「……勇者に仲間を作らせたらいいんじゃね?」
「……勇者に仲間を作らせたらいいんじゃね?」
会議中、一人の魔族がそう提案した。
仲間? パーティーを組ませるってこと?
まさか、そんなことが……
「なんで今まで思いつかなかったんだ……」
そうだよ。本の中の物語に出てくる勇者だって、仲間と協力しながら魔王と戦うじゃないか。
勇者が弱けりゃ仲間で補強すればいいのだ。こんな簡単なことに気が付かなかったなんて……
「確かにいい考えですね。しかもこちらが用意した仲間であれば、私たちと連絡を取り合って作戦を伝え合うことさえできます」
王女も納得の名案である。
あとは誰が勇者の仲間となり、我々と連絡を取り合うか、だ。
「よぅし、提案したお前が勇者の仲間になるのだ。期待しているぞ!」
まだ若く、陽気な魔族にそう委任する。
だが……
「ええ~!? いや無理っスよ! 自分そういう演技とかほんとダメなんで! そもそもどんな理由で勇者の仲間になればいいんスか!?」
「そんなもの適当でいいだろう。『魔王軍のやり方は間違っている』とかで勇者側につけばよいのだ!」
「いやいやいや、絶対無理っス! 自分、なんかの拍子にツルっと口が滑るタイプなんで!」
そう言って、この陽キャはやりたがらない。
まぁ確かに、口が軽そうではある……
「なら他に、この役をやりたい者はいないか? 勇者と仲良くなりつつ、隙を見て我々と連絡が取りあえる者がいい」
俺が全員を見渡すも、その全員が目を逸らしてしまう。
……うん。そうだよな。魔族ってそういうコソコソしたり嘘ついたりするの苦手だもんな。本能のままに生きてる奴ばっかだもんな。学校とかなくて自由に生きてるし……
「あ、そうだ! なら魔王様が勇者の仲間になればいいんじゃね? そうすれば、俺たち魔王軍が全員で魔王様を攻撃してやっつけられるじゃん!」
「アホか! 俺が勇者の仲間になって英雄伝説が生まれるものか! そもそも俺だけを倒した後に残った弱っちい勇者はどうするつもりだ!」
「え? それはほら、魔族と仲良しになってめでたしめでたし、みたいな?」
なにそれ。俺だけがやっつけられて、みんなは人間族と仲直りするの?
それってなんだか俺一人が悪者みたいじゃん。俺だけハブられてるみたいで面白くないじゃん!
「そんなうまくいく訳がなかろうが! 却下だ却下!!」
しかし仲間を作らせるという作戦はいいと思う。俺にダメージを与えられるだけの仲間を見つけられればいいのだが……
「あ、そういえば!」
また陽キャな魔族が口を開いた。
「この前みんなで図書館のある街に行ったじゃないっスか。そこで俺らが買い物をしている時に、興味深い話を聞いたんスよ。なんでもシンジャオツって街から、神の奇跡を操れる巫女が旅に出たらしいっス」
「……神の奇跡? なんだそれは。魔法か?」
「いや、詳しくはわからないんスけどね、今頃はここから西の『ノドカ村』辺りに立ち寄ってる頃なんじゃないかって」
ふむ。神の奇跡を操る巫女か。
俺が『神』と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、なんと言っても女神イリーナだろう。
魔王デスライク様を消し飛ばし、俺たち魔王軍にわざと負けろと無理難題を吹っかけてきた忌まわしい女。確か転生を司る女神とか言っていたな。もしも本当にその力を操れるのだとしたら、間違いなく戦力としては申し分ない。
しかもここから西のノドカ村なら、西の渓谷へ伝説の盾を取りに行った勇者と出会う可能性も高い。
「ふむ。その巫女を調べてみるか……」
そうして、俺はその村に出向くことを決めたのだった。




