ミラッテ連邦共和国第21採掘艦隊
「全艦警戒配置! 各基地外部に停泊中の艦船は緊急発進後艦隊戦列陣形を構築! 基地内部に停泊中の各艦船は各種資源及び設備改修開始!」
「各戦隊は旗艦『アカシマル』基準に展開、第1戦隊中央へ、第2戦隊右翼、第3戦隊左翼、第4戦隊上部、第5戦隊下部に展開、アステロイドシップ戦隊は艦隊全面へ展開、各基地内部の機関設備出力上昇防衛設備に動力伝達を強化。」
「艦隊戦闘指揮権限を八島祐一艦長から副艦長セング―に変更、全情報共有開始。」
祐一の号令と共に艦隊が動き出した
メイリの即応配置指示により第1基地に停泊している『アカシマル』を中心に多数の艦船が全方面からの攻撃に警戒し、各基地の防衛設備も内部の機関設備からの動力供給を受けその偽装を剥がす機会を待ち始めた
そして本来なら『アカシマル』艦長である祐一が指揮する筈なのだが、その権限をセング―が変更し指揮を執り始めた
祐一はそれに疑問を抱かずそれを確認するや否や、兵器管制席に移動し各種兵装を立ち上げ始めた
祐一とメイリは宇宙に出て44年近くになるが、セング―は3000年近く帝国協定中央軍の参謀将校として国境沿いの宙域で睨みあいを続けていた生きる伝説であったことから本当にヤバい時にはセング―が指揮を執る事が多かった
「連邦艦隊尚も近づく、されど反応無い事からこちらに気付いていない模様。」
「中型艦各基地の牽引準備開始、各戦隊より分隊抽出、艦首連邦艦隊に向けたまま後退開始。」
有り余る採掘済みの岩塊と時間を使い6つの簡易基地が追加されており、それぞれに中型艦2隻がアンカーを簡易基地に打ち込むとゆっくりと牽引し後退を開始した
そうして艦隊全体が後退しだし始めた頃合いで連邦艦隊がこちらに気付き、通信を入れてきた
『こちらは偉大にして全能なる指導者であり神よりこの全宇宙の統治を任されているマレリアレウセルイテンス・キリー大統領の統治するオレアル自由連邦構成国が1つであるミラッテ連邦共和国第21採掘艦隊である、そちらの所属を述べよ。』
キリー人特有の紫肌に4つ目のでっぷりと太った体を夥しい程の勲章で飾り立てられた軍服に身を包んだ艦隊司令官と思しきキリー人が蔑んだ様な視線を浴びせてきた
「こちらはリーグル汎銀河帝国協定アルテラ宙域傭兵組合所属武装採掘工廠母艦『アカシマル』、現在まで鉱物の採掘及び艦船の建造を行っていた、そちらの目的を述べられたし。」
『忌々しい異種族共か、こちらは我が国の発展の為鉱物の採取に来た。』
祐一からの返事に何とも失礼な態度であったが、これが連邦の大多数だった
「こちらは既に撤収作業中である、後は好きに採掘する事を勧める。」
少しばかりイラつきはしたが祐一がそう話している裏でセング―とメイリが静かに指示を出し、くず鉄の艦隊の内まだ連邦艦隊に探知されていない艦船が牽引されている簡易基地の陰に隠れ始めた
祐一は中央の兵器管制席の中央モニターに向かって通信しているのだが、その脇についている小型モニターにミラッテ艦隊の解析が完了したのか艦隊編成が表示された
ギアルベート級防空フリゲート9隻
カスケット級防空駆逐艦6隻
ソード級軽巡航艦4隻
ヘビュルテ級重巡航艦2隻
未確認の新型戦艦1隻
コモル級採掘艦4隻
ナット級工作艦2隻
ペタビ級輸送船8隻
どれもこれも1世代ほど旧式ではあるが最前線に配備されている一線級の艦船であるのに加え、新型戦艦がいるとの情報に内心祐一は結末が脳裏に浮かんだ
『ほう、では貴様達は鉱物を溜め込んでおるとのことだな...全部こちらに差し出せ、我が国の発展に貢献できるのだ、感謝するが良い。』
「拒否する、自分の祖国の事を思えば労働も苦では無いだろう...再度通達するが既にこちらは撤収している、直ちに作業を開始する事を推奨する。」
ミラッテ連邦共和国艦隊戦闘陣形に移行、我が方に火器管制レーダー照射中
脇の小型モニターから伝えられた内容に祐一は表情を険しくした
「ミラッテ連邦共和国第21採掘艦隊に警告する、直ちに戦闘陣形を解き火器管制レーダーの照射を中止せよ! さもなくば我が方も相応の行動を取る、直ちに敵対姿勢を解け!」
ミラッテ艦隊司令官は嘲笑うような表情を浮かべた
『我らが連邦に対する協力を拒否した事に加え、軍事機密である我が方の新型艦を目にしたのだ...最後の慈悲をやろう、文字通り全てを引き渡すが良い、脱出艇に乗り込み離脱するのは認めてやる。』
どうせ逃げ出させるつもりないだろ撃ち落とすだろ
そんな事考えていた瞬間、ミラッテ艦隊から砲撃が飛んできた
「前衛のアステロイドシップ31隻及びフリゲート112号艦爆沈、駆逐艦111号艦中破。」
「現時点をもってミラッテ連邦共和国第21採掘艦隊を敵艦隊と認定、偽装解除全艦戦闘開始! 『炉に火を入れろ!』」
『『『『叩キ潰セ!』』』』
帝国協定艦隊伝統の掛け声と共にくず鉄の艦隊は反撃を開始した
元々逃がさないつもりだったので奇襲したミラッテ艦隊だったが、大型の輸送船以外は中型や小型の民間艦船で構成されていると思っていた艦隊が格納していた兵装を展開し、牽引していた簡易基地の陰から多数の小型艦や中型艦だけでは無く大型艦や超大型艦まで一瞬で展開しバリバリの戦闘艦隊と化した事には呆然としたらしい...通常なら民間で運用されている船舶は軍用艦船に勝てないがくず鉄の艦隊はとある秘密計画が発端で生まれたイレギュラー艦隊なので見抜けないのも当然だった
一瞬砲撃が止まったかと思えば即座に反転し逃げ出そうとしたが、ここは多数の岩塊が浮かぶ次元跳躍点であり急な艦隊運動で岩塊にぶつかったりくず鉄の艦隊からの電子妨害や跳躍妨害により大混乱を起こしていた
ミラッテ艦隊から見て軍用艦船大小合わせ36隻の艦隊に対し、相手は最大な物でも大型の採掘兼輸送船
1隻・中型船16隻・小型船40隻の計57隻でしかも碌な武装を積んでいない民間船舶にしか見えないし脅威になりうる中型船も10隻は基地の牽引作業中で使えないと考えていたからだった、一応なんか採掘した後の岩塊に何か装備させた船のような何かが130隻程反応があるが装備の質からして脅威にすらならず襲撃部隊や私設部隊では無く犯罪者上がりの宙賊対策の為の数合わせと廃品の再利用位と考えていた
連邦や共和国艦船共通の弱点として見た目や武装重視で電子戦や観測設備の性能不足や幹部以外の乗組員の居住性の低さが有名だった、また帝国協定は通常の機械式コンピューターを使用しているのに対し連邦や共和国艦船は生体コンピューターを使用しており性能差にバラツキがあるのも特徴だった
因みに生体コンピューターは文字通り有機生命体を改造しコンピューターとして使用している物で、帝国協定では生命の尊厳を破壊するに等しい行為であるとして使用するのは忌避されており、くず鉄の艦隊で運用されている鹵獲艦であるカットラス級も生体コンピューターを取り除き通常の機械式コンピューターを設置していた...取り除いた生体コンピューターは各政府機関に送り出来るうる限りの治療を行った後社会復帰している、もっとも基本的に自我の破壊や自爆処置が行われているという事もあり中々社会復帰できた人々が居ないのは悲しい所ではあった
そして本来なら民間船舶を一方的に蹂躙する筈だったのに、偽装解除し真正面から軍用艦船と撃ち合う事になったミラッテ艦隊は悲惨だった
元々数では劣っていた所を性能差で蹂躙しようとしていたら、肝心の性能差では電子戦能力の差もありそこまで変わらず、隠れていた『アカシマル』や巡航戦艦に重巡航艦を中心とする大型艦部隊からの砲撃まで受けるともなれば凄まじかった
数の暴力で打ちのめされているミラッテ艦隊だったが、新型戦艦だけは別だった
連邦艦船は旗艦や大型艦に関しては凄まじく力を入れており、同世代であれば帝国協定軍の大型艦と同等かそれ以上の性能をしている事が多いのだが、その分それ以下の艦船は低性能であったがその分量産性が高く物量を活かした戦いを仕掛けてくる事が多かった
多数の砲撃を浴びても尚戦闘能力は健在で在り、元々対中型及び小型艦に特化しているのか数門の大口径主砲以外は多数の速射砲を装備しているようで、速射性能を活かした統制砲撃を形成し防御障壁...シールドや装甲が薄い小型艦船を中心に被害が拡大しつつあった
「旗艦及び巡航戦艦に重巡航艦も前進し壁となれ、被弾損傷している艦も含めて各魚雷及び誘導弾装備艦船で臨時雷撃戦隊を編成、全砲門敵旗艦速射砲を狙え、統制砲撃能力に穴を開けよ。」
機械知性ゆえの簡易ではあるが的確な指示の元、旗艦である戦艦以外の無力化をしたくず鉄の艦隊各艦船は砲火を集め厚いシールドと装甲を削り取り始めた
対抗して敵戦艦も主砲や多数の速射砲群で弾幕を展開してきたが、『アカシマル』を中心とする巡航戦艦や重巡航艦の大型艦部隊が砲撃の数を減らし浮いたエネルギーでシールドを強化しつつ前進し、その弾幕を受け止め友軍艦船の被害を受け止めた
祐一も『アカシマル』の主砲として左舷右舷前方にそれぞれ4基設置した短砲身300センチ連装複合砲8門に中央に設置した可変砲身300センチ連装複合砲を撃ちまくっており、セング―の合図を聞くと中央で連射性を重視し短砲身状態で砲撃していた300センチ連装複合砲の砲身を火力と貫通力に優れる長砲身状態に変更し一斉砲撃した
短砲身は可動性の高さに加え速射性や冷却性能に加え格納するのも簡単だという事で仮装戦闘艦やくず鉄の艦隊に採用されているのだが、砲身が短い事による集束性能の低さからくる火力や貫通力に加え命中性能や射程距離が低くなるという問題があった
対して長砲身は長い砲身により高い集束率を持ち短砲身の欠点を解消しているのだが、代わりに短砲身の長所がそのまま欠点となっていた
可変砲身は状況に応じて短砲身と長砲身を切り替える事が可能なのだが、可変機構ゆえの重量増加に加え維持費用や手間の増大に短砲身から長砲身に切り替える際の部品破損率の高さ等による信頼性の欠如により中々普及していなかった、『アカシマル』が中央部でこの砲を使用しているのもドラレーン社からの依頼で試作段階の主砲の実地試験を行っているからに過ぎなかった...因みにこの砲は追加する砲身が上部にレールに乗っかる形で設置されており、長砲身状態になる際にはそのままレールを使い前に押し出し元々の砲身ぼ先端部分まで根本を伸ばした後に嵌め込まれる形式だった
そんなこんなで多数の砲撃により弾幕を張っていた速射砲群を吹き飛ばされ火力を落ちたのを見計らい、残存していた中型小型艦船が一斉に突撃していった
新型戦艦も主砲や残存していた速射砲で弾幕を展開したが、火力に優れるアローヘッド型軽巡航艦の強力且つ的確な支援砲撃により各砲門を吹き飛ばされた事で即座に沈黙した
漂う多数の岩塊を迎撃や避けきれずに激突したり敵戦艦からの砲撃により爆沈する艦船も多かったが、接近に成功した艦船はのた打ち回る敵戦艦の推進区画に対艦魚雷や対艦ミサイルを叩き込み移動させない事に成功した
砲火が止まり最早漂うだけになった敵戦艦の周りを多数の小型艦が取り囲み飛来する岩塊から守り始めた
最初の内は露出していたり攻撃を受け穴が開いた個所から悲壮な雰囲気の乗組員達が携行火器を持ち最後の抵抗をしていたが、何もせずただ護衛するように展開する小型艦の大群に訝しんだが、突っ込んでくる中型艦3隻の姿を見ると何を行おうとしているのかわかったのか武器を放り投げ始めた
文字通り突っ込んできた3隻の中型艦...俗に強襲制圧艦と呼ばれる多数の制圧部隊を搭載したペンタルフ型1隻と隼鷹型機動戦闘母艦2隻が敵戦艦に突入すると即座に各所のハッチや格納庫の扉が開き多数の制圧ドローンや各種白兵装備の機械兵部隊が展開し機関室や弾薬庫や艦橋に突入していき武装解除を進めていった
ミラッテ艦隊の司令官は被弾の衝撃で気絶していたようで、捕虜となった後に意識が戻り喚いていたそうだが、無言で機械兵達が制圧された旗艦や無力化され現在進行形で制圧されつつある他の艦船の映像が流されるとあまりの衝撃に再度気絶したらしい
最終的にくず鉄の艦隊の被害と戦果は中々だった
被害
簡易基地7基損傷
アステロイドシップ130隻撃沈・残存艦無し
コルベット22隻撃沈・残存艦10隻
フリゲート15隻撃沈・残存艦8隻
駆逐艦16隻撃沈・残存艦4隻
軽及び重巡航艦撃沈無し・20隻全艦残存
大型艦撃沈無し・14隻全艦残存
戦果
ギアルベート級防空フリゲート4隻撃沈・5隻鹵獲
カスケット級防空駆逐艦2隻撃沈・4隻鹵獲
ソード級軽巡航艦4隻鹵獲
ヘビュルテ級重巡航艦2隻鹵獲
コモル級採掘艦2隻撃沈・2隻鹵獲
ナット級工作艦2隻鹵獲
ペタビ級輸送船8隻鹵獲
新型戦艦1隻鹵獲
数的有利があったとはいえ、くず鉄の艦隊の被害がここまで拡大したのは
本来なら壁となる筈だったアステロイドシップが装備をケチりすぎて被弾した瞬間に爆沈し囮位にしかならなかった事
現地建造の小型艦に使用していた各種装備が民間向けの量産性に特化した物ばかりで性能が低すぎた事
敵新型戦艦の速射砲の弾幕が凄まじく、性能が低い小型艦が絶えず弾幕砲撃を受け続けた事
以上が主な要因であった、ただ本来なら数的有利があろうが民間艦船であれば殲滅されていても可笑しくなかった事を踏まえれば満足のいく戦果だった
鹵獲したミラッテ艦船だが被弾損傷した物が多く、撃沈した物やくず鉄の艦隊の予備部品だけでは修理出来ない物も多かった事から、くず鉄の艦隊の損傷艦船の修理も必要な事から鹵獲した艦船で比較的大破に近い物から解体され簡易補修と調査が行われる事となった
工作艦と輸送船も装備している兵装で艦隊戦に参加していたが、鹵獲目的で推進区画のみに多数の砲撃が集中し大変美味しい獲物となった
曳航されていた簡易基地も被弾しているとはいえまだ使える為、修理拠点として再利用される事となった
そして4日で修理を終わらせるとくず鉄の艦隊はどっさりと鉱物や現地建造した艦船に戦果をひっ提げ『リボーラ・アルテラ』に帰還する事になった