右の耳から入っても左から抜けていくような感覚だ。

 ああ、デスライク様から受け継いだ魔王の異名が……魔王のイメージが……


「って、あら? 魔王様? おーい魔王様~?」


 王女が俺の体を揺すってくるが、脱力した俺はその場に崩れ落ちてしまうのだった……

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