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「バカバカバカ! はやくどいてよぉ~!!」

「あ、あの……助けてくれたの?」


「ふっ、勘違いをするな。貴様のその力を利用すれば、魔王軍はさらに強力になる。そのために身柄を確保するだけだ」


 そう。勇者がどこかに吹き飛ばされた以上、予定を変更しなくてはいけない。

 とりあえず今みたいな野盗にまた狙われるかもしれないから、一旦こっちで確保して、勇者が見つかったときに押し付ければいいだろう。

 うむ、完璧だな。よし連れて帰ろう!


「さぁ巫女よ。この魔王についてこい!」


「い、いやよ! あなたの思い通りになんてさせないわ! 『神よ、この悪しき魔王を打ち倒す力を与えたまえ!』」


 そう言って巫女は、手を合わせて祈りを捧げた。


「やめておけ。人の身でありながら、短時間で何度も神に助けを乞うものじゃない。見限られるぞ?」


「そんな事わかっているわ。私は普段からこの力をむやみに使ったりはしない。本当に必要だと思ったときにしか使っていないのよ! だから今日連続で使うのは今までに貯めた繰り越し分よ!」


 いやそんなどこぞの料金プランじゃないんだから。そんなんアリなのか?

 って、そんな事を考えていたら巫女がどの選択肢を選んだのか見逃してしまったではないか! とりあえずこの攻撃をしのいだ後、即座に確保しよう。


「魔王、覚悟ぉ~!!」


 なんと巫女が素手で殴りかかってきた!

 これには俺も驚きを隠せないが、まぁ実際は神の奇跡で何が起こるか全くわからない。油断せずに対処しよう!

 しかしそんな俺の目に、巫女の足元にでっぱりが出現したのが映った。

 ここは小屋の中だ。にもかかわらず、急に巫女の足元にでっぱり石が形成され、当然巫女はその石に躓いていた。


「危ない!」


 つい俺は巫女を受け止めようと一歩前に出る。しかしその時、なぜか俺の足元にもでっぱり石が出現していたらしく、つんのめってしまった。


「ぬ!? おわぁ~~!?」


「きゃあ~!?」


 どてーん! と、俺たちは二人同時に転んでしまう。しかし不思議と痛くはない。

 とりあえず起き上がろうとすると、なぜか俺の体は動かなかった。

 なんだ? 一体何が起きたのだ? 目の前が真っ暗で何も見えないぞ?

 とにかく力を入れてもがいてみると……


「ふぇ? い、いや~~~何をしているのよ!!」


 俺の頭上で巫女の悲鳴が聞こえてきた。

 何をしていると言われても、真っ暗で何も見えないんだが? いや、でもなんか息苦しいな。呼吸がうまくできないぞ? なんだこれは!

 俺がさらにもがくと、巫女はさらに悲鳴を上げる。


「こ、こら! 動かないで! なんで魔王が私のパンツに顔を潜り込ませているのよぉ~!!」


 な、何ぃぃぃ~~!? 目の前が真っ暗だと思ったら、ここは巫女のパンツの中だったのか!? という事は、俺は今、巫女の股に挟まれているのか!? なるほど、どおりで息苦しいわけだ!


「バカバカバカ! はやくどいてよぉ~!!」


 ポカポカと俺の頭に衝撃が加わる。多分巫女が叩いているんだろう。

 しかし離れたくても、どういう訳か全く動けないんだが? なぜか両手も動かすことができない。

 今、俺の両手は柔らかい膨らみを握ったまま、その上から何かで縛られている感覚になっていた。


「ひゃう!? ばか~! 胸を揉むな~!! なんでさらしの下にまで手を潜り込ませてるのよ~!!」


 なんだとぉ~!! では俺は転んだ拍子に巫女のパンツに顔を潜らせ、両手はさらしの下から胸を直に触っている状態なのか~!?

 なぜこんな事に……って、これはまさか神の仕業か!? いやそれしか考えられん。突然足元にでっぱりが出現した事も踏まえると、これは神の奇跡によってもたらされた現象というわけだ。

 おそらく、このまま俺の呼吸を止めて死に至らしめようとする方法なのだろう。さすがの俺も、息が出来なければ一巻の終わりだからな。

 だが、そう簡単にやられはしないぞ! 胸に巻いているさらしとパンツで俺を拘束しようなんて片腹痛いわ! たかが布切れごとき引き裂いてくれよう!

 俺は渾身の力で脱出を試みた!


「あん! ちょ……魔王、そんなに動かないで! くすぐった……ああん!」


 なんだか艶のある声が漏れているんだが……?

 いや、そんな事よりも全然抜け出せんぞ!? なんだこの布、伝説の素材とかじゃないだろうな!?

 はっ!? 待てよ、これが本当に神の奇跡だとしたら、巫女の願いを聞いて本気で俺を殺しにきている可能性がある。つまり、このパンツとさらしには神の力が宿っていて強力なバインドとなっているというわけだ! まずい、これはかなり厄介な状況かもしれん!

 俺がそう危機感を覚えたその時だった。


「あっ、魔王様、村のみんなを連れてきました! 今みんなで手分けして周囲を……って、え?」


 聞き覚えのある声が後ろから聞こえた。

 これは王女の声! 第三者に介入してもらえばこの拘束が解けるかもしれない!


「……魔王様、なんでアヤちゃんのパンツの中に顔を潜り込ませているんですか? 私というものがありながら! これって立派な浮気ですよね?」


 おい~!! 何を勘違いしているんだ!? 俺はやりたくてやっているわけじゃないんだぞ!! なんかものすごく怒っている感じの声色だけど、状況を把握してくれ~!!


「ふぉうふぉ、ふぃっふぁふぁふふぇ!(王女、引っ張ってくれ!)」


「きゃっ! ま、魔王!? 突然しゃべらないで! そこでしゃべると私のあそこに息がかかって……はふん!」


 だぁ~! こいつも誤解されそうな反応をしてくれるなぁ! こっちはマジで窒息しそうになっているというのに!


「魔王様ひどいです!! エッチな事がしたいなら私でしてくれればいいのに!! ってそうじゃなくて、私ってもしかして邪魔ですか!? いらない子ですか!? うわ~ん魔王様のバカバカ~!!」


 ポカポカ、ポカポカ!!

 なんか頭を叩く回数が二倍になったぞ。多分王女も一緒になって俺の頭をポカポカしてるんだろうなぁ……


「離れてください! いくら魔王様がロリコンだからって、これはマズいですよぉ~!!」


 ロリコン違うわ! いや、それよりもやっと王女が俺を引っ張り始めてくれた。これと一緒に力を込めれば抜け出せるかもしれない!

 ふんぬぅぅ~~!!


「きゃあん!? 変に擦れて……そこをグリグリしちゃらめぇ~!」


 んが~、全然抜け出せん! 下手な拘束魔法よりも断然強固なんだが!

 これはいよいよ本気でマズいぞ! そろそろ息がもたなくなってきた。なんとかしなくては。


「ぐすっ、魔王様のバカ! そんなにアヤちゃんの方がいいんですか!? 私には魅力が無いんですか!? だったらはっきりとそう言ってくれたらいいじゃないですか! ふええ~ん」


 お、王女が泣いている!? そうだ。誤解とはいえ、こんな状況を見たらショックだよな。なら、俺は一刻も早く抜け出して誤解を解かなくては。でもどうすればこの状況を抜け出せる?

 そうだ! これが神の力だとしたら、魔法で対処できるかもしれない!

 俺はもがくのを止め、魔法を使うために意識を集中させる。

 これが神の、いや、人ならざる者の特殊な力だとしたら、その力を強制的に分解すればよいのだ!


『アブソリュートディスペル』


 この魔法は俺が使える解除魔法の中でも最上位の魔法だ。

 どんなにとてつもない魔法でも、元となっている魔力そのものを瞬時に凍らせて粉々に砕けば瓦解する。それが出来るのがアブソリュートディスペルだ。この魔法で解除できなかった魔法は今までない!!

 神の力だろうがなんだろうが俺をなめるなよ! 必ず打ち破ってみせる!!

 アブソリュートディスペル、発動だ!!


 ――ガシャーン!!


 何かが砕け散る音が聞こえた。そしてそれと同時に、俺は後ろに吹き飛んで尻もちをついていた。

 息をめいっぱい吸い込んでから呼吸を整える。ふむ、多少手こずったが、なんとか脱出には成功したわけだ。


「王女よ、なにやら勘違いをしているようだが、俺は神の奇跡で拘束されて窒息させられそうになっていたにすぎない。変な誤解をするなよ」


「そ、そうなんですか?」


「当たり前だ。俺がこんなところで幼女を押し倒すような男に見えるか?」


「……」


 いや、そこは黙らないでほしいんだが……


「そう……ですね。変な疑いをかけてしまってすみません。やっぱり魔王様はクールでかっこいいです」


 うむ。誤解も解けたところで、今度は巫女を拘束するとしよう。予定通り、一旦このままうちで預かろう。

 そうして俺が巫女に一歩近づいた時、あることに気が付いた。

 ……あれ? 巫女がなぜか全裸になっているぞ?

 なぜだ? 巫女服も何もかも全てが消え去り、すっぽんぽんの状態で床に倒れていた。


「う、う~ん……あれ、私は……」


 あ、目を覚ました。


「って、え? 私、はだか……? なんで……?」


 まだボーっとした様子で頭が状況に追いついていない。

 ああそうか、わかったぞ。アブソリュートディスペルは全ての魔法を凍結し、粉々にすることで効果を解除する魔法だ。そして巫女の衣服にはパンツも含めて拘束魔法がかかっていた。だから解除する際に粉々になったという訳か。なるほどなるほど。


「わ、私、裸で、え!? なんで!?」


 巫女の顔がみるみる真っ赤になっていく。だんだんと状況を理解しているのだ。

 だから俺は、身に着けていたマントを素早く脱いで巫女に被せてあげた。


「奇跡の巫女よ、裸とは感心せんな。そんな恰好では風邪を引いてしまうぞ」


「え!? いや、あの……」


「もう少し自分の体を大切にすることだ。神の声が聞こえると言っても、キミはまだまだ幼い女の子なのだからな」


「え……? え……!?」


 困惑する巫女をその場に置き、俺は優雅に踵を返す。


「もう村人が集まってくるな。王女よ、引き上げるぞ」


「えっと、アヤちゃんを連れて行かなくてもいいんですか?」


「ああ、こんな裸の幼女を無理やり連れていくのは変態でロリコンのする事だからな。俺のやり方ではない」


「あっはい……」


 何かを言いたそうな王女を連れて、颯爽さっそうとした足取りでその小屋を出る。

 そう、今はこれでいい。今は巫女を連れていくような雰囲気ではないからな。王女が連れてきた村人に保護してもらえるだろうから、それで当分は巫女の安全は保障される。

 まだシトシトと小雨が降り続く林の中を俺は軽快に進む。

 さらばだ巫女よ。もう少し気持ちが落ち着いたあたりに、またキミに会いに行くだろう。それまでに気持ちの整理をしておくがよい。


「な、な、な……なんなのよこれぇぇ~~!!」


 今頃になって俺たちが出てきた小屋から、巫女のけたたましい叫び声が響いてくるのだった。

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