王
どうしてこうなった! どうしてこうなった!
祐一の頭にはこの言葉しかなかった
既に避難民を満載していた艦船は要塞艦『ドラレーン』外周部の停泊施設に停泊し避難民を降ろし整備と物資補給が行われていた
避難民に関してはドラレーン社がその対応を引き継ぐ事が正式に決定した為、依頼は完了した事となり集められた民間軍事企業...企業や傭兵の艦船は随時それぞれの本拠地に帰投していく事となった
降りた避難民は『ドラレーン』内部の宿泊施設に移り、本来の避難先に随時ドラレーン社の輸送船団に乗り向かう事になった
他の艦船は皆帰投していく中、くず鉄の艦隊のみ留まっており、祐一とメイリにセング―が乗員代表としてドラレーン社本社にしてドラレーン社社長の邸宅に招かれていた
尚祐一は艦長は艦を降りてはいけないだろうと言い訳を付けて艦に残ろうとしたが大荷物を持っているメイリと大きな樽のような物を背負っているセング―に拘束されて、無理矢理連れてこられていた
「相変わらず長閑だね、ここは。」
「平和です。」
「平和じゃな。」
停泊施設から内部の居住区画に移動してきた3人はそう呟いた
内部の居住区画は大柄なグラド人に合わせてあるが、中央部にある大きな城を中心に古き良き和風の木造建築で構築されている街並みが広がっておりそこを多くの和服に似た服を着たグラド人やそれぞれ動きやすい服装した様々な種族の人々が行き交っていた
あちこちにある公園や広場には種族関係なく子供達が遊びまわっており、それを保護者である両親や親族に加え大人のグラド人達が幸せそうに見守っていた
子供達はおもちゃや駄菓子の屋台に群がり、必要な物を手に入れると他の子どもや時には大人も巻き込んで元気に動き回っていた
この和風の街並みはグラド竜帝国が地球が死の星となる前の日本と似たような環境だった事から和風になったとの事らしい、ただ明確に違う所がありそれは
「相変わらず良い匂いがするなぁ。」
至る所から美味しそうな料理の匂いがしている所だった
「ドトライワシの塩焼きにトラマグロの丸焼きに酒飲み牛の焼肉に真黒豚のカツもあるなぁ。」
トライワシはグラド竜帝国の母星である巨大惑星グラドの海洋に生息する30センチ程の虎を思わせるようなイワシに似た魚で、トラマグロはそんなトライワシを食べる5メートル程のマグロに似た大型魚だった
因みに酒飲み牛は酒を飲んで育てられたブランド牛で、真黒豚は全身真っ黒なブランド豚である
そして何よりも驚くべき事に、人々が屋台や店舗として出されている料理を受け取る際に支払いを行っていなかった
これはこの日ドラレーン社社長からの指示で全て社長の私費から出されていると時折放送が流れていた
そんな平和な光景が広がっている中、邸宅がある居住区画の中央部に向かう祐一達3人にグラド人達は目を向けると手を止め静かに目を閉じ会釈をしていった
「...食べ物貰って帰っちゃだめですかね?」
音もなくただ着地した際のほんの僅かな風を背後から感じると祐一は振り向きながら問いかけた
「駄目です、もうすでに尻尾と首を長くして待っておられます。」
「御帰りになられたとなれば悲しまれますがゆえに...」
それぞれ紫と黒の鱗を持つ8メートルになろうかという2足歩行のドラゴン2人が、かつて日本の平安時代で用いられていたような重厚な甲冑の1つである大鎧を更に重装にさせたような甲冑を纏い立っていた
「今回は我々も参加する事でよろしいのですか?」
「我等がオオガシラ様より此度の一件以外にも御相談したい事があるとの事、メイリ様並びにセング―様にも御知恵を御借りしたいと...」
メイリの問いに、グラド勢力内で武人衆と呼ばれる組織に所属している紫のドラゴンがそう返答した
オオガシラとはドラレーン社社長が代々引き継いでいる名前の1つであり、その名前を出せるのは立場上会社や身の回りの世話をする者や警護を担当する武人衆等に限られていたりする
「我等が御案内しますがゆえ、どうぞこちらに...」
一行は呼ばれた黒のドラゴンの言葉に頷くと2人のグラド人の先導の元歩き出した
一行が大通り通り過ぎる横を、誉れ高いグラド人が静かに会釈し見送る様子にグラド人以外の種族は大変驚いていた
そんなこんなで中央部の城の皮を被った邸宅に着いた
外見には気を使ってはいるものの多数のセントリーガンやトーチカ設置されているのに加え、軍の正規部隊に劣らないだけの装備と練度を誇り多種多様な種族によって構成される武人衆が目を光らせており警備の隙など無かった
邸宅の正門から入った一行はそこで警備に止められた
「ここはオオガシラ様の邸宅で御座います、御名前と御用を御伺いします。」
「この方々はオオガシラ様の客人である、聞いておるか?」
警備担当の武人の丁寧でありながら職務に忠実な誰何に、案内役の1人が返した
「伺っております、問題ございませんが1度検査の方をお願い致します。」
警備の言葉に3人は頷くと深々と頭を下げる警備や2人の案内役と別れた、別室に通されると身体検査と荷物検査を受け別の案内役に連れられ内部に入っていった
内部は和風ではあったが平均で7メートル近い体躯を持つグラド人にとっても広い作りになっており、もはや内部でも装甲車位なら運用に支障が無い程だった
暫く歩くと何やら正装を着込んだ老若男女が集まり交流パーティーのような状況になっている大広間に通された
「しばしこちらでお待ちください、部屋の準備をしてまいります。」
案内役は3人を大広間の片隅に案内すると離れていった、突如として現れた一般人の恰好の太陽系地球人に機械知性2人の3人組に大広間にいる人々は困惑し警戒した...一部を除いて
なんせこの大広間には最高幹部を除いたドラレーン社の幹部陣が勢ぞろいしていており、万が一襲撃でもあろうものなら大変な事になるのは明らかだった
太陽系地球人は身体能力こそ弱いが文明を持ってから絶えず争い続けてきた蛮ぞ...戦闘種族であり、機械知性も1人は大きな荷物を持ったメイドだが護衛も兼ねているのか周囲に目を向けており、もう一人に関してはバリバリの軍用の体を持っていたからである
案内されてきたとはいえどっからどう見てもこの場には相応しくない恰好であるこの3人の身元を聞くべきだが仮にやんごとなき身分だった場合面倒な事になる、しかし聞かないとどう対応すれば良いかわからない
仮に不審者だった場合叩き出せれば手柄になる、けど怖いからお前いけ
そんな事を思いながらお前聞きに行けよいやお前がいけと駆け引きが行われていたなか、そんな部下達を見かねて動いたグラド人がいた
「お久しぶりですな、師匠殿」
「お前はベランか、久しぶりじゃのぅ...参謀本部以来じゃから800年振りぐらいか。」
「それぐらいになりますな、今はドラレーン社所有惑星の1つである惑星『シグレッド』の最高責任者をしております。」
責任者の身内じゃねえか!
グラド人としては程良い年齢のベランと呼ばれた幹部とセング―が親しげに話しているのを見て、周囲は内心叫んでいた
「して今日は何故ここに? その御二方は?」
「今の儂の上司と同僚という名の家族じゃ、今日ここには社長に呼ばれて来たわい...まあ例の避難関係でじゃろうな。」
しかも社長に呼ばれてかよ!
ベランはセング―と話しながら、そう内心叫んでいるであろう部下達に見えないように軽く祐一に視線を向けた
すみません、このままだと部下達が無礼を働いてしまうかもしれませんので
構いませんよ
視線だけでそう会話した2人は互いに軽く頷いた
「ではそろそろ失礼を、この後報告がありますので部下達と最後の打ち合わせを済ませてきます。」
「おう、また後でな。」
ベランはセング―...ひいてはドラレーンの一族の中でも最重要人物である祐一に目を閉じ軽く頭を下げる礼をすると直属の部下達の元に戻っていった
それを見計らうように案内役の武人が戻ってきて
「御部屋のご用意が整いました、どうぞこちらへ...」
と告げ、3人は大広間の人々に見送られながら別の部屋に向かった
案内された部屋は様々な身支度の為の道具や衣類が用意された豪華絢爛では無いが長い歴史を感じさせるような風情を感じさせる客室にだった
「祐一あなた最近忙しかったですよね。」
「え、まあそうだね。」
荷物を置いて体を伸ばしていた祐一に、自身のメイド服の留め具を外しつつメイリが近付きながらそう話した
「まだ約束の時間まで1時間ほどありますからお風呂入りましょう、そこまで汗かいていないとはいえ社長さんに会うのですから。」
「うん、わかったけど1人ではいr「私が洗います。」アッハイ。」
最近忙しすぎて祐一に奉仕できていなかったメイリが祐一を浴室に追い込んだ、セング―はそれを手を振りながら見送り浴室から聞こえる様々な音を気にせずのんびりとデータ整理を始めた
45分後徹底的に体を洗われ色々と搾り取られた祐一と奉仕欲を満たして満足気なオーラを出しているメイリがタオル一枚で出てきて用意されていた衣類に着替え、部屋を出て待機していた武人の案内で歩き始めた
また最初と同じように大広間に来たのだが、雰囲気と内装が変わっていた
新人達の顔合わせも兼ねている会議であるからか出席者達は所属毎に分かれ、交流パーティーの時に用意されていた軽食類は片付けられ、会議などで使用されている椅子と机のセットに各々が着席していた
祐一達3人は入ると壁際にたった
暫くの間出席者達からの視線を浴びていたが、厳かに入ってきた武人達からこの屋敷の主がやってきた事に気付き、その場にいた全員は頭を下げた
そしてやってきた
身長は13メートルに届かんとばかりに長身で在り、その四肢はその体を支えるには十分すぎる程強靭であった
頭は正しくドラゴンと呼ぶに相応しく、鋭い牙が並ぶ口に深い息を吐きだす鼻に加え目は爬虫類の様であるが深い知性と理性が感じられる
全身には赤い鱗と所々に黄金色の鱗が生えその強靭な体を支え守るだけのみならず凄まじい迄の威厳と覇気を纏っていた
いうなれば恐竜というよりかは地球の西洋で想像されていたドラゴンが和服に良く似た服装で2足歩行で歩いていた
数人の供と妻を引き連れて入ってきたこのグラド人こそが
帝国協定主要勢力の1つであるグラド竜帝国の中の4大勢力の1つの長であり、グラド竜帝国内の重工業の凡てを取り仕切り帝国協定内でも屈指の技術力を持つ企業連合体であるドラレーン社社長で在り
「ドラレーン氏族が王、オオガシラ様の御成りで御座います!」
グラド人5つの氏族を束ねる竜帝の次に権威を持つ王であった