「そういえば、王女はどうしている?」
「ふ~む、どうしたものか……」
きっと勇者はこの洞窟に乗り込んでくる。だが問題はその後だ。
果たして勇者は俺を倒せるだけの力を付けて来るだろうか?
……恐らく無理だ。勇者のレベルは2で、俺のレベルは80だ。レベル差がありすぎてちょっとやそっとでは俺の守備力を貫く事はできないだろう。
やはりそこをなんとかしなくては、俺たち全員地獄行きになってしまう。
「う~む……はっ、そうだ!!」
いい方法を思いついたぞ! 罠を仕掛ければいいんだ!
罠を仕掛けて勇者を迎え撃つ。そして勇者との戦いになった時、勇者は考えるはずだ。どうすれば魔王であるこの俺に勝てるのかという事を。
そして様々な罠が仕掛けられている部屋で、逆にその罠を使い俺にダメージを与える事を思いつく。
俺は勇者の誘いに乗って自ら罠を踏み、大爆発を起こしてやられてしまい、勇者はその爆発から王女を助け出して国に戻る。
これいいんじゃないか? 完璧だろ!
「お~い、誰かいないか!」
「魔王様、どうしましたか?」
俺が呼ぶと、いつも俺を気にかけてくれているガーゴイルが入ってきた。
「この洞窟に罠を仕掛ける。いかに勇者が弱くとも、その罠で俺が敗れればサーガは生まれるだろう」
「なるほど。しかし良いのですか? そんな負け方をすれば人間たちに笑われてしまいますぞ」
確かにな。自ら用意した罠で自分が負ける。流石にアホすぎる展開ではあるが、もうこれ以外に方法が思いつかない。
「構わぬ。全員が地獄行きになるよりはマシだ。急いで取り掛かってくれ。場所は中央の広い空間がいい」
「了解しました。どんな罠にいたしましょうか?」
ガーゴイルと罠について話し合う。ああだこうだと色んな案を出しては計画を練っていく。
そうやって大体の必要な罠が決まった辺りで俺は王女の事を思い出した。
「そういえば、王女はどうしている?」
「はい。今は見張りの者とトランプをして遊んでおります」
トランプー!? そういえば他の魔族が暇つぶし用にトランプを持ってきていたな。
それにしても馴染みすぎだろ! 囚われの身なんだぞ!
「なんて事だ……それはマズいぞ!」
「えぇ!? ポーカーはマズかったですか!? 今すぐに大富豪に切り替えさせます!」
「そういう事じゃないわー!! 遊びの種類なんてどうでもいいじゃい!! 捕まっているのに楽しく遊んでいたら、勇者に救い出された時の感動も薄れるだろうが!!」
「た、確かに。しかし魔王様から丁重に扱えという命令でしたので……」
まぁ、それはそうなんだが……
「それに、我が軍はその……女性がいませんので……」
ふん。人間とはいえ少女が来たことで浮かれているという事か。くだらん。
確かにここにいる魔王軍は男性やオスしかいない。女性の魔族なんかは魔王軍に入りたがらないからだ。
いくら魔族とはいえ、人間たちは女性に幾分かは甘いようで、待遇がそれなりにいいらしい。そのために女性の魔族は人間に対してさほど不満を持っているわけでもないために戦いに志願する者はほぼいない。
……いつだって避難されるのは男性だ。野蛮だの暴力的だの、すぐに勝手に決めつけて話を聞こうともしない……
まぁ、戦いなんて男の役目だし、女性を戦場に出すわけにはいかないからそれはそれでいいのだがな。
まぁつまりは王女が来たことで、みんながお近づきになりたいという気持ちが生まれているという状況らしい。
「はぁ~……まぁいい。好きに遊ばせておけ」
「よろしいのですか?」
「よい。どうせ近いうちに勇者が攻めてきて王女を救い出す。それまでの間だけだ」
そうして手の空いている者達で急ピッチに罠の作成が始まった。
もちろん王女を捕えておく牢も完成して、鉄格子の中に閉じ込めておく。……まぁ時折見張りの者と遊んでいるみたいだが……
そうして王女をさらってから丸一日が過ぎていった。
――その翌日
「勇者だー! 勇者が攻めてきたぞー!」
洞窟内が一気に慌ただしくなる。というかもう攻めてきたのか!? 早すぎだろ! どんだけレベル上げしたくないんだよ!
「おい、罠の準備はどうなっている? 俺が死ぬだけの強力なやつは出来たのか?」
「いえ、さすがにまだです!」
「なら転送装置はどうなっている?」
「それならば完成しました。あとは魔力を込めるだけです」
ふ~む。ならそれで時間を稼ぐしかあるまい。
「お前らは待機していろ。俺が勇者の相手をする」
「はっ! 了解であります!」
そうして俺は罠が仕掛けられている洞窟の中心へと向かった。
ここは聖王都シャイーンに進軍する前日、女神が現れた場所だ。みんなが食事を楽しむ場でもあり、魔王デスライク様が消し飛ばされた場所でもある。
そこが今では罠を設置するために小道具が乱雑に置かれている状態だった。
そこに仁王立ちで待っていると、勇者は走ってこの空間に飛び込んできた。
「む!? 貴様、魔王ギルとかいったか!」
「ふっ、勇者よ。昨日ぶりだな。少しは強くなったのかな? くくく……」
なってるわけないよなぁ。ただでさえ人間はレベルが上がりにくと言われているし……
「強くなったかどうか、俺の技を受ければわかるさ!」
自信満々なご様子で、勇者は剣を自分の体で隠すように構える。その体で隠れた剣がオーラをまとい光り輝き始めた。
これは昨日のレベルアップで覚えた必殺技だ。何も変わっていない。
まぁとりあえずノーガードで喰らってやろう。
それと『ジマクオン』の魔法も一応使っておくか。
【勇者の攻撃】
「魔王よ喰らえ! プロミネン……………………ストラーッシュッ!!」
名前ダサッ! そして溜めが長いわ!!
呆れる俺の元にほとばしる衝撃波が直撃する。
【魔王に0のダメージ】
「ば、ばかな! レベルを3まで上げた俺の必殺技が!」
昨日からレベルを1上げた程度でよくそこまで自信が持てるなぁ。やっぱり破壊力の高い罠は必須だな。この勇者に攻撃力は期待できない。
だってほら、俺の隣にある壁のスイッチ、これを押すとタライが降ってくる罠なんだけど、全く作動してないじゃん。せめてスイッチを押し込めるくらいの威力になってからデカい口を叩いて欲しいものだ。
……いやまぁ、スイッチを押せるだけの威力でも全然足りないんだけど。
「ふん。勇者よ、貴様の力はその程度か! 今度はこちらから行くぞ!」
【魔王の攻撃】
俺は魔法を発動させ、最小の出力で勇者の足元を爆発させた。
勇者はそれに驚き二、三歩後ずさる。そこには罠が仕掛けてあり、面白いほど予定通りに踏んでくれた。
罠を踏んだ瞬間、地面がビヨ~ンと跳び上がり、勇者は軽く飛ばされてしまう。そう、これは相手を一定方向に吹っ飛ばす罠だ。
勇者がドテッと尻餅を着いた場所には魔法陣が描かれている。それは転送装置であり、勇者が乗った拍子に動き出して、勇者は一瞬のうちにその場から消えてしまった。
これは魔族の魔力をあらかじめ流しておくことで、一定の距離をワープできる仕掛けになっている。これで勇者は遠くに転送できたはずだ。あとは勇者がまた戻ってくる前に、大爆発を巻き起こす罠を作っておけばいい。
「ふぅ。またいつ戻ってくるかわからぬ。作業を急がせるか……」
そうして俺が部屋に戻ろうと振り返った時だった。そこにはなんと牢に入れていたはずの王女がいて、俺をジッと見つめていた。
そして――
「魔王、あなたは今、勇者をワザと逃がしましたね?」
――と、そんな事を聞いてくるのだった……




