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「恐らくこの国の王女リーザだ!」

【勇者とスライムの戦闘が開始した】


「さぁかかってこい。俺が相手だ! くっ、やるな! これで決めてやるぜ! しまった、背後を取られたか!?」


 ……スライム相手にこの大騒ぎである。

 それにしても五匹は多かったかな……。一匹ずつ小出しにすればよかったか?

 それでも勇者はなんとかスライムを倒しきってくれた。


【勇者はスライムをやっつけた】


 ありがとうスライム。お前たちは女神によって幸せな来世に転生できるだろう。

 しかし勇者は想像以上に弱いな。これは本当に何か作戦を考えないと死んであげる事ができないぞ。

 そんな事に頭を悩ませている時だった。


【勇者は10ポイントの経験値を獲得した】

【勇者のレベルが2に上がった】


 おお! これは好都合だ。これで一気にステータスが伸びてくれればまだやりようがあるぞ!

 ……まぁ、レベル1のままこの戦いに参加したんかいというツッコミを叫びたい気持ちではあるが、とにかく今はステータスだ!


【勇者の力が1上がった】

【勇者のすばやさが1上がった】

【勇者の守備力が1上がった】


 成長率低いなぁ……もっとこう、バーンと上がらないのか!?


【勇者の最大HPが3上がった】

【勇者の気ダルさが5上がった】

【勇者の疲労も10上がった】


 おい! なんかどうでもいいステータスまで上がってるぞ!

 そこはバーンと上がらなくてもいいんだよ! マジでしっかりしろよ!!


【勇者の人気が5上がった】

【勇者の周りからの期待が5上がった】

【しかしそれによって勇者のストレスが20上がった】


 リアルだなおい! まぁ勇者ってそんなもんだから頑張ってくれよ!

 ってかこの魔法、情報が細かすぎる気がするんだが……

 勇者のストレス値なんていちいち表示しなくてもいいんだよ!


【さらに勇者は新必殺技、プロミネン・ストラッシュを思いついた】


 おお、これだ! こういう逆転しうる展開を待ってたんだよ。

 ……って必殺技の名前ダッサ! 勇者プロミネンスの名前と掛けているのか? どんだけ自分の名前アピールしたいんだよ! 目立ちたがりか!!


「この技は!? よし、これならいけるぜ! やい、魔王ギルよ。今から俺の必殺技を見せてやるぜ!」


「ふっ。面白い。受けてやろう!」


 だが恐らく、俺を殺すだけの威力はまだないはずだ。それでもいい。俺は大ダメージを受けた演技をして全軍撤退をする。そうじゃないと勇者のサーガを作る事なんてできないからな。

 そうさ、よく考えれば最終目的が勇者のサーガを作る事ならば、別に今ここで殺される必要はない。最初は弱い勇者でも、少しずつ強くなって最後の最後で魔王を倒すというのが物語の王道ではないか。

 よって、今ここは撤退する理由が欲しい。そのために必殺技をノーガードで受けよう!


「喰らえ魔王!! プロミネェェェン……スゥゥゥトラァァァッシューー!!」


 名前ダサっ!! ついでに叫び方もイラっとするわ!

 いや、そんな事はどうでもいい。とにかく今はダメージを喰らう演技が大事だ。

 勇者の剣からほとばしる衝撃波が俺に向かって飛んでくる。

 直撃の瞬間にわざと吹っ飛んだ方がいいのか? それともその場に膝を着いて苦しんだ方がリアルか? う~む悩むな……


【魔王に0のダメージ】


 う~んう~ん……ってあれ?


「ば、ばかな!? 俺の必殺技が効かないだとぉ!!」


 え? あれ?


「勇者様の必殺技が効かないなんてどうしたらいいんだ!」


「もうだめだぁ。俺たちは負けるんだぁ~!!」


 王国軍に混乱が広がり始める。

 うわ~しまった~!! 完全にやられるフリをするタイミングを逃した~!!

 なんかそよ風が吹き抜けた程度の感覚だったから直撃したことに全然気づかなかった~!!

 どどど、どうしよう。このままでは勇者を活躍させることができなくなってしまう! なにか……なんでもいいから撤退する理由はないか!?

 そんな時だった。俺の目に一人の少女の姿が映り込んだ。

 陣形を組む兵士たちのはるか後方。街に出入りする門の陰からこっちを見ている一人の少女。

 その少女はフードを深々と被っていたが、風でそのフードが一瞬めくれると燃えるような真っ赤な髪をしていた。

 あの少女、どこかで見た事がある。遠すぎて顔まではよく見えなかったが、あの赤髪は……

 俺はハッとして隣で待機していたガーゴイルに叫ぶように言った。


「おい! あそこにいる少女を連れてこい!」


「え? どこにいる子ですか?」


「あの門の陰にいるフードを被った子だ! 恐らくこの国の王女リーザだ!」


「えぇ!? 了解しました!」


 ガーゴイルは戦いを繰り広げている兵士たちを飛び越えて、一気に門まで到達する。そして俺の指定した少女を担ぎ上げて戻ってきた。


「きゃ~!? 助けて~!!」


 少女は叫ぶが、空を飛ぶガーゴイルの邪魔をできる兵士は誰もいなかった。

 そして俺の元に戻ってきたガーゴイルに担がれたまま、俺は少女のフードをめくりあげる。

 炎のような赤い髪にウェーブをかけたセミロング。その頭にカチューシャを付けた少女はクリクリとした瞳で俺を睨みつけている。しかしその表情には怯えや恐怖が混じっていた。

 俺は一応、この国の王族の顔と名前は全て把握している。だから間違いない。この娘は王女リーザだ!


「ククク。ハーッハッハッハ! まさかこんな所に王女様がいるとはな。これは面白い土産ができたぞ」


「な、何!? 王女だと!? やい魔王! 王女を離せ!」


 勇者は必死に叫ぶが、この機を逃す手はない。

 恐らくはまだ子供故の好奇心だろう。お忍びスタイルで顔をフードで隠せば見つからないと踏み、この戦いを陰から見に来たのだ。


「よぉし気が変わったぞ。お前ら引け! 全軍撤退だ! ええ~と、王女を連れたまま北の洞窟に引き返すぞ」


 よしよし、いいぞいいぞ! さりげなく連れ去る場所を伝えてこのまま撤退する!

 そして勇者はさらわれた王女を助けるために修行をして乗り込んでくる。そこで俺と戦い、俺を倒して王女を救い出して国に戻れば、ほら、英雄伝説のいっちょあがり!

 本に載っている物語でもよくある展開ではないか。


「は、離しなさい! いや~誰かぁ!」


 王女はジタバタともがくがガーゴイルはしっかりと担いだままだ。

 そしてそのまま俺たちの軍は撤退を開始した。


「待てぇ~! 魔王よ、卑怯だぞー!」


「フハハハハ。必殺技もヘナチョコな勇者など恐るるに足らず! 貴様なぞ相手にしていても仕方ないわー!」


「待てーー! 王女ーーーー!!」


 勇者の咆哮を無視して俺たちは元いた洞窟へと引き返す。

 いい感じに俺の思い通りになってきたぞ。後は洞窟に戻ってから考えるか。

 そんな事を思案しながら俺たちは歩みを進めるのだった。

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