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記憶検査

目が覚める

普段なら見慣れた天井...祐一の私室の天井や壁には無重力状態に備えて布の紐のような物で引っ張って開けるタイプの収納で埋め尽くされているが、その大半の中身が緊急事態用の非常食や嗜好品や飲料であり大量の紙媒体の書籍でいっぱいであり、軌道上ステーションやコロニーに居住惑星に家を持つ通常の傭兵とは違い『アカシマル』が家であるため自身の稼ぎの殆どをつぎ込んで居住性を高めている温かみのある部屋の光景が広がるのだが


「見慣れねぇなぁ...」


真っ白な平面の天井だった

起床時間となり暗かった部屋の照明が自動的に点灯した事で目を覚ました祐一は、普段なら隣で添い寝しているはずのメイリが居ない事に内心非常に落ち込みながら起き上がり、朝の洗面や着替えを始めた

その部屋は何とも殺風景であり、帝国協定全体での身長の平均である2.5メートル程の人々が使用する前提で設計されているのか大き目のベットにシンプルな椅子とテーブル位しかなく、壁には照明と小さなラック位しかなく、そのラックには数冊の紙媒体の書籍が入っていた

部屋の片隅に設置されているトイレとシャワーと洗面所が一体になっているユニットバスで手早く洗面等を済ませ着替えた

その恰好は普段来ている何処かの作業工のような恰好では無く無地の緑色のシャツにズボンといった簡素すぎる物だった

安価で在りながら手で千切る事が難しく丈夫な素材ではあるが、その分地球人としては何とも着心地の悪い服に内心舌打ちしながらも扉の前に立った...尚2着ある内の全く同じ物が寝間着である為何とも寝辛かった


暫くすると扉の上あたりから小窓のような物が表れ、ぬっと仮面のような顔が覗き込んできた


「ヤシマ・ユウイテ、体調はどうか?」


「ユウイチです、ユーイで結構です...体調は問題ありません。」


名前の言い間違いを直しながら、祐一は返答した


「すまぬ...食事だ、次の見回りまでに食べておくように。」


若干申し訳なさそうではあるが厳格な口調でそう告げると、祐一の首辺りの高さから同じように小窓が表れ開いた

そこには1枚のプレートに3種類のペースト状のナニカや歯磨きチューブのような入れ物に入ったナニカに良くわからんそれなりの大きさのクラッカー6枚が盛られていた

祐一はそれをテーブルまで運ぶとまた扉の前に戻った、先ほどの小窓は閉じられ少し下の所から蓋付きのコップが出てきた


「高さを間違えた、すまぬ。」


「お気になさらず。」


祐一の返答に先ほどと同じように申し訳なさそうな雰囲気を出していた


「記憶検査は食事後30分後に行われる...あの愚か者共は今も喚いておる。」


「まあ出来事を表面だけ見れば不味い事態ですからね、民間の武装採掘艦隊が仮想敵国の支援とは言え正規艦隊を相手に艦隊戦して買っちまいましたから。」


ここは帝国協定首都惑星にある第211刑務所、祐一はつい先日のミラッテ連邦共和国艦隊との戦闘を繰り広げた事で艦隊指揮権を有する旗艦艦長であり艦隊司令官として記憶調査を受けたうえで法務省と外務省主催する審議委員会に証人として呼ばれる事となっていた


コロニー『リボーラ・アルテラ』は帰還したくず鉄の艦隊の状況を確認すると大騒ぎになっていた

次元跳躍点から持ち帰ってきた莫大な量の鉱物や多数の艦船のみならず、敵対しているオレアル自由連邦構成国の艦船や捕虜多数を引き連れて帰って来たからだった

帰還すると直ぐに駐屯していた帝国協定中央正規軍艦隊やコロニーの警備部隊から多数の憲兵や将校がやってきて鹵獲した連邦艦船や捕虜を引き取ったり、くず鉄の艦隊の各艦船が記録していた膨大な情報を回収したりして大忙しになった

最初こそ宙賊にとって恐怖の象徴であるくず鉄の艦隊が宙賊と間違えてミラッテ艦隊を全滅させたのだと思っていたようだが、提出されたブラックボックス内の加工されていない通信記録や戦闘詳報を確認していくにつれて


「えーと、いきなり鉱物を奪い取ろうとしたの? 買い取ろうとしたんじゃなくて?」


「くず鉄の艦隊は騒ぎにならないように後退してたのに返答無しで砲撃かましたのかこれ...」


「で偽装の剥がれたくず鉄の艦隊に返り討ちにあったと...いや馬鹿過ぎない?」


「一方的にやられとるやんけ...」


その疑惑は無くなりミラッテ側の余りにも短絡的な思考に呆れ果てていた

くず鉄の艦隊はミラッテ艦隊を発見するや否や即座に撤収を行っており、完全に挑発の域を超えたレーダー照射に対しても迎撃態勢をとりつつも後退していた所を、最終通告に対して返事をする間もなく砲撃を受けており完全に被害者なのは明白だった

膨大な量の証拠からくず鉄の艦隊に非が無い事は明白であり、ミラッテ連邦共和国やオレアル自由連邦から抗議が入っても帝国協定としては鼻で笑い捕虜を返すだけで済んだのだろうが、ここで騒ぎ出した者達がいた


「これは完全にくず鉄の艦隊が原因である、帝国協定は賠償と責任を負うべきである。」


「相手は正規の艦隊なんですよ、それが一方的にやられるなんて事はありえません!」


「傭兵側が違法な奇襲攻撃を行ったに違いない! 逮捕して引き渡すと同時に相手に賠償をしなければ外交問題になる!」


「記録を捏造したに違いない! 逮捕しろ!」


自称平和活動団体を始めとする市民団体やそれらの団体や支持者から支持されている議員団が動き始めたからだった

幾らか軍事機密があるので全てでは無いとはいえある程度の情報が開示されるや否や、即座に連邦や共和国に近い勢力に動きがあったのは言うまでもない

帝国協定は基本的に自由主義であり議会制民主主義を政治体制として採用している勢力が多く、そういった集団が発する声は声量だけは大きい事が多いという事もあり、確認も兼ねて緊急で招集された審議委員会で事情説明を求められた

その為帝国協定中央軍航宙艦隊の護衛の元、リーグル汎銀河帝国協定の中心である中央星系『リーグル』にくず鉄の艦隊は訪れる事となった

中央星系『リーグル』は元々恒星との距離は丁度良いが水が存在せず生存に適さない過酷な環境で知られる惑星が並ぶ星系だったが、リーグル汎銀河帝国協定発足時に


「後々の事を考え中央星系を定めるのは良いが、構成国の主要星系を中央星系としてしまうと政治的均衡が崩れてしまう恐れがある。」


という意見が出た為、当時の領域内の中で中央に位置しておりトワク帝国が所有しているとはいえ環境が厳しすぎて開発されておらず政治的にも地理的にも使いやすそうな星系であった『ガトラ』星系をテラフォーミングし『リーグル』と星系名を改名した事でその長い歴史が始まった

各惑星には多数の中央政府の政治機関や構成勢力の大使館や事務所が設置され、各企業勢力の本社や支社が展開し絶えず膨大な通信や艦船が行き交っていた

またリーグル汎銀河帝国協定構成勢力から提供される資金や装備に人員で編成される中央軍最高司令部や帝国協定軍中央工廠に加え中央軍士官学校もあり、常時3個主力艦隊が展開していた

そして居住している多数の人々や仕事や観光で訪れる人々の需要から多種多様な産業が活発で在り、絶えず膨大な金が動く経済圏でもあった


くず鉄の艦隊はドラレーン社が保有している研究拠点で大規模戦闘の後簡易的な修理しか出来ていなかった既存の艦艇の大規模な修理点検や新規に編入した艦艇の設備更新を行いつつ、祐一は迎えに来た法務省の輸送艇に乗り込み審議委員会に出席した...のだが問題が起きた

本来なら祐一は首都星『リーグル』の審議委員会が手配した施設に宿泊する予定だったのだが、祐一が到着する少し前に抜き打ちで法務省と外務省の実働部隊が点検を実施した所多数の盗聴器や隠しカメラが発見されたのに加え、急遽調査した所施設職員も何人かそういった団体に所属している事が確認され危害が加えられる恐れがあるとして、急遽法務省が管轄している確実に安全な刑務所に部屋が用意されたのだった

偽装として刑務所側のデータベースには裁判待ちの容疑者を臨時で収監しているという事になっているが、実際に護衛と世話を行っている刑務官達には真相が伝えられており、自由に過ごせていた...流石に食事や衣類は偽装している都合上囚人と同じ物となっているが諦める他なかった


囚人用であるが故の栄養面しか考えられていない食事を終えた祐一は、プレートとコップを返すと部屋の中に入ってきた刑務官達の手によって丁寧に偽装用の手錠と覆面を付け護送されながら審議委員会が開かれる第451法務省に向かった...構成国の自治権が非常に強いとはいえ広大な領域を勢力下に収める帝国協定では同じ省庁でも方面事に複数設置されている、第451法務省もそれの1つだった

前世の役所を思わせるような外観の法務省の中にある一室に連れてこられると、中には既に数人のぶかぶかの白いローブと仮面をつけた集団が準備を整えていた

記憶検査は文字通り脳内にある記憶を見る為の物であり秘匿すべき個人情報を扱う物だった、その為記憶検査を担当する職員は身元がバレて脅迫や誘拐される恐れがある為、種族と体がわからないように仮面とローブを身に着け声まで変え徹底的に偽装していた


「体調はどうか?」


「問題ありません。」


護送してきた刑務官に覆面や手錠を外され、体を動かし柔軟をしていた祐一に音声変更装置を付けた記憶検査担当官が話しかけてきた


「了解した、では始めよう。」


祐一は待機していた記憶検査担当官達により体の彼方此方に様々な装置が付けられると同時に小瓶に入った怪しげな紫色の飲み物を飲まされた、そして用意されていた椅子に座らされた


「なぜブドウ味...」


「砂糖を入れていないレモン味から改良したのだ...もし何か変な物が見えたら終了後に報告するように...」


刑務官達が出ていったのを確認すると、記憶検査担当官達はそれぞれ配置につき機材の電源をいれ、祐一は気絶するように意識を失った














―――――――――――――――――――――――――――――――――――――













そこはナニカの中だった

ぼやける思考と視界からは様々な物が見え、少しづつ周囲が見えてきた

研究員を思わせるような人々や何か武器のような物を持つ兵隊のような人々が聞いた事も無いような言語で会話しており、手に持つ道具類も何処か記憶のある場所で使用されていた物よりも精練されまるで未来の道具のようだった

この部屋には様々な機材や人が浮いているようなポッドが幾つかあった


ここはどこだ?おれはなんでここに?というかそもそも...おれってだれだ?


憶えている記憶は虫食いの様にバラバラで、人の顔は全て霞がかかりわからない

少しはっきりしてきた視界に入る人々は住んでいた?地域どころか地球にはおらず、宇宙人のような外見をしていた

すると機材を見ていた人々が一斉に騒ぎ出した

液体で満たされたポッドの中からは見えずらいが人々が右往左往しており、サイレンのような音が響いていた

暫くすると入り口が蹴り破られ武装した軍人のような集団が突入してきた、見慣れた人間だけではなく大きなドラゴンのようなのもいた

研究員や警備員達は突入してきた集団に制圧され数人が残されそれ以外は連れていかれ、残った研究員は尋問され軍人達から何か指示されたのか機材を弄り始めた

ぼやける思考でそれらを見ていたら、暫くすると液体が上から無くなっていきポッドが開かれた

開かれた瞬間に待ち構えていた軍人が濡れるのも厭わず、倒れこむ裸のおれを抱きかかえ何か大きな布で巻いた


「あんたたらだぁれ...?」


同じ様にポッドから出てきた数人の裸の男女が受け止められるのを見ながら、呂律の回らない声で尋ねた

その瞬間、その場にいた全ての人々が固まった


「※※...※※※※※※※※※※※...※※?」


おれを抱きしめるように支えていた軍人からよくわからない言葉が出てきて首を傾げた

その後ろで拘束されている研究者達が騒いでおり、即座に近場にいた軍人達が凄まじい勢いで尋問しだした


「※※※...えーと、これで通じる?」


日本語で発せられた言葉にゆっくり頷く


「色々とわからない事だらけだと思うし、まだ意識もはっきりしてないと思うから...1つだけ聞かせて?」


「なーに...?」


「君は自分自身がわかるのかい?」


「わからないや...なんだろう...?」


軍人達は顔を見合わせ頷いた、意識が遠のいていく


「とりあえず今は眠って...次起きたときに色々聞かせてね...」


返事も出来ずに意識が落ちた




























ああ、なんて古い記憶だまったく

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