コロニー『リボーラ・アルテラ』
アルテラ宙域 コロニー『リボーラ・アルテラ』
リーグル汎銀河帝国協定中央政府直轄のコロニーであり、仮想敵国である共和国と連邦との国境地帯付近であるアルテラ宙域を管理する大型コロニーであると同時に日々アルテラ宙域で採掘された鉱物資源を帝国各地へ供給する為の中間拠点である
その重要度から帝国正規軍の艦隊が少数ながら駐留し、それと同時に多数の鉱物資源と宙賊を目当てに多数の傭兵が活動しており、そんな彼等を相手にする飲食業やその他娯楽産業が非常に発達していた
そしてそんな傭兵達の為に傭兵組合の事務所も設置されており、そこに戻ってきた祐一が訪れていた
傭兵組合の事務所といっても実際には役所の様な雰囲気で在り、せいぜい内部に打ち上げや食事用の食堂やバルにコンビニがある程度だった
他種族国家の集まりである帝国協定らしく様々な異種族がそれぞれ好きな格好でそれぞれの用事を済ませていた、もっとも2足歩行の種族の傭兵は大体が作業用のぴっちりとしたインナーにシャツや上着を組み合わせて体のラインが分からないようにした服装をしている
「あ! ユーイさん!」
そんな中受付カウンターにいた職員が祐一の姿を見るなりそう嬉しそうに祐一の愛称で呼び声を上げ、1階にいたほぼ全ての人が一斉に入り口から入ってきたばかりの祐一を見た
「...帰っていいか?」
「ダメです! 急ぎの依頼があるんで「この馬鹿!」きゃ!」
呆れたように呟いた祐一の呟きを速攻で叩き落としたそれなりに可愛い職員に、後ろからすっ飛んできたベテランの男性職員が一喝した
そんな光景を見て祐一も溜息を吐きながらではあるが、同じく疲れたのと呆れた様な雰囲気で手招きしているベテラン職員のカウンターの所に向かった
「すまねぇな、この馬鹿最近本部からこっちに移動してきた新人なんだよ。」
「何となくそう思ってましたよヘッグさん。」
それなりに付き合いがあるベテラン職員...昆虫系統のグラッシャル星系のグラッシャル人のカブトムシの様な外見のヘッグに祐一はそう返した
「ついさっき大口の依頼が入ってな、工業惑星の伯爵家から鉄7000トンを1週間以内に発送せよってな...どれくらい採れた?」
期待しているのだろう雰囲気を出しながら聞かれたヘッグの言葉に
「鉄25762トンに銅1505トン、ついでに各種鉱物少しづつってとこ、価格は?」
と言い、価格に関して逆に聞いた
「まあ相場通りってとこだな...どうする?」
「全部卸すよ、平均価格で良いから他のも相場で頼むわ。」
「助かる、鉄はあまり変わっちゃいないがそれ以外が最近上がってきてるからな。」
価格を聞いた祐一はすぐに納品を決めて、他のも売却を頼んだ
「それと宙賊艦と鹵獲物資と宙賊の買取も頼むわ、船はコルベット1隻と中型戦闘艇2隻の計3隻で物資と人員は7隻分。」
「任せとけ。」
祐一の話を聞いていた周囲の新人達が一斉に静かではあるが色めきあった、鹵獲した宙賊艦は修復された後艦を持っていない新人達に優先してオークション形式で販売されるからだ
因みに遺品は遺族にタダで返されるがそれ以外の物資は本来の持ち主に1割の値段で売られ、宙賊の構成員は帝国協定国内開発開拓庁に引き渡され、それぞれの犯した犯罪の分資源採取基地で働く事となる
そんなこんなで話しているとふと後ろに大柄な人影が現れ
「よっと。」
「...いい加減に俺を小動物抱えるみたいに持ち上げないでほしいんだが。」
祐一を背後から腋の下に手を入れる感じで抱きかかえられ、そのまま頭の上に顎が乗せられた
「おや? 暫く留守にするとか聞いていたけどどうしたんだセレナ?」
「依頼主がいつもより早く船を走らせたのと商談が早く終わったのさ。」
「おいいい加減に下ろせ。」
祐一の抗議の声を無視しながらセレナ...この宙域で1位と2位を争う程の2メートル30センチ近い身長を持つダイナマイト級美女である地球人の肌に所々爬虫類を思わせる鱗が生え角と尻尾を持つ竜人系統のグラド星系のグラド人であるセレナ・ドラレーンは依頼完了の手続きを進めだした、尚ヘッグを含め古参の傭兵や職員達はこの状況に慣れており何も突っ込まなかった
「私達の求婚受け入れたらな。」
「いやマジで洒落にならんだろうが、お前一応大企業の令嬢だろうが...試験管生まれの俺とは立場が違うだろう。」
帝国協定でも屈指の技術力を持つドラレーン社の経営者一族の出身であるセレナは、帝国貴族でもある一族の娘でもあり、『権力ある者の義務』として徴兵された際に傭兵である事から徴兵された祐一と同期であり絶えず求婚し続ける間柄だった...因みに祐一は帝国協定にて人口が少ないとある小国が、寿命は短く身体能力こそ低いがその闘争心から銀河内でも有数の戦闘種族である地球人の兵士を人工子宮を用いて生産し戦力化しようと目論んで生み出された人間だった、ただ遺伝子的には弄られずただ適当な男女の精子と卵子を組み合わせ生み出された為能力的には平凡で在り、いっその事能力も上げてくれたら良いのにと常日頃から言っていたりする
「グラド人がそういったこと気にすると思うか? 竜帝ですらあれだぞ? 破天荒なんだぞ?」
グラド人は銀河内でも最強に近い種族で在り、その恵まれた体格からでも想像できない程の身体能力を持ちながら性格は温厚かつ大雑把そのものという特徴を持つ帝国協定主要種族の1つだった
因みに地球人の軍隊を作り上げようとした小国は自分達の遺伝子が悪用されかけた事にブチ切れた地球圏自由協定統合国やグラド人国家であるグラド竜帝国の手によって滅ぼされ現在は帝国協定監視の元復興中である
作り出された地球人たちは帝国協定の権力者達に養子として引き取られるか施設に入れられ、祐一は施設で育ち傭兵となった経歴を持っている
「何でも良いんだがさっさとどいてくれ、忙しくなってきた。 ユーイ、オークションに関しての金は大体1週間後に振込だからな。」
ヘッグが手続きが終わっても尚抵抗する祐一とそれを抑え込むセレナに対し呆れた様な雰囲気を出しながらそう告げた
「わかった!」
「いや何でお前が返すんだ、てか下ろせ!」
祐一の代わりに返事をしたセレナは抱え込んだ荷物を逃がさないようにしながら食堂に向かった
食堂は中々に混雑しており、その席の1つには豪快且つ男勝りな雰囲気を出しているセレナ負けず劣らずな美貌を持ちながらも真反対な雰囲気を持つ1人のグラド人の女性が座り手元の端末を見ながら席を取っていた
セレナはその女性を見つけるとその席の空いている椅子に祐一を抱え込みながら座った
「おい離すように言ってくれよサミー。」
「あら? 先に捕まってしまったようね、私も抱っこしたかったのに。」
「後で変わるさサミー。」
「相変わらずお前らは俺の話を聞かねえのな、ワルキューレの火竜と氷竜さんよ。」
祐一の救援要請をスルーしつつ端末から目を離し微笑みながらかけられた言葉にセレナともう諦めた祐一はそう返した
『火竜と氷竜のワルキューレ』...それがこの2人のあだ名であった、全長20メートルの2足歩行型機動兵器を用いる歴戦の傭兵でもある彼女等はその高い実力以外にもその美しさと歌声から非常に有名であり地球人達から呼ばれ始めたワルキューレの名がそのままあだ名になっていた
赤い髪と鱗を持つセレナに対し澄んだ青色の髪と鱗を持つサミー...サミエラ・エングはセレナの相棒で在り、ドラレーン社経営者一族に代々仕える使用人の一族の出身だった...最も本人達はそこまで気にしてはいないが
「で何食べる? いつものか?」
「ああ、それで良いよ...」
「私もね。」
セレナは近場にいた給仕ロボットに注文を済ませると、膝に抱えている祐一の膝に自身の尻尾を乗せそのまま鼻歌を歌い始めた、それに合わせてサミーも鼻歌を歌い始めるとその場にいた人々は段々と静かになっていきいつしか周囲には調理音や料理を運ぶ給仕ロボットの音以外2人の鼻歌しか音がなかった
鼻歌が一曲終わる毎に膝に抱えられている祐一がセレナとサミーとの間で渡し渡されとされていると、凄まじい量の料理が運ばれテーブルを埋め尽くしていった
この段階で祐一は解放され、解放された祐一が自分の席に着くとそれぞれが料理に手を付け始めた
「...相変わらず同じの食うんだな、たまには違うの食わないのか?」
「あまり習慣は変えたくないんだよ、近い内に遠出する事になりそうだしな、下手に変えてミスしたら大変だし。」
「今度はどこに?」
祐一はサバの味噌煮とゴマダレの冷しゃぶサラダをおかずに白米を食べながら話し始めた
「ここんとこ宙賊の勢いが弱まってるからね、10セクター離れた所のドラレーン社の兵器生産ステーションに行って兵装関係新型に変えてくる、カットラス級もいい加減に変えたいからね。」
「うちにか? 私達が求婚してるからって遠慮しなくても良いんだぞ?」
「ドラレーン社の軽巡航艦はバレット型がありますけど...」
2人とも凄まじい勢いではあるが非常に気持ちが良い位の勢いで食べていた食事の手を止めて言い出した
因みに食料は全て原子分解装置でいったん分解された一種の合成食糧であり、それらが材料になっている
そしてバレット型軽巡航艦は高価格高性能が売りのドラレーン社の思想から少し変えて、安価で在りながら出来るだけ高性能を目指すという方針の元設計されたがその結果中途半端な性能になってしまった珍兵器だった
「いや、社長から俺個人に連絡があって新型設計したから試験運用がてら使わないかって。」
「あー、そういえば新しく地球人の設計部に仕事出すとか言ってたな親父。」
この時代地球人の寿命は遺伝子改造技術の発達により500年程になっており、銀河有数の短命種族の座は返上し、今ではその闘争心から軍の司令官の他に優秀なアイデアマンやデザイナーとして雇われることが多かった
「まあそんなこんなで暫くアルテラから離れる、2人はどうする? 里帰りするか?」
セレナとサミーは顔を見合わせ、そして首を横に振った
「正直な所里帰りついでに船の中でユーイを襲って既成事実を作るのもありだとは思うが、まあ...」
「後もう少しだけ稼ぎたいので大丈夫です。」
祐一はそれを聞いて頷くと食事に意識を戻した、その後は3人で普通の話をしながら食事を終わらせ別れて、祐一はアカシマルに戻り、くず鉄の艦隊はコロニーを離れドラレーン社の兵器生産ステーションに向かって進路をとった