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「私はこの魔王軍に協力する事を誓いましょう!」

 見られた!? 俺が勇者を逃がすところを見られたのか!?

 あのヘッポコ勇者なら適当な理由で誤魔化せる自信はあるが、この娘はやたら察しがいい。なんとか話題を逸らせないものかな?


「あ~……王女よ、牢に閉じ込めていたはずがどうやって抜け出したのだ? まさか魔法が使えるとか!?」


「魔族でもないのにそう簡単に魔法が使える訳ないでしょう。普通に鉄格子を外してきたのよ。あんな簡易的に作られた牢なんて、私の力でも外せます!」


「あっはっは! これは一本取られたな。全くお転婆なお姫様だ。あまり見張りを困らせるんじゃないぞ。ではまた後でな」


 そう言って俺はその場を立ち去ろうとする。しかし王女は、そんな俺の服をガッチリと掴んで放さなかった。


「誤魔化さないでください。というか、そうやって誤魔化すあたり本当に怪しいんですけど? え、何? 冗談抜きで勇者を倒しちゃいけない理由があるんですか?」


 王女はジト目で俺を疑い続ける。

 まずいまずいまずい! これ本格的に疑われてるぅ!


「おいおい、そんなわけなかろう? 偶然だよ。偶然罠が作動して勇者に逃げられてしまっただけの事さ。あ~クソ! あと少しのところで勇者に逃げられた! 悔しい~!」


 俺は必死に演技をした。


「演技下手くそですか! だったら、そろそろ私をさらった理由を教えてください。私はなんの目的でここへ連れてこられたんです?」


「あ~、だからそれは別に言う必要がないっていうか~……」


「もしもあなたたちが勇者様を倒せないのだとしたら、これまでの事が全部繋がるんですよ。王都を目の前にして退却した事も、私をさらった事も、今こうして勇者様を逃がした事もです! ですが、なんで勇者様と戦えないのかが全く分からない!」


 ひぃ~、この子鋭いよ! 八百長してるってバレたら言いふらされて俺たちみんな地獄行きになってまう!


「……魔王ギル……様。もしも本当にあなたが勇者様を攻撃できないのであれば、その理由を私に教えてくれませんか? もしも教えてくれたのならば、私はこの魔王軍に協力する事を誓いましょう!」


 な、なんだと!? この娘、本気か!?


「どうですか。私が協力をすれば、何かと都合がいいと思うんです。勇者様を逃がすにしても、私がうまく誘導すればいいのですから」


 た、確かに、王女が協力してくれれば、割とこちらにも都合がいい……はず?


「ぐ……ぬぬぬ……王女はなぜ協力しようと思ったのだ?」


「だって勇者様に攻撃できないって事は基本的には人間に無害って事じゃないですか。それに結末も気になるし、お城の中にいるよりは断然ヒマしなくてよさそうです」


 そう答えてくれた王女はウンザリしたような顔だった。

 うん、まぁ王女なんて退屈だし窮屈そうでもあるな……

 しかし、これは本当に話してもいい事なのだろうか? まぁその辺の事は女神から指示されていなかったと思うが……

 悩む。非常に悩んだ末に俺が出した答えは……


「はぁ~……わかった。仕方ないから教えてやろう」


 ため息を吐きながら俺は全てを話す事にした。女神が現れた事から言われた事も全部だ。

 それを聞いていた王女非常に興味深そうな表情で目を輝かせていた。


「女神様ですか!? そのような存在が人の前に現れるなんて前代未聞ですね! すごい体験じゃないですか!」


「そんな嬉しいものか。こっちは本当の魔王様を消された上にワザと負けなくてはいけないのだからな」


「ああ、そうですね。失礼しました。ですけどこれは非常に興味深いです」


 俺たちが話をしている間に魔王軍のみんながゾロゾロと集まって話に参加してくる。

 そうして、王女は正式に俺たち魔王軍に協力してくれる事になったのだった。

「勇者だー! また勇者が攻めてきたぞー!」


 王女が魔王軍に協力する事を誓ったあの日から数日、みんなと仲良くなり始めた頃に勇者は戻ってきた。


「ついに来たか。みんな配置に付け!」


 俺は立ち上がってそう言った。


「うわー! 革命で逆転できそうだったのにー!! こんなタイミングでかよ~!!」


 一緒にトランプで遊んでいたゴブリンがそう嘆いた。

 あぶね~! 革命されたらヤバかった……って今は勇者だ!


「王女よ、分かっているな? 手筈通りに頼むぞ」


「あ~ん、私革命返しできたのに~。もうちょっとだけ続けませんか?」


 何!? という事はまだまだ勝敗は分からないかったという訳か!


「ってトランプはもういいんじゃー!! 王女よ、この戦いで俺は死ぬだろう。勇者に救い出された後は、少し大げさでもいいから『英雄伝説サーガ』を残してくれよ」


「……はい。わかりました」


 こんな時ばかりは、さあすがに王女寂しそうな表情を浮かべていた。

 そう、この戦いで俺は死ぬ。いや、魔王軍の全員が消える。

 この俺でも消滅するほどの爆発を巻き起こす装置が完成したのだ。これに自ら嵌る事で、この洞窟ごと消滅させる。そしてその爆発から勇者は王女を救い出しサーガが生まれるという訳だ。


「では、行ってくる」


 皆の敬礼を受け、俺は中央の間に赴く。

 そこ待つことしばし、ついに勇者はやってきた。


「ふっ、また性懲りもなく来たか、勇者よ」


「当たり前だ! お前を倒し、王女を取り返すまで俺は絶対に諦めたりはしない!!」


 う~ん、その根性は凄いと思うんだが、いい加減実力差くらいは理解してほしい。

 とりあえず『ジマクオン』の魔法は使っておこう。


「俺の必殺技はまだ未熟だ。だからこの剣に俺の全てを乗せ、お前の心臓を貫いてやる! 行くぞ、魔王!!」


 そうして剣を俺に向けたまま、勇者は突進を仕掛けてきた。

 しかし、そこにはバナナの皮というトラップが仕掛けてあり、勇者はそれを思いきり踏んですっ転んでいた。


【勇者は後頭部を強打した】

【勇者に52のクリティカルダメージ】

【さらにタンコブの状態異常を付与】


「ぐわあああああ、痛ってえええええ!!」


 勇者がゴロゴロの転がりまわる。

 まぁトラップって言うか、ただそこに置いてあるだけなんだけどな。ダメだよ、ちゃんと足元を確認しないと。


「おのれぇ、もう許さん! 覚悟しろぉ!!」


 さらに勇者が突っ込んでくる。

 しかしその足元にもトラップが仕掛けてあり、勇者はそれを見事に踏んでしまった。

 その瞬間に後ろから小石が飛んできて、勇者の頭に命中した。


【ピンポイントで勇者のタンコブにヒットした】

【勇者に36のダメージ】

【勇者はあと一息で死ぬ】


 あ、これマズいぞ。ショボい罠しか仕掛けてないつもりだけど想像以上に勇者がドジなせいで割とガチで死ぬかもしれない……

 早くここの罠を逆に利用するっていう発想にならないかなぁ。ほら、明らかに大掛かりな機械の仕掛けとかあるんだからさ、そろそろ気づいてもいいんじゃないか?


「フーッ! フーッ! 魔王め、こしゃくな攻撃ばかりしやがって!!」


【勇者は薬草を使用した】

【勇者のHPが30回復した】


 ダメだー! 興奮してて俺しか見えてないー! 視野が狭すぎるー!

 っていうか俺はなんにも攻撃してないんだが、こいつの目には俺が攻撃を仕掛けているように見えているのか!?


「落ち着いてください勇者様、この部屋にある罠を逆に利用するのです!」


 いきなり幼い声が響き渡る。それは紛れもなく王女リーザだった。


「王女!? どうしてここに!」


「この混乱に乗じて牢を抜け出してきたのです。そんな事よりも、ここの罠をしっかりと見極めるのです!」


 ナイスだ王女よ! さりげなくアドバイスをするというお助けキャラとなって勇者を導くとか名演技だぞ! 

 古来より囚われの姫というのはこうやって勇者にヒントを出すものだと相場は決まっているしな!


「罠を逆に利用する、か。なるほど、それは盲点だった!」


 勇者が納得したように頷きながらこの部屋を見渡す。そして、設置されている罠を物色し始めた。

 よしよしいいぞ! 大爆発を引き起こす檻の装置に気が付けよ!

 ……まぁ、俺と戦闘中なのにも関わらずそこらをウロウロする勇者というのもおかしな光景なのだがな。友達の家に遊びに来て、部屋の中を物色する学生かよ!


「む!? なんだこの床は。模様が違うぞ?」


 勇者が床のトラップに気が付いた。

 そう。その模様が描かれている床は不思議な床で、それを踏むと一定方向へと滑ってしまうという仕掛けなのだ!

 そして滑り続けて向かう先には檻が用意されていて、この檻に入ると大爆発を引き起こすというコンボになっている。つまり、勇者はその仕掛けを利用して俺をその床まで誘導する事に気が付いて欲しいわけなのだ。

 いや分かっている。物凄くアホな負け方だという事くらい俺にだって分かるさ。でももうこの勇者に負けてやれるのはこれくらいしかないのだ!

 さぁ勇者よ、早く気づけ! もう軽い挑発でも乗ってやるから!


「不自然な床だな。ちょっと乗ってみるか。……おわーーーーーーーーーー!!」


 不意に勇者がその床に乗った瞬間、ツルツルと滑り出して爆発装置まで一気に流れていく!

 ってアホかー!! 少しは警戒したらどうなんだ!? 

 正直に言って平面な地面をお尻で滑っていく勇者はシュールで面白いんだが、そこは笑っている場合じゃない。

 これ本気でマズいぞ! 助けないと勇者が爆発して死んでしまうではないか。

 しかし俺は勇者を助ける事ができない。いくらなんでも魔王が勇者を助けてしまえば疑問が残ってしまう。あのアホな勇者でも、俺が八百長をしていることがバレてしまうかもしれないからだ。

 マジでどうしよう……


「ゆ、勇者様!? 今お助けします!」


 爆発装置に向かって滑っていく勇者に、王女が駆け出していった。

 よっしゃナイス! 王女に協力してもらってホントに助かった! これなら違和感なく戦闘を継続できるぞ!


「勇者様、少し我慢してくださいね。えいやー!」


 王女が滑り続けている勇者に向かってクロスチョップをかました!


「ぐへぇ!」


【勇者に5のダメージ】


 ええい! 今はそんなダメージなんてどうでもいいんだ! 王女は!? 勇者はどうなったのだ!?


「あら? あらあらあら~?」


 王女の突撃により勇者は滑る床から脱出できた。しかしその代わりに王女がその床に乗ってしまい、爆発装置に向かって滑って行く。

 ――ガシャン!

 ついに王女は檻の中へと滑っていき、その出入口が鉄格子でロックされてしまうのだった……

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